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小説

小説の書き方|初心者が最初の一作を完成させる手順

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この記事の答え

題材を探し続けるより先に、主人公が何を望み、何を選び、どう終わるかを一行ずつ決めます。

  • 最初の一作は3,000〜5,000字、場面3〜4つの短い話にする
  • 「望み・障害・選択・結果」の四行と、冒頭・結末の場面を決めてから書く
  • 冒頭から結末まで直さずに書き切り、推敲は初稿のあとに「筋→場面→文章」の順で行う
目次

小説を書きたいのに一行目が出ないときは、文章力より先に「何の話か」が決まっていないことがあります。この記事では、架空の題材「閉店する店へ忘れ物を返しに行く」を使い、メモから設計、冒頭、結末、短い全文まで同じ一作を通して見せます。読み終えたら、同じ手順で自分の題材の初稿に取りかかれます。

最初の一作は3,000〜5,000字にする

最初の一作で大切なのは、うまく書くことより終わりまで書くことです。長さを先に決めておくと、話の大きさが自然にしぼられます。

長さの目安 400字詰め原稿用紙の単純換算 場面の数 向いている使い方
1,000〜2,000字 3〜5枚 1〜2 一つの発想を短い結末まで書いてみる
3,000〜5,000字 8〜13枚 3〜4 最初の一作。人物の変化まで書ける
1万字前後 25枚前後 5〜8 二作目以降。短編の公募を目指す

3,000〜5,000字なら、一日400字ずつでも二週間ほどで書き終えます。それでいて、主人公が何かを選び、少し変わるところまで書ける長さです。

公募に出したい場合は、応募先の規定に合わせます。たとえば集英社短編小説新人賞の応募要項では、原稿を「400字詰め原稿用紙25〜30枚換算」と定めています。ただ、いきなりその長さを目指すより、まず短い一作を完成させて「最後まで書いた」経験を作るほうが、次の作品で長さを調整しやすくなります。

注意枚数の換算について

表の枚数は字数を400で割った単純な目安です。改行や会話の多さで、実際の原稿用紙の枚数は増えます。字数から枚数を確かめたいときは原稿用紙の単純換算を使えます。

一つの発想を1,000字前後で落ちまで書く形を試したい場合は、ショートショートの書き方が向いています。

主人公の「望み・障害・選択・結果」を一行ずつ決める

題材が一行あれば、物語の骨組みは四つの問いで作れます。

決めること 問い 書き方のこつ
望み 主人公はこの話の中で何をしたいか 「〜したい」と動作で書く。気分(幸せになりたい)にしない
障害 それを難しくしているものは何か 外の事情と、主人公の中のためらいを一つずつ
選択 主人公が自分で決める行動は何か 楽な道と、あえて選ぶ道の二つを並べる
結果 選んだあと、何が変わったか 望みが叶ったかより、主人公と何かの関係がどう変わったか

この四行がそろうと、「何も起きない話」になりにくくなります。特に選択が大事です。偶然に助けられて終わる話より、主人公が自分で決めた行動の結果として終わる話のほうが、短くても読後に残ります。

作例:題材メモから四行へ

ここからは同じ題材を使って、メモが設計に変わるまでを見ていきます。最初のメモは次のような状態でした。

作例最初の題材メモ

閉店する店へ忘れ物を返しに行く。高校のころに借りた物。店主にお礼を言いたい。

このままでは、主人公が誰で、何に迷い、どう終わるのかが分かりません。四つの問いに答えて、一行ずつ埋めます。

決めること 作例の記入
主人公 岡野ひかり。二十代後半の会社員。高校時代を過ごした町を離れて暮らしている
物と店 駅前の文房具店「ささき文具」。夕立の日に店主の佐々木さんが貸してくれた黒い傘。柄に油性ペンで「ささき」とある
望み 閉店する前に傘を返して、十二年前のお礼を言いたい
障害 最終日の店は混んでいる。店主は自分を覚えていないかもしれない。今さら返すのは気まずく、入口の貸し傘立てに黙って差せば済むとも思っている
選択 傘立てに差しかけた手を止め、レジに並んで店主に直接渡す
結果 店主は「もう貸す相手もいないから」と傘を譲る。返すはずだった傘が、自分の傘になる

「忘れ物」は、本人が置き忘れた物だけでなく、返し忘れた物と読むこともできます。題材は最初の言葉にこだわりすぎず、書きたい場面が浮かぶ形に言い換えてかまいません。

練習あなたの題材で四行を埋める(10分)

  1. 書いてみたい題材を一行で書きます。思いつかない場合は「ずっと捨てられない物」「最後の営業日」「言いそびれた一言」から一つ選びます。
  2. 主人公を一人決め、年齢と立場を一行で書きます。
  3. 望み・障害・選択・結果を一行ずつ埋めます。選択の欄には「楽な道」と「あえて選ぶ道」を両方書きます。

題材そのものが浮かばない場合は、先に小説のネタがないときの考え方で日常の違和感から種を探してください。

四行を場面メモにして、最低限のプロットにする

四行が決まったら、それを起きる順に場面へ割り振ります。最初の一作なら場面は3〜4つで十分です。各場面について「何が起きるか」「主人公が何をするか」だけを書けば、それが最低限のプロットになります。

場面 何が起きるか 主人公の行動・気持ち 字数の目安
1 店の前 閉店の貼り紙を見る。今日が最終日だと知る 傘を握り直す。来たことを少し後悔する 400字
2 店内・傘立て 店が混んでいる。貸し傘立てが昔のまま残っている 十二年前を思い出す。黙って傘を差しかけ、手を止める 1,200字
3 レジ 店主に傘を渡し、謝る 覚えていないと思った店主が思い出す。傘を譲られる 1,200字
4 店の外 雨が降り出す 傘を開く 300字

字数の目安は、全体を3,000字前後にするための配分です。選択と結果が起きる場面(2と3)に字数を多く配ると、話の中心がぼやけません。

ひな形最初の一作の設計メモ(コピーして使えます)

題材(一行):
主人公(名前・年齢・立場):
望み(この話の中で何をしたいか):
障害(外の事情/主人公の中のためらい):
選択(楽な道/あえて選ぶ道):
結果(選んだあと、何が変わったか):
冒頭の場面(いつ・どこで・何をしているところから始めるか):
結末の場面(最後に主人公が何をしているか):
場面1:
場面2:
場面3:
場面4:

伏線や視点の切り替え、章立てのように筋をさらに細かく組み立てたくなったら、それは二作目以降の課題です。結末までの因果を表で整理する方法は、この記事の最後で案内するプロットの書き方で扱います。

冒頭と結末を先に一場面ずつ決める

本文を書き始める前に、冒頭と結末の場面だけは決めておきます。行き先が決まっていると、途中で迷っても戻る場所があります。

冒頭は「今日、何をしに来たか」から始める

最初の一作では、主人公の紹介や過去の説明から書き始めたくなります。間違いではありませんが、読者はまだ説明を読む理由を持っていません。

冒頭の二つの書き方

説明から始めた冒頭

岡野ひかりは二十九歳の会社員だ。高校生のころ、駅前の文房具店で傘を借りたことがある。その傘を、彼女はまだ返していない。

場面から始めた冒頭

駅前の商店街に入ると、「ささき文具」のガラス戸に白い紙が貼ってあった。〈今週の日曜日をもちまして閉店いたします〉。日曜日は、今日だった。
ひかりは右手の傘を握り直した。

変更の理由

  • 作例の書き直しでは、閉店の貼り紙と「今日」という期限を先に見せ、なぜ急いで来たのかを場面で伝えています。
  • 傘を返していない事情(過去)は、場面2で傘立てを見たときに短く入れます。過去は、主人公が思い出すきっかけのある場所に置くと自然です。
  • 語り手の声そのものに魅力がある作品や、一人称の回想として始める作品では、説明から入る形が合うこともあります。

結末は気持ちの説明より、最後の行動で終える

結末も同じように、主人公の気持ちを言葉で言い切るより、最後に何をしたかで終えると余韻が残ります。

結末の二つの書き方

気持ちを説明した結末

ひかりは、佐々木さんの優しさを一生忘れないと思った。

行動で終えた結末

外に出ると、アーケードの切れ目から細かい雨が落ちはじめていた。
ひかりは柄の薄れた文字を親指でなでてから、十二年ぶりにその傘を開いた。

変更の理由

  • 十二年間、一度も開かなかった傘を開く、という行動だけで「返す物」が「自分の物」に変わったことを伝えています。
  • 読者が気持ちを受け取れるだけの材料(借りた日のこと、返せなかったこと、譲られたこと)が、それまでの場面に置いてあるので、説明しなくても伝わります。

冒頭から結末まで、直さずに書き切る

場面メモと冒頭・結末が決まったら、本文を書きます。初稿で守るのは次の四つだけです。

手順初稿を書き切るための約束

  1. 一日の量を決める。3,000字を十日で書くなら一日300字です。締切から逆算した作業日を出したいときは締切からの執筆計画を使えます。
  2. 前の日の分は、最後の数行だけ読む。全部を読み返すと直したくなり、先へ進めなくなります。
  3. 迷った箇所には【あとで】と書いて先へ進む。名前や地名が決まらない、描写が浮かばない、という箇所は印だけ付けておきます。
  4. 場面メモと違う展開を思いついたら、メモの方を書き換える。ただし望み・選択・結果の三行は、初稿の間は変えないでおきます。

書いている途中で止まってしまった場合は、原因が「次の場面が決まっていない」「書く時間がない」「出来に納得できない」のどれかを分けると対処しやすくなります。止まった箇所からの進め方は小説を最後まで書けないときの進め方で詳しく扱っています。

作例:短い全文の見本

設計メモから書いた見本の全文です。記事の中で読みやすいように約1,000字に縮めています。実際の一作目では、場面2と3の会話や店内の描写を足して3,000字前後に広げると、話に呼吸が生まれます。

作例貸し傘(見本・約1,000字)

駅前の商店街に入ると、「ささき文具」のガラス戸に白い紙が貼ってあった。〈長い間ありがとうございました。今週の日曜日をもちまして閉店いたします〉。日曜日は、今日だった。

ひかりは右手の傘を握り直した。黒い、骨が一本だけ少し曲がった傘。柄には油性ペンで「ささき」と書いてある。字はもう薄くなって、「さ」の点が消えかけていた。

店の中は思ったより混んでいた。半額の札がついたノートの棚の前に、小学生の親子が二組と、スーツ姿の男性が一人。レジの奥では、白髪の増えた佐々木さんが包装紙を折っている。

入口の脇には、昔と同じ場所に傘立てがあった。〈貸し傘 ご自由にどうぞ 晴れたら戻してください〉。プラスチックの札も同じだった。

十二年前、高校からの帰りに夕立に降られて、ひかりはこの店の軒先に駆け込んだ。佐々木さんは何も聞かずにこの傘を差し出し、「晴れたら戻してね」と言った。翌日は晴れた。その次の日も晴れた。返しに来ようと思った日は何度もあったのに、ひかりはそのたびに店の前を通り過ぎた。理由はもう思い出せない。いつの間にか傘は実家の傘立ての奥に移り、ひかりは大学に進んで町を出た。

傘立てには、色の違う傘が三本だけ残っていた。ここに差しておけば、それで終わる。誰にも気づかれない。

ひかりは傘を傘立てに入れかけて、手を止めた。

レジの列に並ぶと、前の親子が色鉛筆を買って出ていった。

「いらっしゃいませ」

佐々木さんが顔を上げた。ひかりは買う物を何も持っていなかった。代わりに、傘を両手でカウンターに置いた。

「あの、これ、お返しします。ずっと前に貸していただいて……返せないままで、すみませんでした」

佐々木さんは傘を手に取り、柄の字を指でなぞった。しばらく黙っていたので、覚えていないのだろうと、ひかりは思った。

「夕立の日の、制服の子」

佐々木さんはそう言って、少しだけ笑った。「戻ってこない傘のほうが多いのよ。十年以上たって戻ってきたのは、初めてかもしれない」

ひかりは頭を下げた。顔を上げると、佐々木さんは傘をこちらへ押し戻していた。

「明日からは、もう貸す相手もいないから。これは持っていって」

「でも」

「晴れたら戻して、って言ったでしょう。もう戻さなくていいの」

後ろに次の客が並ぶ気配がした。ひかりは「ありがとうございます」とだけ言って、傘を受け取った。

外に出ると、アーケードの切れ目から細かい雨が落ちはじめていた。

ひかりは柄の薄れた文字を親指でなでてから、十二年ぶりにその傘を開いた。

メモと完成文で変わったところ

場面メモは「何が起きるか」の約束で、それをどう見せるかは書きながら決めます。見本では、メモの書き方を次のように場面へ置き換えました。

場面メモ 完成文 変えた理由
場面1「来たことを少し後悔する」 後悔は書かず、傘を握り直す動作と、柄の薄れた字だけを見せた 気持ちを先に書くと、場面2で傘立てに差しかける迷いの意味が薄れる
場面2「十二年前を思い出す」 昔と同じ「貸し傘」の札を見たところで、過去を一段落だけ入れた。返さなかった理由は「もう思い出せない」で止めた 過去が長いと「今日」の場面が止まる。理由を言い訳のように並べないほうが、黙って差して済ませたくなる気持ちが伝わる
場面3「店主が思い出す。傘を譲られる」 店主の沈黙と「夕立の日の、制服の子」の一言で思い出したことを示し、「晴れたら戻して」という昔の言葉で傘を譲らせた 借りた日の言葉がもう一度出ることで、「返す傘」が「自分の傘」に変わる結果がはっきりする
全体3,000字の配分 記事用に約1,000字に縮めた 縮めても、選択と結果の場面2・3にいちばん字数を使う配分は変えていない

メモと完成文で見せ方が違っていても、失敗ではありません。書いている途中で選択や結果そのものを変えたくなったら、先に設計メモの四行を書き換え、望みから結果までがつながっているかを確かめてから続けます。

初稿のあとに直す点を、順番を決めて選ぶ

書き終えたら、すぐに読み返さず一日以上置きます。書いた直後は、頭の中の場面を補って読んでしまうからです。直すときは、大きな問題から小さな問題へ順に見ます。文章から直し始めると、あとで場面ごと削ったときに手間がむだになります。

確認表初稿を読み返すときの確認表

  • 【筋】主人公の望みが、最初の二つの場面のうちに読者に分かるか
  • 【筋】結果は、偶然ではなく主人公の選択から生まれているか
  • 【筋】最後の場面で、主人公か、主人公と何かの関係が変わっているか
  • 【場面】なくても話が通じる場面はないか。逆に、選択の直前に足りない場面はないか
  • 【場面】選択と結果の場面に、ほかの場面より多く字数を使っているか
  • 【文章】【あとで】の印をすべて埋めたか
  • 【文章】同じ語尾や同じ言葉が近くで続いていないか。声に出して読んで引っかかる文はないか

すべてを一度に直す必要はありません。最初の一作では、筋の三項目が満たせていれば十分に「完成」と言えます。文章の細かな直し方や、構成から改稿する順番は小説の推敲・改稿のやり方で扱っています。

続けて学びたいとき

この記事の手順で一作を書き終えたら、次は自分がどこでつまずいたかで学ぶことを選びます。

  • 書き出しで止まった人は、小説の書き出しの書き方で冒頭の例を比べてみてください。
  • 場面は決まったのに文章が出てこない人は、小説の書き方を練習する方法の描写や会話の課題が使えます。
  • 人称、構成、描写など体系的に本で学びたい人は、詰まっている工程に合わせて入門書を選ぶと読みっぱなしになりません。たとえば『マナーはいらない 小説の書きかた講座』(集英社オレンジ文庫)には、推敲・枚数感覚・短編の構成・人称などの回が並んでいます。目的別の選び方は小説の書き方を学ぶおすすめ本で比べています。

書き上げた作品を誰かに読んでもらいたくなったら、小説の感想を依頼する方法で、相手の選び方と質問の作り方を確認できます。