本文へ移動
小説

小説の書き方を練習する方法|描写・会話・構成の課題と作例

PRこの記事には広告リンクを含みます。広告と紹介の基準

この記事の答え

練習は、描写・会話・構成のうちいま自作で困っている技能を一つだけ選び、200〜800字の短い課題で行います。

  • 自作の一場面に印を付けて、足りない技能を見つける
  • 課題は条件つきで書き、回答例と見比べるのではなく「見るポイント」で自己点検する
  • 最後に、同じ条件を自作の場面に当てて書き直し、前後を比べて次に直すことを一行で決める
目次

小説の練習というと、毎日たくさん書くことを思い浮かべるかもしれませんが、何を直すために書くのかが決まっていないと、字数が増えても同じところでつまずきます。この記事では、描写・会話・構成の三つについて、条件つきの課題、回答例、別解、自己点検の「見るポイント」を一組ずつ用意しました。最後に、練習で試したことを自分の原稿の一場面に戻して書き直す手順を示します。

練習する技能を一つ選ぶ

最初に、自分の原稿で何が足りないかを確かめます。書きかけの原稿があれば、その中から一場面(400〜1,000字ほど)を選び、文ごとに次の三種類の印を付けてみてください。

  • 描写:場所・物・人物の外見や動作など、目に見えるもの、感じられるものを書いた文
  • 会話:台詞と、その話者を示す短い文
  • 出来事:何かが起きた、誰かが何かを決めた、状況が変わったことを書いた文

印を付けると、場面の偏りが見えます。どの種類にも入らない文(人物の気持ちの説明、背景の説明)が多い場合も、それ自体が手掛かりになります。

印を付けて分かったこと 原稿に出る症状 選ぶ練習
描写の文がほとんどない/「きれいな」「古い」など評価の言葉ばかり 読み返しても場所が浮かばない。どの場面も同じ部屋に見える 課題1 観察描写
会話が続き、台詞が用件をそのまま言っている 「〜と言った」が続く。人物の話し方が全員同じ 課題2 二人の会話
出来事の文が最後まで一つもない/最初と最後で何も変わっていない 場面が長いのに、何のための場面か言えない 課題3 一つの変化がある短場面

原稿がまだない場合は、三つの課題のうち、書いていていちばん手が止まりそうなものから始めます。一作を書き上げる流れそのものを知りたい場合は、最初の一作を完成させる手順が先です。

練習の進め方は、どの課題でも同じです。

手順一回の練習の進め方

  1. 技能を一つに絞る。描写と会話を同時に直そうとすると、どちらが良くなったのか分かりません。
  2. 短く、条件つきで書く。200〜800字程度。条件は、自分の癖を封じるためにあります。
  3. 見るポイントで点検する。回答例と同じかどうかではなく、条件と見るポイントを満たしているかで確かめます。
  4. 同じ素材で一度書き直す。一回目と二回目を並べて、何が変わったかを一行で書きます。
  5. 自作の一場面に戻す。練習の最後に、同じ条件を自分の原稿に当てます(この記事の最後で説明します)。

点数を付ける必要はありません。「見るポイントのどれを満たせたか」「次に何を試すか」を記録すれば十分です。

注意既存の小説を書き写す練習について

好きな作家の文章を書き写して、文のリズムを体で覚える練習をする人もいます。書き写した文章は他人の作品です。文化庁の「著作物が自由に使える場合」では、私的使用のための複製を「家庭内で仕事以外の目的のために使用するため」の複製として説明しています。書き写しは手元のノートにとどめ、写した文章を投稿したり公開したりしないと決めておくと迷いません。この記事の課題は、すべて自分の文章で行うものです。

課題1 観察描写:同じ場所を、目的のある人の目で書く

描写で手が止まるときは、「何を書けばよいか」より「何を選べばよいか」で迷っていることがあります。この課題では、見る人の目的を先に決め、その目的が細部の選び方に表れるかを練習します。

練習課題1の条件(20分)

  1. 場所:早朝のコインランドリー(身近な別の場所に替えてもかまいません)。
  2. 視点人物を一人決め、「なぜ今そこにいるのか」を一つ決めます。本文では理由を説明しません。
  3. 200〜300字で書きます。
  4. 「きれい」「古い」「なつかしい」「静か」など、評価や感想の言葉を使いません。
  5. 最後の一文で、視点人物の事情が一つだけ分かるようにします。

作例回答例(視点人物:健司)

自動ドアが開くと、洗剤と温まった綿のにおいがした。六時のコインランドリーでは、乾燥機が一台だけ回っている。丸い窓の中で、誰かの白いシーツが持ち上がっては落ちる。洗濯機のふたの上に、百円玉が三枚、縦に積まれたまま残っていた。壁の時計は、健司の腕時計より四分進んでいる。空いている洗濯乾燥機の表示は、どれも〈58分〉だった。
健司は体操服を一枚だけ、そのうちの一台に入れた。胸の名札の〈二年三組 みのわ〉が、ふたを閉める直前に見えた。七時半までに乾けば、登校に間に合う。

確認表課題1の見るポイント

  • 評価や感想の言葉を使わずに、場所の様子が浮かぶか
  • その場所にしかない細部(置き忘れの百円玉、進んでいる時計)が一つ以上あるか
  • 選んだ細部に、視点人物の目的が表れているか(回答例では、急いでいる人なので時計と時間に目が行く)
  • 最後の一文で、人物の事情が一つ分かるか。逆に、事情を全部説明していないか
  • 細部を並べすぎて、どれが大事か分からなくなっていないか

別解:同じ場所を、別の目的の人が見る

同じコインランドリーを、眠れずに夜明けを迎えた大学生の目で書くと、選ぶ細部が変わります。

作例別解(視点人物:美緒)

自動ドアが開くと、洗剤と温まった綿のにおいがした。乾燥機の前のベンチは、座ると背中のほうから温かい。回っているのは一台だけで、丸い窓の向こうで白いシーツがふくらんでは沈む。持ち主は、たぶんまだ眠っている。外の道を、新聞配達のバイクが一台通りすぎた。
美緒はスマートフォンを伏せて、シーツが沈む回数を数えた。三十まで数えても、表示は〈残り18分〉のままだった。自分の洗濯物は、今日も一枚も持ってきていない。

比べる点 回答例(健司) 別解(美緒)
来た目的 子どもの体操服を朝までに乾かす 眠れず、温かい場所にいたい
目に入った細部 進んでいる時計、乾燥までの〈58分〉、置き忘れの百円玉 ベンチの温かさ、シーツの動き、新聞配達のバイク
時間の扱い 時計と締切(七時半)で急ぎを示す 残り時間が減らないことで、時間の長さを示す
最後の一文で分かること 今日の登校に間に合わせたい 洗濯をしに来たのではない

二つを並べると、観察描写は「見えるものを全部書く」ことではなく、人物が見るものを選ぶことだと分かります。同じ課題を、視点人物だけ替えてもう一度書くと、選び方の違いを確かめやすくなります。五感の使い分けや、視点と距離の選び方をさらに詰めたい場合は、情景描写の書き方で扱っています。

課題2 会話:言いたいことを言わずに、二人に話させる

会話が説明的になるのは、台詞に「読者に伝えたいこと」をそのまま言わせているときです。この課題では、いちばん大事なことを誰も口にしないまま、読者に伝わるかを練習します。

練習課題2の条件(25分)

  1. 人物は二人。片方が、相手に言いに来たことがあります。もう片方は、それに気づいています。
  2. 場面:父と息子が、平日の釣り堀で並んで座っている。息子は会社を辞めたことを言いに来た(別の二人と用件に替えてもかまいません)。
  3. 台詞は合わせて12行以内。「悲しい」「怒った」など気持ちの言葉は使いません。
  4. 地の文は三か所までにし、人物の動作か物の動きだけを書きます。
  5. 台詞ごとに「〜と父は言った」のような話者名を付けません。

作例回答例

「釣れないな」
「餌、替えたら」
「替えたよ。三回」
父は浮きから目を離さないまま、魔法瓶のふたに茶をついだ。湯気が横へ流れた。
「平日に来るのは、初めてだな」
「有給が余ってたから」
「そうか」
浮きが一度沈んで、すぐに戻った。どちらも竿を上げなかった。
「来月から、しばらくこっちにいるかもしれない」
「部屋は空いてる。母さんが、きのう布団を干してた」
「……まだ何も言ってないけど」
「言ってないな」
父は、ふたの茶を息子のほうへ差し出した。

確認表課題2の見るポイント

  • いちばん大事なこと(会社を辞めた)を誰も言っていないのに、読者に分かるか
  • 分かる根拠が、台詞のどこかにあるか(平日、有給、布団を干していた母)
  • 二人の話し方に違いがあるか(短く受ける父、理由を付けたがる息子)
  • 地の文の動作が、台詞とは別の気持ちを示しているか(浮きが沈んでも、どちらも竿を上げない)
  • 話者名がなくても、誰の台詞か最後まで追えるか
  • 「お前が会社を辞めたのは知っている」のような、読者に説明するための台詞がないか

別解:一度だけ言葉にする

言わないまま終える形がいつもよいとは限りません。息子が言えるようになること自体が場面の中心なら、最後に一度だけ言葉にする形が合います。

言わずに終える形と、一度だけ言う形

回答例の結び(言わずに終える)

「……まだ何も言ってないけど」
「言ってないな」
父は、ふたの茶を息子のほうへ差し出した。

別解の結び(一度だけ言う)

「部屋は空いてる」
「……会社、辞めたんだ」
「そうか」
浮きが沈んだ。今度は、父が竿を上げた。

変更の理由

  • 回答例では、父がすでに知っていることを台詞の端々で示し、受け入れを茶を差し出す動作で伝えています。読者が自分で組み立てる分、余韻が残ります。
  • 別解では、息子が自分の口で言うことが出来事になります。父の返事は「そうか」のまま変えず、竿を上げる動作で、止まっていたものが動いたことを示しています。
  • どちらを選ぶかは、場面の中心が「父が受け入れること」か「息子が言えること」かで決まります。

台詞の後ろに付ける地の文の量や、かぎ括弧・話者表示の整え方は会話文の書き方で、人物ごとの話し方の違いを作る方法はセリフを書き分ける方法で扱っています。

課題3 構成:一つだけ変わる短い場面を書く

場面が長いのに何も起きないときは、場面の最初と最後で何が変わるのかを決めないまま書き始めていることがあります。この課題では、一つの場面の中で、一つだけ変化を起こす練習をします。物語全体の組み立てではなく、一場面の形を作る練習です。

練習課題3の条件(40分)

  1. 書く前に、二行だけメモします。「場面の最初:○○は〜している」「場面の最後:○○は〜している」。変わるのは一つだけ(行動・人と人の距離・物の状態のどれか)です。
  2. 変化のきっかけになる出来事を一つ決めます。
  3. 場所は一か所、時間は途切れずに続く(場面の途中で「翌日」に飛ばない)ことにします。
  4. 600〜800字で書きます。過去の事情は二文までにします。
  5. 場面:町内会の餅つきで、杵に近づかない中学生(別の場面でもかまいません)。

作例のメモは次のとおりです。

メモ 作例
場面の最初 陽菜は、つき上がった餅を丸める係をしていて、杵には近づかない
きっかけ 毎年いちばん長く杵を持つ遠藤さんが、「腰が」と言って柄を差し出す
場面の最後 陽菜が「もう一回」と言う

作例回答例

公民館の駐車場に、湯気が白く立っていた。臼のまわりには大人が五、六人いる。陽菜はテントの端の長机で、つき上がった餅を小さく丸め、きな粉のバットに並べていた。指に粉がつくたびに、エプロンでぬぐう。杵の音が、背中のほうで鳴りつづけている。
「ひなちゃんも、ついてみる?」
返し手のおばさんが振り向いて言った。陽菜は首を横に振って、丸めた餅をもう一つバットに置いた。
去年は、あの杵を持ち上げたところで、柄が手の中で回った。臼の縁に当たった鈍い音と、まわりの笑い声を、陽菜はまだ覚えている。
「ひなちゃん、ちょっと」
遠藤さんが、腰に手を当てて呼んでいた。隣の家のおじいさんで、毎年いちばん長く杵を持っている人だ。
「一回だけ、代わってくれんか。腰がな」
差し出された柄は、手のひらが当たるところだけ色が濃かった。ほかの大人は、蒸し上がったもち米を運ぶので手がふさがっている。
陽菜は粉のついた手をエプロンでぬぐって、柄を握った。思ったより重い。杵の先から、湯気がひとすじ上がった。肩の上まで持ち上げると、遠藤さんが「手は離すな。落とすだけでええ」と言った。
落とした。ぺたん、と鳴った。餅の真ん中に、杵の形のくぼみができた。手のひらに、柄の重さがまだ残っていた。返し手のおばさんが、水をつけた手でそのくぼみを折りたたんだ。
「もう一回」と、陽菜は言った。
遠藤さんは腰に手を当てたまま、返事をしなかった。代わりに一歩、うしろへ下がった。

確認表課題3の見るポイント

  • 最初の数段落で、変化前の状態(杵に近づかない、誘われても断る)が行動で分かるか
  • きっかけは一つか。偶然がいくつも重なっていないか
  • 変化は、最後の行動か台詞で示されているか。「勇気が出た」などの説明で済ませていないか
  • 過去の事情は二文以内に収まり、変化前の状態を支える役に立っているか
  • 変化に関係のない描写(屋台の並び、参加者の紹介)が長くなっていないか
  • 場面の途中で時間が飛んでいないか

回答例の最後で、遠藤さんは腰に手を当てたまま一歩下がります。腰が痛かったのか、陽菜に杵を渡す口実だったのかは書いていません。変化そのもの(陽菜が自分から「もう一回」と言う)がはっきりしていれば、周りの人物の気持ちは読者に預けてもかまいません。

別解:きっかけを、人に頼まれることから自分で気づくことに替える

最初と最後のメモは同じまま、きっかけだけを替えると、同じ変化でも場面の意味が変わります。

作例別解のきっかけの部分(抜粋)

臼の前で、小学生の男の子が杵の柄にしがみついていた。持ち上げたところで、柄が手の中で回る。臼の縁に当たる鈍い音がして、まわりの大人が笑った。
陽菜は、粉のついた手をぬぐうより先に、男の子のうしろへ回っていた。

比べる点 回答例 別解
きっかけ 遠藤さんに頼まれる(外からのきっかけ) 去年の自分と同じ失敗を見る(自分で気づくきっかけ)
陽菜が杵を持つ理由 断れない状況になったから 男の子を一人にしておけなかったから
場面の中心 苦手を一回越えること 去年の自分を、別の誰かの中に見ること
結びの候補 「もう一回」と自分から言う 遠藤さんに言われた「落とすだけでええ」を、男の子に言う

きっかけを外から与えると、変化の重みは「一回やってみた」ことに置かれます。自分で気づくきっかけにすると、変化は陽菜の内側から始まり、過去の失敗の二文が場面の中心に近づきます。どちらが正しいかではなく、その場面で何を見せたいかで選びます。

見るポイントで引っかかったら、次に何を直すか

練習を終えたら、見るポイントのうち満たせなかった項目を一つ選び、次の練習を決めます。満たせなかった項目をそのままにして別の課題へ移ると、同じ癖が残ります。

引っかかった項目 次にすること
評価の言葉が残る 課題1をもう一度。場所はそのまま、視点人物だけ替えて書く
細部が多すぎて、何が大事か分からない 課題1で書いた細部を三つに減らし、残した理由を一行ずつ書く
台詞で用件を言ってしまう 課題2の条件3(台詞12行以内)を8行以内にして、もう一度書く
二人の話し方が同じ 片方の台詞を全部「短く受ける」形にして書き直す。人物の話し方の作り方はセリフを書き分ける方法へ
台詞の間の地の文が書けない 課題2で、地の文の三か所を「物の動き」だけにして書く
最後に変化を説明してしまう 課題3の最後の段落を、台詞か動作一つだけにして書き直す
変化が起きる前に字数が尽きる 課題3の最初の段落を三文に縮め、過去の事情を一文にする

練習のたびに次のように記録しておくと、何を直してきたかがあとで分かります。

ひな形練習の記録(コピーして使えます)

日付:
課題(1 描写/2 会話/3 構成)と、自分で替えた条件:
満たせた見るポイント:
満たせなかった見るポイント:
書き直しで変えたこと(一行):
自作のどの場面に戻すか:
次の練習:

練習を自作の一場面へ戻す

練習は、自分の原稿に戻して初めて役に立ちます。課題の条件を、そのまま自作の場面に当てて書き直します。

手順練習を自作に戻す手順

  1. 最初に印を付けた自作の場面から、練習した技能が足りない数行を選びます。
  2. 練習と同じ条件を当てます。課題1なら「評価の言葉を使わない」「視点人物の目的を決める」「最後の一文で事情を一つ」。
  3. 元の文は消さずに残し、書き直した文を下に並べます。
  4. 練習のときと同じ見るポイントで、二つを比べます。
  5. 前後を比べて変わったことを、練習の記録に一行で書きます。うまくいかなかった場合は、元の文に戻してかまいません。

たとえば、自作の原稿に次のような段落があったとします。課題1の条件を当てて書き直した例です。

自作の場面に課題1の条件を当てる

元の段落

新しい部屋は狭かったが、日当たりはよかった。由香は少し不安だったが、ここで頑張ろうと思った。

課題1の条件で書き直した段落

玄関から窓まで、七歩で着いた。カーテンのない窓から入った光が、床に前の住人の家具の跡を四角く浮かび上がらせている。由香は段ボールを一つ下ろし、その四角の一つにちょうど収まるのを確かめてから、次の箱を取りに戻った。

変更の理由

  • 「狭かった」は「七歩で着いた」に、「日当たりはよかった」は床に落ちる光に置き換えました。評価の言葉を使わずに、読者が自分で狭さと明るさを感じられます。
  • 「不安だった」「頑張ろうと思った」という気持ちの説明は、箱を跡に合わせてから次の箱を取りに戻る動作に替えています。ここで暮らしを始める、という気持ちが行動に表れます。
  • 気持ちを一文で言ったほうが場面のテンポに合う箇所もあります。全部の段落を描写に替える必要はなく、読者に場面を見せたい箇所を選んで当てます。

書き直した段落を、前後の会話や説明とつないだときに、地の文が多すぎたり足りなかったりすることがあります。

課題を繰り返すうちに、自分で条件を作るのが難しくなったり、構成や文章表現をまとまった形で学びたくなったりしたら、詰まっている技能に合わせて小説の書き方を学ぶおすすめ本から選べます。