小説の会話文の書き方|セリフ・地の文・話者表示の整え方
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この記事の答え
会話文は、誰が何を求めて話し、会話の終わりに何が変わるかを決めてから組み立てます。そのうえで、セリフだけで伝わる部分と、地の文が必要な部分を分けます。
- 話者は「と言った」だけでなく、直前の動作や呼びかけで示せる。二人なら交互の流れで分かる箇所は省いてよい
- 地の文には、話者を示す動作、相手の反応、黙っている間(ま)を必要な分だけ置く
- 登場人物どうしがすでに知っていることを、読者のためにセリフで説明させない
目次
会話を書き始めると、セリフばかりが続いて誰の発言か分からなくなるか、反対に毎行「と言った」を付けて重たくなるか、どちらかに偏ることがあります。この記事では、山小屋で三人が登頂か下山かを決める会話を、セリフだけの初稿、説明を足しすぎた版、動作と間を添えた版の三つで比べます。読み終えたら、自作の会話場面で話者が追えるかを点検し、地の文をどこにどれだけ足すかを決められます。
会話を書く前に、三つのことを決める
会話がだらだら続くとき、原因はセリフの書き方より前の段階にあるかもしれません。書き始める前に、次の三つを決めておきます。
- それぞれの人物が、この会話で何を求めているか
- 会話の始まりと終わりで、何が変わるか(決定、関係、相手についての情報)
- 口に出さないことは何か(隠していること、言いにくいこと)
作例の設定は次のとおりです。
| 人物 | この会話で求めていること | 口に出さないこと |
|---|---|---|
| 黒田(リーダー) | 午後の天気が崩れる前に、全員を安全に下ろしたい | 去年、自分の判断で引き返したことを今も気にしている |
| 沙耶 | 今年こそ頂上に立ちたい | 今回が三度目の挑戦で、最後にするつもり |
| 健吾(最年少) | 足手まといになりたくない | 昨日の下りで右の足首をひねっている |
場面は山小屋の朝です。頂上までは往復三時間で、予報では午後から雨になります。会話の終わりには、「頂上へ行くか、下りるか」が決まります。
三人の求めるものがぶつかっているので、セリフ一つひとつが誰かの行動を引き出します。会話で場面が進むというのは、このようにセリフのやり取りの結果、状況が一つ変わることです。反対に、全員が同じことを求めている会話や、情報を伝えるだけの会話は、場面が止まって感じられます。
角川文庫『小説講座 売れる作家の全技術』の出版社の目次にも、会話文の回に「『実際の会話』と『小説の会話』は違う」「『隠す会話』のテクニック」といった項目が並んでいます。小説の会話は、現実の会話をそのまま写したものではなく、目的と隠しごとを持った人物どうしのやり取りとして組み立てるものだと考えると、書く材料が見えてきます。
作例1:セリフだけの初稿
まず、セリフだけで書いた初稿です。作者の頭の中では、誰が話しているかは全部決まっています。
作例初稿(セリフだけ)
「午後から崩れるらしい」
「でも、今は晴れてますよ。往復三時間なら昼前に戻れます」
「三時間で戻れればな」
「去年もそう言いましたよね」
「去年は去年だ」
「健吾くんはどう思う?」
「俺は、どっちでも」
「どっちでもじゃ困るんだよ」
「……行けます。全然行けますよ」
「本当か」
「本当です」
「じゃあ、決まりですね」
読者の目で、各行の話者が分かるかを確かめます。
| 行 | セリフ | 作者の意図した話者 | 読者に分かるか |
|---|---|---|---|
| 1〜5 | 「午後から崩れるらしい」〜「去年は去年だ」 | 黒田と沙耶が交互 | 交互なのは分かるが、どちらが黒田かは分からない |
| 6 | 「健吾くんはどう思う?」 | 沙耶 | 呼びかけで、健吾以外だとは分かる |
| 7 | 「俺は、どっちでも」 | 健吾 | 分かる |
| 8 | 「どっちでもじゃ困るんだよ」 | 黒田 | 分からない。黒田か沙耶か決められない |
| 9〜11 | 「……行けます」〜「本当です」 | 健吾と黒田 | 「本当か」が黒田か沙耶か分からない |
| 12 | 「じゃあ、決まりですね」 | 沙耶 | 分からない。決まったのが登頂だということも、確かではない |
この初稿には、話者が分からないこと以外にも問題があります。健吾が足首を痛めていることは、本人が隠しているので、セリフだけではどこにも出てきません。「……行けます」の前の三点リーダーが、わずかに迷いを伝えているだけです。セリフで言わないことを読者に伝えるには、地の文が必要になります。
作例2:説明を足しすぎた版
話者を分からせようとして地の文を足していくと、今度は次のような形になることがあります。
作例説明を足しすぎた版
「天気予報によると、午後から崩れるらしい」と、リーダーの黒田が慎重そうな顔で心配そうに言った。
「でも、今は晴れてますよ。往復三時間なら昼前に戻れます」と、今年三度目の挑戦で、どうしても頂上に立ちたい沙耶が熱心に反論した。
「三時間で戻れればな」と黒田が疑わしそうに言った。
「黒田さんは去年も、天気が崩れそうだからって、頂上の手前で引き返しましたよね。私はあのとき本当に悔しかったんです」と沙耶が不満そうに言った。
「健吾くんはどう思う?」と沙耶が健吾に尋ねた。
健吾は昨日の下りで右の足首をひねっていて、本当は痛くてたまらなかったが、足手まといになりたくなかったので黙っていた。そしてしばらくしてから、「俺は、どっちでも」と健吾は答えた。
話者は全部分かるようになりましたが、別の問題がいくつも生まれています。
- 毎行に話者表示と副詞がある:「慎重そうな顔で心配そうに」「疑わしそうに」「不満そうに」と、セリフで分かる気持ちを地の文が言い直しています。
- 説明のためのセリフ:「黒田さんは去年も〜引き返しましたよね」は、黒田本人がいちばんよく知っている出来事です。沙耶が黒田に言う必要はなく、読者に去年のことを教えるために言わされています。
- 隠していることを地の文が全部言う:健吾の足首のことを最初に説明してしまったので、このあと彼が「行けます」と言っても、読者は驚きも心配もできません。
- 会話の速さが消える:言い合いの勢いが、一行ごとの説明で止まっています。
作例3:動作・反応・間を添えた版
二つの版の間を取って、必要な所だけに地の文を置いた版です。山小屋の場面は、沙耶に寄る三人称で書いています。
作例動作・反応・間を添えた版
黒田はラジオを窓辺に置いた。「午後から崩れる」
「今は晴れてますよ」沙耶は窓の外を指さした。稜線の上に雲は一つもない。「往復三時間。昼前には戻れます」
「三時間で戻れればな」
「去年もそう言いましたよね」
黒田は答えず、地図をたたみ直した。
沙耶は、ストーブの前で靴ひもを結んでいる健吾を振り返った。「健吾くんは?」
「俺は、どっちでも」
「どっちでもじゃ困るんだよ」黒田が言った。
健吾は結びかけたひもをほどき、もう一度結び直した。右足だけ、二度目だった。
「……行けます。全然行けますよ」
立ち上がった健吾の体が、一瞬、左に傾いた。
沙耶はザックを肩から下ろした。「下りましょう」
「いいのか」
「頂上は来年もあります」
三つの版で何が変わったか
| 確かめる点 | 初稿(セリフだけ) | 説明を足しすぎた版 | 動作と間を添えた版 |
|---|---|---|---|
| 話者が分かるか | 途中から分からない | すべて分かる | すべて分かる。「と言った」は一か所だけ |
| 健吾の足首 | 伝わらない | 冒頭で地の文が説明する | 結び直すひもと傾く体で、読者が気づく |
| 去年のこと | 「去年もそう言いましたよね」だけ | セリフで詳しく説明する | 同じ一言と、黙って地図をたたむ黒田の動作 |
| 会話の速さ | 速いが追えない | 遅い | 言い合いは速く、健吾の場面で遅くなる |
| 会話の終わりの変化 | 何が決まったか曖昧 | (途中まで) | 沙耶が自分で下山を選ぶ |
完成版で地の文を置いたのは、話者を示す必要がある所、セリフで言わないこと(足首、去年への引っかかり)を見せる所、そして時間を止めたい所です。一方で、黒田と沙耶が言い合う三行(「三時間で戻れればな」〜)には地の文を入れていません。二人のやり取りだと分かる流れの中では、話者表示を省いても読者は追えます。
誰の発言か伝える方法
話者を示す方法は「と言った」だけではありません。完成版で使った方法を整理します。
| 方法 | 完成版の例 | 向いているとき |
|---|---|---|
| 動作を先に置く | 黒田はラジオを窓辺に置いた。「午後から崩れる」 | 話者と同時に、その場の動きや物を見せたい |
| セリフの途中に動作を挟む | 「今は晴れてますよ」沙耶は窓の外を指さした。 | 長めのセリフに区切りと身ぶりをつけたい |
| 呼びかけ | 「健吾くんは?」 | 次に話す人を決める。三人以上の会話で特に有効 |
| 発話の動詞 | 「どっちでもじゃ困るんだよ」黒田が言った。 | 動作を足すと間延びする所。「言った」は目立たず、読み流されやすい |
| 交互の流れ | 「三時間で戻れればな」「去年もそう言いましたよね」 | 二人だけのやり取りが短く続く所 |
| セリフの内容 | 「去年もそう言いましたよね」 | 去年を知る人物が誰か、読者がすでに分かっている所 |
「言った」を毎回「叫んだ」「つぶやいた」「問いただした」と言い換える必要はありません。言い換えの動詞は、声の大きさや調子が場面の意味を変えるときにだけ使うと、その一回が効きます。
三人以上の会話では、交互の流れだけでは話者を追えません。完成版のように、二人のやり取りが続く所では話者表示を省き、三人目が入る所や、話者が入れ替わる所に手掛かりを置きます。初稿の8行目「どっちでもじゃ困るんだよ」は、健吾の発言に続くので、黒田か沙耶かの手掛かりがないと決められません。
人物ごとの話し方が違えば、話者表示はさらに減らせます。ただし、語尾や口癖だけで区別しようとすると不自然になりやすいので、話す量、何を気にするか、相手によって変わる言葉づかいで差を付けます。
地の文で動作と間を足す
会話の間に置く動作には、話者を示す以外にも役割があります。
- 相手の反応を見せる:「黒田は答えず、地図をたたみ直した」。言い返さないことが、黒田の答えになっています。
- 隠していることを見せる:「右足だけ、二度目だった」。セリフでは否定している事実を、動作が裏切っています。
- 間を作る:健吾がひもを結び直す一文があることで、「……行けます」までに時間が流れます。
- 場面を進める:「沙耶はザックを肩から下ろした」。セリフより先に、動作で決断が伝わります。
間は「……」だけでも示せますが、三点リーダーを重ねるより、何をして黙っているかを一文書くほうが、間の長さと意味がはっきりします。無言の時間そのものを場面の中心にしたい場合は、小説の沈黙の描写で、動作・視線・周りの音による書き分けを扱っています。
動作は多ければよいわけではありません。毎行に動作を入れると、作例2と同じように会話の速さが消えます。目安として、話者が分からなくなる所、セリフと本心が食い違う所、場面が変わる所に絞ると、言い合いの速い部分と、立ち止まる部分の差が出ます。
会話と会話の間の地の文に、動作のほかに情景や心の声をどう配分するかは、小説の地の文の書き方で扱っています。
説明だけのセリフを減らす
作例2の「黒田さんは去年も〜引き返しましたよね。私はあのとき本当に悔しかったんです」のように、相手がすでに知っていることを、読者に聞かせるために話すセリフは、会話を不自然にします。直し方は四つあります。
説明のためのセリフを直す
修正前
「黒田さんは去年も、天気が崩れそうだからって、頂上の手前で引き返しましたよね。私はあのとき本当に悔しかったんです」
修正後
「去年もそう言いましたよね」
黒田は答えず、地図をたたみ直した。
変更の理由
- 黒田は去年のことを知っているので、沙耶は「去年も」と言えば足ります。言い方が短いほど、二人の間ですでに何度も話された件だと伝わります。
- 「本当に悔しかった」という気持ちは、短く言い放つ口調と、黙る黒田の反応で読者に任せました。
- 読者が去年の出来事を詳しく知る必要があるなら、後の場面で沙耶の回想として地の文に置く方法もあります。
| 直し方 | 例 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 短くして、知っている者どうしの言い方にする | 「去年もそう言いましたよね」 | 二人が共有している過去 |
| 地の文に移す | 沙耶は去年の、頂上の手前で見た背中を思い出した。 | 視点人物の記憶として読者に渡したい |
| 知らない人物に聞かせる | 健吾「去年、何かあったんですか」 | 新しく加わった人物がいる |
| 省く | (去年の話を出さない) | 物語に必要がない情報 |
ただし、説明のセリフがいつも悪いわけではありません。初めて会う相手への説明、口論の中で相手を責めるために事実を並べる場面、ミステリーの謎解きのように説明そのものが見せ場になる場面では、長いセリフが自然です。基準は、その人物がその相手に、その場でそれを言う理由があるかです。
表記と改行を点検する
会話文の表記には、小説で広く見られる慣例があります。ただし、出版社や媒体によって方針が違い、応募先や投稿先に指定があればそちらが優先です。
| 点検すること | 小説で広く見られる書き方 | 確かめる先 |
|---|---|---|
| セリフの終わりの句点 | 閉じかぎ(」)の直前の「。」を省く | 応募先・掲載先の指定、作品内での統一 |
| 話者が替わったとき | 改行して、新しい行からセリフを始める | 作品内での統一 |
| セリフの中の引用 | 『 』を使う | 作品内での統一 |
| 三点リーダー・ダッシュ | 「……」「――」と二つ重ねる | 作品内での統一 |
| かぎかっこで始まる行の字下げ | 字下げしないことが多い | 応募先の書式指定、投稿サイトの表示 |
たとえば、公用文の手引きとして文化審議会が建議した「公用文作成の考え方」では、括弧の中で文が終わる場合に句点を打つことを原則としています(引用部分などの例外あり)。小説でよく見る「」の前の句点を省く書き方とは、方針が違います。どちらかが正しいのではなく、文章の種類と媒体によって慣例が分かれているということです。
表記と改行がそろっていない例
修正前
「下りましょう。」沙耶はザックを下ろした。「いいのか」「頂上は来年もあります…」
修正後
沙耶はザックを肩から下ろした。「下りましょう」
「いいのか」
「頂上は来年もあります」
変更の理由
- 話者が替わる「いいのか」で改行していないため、沙耶の発言の続きに見えます。話者ごとに行を改めました。
- 「下りましょう。」の句点と、ほかのセリフの句点なしが混在していました。この作品では句点を省く書き方にそろえています。
- 「…」が一つだけの箇所は、ためらいを表すならリーダーを二つ重ねます。修正後は、迷いのない決断として言い切る形にしたので、リーダー自体を削りました。
句読点、かぎかっこ、三点リーダー、数字の表記を原稿全体で統一する方法は、小説の句読点・かぎ括弧・三点リーダーで、表記の一覧表を作る手順とともに扱っています。
自作の会話場面を点検する
手順会話場面を見直す手順
- 会話場面を一つ選び、各人物が「この会話で求めていること」と「口に出さないこと」を一行ずつ書きます。
- 地の文を全部隠して、セリフだけを読みます。話者が分からなくなった行に印を付けます。
- 印の付いた行に、動作・呼びかけ・「言った」のどれかを一つだけ足します。
- 今度は地の文だけを読み、セリフで分かる気持ちを言い直している副詞(「不満そうに」など)を削ります。
- 相手がすでに知っていることを話しているセリフを探し、上の表の四つの直し方から選びます。
- 会話の終わりに、始まりと比べて何が変わったかを一行で書けるか確かめます。
- 句点、改行、リーダーの表記を、提出先の指定か作品内の方針にそろえます。
確認表会話場面の確認表
-
会話の終わりに、決定・関係・情報のどれかが変わっている
-
三人以上の会話で、話者が入れ替わる所に手掛かりがある
-
「と言った」や言い換えの動詞が、毎行続いていない
-
セリフで分かる気持ちを、地の文の副詞で言い直していない
-
人物が、相手の知っていることを読者のために説明していない
-
口に出さないことが、動作や反応で一度は見えている
-
言い合いの部分と、間を取る部分で、地の文の量に差がある
-
話者が替わったら改行し、句点・リーダーの表記が統一されている
地の文を隠したセリフだけの版をほかの人に渡し、各行の話者を当ててもらうと、自分では気づかない話者不明の行が見つかります。会話の長さや説明くささまで含めて講評を頼みたい場合は、小説の添削はどこに頼む?で、感想・講評・添削の違いと頼み先を確かめてください。