小説の地の文の書き方|描写・説明・心の声を場面に合わせて使う
PRこの記事には広告リンクを含みます。広告と紹介の基準
この記事の答え
地の文は、会話以外の部分すべてです。役割は大きく動作・情景・説明・心の声の四つで、場面の目的と視点人物に合わせて選びます。
- まず会話だけを書き、会話では伝わらない情報(場所、隠れた事情、本心、時間の流れ)を書き出す
- その情報を、四つの役割のどれで伝えるかを選ぶ。会話を言い直すだけの文は削る
- 間を埋めるだけの動作より、出来事を一歩進める動作を選ぶ
目次
セリフは浮かぶのに、セリフとセリフの間に何を書けばいいか分からない。とりあえず「彼はうなずいた」「彼女は笑った」でつないでいる。そんなときは、地の文の役割を決めないまま書いているのかもしれません。この記事では、図書館の返却カウンターでの五行の会話を変えずに、地の文を一段ずつ足していきます。読み終えたら、自分の会話場面に足すべき地の文を選び、会話と重なる文を削った一段落を書けるようになります。
地の文が受け持つ四つの役割
地の文は、辞書では「会話以外の説明や叙述の部分」(デジタル大辞泉)と説明されています。小説では、セリフ以外のすべてが地の文です。その中身は、大きく四つの役割に分けて考えると選びやすくなります。
| 役割 | 伝えるもの | 例(この記事の作例から) |
|---|---|---|
| 動作 | 人物が何をしたか。反応、ためらい、決断 | 男は、絵本から手を離した。 |
| 情景 | 場所、時間、光や音、物の様子 | 閉館まで三十分。返却カウンターのまわりだけに人の気配が残っていた。 |
| 説明・要約 | 背景の事情、決まりごと、時間を飛ばしてまとめた出来事 | 予約していたのは、毎週土曜に母親と来る五歳の女の子だった。 |
| 心の声 | 視点人物の考え、気づき、ためらい | 言わなくてもいい一言だと、言いながら分かっていた。 |
四つすべてを毎回使う必要はありません。場面ごとに、いちばん必要な役割を一つか二つ選びます。
地の文の言葉は、語り手や視点人物のものです。作者の意見そのものではありません。たとえば「延滞する客は、たいてい言い訳から始める」と地の文に書けば、それは視点人物(司書)の見方として読まれます。作者が同じ考えを持っている必要はなく、むしろ人物の偏りや疲れを伝える材料になります。
作例:会話だけの場面に地の文を一段ずつ足す
まず会話だけを書きます。この五行は、最後まで一字も変えません。
作例段階0:会話だけ
「これ、だいぶ遅れてしまって」
「三か月ですね」
「すみません」
「次に予約している方が、ずっと待っていたんですよ」
「そうですか。待ってる人が、いたんですね」
この会話から分かることと、分からないことを分けます。
| 会話から分かること | 会話からは分からないこと |
|---|---|
| 何かを三か月遅れて返している | どこで、いつの出来事か |
| 返す側が謝っている | 返している物は何か。二人は誰か |
| 次に待っている人がいた | 謝罪は本心か、形だけか |
| 「待ってる人が、いたんですね」は、恥ずかしさか、喜びか、皮肉か |
右の列が、地の文で足す候補です。左の列の内容を地の文で繰り返す必要はありません。ここでは、司書の堀田に寄った三人称で書くことにして、四つの役割を一つずつ足していきます。
段階1:場所を足す
作例段階1:情景(場所と時間)
閉館まで三十分。市立図書館の一階は、返却カウンターのまわりだけに人の気配が残っていた。
「これ、だいぶ遅れてしまって」
「三か月ですね」
「すみません」
「次に予約している方が、ずっと待っていたんですよ」
「そうですか。待ってる人が、いたんですね」
冒頭に一文あるだけで、会話は「図書館の閉館前」の出来事になりました。遅れて返したのが本だということも、場所から推測できます。短い場面なら、情景は最初に一度置けば足りることもあります。
段階2:動作を足す
作例段階2:動作
閉館まで三十分。市立図書館の一階は、返却カウンターのまわりだけに人の気配が残っていた。
背広の男が、カウンターに絵本を一冊置いた。表紙のくまの絵が、角だけ白くすり切れている。
「これ、だいぶ遅れてしまって」
堀田はバーコードを読み取った。画面に赤い文字が出た。
「三か月ですね」
「すみません」
画面のいちばん下に、予約者の欄が一行あった。
「次に予約している方が、ずっと待っていたんですよ」
男は、絵本から手を離した。
「そうですか。待ってる人が、いたんですね」
足した動作は、どれも出来事を一歩進めています。絵本を置く(返す物と人物が分かる)、バーコードを読み取る(延滞が確定する)、予約者の欄を見る(次のセリフのきっかけ)、手を離す(返すことを受け入れる)。「すり切れた角」は、この絵本が何度も読まれたことを伝えます。
段階3:心の声を足す
作例段階3:心の声(堀田の考え)
閉館まで三十分。市立図書館の一階は、返却カウンターのまわりだけに人の気配が残っていた。
背広の男が、カウンターに絵本を一冊置いた。表紙のくまの絵が、角だけ白くすり切れている。
「これ、だいぶ遅れてしまって」
堀田はバーコードを読み取った。画面に赤い文字が出た。
「三か月ですね」
「すみません」
画面のいちばん下に、予約者の欄が一行あった。
「次に予約している方が、ずっと待っていたんですよ」
言わなくてもいい一言だと、言いながら分かっていた。
男は、絵本から手を離した。
「そうですか。待ってる人が、いたんですね」
責められたはずなのに、男の声は少しうれしそうに聞こえた。
心の声は二か所だけです。一つ目は、堀田のセリフと本心のずれ(言わなくてもいいと分かっていて言った)。二つ目は、男の最後のセリフを堀田がどう聞いたか。どちらも会話からは分からない情報です。
段階4:説明・要約を足す
段階3の場面のあとに、次の段落を続けます。
作例段階4:要約(場面の外の出来事)
予約していたのは、毎週土曜に母親と来る五歳の女の子だった。この三か月、その子はカウンターに来るたびに同じことを聞いた。くまの本、まだ?
堀田は返却の箱に入れかけた絵本を、予約の棚へ回した。
最後に、場面の外の三か月を二文に縮めて置きました。これが要約の役割です。要約は時間を飛ばし、場面では見せきれない背景を短く渡します。この二文によって、男の「待ってる人が、いたんですね」が、読者の中で別の重さを持ちます。最後の一文は再び動作に戻して、場面を閉じています。
足した情報と、足さなかった情報
| 段階 | 足した役割 | 会話だけでは分からなかった情報 | 足さなかった重複 |
|---|---|---|---|
| 1 | 情景 | 図書館、閉館前 | 「静かな」「広い」などの、この場面に関係のない様子 |
| 2 | 動作 | 返したのは何度も読まれた絵本。予約者がいると確かめた | 「男は申し訳なさそうに頭を下げた」(「すみません」と重なる) |
| 3 | 心の声 | 堀田の一言は余計だった。男の声が明るく聞こえた | 「三か月も延滞するなんて、と堀田は思った」(「三か月ですね」と重なる) |
| 4 | 要約 | 待っていたのは五歳の子で、何度も尋ねていた | 予約制度の細かい決まり(この場面には不要) |
右の列は、書けば書けるけれど、会話と重なるか、場面の目的に関係しない文です。地の文を足すときは、会話で伝わっていることを、地の文で言い直さないことが、量を決める一番の基準になります。
同じ会話でも、地の文で人物と速度が変わる
地の文の選び方で、同じセリフの意味まで変わります。上の作例とは別の地の文を、同じ五行に添えてみます。
作例案X:急いでいる男
男は絵本をカウンターに滑らせた。左手の腕時計を見ている。
「これ、だいぶ遅れてしまって」
「三か月ですね」
「すみません」
「次に予約している方が、ずっと待っていたんですよ」
「そうですか。待ってる人が、いたんですね」
言い終わる前に、男はもう自動ドアのほうへ歩きだしていた。
作例案Y:手放しにくい男
男は絵本を両手で持ったまま、しばらくカウンターに置かなかった。親指が、表紙の角のすり切れたところを何度もなでていた。
「これ、だいぶ遅れてしまって」
「三か月ですね」
「すみません」
堀田が予約票を出すあいだも、男の目は絵本から離れなかった。
「次に予約している方が、ずっと待っていたんですよ」
「そうですか」
男はようやく手を離した。
「待ってる人が、いたんですね」
| 観点 | 案X | 段階4までの作例 | 案Y |
|---|---|---|---|
| 地の文の量 | 最小限(三文) | 中くらい | 多め。セリフの間にも動作を挟む |
| 速度 | 速い。会話がすぐ終わる | ふつう | 遅い。一つひとつのセリフの前に時間が流れる |
| 男の人物像 | 用事を済ませたいだけの人 | 事情は分からないが、どこかほっとした人 | 絵本に強い思いのある人 |
| 最後のセリフの聞こえ方 | 気のない相づち | 少しうれしそう | 自分に言い聞かせるような独り言 |
案Yでは、最後のセリフの途中に「男はようやく手を離した」という動作を挟み、「そうですか」と「待ってる人が、いたんですね」を分けました。会話文そのものは変えずに、地の文の置き場所だけで間を作っています。どの案が正しいということはなく、物語の中でこの男がどんな人物であってほしいかで選びます。
視点に合う情報を選ぶ
地の文に書ける情報は、視点人物が見聞きし、知っていることに限られます(全体を見渡す語りを選んだ場合を除く)。同じ返却の場面でも、誰に寄るかで、目に入るものが変わります。
| 視点人物 | 気づきやすいもの | 書けないもの |
|---|---|---|
| 司書の堀田 | 画面の延滞日数、予約者の欄、本の傷み、男の手つき | 男が三か月返せなかった理由(男が話さない限り) |
| 返しに来た男 | カウンターの高さ、司書の名札、自動ドアの音、絵本の重さ | 予約者が五歳の女の子であること(司書が話さない限り) |
段階4の要約(予約者が五歳の女の子)は、堀田に寄っているから書ける情報です。男に寄った語りでは書けないので、もし男の視点で書くなら、男が知っている別の事情(なぜ三か月返せなかったか)を要約に使うことになります。
一人称で書いている場合は、地の文全体が語り手の声になり、語り手がいつ語っているかによって使える情報も変わります。その整理は一人称小説の書き方で、三人称で誰に寄るかの選び方は三人称小説の書き方で扱っています。
動作と情景は「出来事を進めるか」で選ぶ
セリフの間を埋めようとして、意味の薄い動作が続くことがあります。比べてみます。
間を埋めるだけの動作と、出来事を進める動作
間を埋めるだけ
「三か月ですね」
堀田は顔を上げた。
「すみません」
男は頭をかいた。堀田はうなずいた。
「次に予約している方が、ずっと待っていたんですよ」
出来事を進める
「三か月ですね」
「すみません」
画面のいちばん下に、予約者の欄が一行あった。
「次に予約している方が、ずっと待っていたんですよ」
変更の理由
- 「顔を上げた」「頭をかいた」「うなずいた」は、どの会話にも入れられる動作で、この場面で何かが変わったことを伝えていません。
- 「予約者の欄」は、堀田が次のセリフを言うきっかけです。地の文一文で、会話の流れに理由が生まれます。
- つなぎの動作がいつも不要なわけではありません。言い合いの最中に一拍置きたいとき、話者を示したいときには、短い動作が役に立ちます。三つ並べる前に、一つに絞れないかを考えます。
情景も同じ考え方で選びます。図書館なら書けることはいくらでもありますが、この場面に必要なのは「閉館前で人が少ない」ことと、「すり切れた絵本」くらいです。視点人物がその瞬間に気づくもの、場面の意味に関わるものを一つか二つ選びます。五感をどう組み合わせるか、遠景と近景をどう使い分けるかは、小説の情景描写の書き方で扱っています。
説明と心の声の量を決める
説明は、読者がその場で必要な分だけ
説明は、悪い文章ではありません。図書館の延滞の決まりを知らない読者もいるので、場面によっては「延滞中の利用者は、本を返すまで新しく借りられない」のような一文が必要になることもあります(作例の図書館は架空なので、決まりも架空です)。
量の目安は、その説明がないと、次のセリフや動作の意味が分からないかです。分からないなら残し、分かるなら削るか、後に回します。段階4の要約のように、説明を場面の終わりに置くと、それまでの会話を読み直させる効果も生まれます。
何をどの順番で読者に渡すかを、独立した主題として扱う入門書もあります。たとえば集英社オレンジ文庫『マナーはいらない 小説の書きかた講座』の出版社の目次には、「情報の取捨選択について」「情報提示のタイミングについて」「描写と説明について」の回が並んでいます。
心の声は、セリフとずれる所に置く
心の声は、セリフと同じことを言うなら不要です。効くのは、セリフと本心がずれている所と、相手の言葉の受け取り方を示す所です。
| 置き方 | 例 | 効果 |
|---|---|---|
| セリフの言い直し(削る候補) | 「すみません」と男は謝った。申し訳ないと思っているようだった。 | 情報が増えない |
| セリフと本心のずれ | 「次に予約している方が〜」言わなくてもいい一言だと、言いながら分かっていた。 | 人物の内側の動きが見える |
| 相手の言葉の受け取り方 | 責められたはずなのに、男の声は少しうれしそうに聞こえた。 | 次の展開への引っかかりになる |
一つの場面で心の声を何度も入れると、読者が自分で感じ取る余地がなくなります。作例では、五行の会話に対して心の声は二文です。感情・思考・身体の反応をどう組み合わせるかは、小説の心理描写の書き方で詳しく扱っています。
会話とのつなぎ方で、場面の速さを決める
地の文をセリフのどこに置くかで、場面の速さが変わります。
| つなぎ方 | 例 | 速さ |
|---|---|---|
| セリフだけを続ける | 「三か月ですね」「すみません」 | 速い。言い合い、短いやり取り |
| セリフの後に反応を一文 | 「次に〜待っていたんですよ」男は、絵本から手を離した。 | ふつう。相手の受け止めを見せる |
| セリフの途中に動作を挟む | 「そうですか」男はようやく手を離した。「待ってる人が、いたんですね」 | 遅い。一つのセリフの中に間を作る |
| 会話を要約で済ませる | 延滞の決まりをひととおり説明すると、男は黙ってうなずいた。 | 時間を飛ばす。重要でないやり取りを短くする |
| 会話の後に要約を置く | 予約していたのは、毎週土曜に来る五歳の女の子だった。 | 場面を閉じ、意味を付け加える |
一つの場面の中で、速い所と遅い所を作ると、読者はどこが大事な瞬間かを感じ取れます。作例では、延滞を告げるまでを速く、男の最後のセリフの前後を遅くしています。
誰の発言かを示す書き方や、三人以上の会話で話者を追わせる方法、かぎかっこの表記などの会話文そのものの作法は、小説の会話文の書き方で扱っています。
自作の会話場面に地の文を足す手順
手順一段落を書く手順
- 場面の目的を一行で書きます(例:「男が絵本を返し、待っていた人がいたと知る」)。
- 視点人物を決めます。一人称なら語り手と、いつ語っているかも決めます。
- 会話だけを書きます。セリフの順番と内容は、ここで決めてしまいます。
- 会話からは分からない情報を書き出します。場所と時間、隠れた事情、本心、相手の言葉の受け取り方、場面の外の出来事。
- 書き出した情報を、動作・情景・説明・心の声のどれで伝えるか、一つずつ割り当てます。視点人物が知らない情報は外します。
- 割り当てた地の文を、会話の間に置きます。速くしたい所は地の文を減らし、止めたい所に動作か心の声を置きます。
- 最後に、会話の内容を言い直している文と、どの場面にも入れられるつなぎの動作を探して削ります。
練習同じ会話に二通りの地の文を付ける(20分)
- この記事の五行の会話か、自作の短い会話(四〜六行)を用意します。
- 一つ目は、地の文を二文以内にして、速い場面にします。
- 二つ目は、セリフの間に動作か心の声を三つ以上置いて、遅い場面にします。
- 二つを読み比べ、最後のセリフの聞こえ方と、人物の印象がどう変わったかを一行ずつ書きます。
確認表地の文の確認表
-
場面の目的と視点人物を一行で言える
-
地の文が、会話の内容を言い直していない
-
動作は、出来事を一歩進めるか、話者や間を示すために置いている
-
情景は、視点人物がその瞬間に気づくものに絞っている
-
説明は、ないと次のセリフや動作の意味が分からないものだけ残している
-
心の声は、セリフと本心がずれる所か、相手の言葉の受け取り方を示す所にある
-
地の文の評価や意見が、視点人物(または語り手)のものとして読める
-
速い所と遅い所の差がある
地の文の量がちょうどよいかは、作者の頭の中に場面がある限り、自分では判断しにくいものです。練習課題の速い版と遅い版を両方ほかの人に読んでもらい、人物の印象がどう違って残ったかを聞くと、地の文が人物像に効いているかを確かめられます。自作の場面について講評を頼むときは、講評・添削の依頼メモで「地の文の量」「速さ」など尋ねたい点を先に書き出しておくと、依頼先に伝えやすくなります。