小説が説明ばかりになるときの直し方|必要な情報を場面で伝える
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この記事の答え
説明を全部なくすのではなく、一文ずつ「いま必要」「後で必要」「場面で見せられる」「なくても伝わる」に分けて直します。
- 抽象的な評価や感情の名前は、誰が何をしたかという具体的な行動・会話・物に置き換える
- 後で必要な情報は、それが人物の行動に効いてくる直前へ回す
- 時間の経過、場面にすると長くなる広い背景、読者が推測できない知識は、短い要約として残してよい
目次
読者に分かってもらおうとして背景を全部書いたら、地の文が説明で埋まり、人物どうしの会話まで設定の確認になってしまった。この記事は、そうした原稿を直すためのものです。架空の題材「家業の豆腐店を継ぐ不安」の説明だらけの初稿を一文ずつ診断し、行動・会話・短い要約・後回し・省略に振り分けて組み直します。読み終えたら、自作の説明のどれを残し、どれを場面に変えるかを判断できます。
説明の役割を確かめる
説明は悪い文章ではありません。小説の中で説明が担う役割は、たとえば次のようなものです。
| 説明の役割 | 例 | 残すかどうかの目安 |
|---|---|---|
| 場面を追うのに、いま必要な事実を伝える | 人物どうしの関係、いる場所 | 残す。ただし最小限に |
| 時間を飛ばす | 「戻ってきて、ひと月になる」 | 残す。場面にすると長くなる |
| 読者が場面から推測できない知識を伝える | 仕事の手順、制度、土地の事情 | 残す。必要になった場面で一、二文 |
| 場面で見せられることを先に言う | 「父は立派な職人だった」 | 場面に置き換える候補 |
| まだ必要のない背景を前もって並べる | 店の歴史、人物の経歴 | 後へ回す、または書かない |
| 人物どうしが、互いに知っている事実を言い合う | 「うちは七十年続く店でしょう」 | 会話の目的を変える |
説明ばかりに感じられる原稿では、表の下半分に当たる説明が多くなっていないかを見ます。直すときは、説明を一文ずつ見て、次の四つのどれに当たるかを決めます。
要点説明を一文ずつ分ける四つの判定
- いま必要:この場面の出来事を追うのに欠かせない。残す
- 後で必要:話のどこかで効いてくるが、この場面ではまだ使わない。必要になる場面へ回す
- 場面で見せられる:行動・会話・物で伝えられる。置き換える
- なくても伝わる:筋に関わらない、または他の部分から読み取れる。削る
作例:説明だらけの初稿を一文ずつ診断する
次の初稿は、豆腐店の娘が家業を継ぐかどうかで不安を抱えている場面の冒頭です。必要な背景をすべて最初に書き、会話でも設定を確認しています。
作例初稿(背景を並べた段落と会話)
木島由紀は二十七歳。東京の食品会社で五年働いてきたが、父が腰を痛めたのをきっかけに先月会社を辞め、実家の豆腐店に戻ってきた。きじま豆腐店は祖父の代から七十年続く店で、商店街の人々に愛されてきた。父の豆腐は本当においしく、父は立派な職人だった。しかし近くに大型スーパーができてから客は減り、売り上げは最盛期の半分になっている。由紀は店を継ぎたい気持ちもあるが、父と同じ豆腐が作れるのか、店を続けていけるのか、とても不安だった。自分には無理かもしれないと思うと、胸が苦しくなった。
「お父さん、うちはおじいちゃんの代から七十年続いてる店でしょう。スーパーができてから売り上げも半分になったし、お父さんも腰を痛めたし、私が継ぐしかないと思うの」
「由紀、おまえは東京の会社を辞めてまで戻ってきたんだから、無理はするなよ」
情報はどれも正しく、筋にも関係があります。それでも読みにくいのは、読者がまだ何も見ていないうちに、事実・評価・感情を一度に受け取ることになるからです。一文ずつ判定すると、次のようになります。
| 初稿の文(要約) | 説明の種類 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 二十七歳 | 設定説明 | なくても伝わる | 年齢は筋に関わらない |
| 東京の会社を辞めて戻った | 設定説明 | いま必要(短く) | 由紀が店にいる理由。経緯は短い要約で足りる |
| 父が腰を痛めた | 設定説明 | 場面で見せられる | 作業場での父の様子で伝わる |
| 七十年続く店 | 設定説明 | 後で必要 | 閉店の話が具体的になる場面で効く |
| 商店街の人々に愛されてきた | 抽象的な評価 | 場面で見せられる | 誰が何をするかで見せる |
| 父の豆腐はおいしく、立派な職人 | 抽象的な評価 | 場面で見せられる | 由紀の不安の中身になる |
| 売り上げは最盛期の半分 | 設定説明 | 場面で見せられる | 由紀の目に入る物で示せる |
| 継ぎたいが、とても不安 | 感情説明 | 場面で見せられる | 行動で示し、感情の名前は残さない |
| 胸が苦しくなった | 感情説明 | なくても伝わる | 不安の行動があれば重ねなくてよい |
| 二人の会話 | 設定の読み上げ | 会話の目的を変える | 二人とも知っている事実を言い合っている |
この表のように、説明を「削るか残すか」の二択ではなく四つに分けると、消してよいのはごく一部で、多くは置き場所や伝え方を変えればよいことが分かります。
抽象的な評価と感情の名前を、場面に置き換える
「おいしい」「立派」「寂れた」「不安だった」のような言葉は、書き手の判断を読者に渡すだけで、読者が自分で確かめる材料がありません。こうした抽象的な言葉は、「たとえば、誰が、何をする?」と問いかけると、場面に置き換える手掛かりが見つかります。
| 抽象的な言葉 | 問いかけ | 場面に置いた形 |
|---|---|---|
| 父の豆腐はおいしい | 誰が、どう食べる? | 酒屋の夫は、きじまの豆腐でないと湯豆腐を食べない |
| 立派な職人 | 何ができる人? | 父が切ると、豆腐の角が定規で引いたようにまっすぐになる |
| 商店街に愛されてきた | 誰が、何をしに来る? | 常連が自分の小鍋を持って一丁ずつ買いに来る |
| 商店街が寂れた | 朝、何が見える? | 開いている店は、豆腐店と新聞販売店だけ |
抽象的な評価を、人物の行動に置き換える
修正前
きじま豆腐店は商店街の人々に愛されてきた。父の豆腐は本当においしく、父は立派な職人だった。
修正後
夕方になると、向かいの酒屋の奥さんが小鍋を持ってやって来る。
「木綿、一丁ね。きじまさんのじゃないと、うちの人、湯豆腐を食べないのよ」
変更の理由
- 「愛されてきた」「おいしい」を、一人の常連の習慣と言葉に置き換えました。読者は評価を受け取るのではなく、評価の根拠を見ることになります。
- 「立派な職人」は、この場面ではあえて書いていません。父の腕は、次の比較で由紀の不安と一緒に見せます。一つの評価を一つの場面で全部証明しなくてかまいません。
- 語り手が人物を評価する声そのものが作品の味になっている場合(昔話風の語り、皮肉の効いた一人称など)は、評価の文を残す選択もあります。
感情の名前も同じように考えます。「不安だった」と書くと読者は事実として受け取りますが、何が、どのように不安なのかは伝わりません。
感情の説明を、具体的な差と行動に置き換える
修正前
由紀は店を継ぎたい気持ちもあるが、父と同じ豆腐が作れるのか、店を続けていけるのか、とても不安だった。自分には無理かもしれないと思うと、胸が苦しくなった。
修正後
包丁を入れるたびに、豆腐の角が少し崩れる。父が切ると、角はいつも定規で引いたようにまっすぐだった。
由紀は角の崩れた一丁を、売り物の棚ではなく自分用の皿に取った。
変更の理由
- 不安の中身を「父と同じにできない」という目に見える差にしました。「父と同じ豆腐が作れるのか」という問いは、崩れた角と父のまっすぐな角を並べるだけで伝わります。
- 「継ぎたい気持ち」は、言葉では書いていません。崩れた一丁を売らずに自分で引き受けることや、後で組み直す場面の、朝四時から作業場に立つ姿が、その気持ちを示します。
- 感情の名前を一度だけ残すのも一つの方法です。人物が自分の気持ちをはっきり自覚している場面や、率直な一人称の語りでは、「怖かった」と書いたほうが人物らしいこともあります。感情・思考・行動の組み合わせ方は小説の心理描写の書き方で詳しく扱っています。
設定は、説明・場面・省略の三案で比べる
設定の情報は、場面に変えれば必ずよくなるわけではありません。同じ情報について、説明する・場面で見せる・書かない、の三案を並べて、作品の中心に近い案を選びます。作例の「売り上げが半分になった」で比べます。
| 案 | 書き方 | 伝わること | 向く場合 |
|---|---|---|---|
| 説明 | 「近くにスーパーができてから、売り上げは半分になった。」 | 事実が正確に、速く伝わる | 数字そのものが筋に関わるとき(返済の期限が迫っている話など) |
| 場面 | 「壁の予約の札は三枚しか掛かっていなかった。子どものころ、この壁には札が隙間なく並んでいた。」 | 減ったことと、それを見た由紀が何を感じたか | 店の苦しさを由紀の不安につなげたいとき |
| 省略 | 書かない。父の「ここで閉めても、誰も困らない」に任せる | 店が苦しいことが、ぼんやりと伝わる | 経営より、父と娘の関係が話の中心のとき |
作例では、由紀の不安を描く話なので場面の案を選びました。経営の立て直しが筋の中心になる話なら、説明の案のほうが読者を迷わせません。
人物に設定を読み上げさせない
説明を会話に移しても、人物が互いに知っている事実を言い合っているなら、それは読者に向けた説明のままです。初稿の会話では、娘も父も、店の歴史も売り上げも父の腰のことも知っています。
設定の読み上げを、意見の食い違う会話にする
修正前
「お父さん、うちはおじいちゃんの代から七十年続いてる店でしょう。スーパーができてから売り上げも半分になったし、お父さんも腰を痛めたし、私が継ぐしかないと思うの」
「由紀、おまえは東京の会社を辞めてまで戻ってきたんだから、無理はするなよ」
修正後
「なあ、由紀。無理に続けなくていいんだぞ。ここで閉めても、誰も困らない」
「困るよ。酒屋の奥さんが」
父は少し笑い、それから笑うのをやめた。「おまえの会社は、困らなかったのか」
変更の理由
- 修正前の会話は、二人とも知っている事実の確認なので、父と娘の間で何も起きていません。
- 修正後は「閉めてもいい」「困る」と意見が食い違い、父の問いで、由紀が会社を辞めたことと、その選択への父の引っかかりが同時に出ます。会話は、相手に何かを求めたり、意見がずれたりするときに場面を動かします。
- 「七十年」「売り上げ半分」「腰」は会話から外しましたが、消したわけではありません。次の節で、それぞれの置き場所を決めます。
会話の作法や、セリフと地の文のつなぎ方そのものは小説の会話文の書き方で扱っています。また、架空の世界の制度や歴史のように、読者がまったく知らない設定を伝える場合は、小説の世界観の作り方で場面への出し方を確認してください。
情報を出す順番を決めて、場面を組み直す
四つの判定と三案の比較ができたら、初稿の情報を置き場所ごとに振り分けます。
| 初稿の情報 | 組み直しでの扱い | 理由 |
|---|---|---|
| 父が腰を痛めた | 行動(丸椅子から指示する父) | 由紀が一人で作業している理由が同時に伝わる |
| 会社を辞めて戻った | 短い要約(ひと月になる)と父の問い | 経緯は一文で足りる。辞めたことの重さは会話で出す |
| 売り上げが半分 | 具体物(予約の札三枚) | 由紀の目に入る物にすると、不安とつながる |
| 父の腕 | 動作の比較(角のまっすぐさ) | 由紀の不安の中身になる |
| 商店街に愛されてきた | 後へ回す(夕方、酒屋の奥さんが鍋を持って来る場面) | この場面では「困るよ。酒屋の奥さんが」の一言に任せる |
| 七十年続く店 | 後へ回す(祖父の名を彫った木の型箱を洗う場面) | 閉店の話が具体的になる場面で、重みとして効く |
| 二十七歳、胸が苦しい | 書かない | 筋に関わらない、または行動で足りる |
後へ回す情報は、その情報がないと次の行動の意味が分からなくなる直前に置くのが基本です。「七十年」は、閉めるかどうかを決める場面で初めて読者に必要になります。冒頭で言っておくと、そのころには読者が忘れていたり、ただの数字として読み流したりするおそれがあります。
振り分けたとおりに組み直した場面です。
作例組み直した場面
朝四時、由紀は水槽に手を入れて、固まった豆腐を切り分けた。包丁を入れるたびに、角が少し崩れる。父が切ると、角はいつも定規で引いたようにまっすぐだった。
「力が入りすぎだ」
作業場の隅の丸椅子から、父が言った。腰にコルセットを巻いてから、父は重い桶を持たなくなった。
東京の会社を辞めて戻ってきて、ひと月になる。
店先の棚に豆腐を並べ終えても、壁の予約の札は三枚しか掛かっていなかった。由紀が子どものころ、この壁には札が隙間なく並んでいた。
「なあ、由紀」父は棚のほうを見たまま言った。「無理に続けなくていいんだぞ。ここで閉めても、誰も困らない」
「困るよ。酒屋の奥さんが」
父は少し笑い、それから笑うのをやめた。「おまえの会社は、困らなかったのか」
由紀は返事をせずに、角の崩れた一丁を、売り物の棚ではなく自分用の皿に取った。
初稿より情報は減っていますが、由紀がなぜここにいて、何を不安に思い、それでも何を手放したくないのかは伝わります。確かめると、次のとおりです。
- なぜ店にいるか:父が重い物を持てず、由紀が会社を辞めて戻ってきた(行動と要約)
- 何が不安か:父と同じように切れない。客が減っている(動作の比較と予約の札)
- それでも続けたい理由:常連が困る、と父に言い返す(会話)
- まだ言えないこと:会社を辞めた選択への迷い(父の問いに答えない)
情報を減らすときは、このように人物の動機が伝わっているかを確かめます。動機が見えなくなった場合は、削りすぎです。要約の一文を戻すか、動機を示す行動を一つ足します。
説明を残してよい場合
組み直した場面にも、説明の文は二つ残っています。「腰にコルセットを巻いてから、父は重い桶を持たなくなった」と「東京の会社を辞めて戻ってきて、ひと月になる」です。どちらも、過去からいままでの変化を一文で伝えるための説明で、場面にすると何日分もの出来事を書くことになります。
説明が場面より向いている例として、芥川龍之介『羅生門』の冒頭を見てみます。
ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。
(芥川龍之介『羅生門』、青空文庫より)
この二文で、時間・人物・場所・していることが示されます。続けて語り手は、広い門の下にこの男のほかに誰もいないことを書き、その理由を次のように説明します。
何故かと云うと、この二三年、京都には、地震とか辻風とか火事とか饑饉とか云う災がつづいて起った。そこで洛中のさびれ方は一通りではない。
(同)
数年分の災害と都の荒れようを場面で一つずつ見せれば、長い回り道になります。ここでは、読者が「なぜ誰もいないのか」と思う位置に、その答えとしての要約が置かれています。説明の文であっても、置く場所と分量が合っていれば、場面を支える働きをします。
説明を残してよいのは、次のような場合です。
- 時間を飛ばすとき(「ひと月になる」「それから三年」)
- 場面にすると長くなる広い背景を伝えるとき(何年分もの出来事、町全体の変化)
- 読者が場面から推測できない知識が必要なとき(豆腐作りの工程の用語、架空の世界の制度)。その知識を人物が使う直前に、一、二文で
- 人物関係や位置関係の最低限の事実がないと、読者が場面を追えないとき
- 読者に説明を知りたい理由があるとき(疑問が立った直後の答え)
- 語り手の声そのものが作品の読みどころになっているとき
反対に、すべての説明を場面に置き換えようとすると、場面が長くなり、話の進みが遅くなります。また、説明を避けるあまり事実をぼかすと、読者は何が起きているのか分からなくなります。大事なのは説明の量そのものより、読者がその情報を受け取る理由を持っているかどうかです。
直したあとの確認
確認表説明を直したあとの確認表
-
情報を減らしたあとも、人物がなぜその行動をするのか(動機)が伝わる
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抽象的な評価や感情の名前が、同じ場面の行動や物と二重になっていない
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人物どうしが、互いに知っている事実を言い合う会話が残っていない
-
後へ回した情報は、それが必要になる場面に実際に書き込んである
-
残した説明は、時間を飛ばす・広い背景・推測できない知識など、理由を言える
-
場面に置き換えたことで、かえって長くなりすぎた所はない
置き換えた具体的な物や景色が、ただの飾りになっていないかも見ておきます。情景を視点人物の目に映るものから選ぶ方法は、小説の情景描写の書き方で扱っています。
自分で表に振り分けても、どの説明が読者にとって多すぎるかは、背景を知っている書き手には見えにくいものです。原稿があり、具体的な疑問が残っている場合は、読み手に「読み飛ばしたくなった段落」と「意味が分からなかった箇所」を一つずつ挙げてもらうと、削る説明と足りない説明の両方が分かります。こうした質問の作り方は小説の感想を依頼するには?にまとめています。講評を依頼する場合は、講評・添削の依頼メモに「説明を減らしたい場面」と「残すか迷っている説明」を書き出しておくと、答えを受け取りやすくなります。