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発表・本作り

小説を電子書籍にする方法|原稿・EPUB・表示確認から公開まで

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この記事の答え

日本語の小説は、EPUBを作り、その実物のファイルを電子書籍の表示で確かめてから公開の準備をします。原稿をPDFに保存しても、電子書籍ができあがったことにはなりません。

  • KDP(Amazon)のヘルプでは、Kindle Createは日本語のリフロー型の本に対応せず、対応するPDFの言語にも日本語は挙げられていない。Kindle PreviewerでWordを開けるのは英語の内容だけ
  • 扉・目次・章・奥付をそろえた構成で原稿を整え、EPUBにしたら縦書き・ルビ・目次・改ページを端末ごとに確かめる
  • 公開前に、表紙と本文の権利、AIの申告、独占配信の条件、応募予定の公募の「未発表」規定を確かめる
目次

書き上げた日本語の小説を、縦書きでルビも付いた電子書籍にしたい人に向けた記事です。紙の原稿と電子書籍の見え方の違いから始め、短編一作を電子書籍にするための最小の構成、原稿として受け付けられる形式とプレビューで確かめられる形式の違い、EPUBの作り方、表示の確認、表紙と権利、公開の条件までを順に扱います。例としてAmazonのKindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)の公式ヘルプを使いますが、ほかの配信サービスを使う場合も、確かめる項目の考え方は同じです。

紙の原稿と電子書籍は、見え方の仕組みが違う

この記事で扱うのは、文字が流れる「リフロー型」の電子書籍です。リフロー型では、読者が文字の大きさや端末を変えるたびに、1行の字数と1画面の行数が変わり、文章が流し直されます。紙の原稿のように「この行はこのページのここ」という位置は決まりません。

項目 紙の原稿・紙の本 リフロー型の電子書籍
1行の字数・1ページの行数 作者や組版で決める 読者の端末と文字の大きさで変わる
ページ番号 決まっている 決まったページ番号はない
改ページ どこでも入れられる 章の区切りなど、指定した箇所で次の画面に送る。それ以外は流れ続ける
空白で位置をそろえる 見た目どおりになる 字数が変わると崩れる。空白でのレイアウトはしない
ルビ・縦中横 組んだとおりに見える ファイルでの指定と、読む端末・アプリの対応で見え方が決まる
目次 紙の目次ページ 本文中の目次ページと、端末のメニューから開く目次の二つがある

この違いから、紙の原稿で作り込んだ「見開きでこの場面を見せる」「行末に空白を入れて位置を合わせる」といった工夫は、電子書籍ではそのまま再現できません。電子書籍の原稿は、文章の構造(章、見出し、段落、改ページの位置)を正しく指定することに集中します。

日本語の小説は、EPUBで作って、そのファイルで確かめる

KDPのヘルプには、原稿として受け付ける形式と、プレビュー用のアプリ(Kindle Previewer)で開ける形式が、別々のページに書かれています。日本語の小説では、この二つを照らし合わせると、使える経路が絞られます。

形式 原稿として出せるか(KDPの対応形式のヘルプ) Kindle Previewerで開けるか 日本語の小説での扱い
Word(DOC/DOCX) 対応。複雑な書式は崩れることがあるので、Previewerでの確認を推奨 開けるが、「英語のコンテンツのみ」でサポート 日本語の原稿は、Kindle PreviewerではWordのまま表示を確かめられない
KPF(Kindle Createで作る形式) 対応 開ける Kindle Createは日本語のリフロー型の本とプリント・レプリカの本に対応していない
EPUB 対応(KDPのガイドラインの仕様を満たすもの。外部のツールで作成し、Previewerで検証するよう推奨) 開ける 日本語の小説の主な経路。この記事ではこの方法で進める
PDF その他の対応形式。ただし対応するPDFは英語・フランス語・ドイツ語などに限られ、日本語は挙げられていない 開ける形式の一覧にない 使わない

まとめると、日本語の小説では、EPUBを作り、そのEPUBをKindle Previewerなどで開いて表示を確かめるのが、公式ヘルプの説明と矛盾しない進め方です。

注意PDFに保存しても、電子書籍にはならない

Wordの原稿をPDFに保存すると、そのときの紙面がページごとに固定されます。応募や印刷所への入稿には使えますが、文字の大きさに合わせて流し直されるリフロー型の電子書籍とは別のものです。提出用PDFの作り方と確認は小説原稿をPDFにする方法で扱っています。

作例:短編一作の最小構成を設計する

ここでは、二章からなる架空の短編『灯りを借りる』(約1万2千字)を電子書籍にする場合を例にします。まず、本の中に何をどの順で入れるかを決めます。

順 部分 内容 電子書籍での注意
0 表紙画像 作品名・作者名の入った画像 本文のファイルとは別の画像として用意する場合がある。配信サービスの仕様に合わせる
1 扉 作品名、作者名 表紙画像と同じ内容を本文の1ページ目にも置くかは、使うツールや配信先の推奨に合わせる
2 目次 「一 閉店の夜」「二 朝の返却」 見出しから自動で作る。手で打った目次はリンクにならない
3 第一章 見出し「一 閉店の夜」と本文 見出しを「見出し」として指定する。章の前で改ページ
4 第二章 見出し「二 朝の返却」と本文 同上
5 奥付 書名、著者名、発行日、発行者、版 本の最後に置く。内容を更新したら版と日付も直す

短編一作なら、これで本として成り立ちます。あとがきや初出の記録を入れる場合は、奥付の前に置きます。

本文の中には、確認しやすいように、人物名のルビ(真柴(ましば))、傍点、三点リーダーとダッシュ、二桁の数字(縦中横の確認用)を入れておきます。ルビをどこに付けるか、記法をどう書くかの考え方は小説原稿のルビ・傍点の付け方で扱っています。

ひな形奥付の例(電子書籍用)

灯りを借りる

著者 (筆名)
発行日 (年月日) 第1版
発行者 (筆名、または発行者名)
連絡先 (公開してよい連絡先がある場合のみ)

本書の無断複製・転載を禁じます。

奥付に連絡先を載せるかどうかは、公開してよい情報かを考えて決めます。筆名の決め方や公開範囲はペンネームの決め方で扱っています。

原稿を電子書籍向けに整える

元の原稿が応募用に整えたWordファイルなら、電子書籍向けに次の点を直します。

確認表電子書籍の原稿に直すときの確認

  • 1行の字数・行数、ページ番号、ヘッダーは使わない(リフロー型では意味がない)
  • 章見出しは、太字や大きな文字にするだけでなく、見出しとして指定する(Wordなら見出しのスタイル、テキストから変換するツールならそのツールの見出しの記法)
  • 章の区切りは改ページで送り、空の行を並べて次のページに押し出していない
  • 段落の頭の字下げは全角スペース一つ。空白を何個も並べて位置をそろえていない
  • ルビ・傍点は、使う変換方法が読み取れる形で付けている(Wordのルビ機能か、ツールの記法か)
  • 縦中横にしたい数字を決めている(すべての数字を縦中横にしない)
  • 紙の原稿にあった「次のページ」「右の図」など、ページの位置に頼る言い方がない

EPUBを作る方法を選ぶ

EPUBは電子書籍の標準的なファイル形式で、縦書き・横書き、ページを送る向き、ルビ、目次などを指定できます。作り方は、元の原稿の形で選びます。下の表のツールは例で、内容はそれぞれの提供者の説明によるものです。どのツールで作った場合も、EPUBの表示は次の節の手順で自分で確かめてください。

作り方 元の原稿 提供者の説明(例) 向いている人・注意
Word原稿から変換するWebサービス Wordファイル Romancer(ボイジャー):ブラウザで使う電子出版ツール。小説やエッセイはWordファイルから変換でき、目次と奥付を設定できる。EPUBのダウンロードは月額プランの機能として案内されている 応募用にWordで整えた原稿がある人。料金と、ダウンロードできるプランを確かめる
テキストと記法から変換するツール テキスト(Markdownなど) でんでんコンバーター:EPUB 3を出力。縦書き・横書きを選べ、ルビ(でんでんマークダウンまたは青空文庫の記法)、見出しからの目次の自動生成、表紙画像に対応。ファイル名は半角英数字などを推奨 テキストで書いていて、記法で構造を指定できる人。記法は投稿サイトのものと違うので書き換える
制作を依頼する 原稿一式 電子書籍の制作を請け負う業者や個人に、EPUBの作成を頼む 自分で作る時間がない人。作業範囲(ルビ・縦中横・目次・表紙の扱い)と修正の回数、納品形式を確かめる

どの方法でも、最後に確かめるのはできあがったEPUBのファイルです。変換サービスの画面で見えた形が、そのまま端末で見えるとは限りません。

縦書き・ルビ・目次・改ページを、EPUBで確かめる

KDPのヘルプによると、Kindle PreviewerはWindows 10(64ビット)以降と、macOS 12以降(IntelとApple Siliconの両方)で使えます。タブレット、スマートフォン、Kindleの電子書籍リーダーなど、端末の種類ごとの表示を確かめられ、端末の向きや文字の大きさも切り替えられます。画面の大きさによって読者への見え方が違う場合がある、とも説明されています。

手順EPUBの表示を確かめる

  1. Kindle Previewerで、作ったEPUBファイルを開きます。(Wordファイルを開く方法は、日本語の内容には使えません。)
  2. 端末の種類を「タブレット」「スマートフォン」「電子書籍リーダー」と切り替え、それぞれで最初から最後までめくります。
  3. 端末の向き(縦・横)と文字の大きさを変えて、崩れる箇所がないか見ます。
  4. 下の確認表で、作例の各要素を一つずつ確かめます。
  5. 直す箇所があれば、EPUBを直接いじらず、元の原稿を直してEPUBを作り直し、もう一度1から確かめます。
確かめること 作例で見る箇所 崩れていたときに見直すところ
ページを送る向き 1ページ目から次へめくったとき 縦書きの本として右から左へ進むか。変換時の縦書き(右から左)の設定
縦書き 本文全体 横書きで表示されていないか。変換時の縦書きの設定
ルビ 「真柴」の読み 読みが本文に混ざっていないか、記号が残っていないか。原稿のルビの付け方と、変換方法の記法が合っているか
傍点 強調した語 点が出ているか。出ない場合、表示する端末やアプリの対応も含めて確かめる
縦中横 二桁の数字 横に寝ていないか、二字分に広がっていないか
三点リーダー・ダッシュ 「……」「――」 二つがつながって見えるか
目次 目次ページと、端末のメニューから開く目次 両方に二つの章が出て、選ぶとその章へ飛ぶか。見出しの指定
改ページ 各章の始まり 章の見出しが画面の途中から始まっていないか
扉・奥付 最初と最後 表示されているか。奥付の版と日付
字下げと空行 段落の頭、場面転換の空行 字下げが二重になっていないか。場面転換の空行が消えていないか

Kindle Previewerで確かめたあとも、実際の端末では表示が違う可能性があります。手元にスマートフォンや電子書籍リーダーがあれば、公開前にそれらでも見ておくと安心です。

表紙と、本文・画像の権利を確かめる

表紙画像の条件

KDPの表紙画像のヘルプでは、推奨サイズは高さ2,560×幅1,600ピクセルで、縦横比は1.6:1、ファイル形式はTIFFまたはJPEG、ファイルサイズは50MB未満とされています。表紙を作る前に、コンテンツガイドラインに従っていること、表紙画像の内容に必要な権利をすべて持っていることを確かめるよう求めています。

表紙の作り方 確かめる権利
自分で撮った写真・描いた絵を使う 写っている人や物、場所に、公開して差し支えないか
素材サイトの写真・イラスト・フォントを使う 電子書籍の表紙に使えるか、商用利用・加工・クレジット表記の条件
イラストやデザインを人に依頼する 電子書籍の表紙として使う範囲、紙の本や宣伝に使う範囲、作者名の表記

文字だけの表紙を自分で作る方法は文字だけの同人誌表紙の作り方、イラストやデザインを依頼する場合の範囲の決め方は小説同人誌の表紙を依頼する方法で扱っています。紙の本と電子書籍では画像の縦横比や解像度の条件が違うので、依頼するときは両方の用途を伝えます。

本文の権利と、AIの申告

KDPのコンテンツガイドラインでは、著者や出版者が、コンテンツが法律に違反せず、著作権などの権利を侵害していないことを確かめる必要がある、とされています。小説で特に関係するのは次の点です。

  • Webで無料公開している作品:ガイドラインには、Webから無料で入手できる著作権で保護されたコンテンツは、その著作権者からAmazonに提出される場合を除き取り扱えない、という趣旨の記載があります。投稿サイトに載せている自作を電子書籍にする場合は、作者本人が出すことになりますが、どう扱われるかは公開前にガイドラインと申請画面の案内で確かめてください。
  • 歌詞・引用:ガイドラインには、JASRACなどが管理する楽曲の楽譜や歌詞を含むコンテンツはKindleストアでは出版できない(日本のみ)とも書かれています。作中に実在の歌詞を引いている場合は、出版前に見直します。
  • AIの申告:新しく出版するとき、または既存の本を編集して再出版するときは、AIで生成したテキスト・画像(表紙を含む)・翻訳について申告が必要とされています。自分で書いた文章をAIで推敲したり誤字を確かめたりした「AIアシスト」のコンテンツは、申告は不要とされています。AIで文章や画像を作った場合は、あとで大幅に編集してもAIで生成したものとみなされます。

権利についての個別の判断が必要な場合は、配信サービスの窓口や専門家に確かめてください。

公開の条件と、応募への影響を確かめる

電子書籍として公開すると、その作品の扱いがいくつかの点で変わります。公開ボタンを押す前に確かめます。

独占配信のプログラム

KDPには「KDPセレクト」という任意のプログラムがあります。ヘルプでは、登録期間は90日間で、その間のKindle本は「KDPと公共の図書館でのみ販売可能」とされ、本の内容の最大10%までなら無料サンプルとして他の場所で提供できる、と説明されています。紙の本など電子書籍以外の形での配布は引き続き可能で、登録は自動更新の設定を解除しない限り自動で更新されます。

投稿サイトで全文を公開したまま電子書籍を出す場合や、ほかの電子書籍ストアでも配信したい場合は、このプログラムの条件と合うかを確かめてから登録を決めます。

公募の「未発表」規定との関係

電子書籍として公開した作品を、あとで公募に出せるかどうかは、応募先の規定によります。たとえば集英社短編小説新人賞の応募要項は、応募作を「未発表の作品」に限ったうえで、Webや同人誌などに個人的に発表したものは応募できる、としています。電子書籍ストアでの販売がこの「個人的な発表」に当たるかどうかは、この要項だけでは分かりません。ほかの賞では、公開の扱いがまた違います。

公募に出す可能性がある作品なら、公開の前に、応募予定の賞の規定を確かめ、分からなければ主催者に問い合わせます。AIの使い方についても、KDPの申告の区分と、公募のAI利用の規定は別の条件です(集英社短編小説新人賞の要項では、本文を生成AIで書くことは認めず、調べものや推敲補助など補助的な使用に限るとしています)。公募のAI規定の確かめ方はAIを使った小説は公募に応募できる?で扱っています。

公開前の最終確認

確認表電子書籍を公開する前の確認表

  • 扉・目次・各章・奥付がそろい、目次から各章へ飛べる
  • EPUBのファイルを、タブレット・スマートフォン・電子書籍リーダーの表示で最初から最後まで確かめた
  • 縦書き、ページを送る向き、ルビ、傍点、縦中横、三点リーダーとダッシュが崩れていない
  • 章の始まりで改ページされ、場面転換の空行が残っている
  • 表紙画像が配信先の仕様(サイズ・縦横比・形式)に合い、使った写真・絵・フォントの権利を確かめた
  • 作中の引用(歌詞など)と、投稿サイトでの無料公開の扱いを、配信先のガイドラインで確かめた
  • AIで生成した文章・画像の有無を確かめ、配信先の申告の区分に沿って申告する準備ができている
  • 独占配信のプログラムに登録するかを、投稿サイトやほかのストアでの公開と照らし合わせて決めた
  • 応募予定の公募がある場合、未発表の規定とAIの規定を確かめた
  • 奥付の発行日と版が、公開する版と合っている

紙の本も作りたくなった場合は、電子書籍とは判型・余白・入稿の条件がまったく違います。作品選びから入稿までの流れは小説同人誌の作り方で扱っています。