恋愛小説の書き方|気持ちと関係が変わる場面を組み立てる
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この記事の答え
恋愛小説で書くのは、好意の強さよりも、相手を見る目が変わり、二人の関係が変わっていく出来事のつながりです。
- 二人それぞれの「望み」と「近づけない理由」を決め、共通の用事や出来事の中で二人をぶつける
- 出会い・接近・衝突・選択の各段階で、相手の新しい面の発見と、二人の距離の変化を一つずつ置く
- 好意は「好きだ」と書くより、会話の口実や小さな行動で見せる。結末では、最初と比べて関係の何が変わったかを着地させる
目次
恋愛場面はいくつも書いたのに、読み返すと二人の関係が最初から最後まで同じ温度のまま、ということがあります。そのとき足りないのは、気持ちの描写より、関係を変える出来事かもしれません。この記事では、架空の短編『二十年目の配達』の二人を使い、望みの設定、場面表、好意と不安の見せ方、障害、結末までを順に組み立てます。読み終えたら、自作の二人の関係の変化を、出来事と人物の選択で描けるようになります。
関係が動かないのは、変化を起こす出来事がないから
二人の関係が同じ状態のまま続く原稿には、いくつか共通する形があります。
| 原稿の状態 | 起きていること | 足すもの |
|---|---|---|
| 好きだという内心が何度も書かれるが、二人の間で何も起きない | 気持ちの量は書いているが、関係を変える出来事がない | 二人が一緒に何かをする用事や、立場を揺らす事件 |
| 出会ってすぐ好きになり、そのあとは好意の確認が続く | 好意のきっかけと、深まる段階が分かれていない | 相手の新しい面を知る場面を、段階ごとに一つ |
| 誤解で離れ、話し合って元に戻る、を繰り返す | 障害が「話せば解ける」ものしかない | 二人の望みや事情そのものがぶつかる障害 |
| 最後に告白して終わる | 関係の着地が、気持ちを言葉にしたことだけになっている | 告白の前後で、二人の行動がどう変わったか |
どの形にも共通するのは、「好意があるかどうか」は書かれていても、「二人の関係がどこからどこへ動いたか」が書かれていないことです。ここからは、関係を動かすための材料を、書く順に決めていきます。
二人それぞれの望みと、近づけない理由を決める
恋愛小説では、主人公だけでなく相手役にも望みがあります。二人の望みが同じ方向を向いていれば近づき、ぶつかれば離れます。この記事の作例『二十年目の配達』の二人は、次のように決めました。
作例作例の前提『二十年目の配達』
閉校が決まった小学校で、二十年前に埋めたタイムカプセルが掘り出された。同窓会の幹事を引き受けた遥は、三十通の手紙を全員に届けようと決め、同じ町に一時的に戻っていた同級生の晶に手伝いを頼む。晶は四年生の終わりに、誰にも言わずに転校していった。
| 遥 | 晶 | |
|---|---|---|
| 用事についての望み | 三十通を一通残らず本人に届けたい | 頼まれた分だけ手伝い、面倒を起こさず終えたい |
| 相手との関係についての望み | 昔のように話したい。なぜ黙って転校したのか知りたい | 嫌われていないか確かめたい。ただし自分からは聞けない |
| 近づけない理由(外の事情) | 町に残り、家業を手伝っている | 春から遠くの町で働くことが決まっている |
| 近づけない理由(内側) | 黙って去られたことを、まだ許していない | 言っても変えられないことは、言わないほうがいいと思っている |
作例の二人は、あえて性別を決めずに書いています。この記事の組み立て方は、二人の性別や関係の形を問わずに使えます。人物の性別や年齢、関係の形は、作品に合わせて決めてください。
ひな形二人の望みと理由を決めるメモ
人物A: 人物B: 二人が一緒に取り組む用事・出来事: Aの望み(用事について/相手との関係について): Bの望み(用事について/相手との関係について): 近づけない理由(外の事情): 近づけない理由(それぞれの内側):
ポイントは、関係についての望みと、近づけない理由を同じ人物の中に置くことです。晶は嫌われていないか確かめたいのに、「言っても変えられないことは言わない」という考え方のせいで、自分からは聞けません。望みと理由が一人の中でぶつかっていると、その人物が何かを選ぶ場面が自然に生まれます。人物の目的と弱点の決め方をもっと詳しく組みたい場合は、小説のキャラクター設定の作り方が使えます。
距離が変わる出来事を、四つの段階の場面表にする
二人の望みが決まったら、関係が変わっていく出来事を段階に分けます。ここでは出会い・接近・衝突・選択の四段階にしました。各段階で書き込むのは、出来事そのものと、相手を見る目がどう変わったか、そして二人の距離です。
| 段階 | 出来事 | 遥から見た晶の変化 | 二人の距離 |
|---|---|---|---|
| 出会い(期待) | 遥が晶に手伝いを頼む。晶は事務的に引き受ける | 昔のように話せると期待したが、晶はよそよそしい | 同級生だった人。会話は用事のことだけ |
| 接近(相手の発見) | 週末ごとに手紙を届けて回る。耳の遠い祖母に、晶が紙に書いて説明する | 無愛想なだけではなく、相手に合わせて待てる人だと知る | 配達のあとに同じ定食屋に寄るのが習慣になる |
| 衝突(事情がぶつかる) | 晶が春に町を出ることを、遥は別の同級生から聞く | また黙っていなくなるつもりだったのか、と疑う | 配達を続けるが、定食屋には寄らなくなる |
| 選択 | 最後の一通は、十歳の晶が二十年後の自分に宛てた手紙だった。晶は出発の日時を自分から遥に伝える | 晶が二十年前のことを、ずっと気にしていたと知る | 黙って別れる関係から、約束して離れる関係へ |
この表で大事なのは、右の二列です。出来事の欄だけを埋めると、「配達する」「話す」「別れる」という筋書きになります。相手を見る目と距離の欄を書くと、各段階で関係の何が変わったかが見えるので、同じ温度の場面が続いていないかを確かめられます。
段階の数は四つでなくてもかまいません。長編なら、接近と衝突を何度か繰り返す構成もあります。その場合も、繰り返すたびに相手について知ることを一つずつ増やし、同じ発見を二度書かないようにします。
急に好意が生まれる場面を、発見の場面に直す
関係が動かない原稿とは逆に、好意が理由なく急に生まれてしまう原稿もあります。作例の接近の段階で、遥の気持ちが動く場面を例に比べます。
一目で好きになる説明から、相手を発見する場面へ
気持ちを説明した版
二十年ぶりに会った晶は、すっかり大人になっていた。遥はその横顔を見た瞬間、胸が高鳴るのを感じた。この人のことが好きだ、と遥は思った。
発見を場面にした版
玄関に出てきたのは、野口くんのおばあさんだった。耳が遠いらしく、遥が用件を二度繰り返しても、首をかしげるばかりだった。
晶が黙ってしゃがみ込んだ。鞄からレシートを一枚出し、その裏に大きな字で書いていく。〈小学校の タイムカプセルの 手紙です〉
おばあさんは額の老眼鏡を下ろし、ゆっくり読んで、ああ、と笑った。晶は封筒を両手で渡し、おばあさんが奥へ戻るまで、しゃがんだまま待っていた。
帰り道、遥は自分の手のひらを見た。さっきのレシートの字が、まだ目に残っていた。右上がりの、角ばった字。二十年前、学級日誌に並んでいたのと同じ字だった。
「何」と晶が言った。
「なんでもない」
遥は前を向いた。次の家まで、まだ八軒あった。
変更の理由
- 修正前は、好意のきっかけが「大人になった横顔」だけで、遥が晶の何に心を動かされたのかが分かりません。気持ちの言葉(胸が高鳴る、好きだ)が先にあり、読者は理由を受け取れないまま結論だけを渡されます。
- 修正後は、晶が相手に合わせて待つ人だという新しい面を、行動で見せました。遥の反応は「手のひらを見る」「字を思い出す」だけで、好きだとは書いていません。読者は、遥の目が変わったことを自分で受け取れます。
- 最後の「次の家まで、まだ八軒あった」で、二人の用事が続くこと、つまり関係を変える機会がまだあることを示しています。
- 一目惚れから始まる恋愛小説も成り立ちます。その場合は、何を見て惹かれたのかを具体的に書き、惹かれたことが主人公の次の行動を変えるように組むと、好意が話を動かす力になります。
好意と不安を、会話と行動で別々に見せる
好意を地の文で「好きだ」と書かずに伝える方法は、大きく分けて会話と行動の二つです。同じ「もっと一緒にいたい」という遥の好意を、二つの方法で書いてみます。
作例好意を会話で見せる
定食屋を出たところで、遥は手帳を開いた。
「残り、十二通。来週も土曜でいい?」
「平日の夜でも行けるけど」
「土曜がいい」遥は手帳を閉じた。「……明るいうちのほうが、家、探しやすいし」
作例好意を行動で見せる
三回目に定食屋に入ったとき、遥は注文を通す前に、店の人に小声で言った。
「片方、しょうがを抜いてもらえますか」
晶が顔を上げた。一回目のとき、晶がしょうがを皿の端によけていたのを、遥は見ていた。
「よく覚えてたね」
「たまたま」
遥はおしぼりで、乾いている手をもう一度拭いた。
| 会話で見せる | 行動で見せる | |
|---|---|---|
| 伝え方 | 本当の理由を言わず、口実を言わせる。「……」の間と、取って付けた理由で読者に気づかせる | 相手をよく見ていた証拠を、小さな行動にする |
| 相手の反応 | 晶は気づかないまま流してもよい。遥だけが分かっている状態が残る | 晶が気づき、「よく覚えてたね」と言う。二人の間に小さな出来事が起きる |
| 向く場面 | 好意を隠したい段階。読者だけが気持ちを知っている緊張を作りたいとき | 関係を一歩進めたい段階。相手に気づかれるかどうかが話を動かすとき |
どちらがよいということはなく、表の「向く場面」のように、関係のどの段階かで選びます。
不安は、相手の知らない顔として見せる
好意が育つと、同時に不安も生まれます。不安も「不安になった」と書くより、主人公が目にしたものとして書くと、好意と結び付いて伝わります。
作例不安を場面で見せる
晶の電話が鳴った。「ごめん、仕事の」と言って、晶は店の外に出ていった。
ガラス戸の向こうで、晶は誰かと話しながら笑っていた。遥の知らない言葉づかいで、遥の知らない顔で。
テーブルには、晶の味噌汁が半分残っていた。遥は、そこから湯気が消えていくのを見ていた。
遥が見ているのは、自分の知らない晶の顔と、冷めていく味噌汁だけです。晶にはこの町の外に別の生活がある、という不安が、次の衝突の段階への準備にもなっています。感情・思考・行動の組み合わせ方は小説の心理描写の書き方で、視線や表情の書き方は小説の視線・表情の描写で詳しく扱っています。
障害を、すれ違いだけに頼らない
すれ違い(誤解、聞き違い、伝言の失敗)は、二人を離す手軽な障害です。ただ、障害がすれ違いだけだと、読者は「一言話せば済むのに」と感じやすく、話し合った時点で障害が消えてしまいます。障害の種類を分けて、何を組み合わせるかを考えます。
| 障害の種類 | 例 | 話し合えば解けるか |
|---|---|---|
| すれ違い | 伝言が届かない。別の人といるところを見て誤解する | 解けることが多い |
| 外の事情 | 距離、仕事、家族の事情、立場の違い | 解けない。二人がどう向き合うかを選ぶ必要がある |
| 内側の考え方 | 過去の傷、自分への評価、大事にしているものの違い | 話しただけでは変わらない。出来事を通して少しずつ変わる |
| 周りの関係 | 友人や家族との関係、二人が属する集まりの中での立場 | 二人だけでは決められない |
すれ違いを使うなら、その奥に外の事情か内側の考え方を置くと、誤解が解けたあとにも問題が残ります。作例の衝突の場面は、「晶が転居を言わなかった」というすれ違いに見えますが、その奥には「春に町を出る」という外の事情と、「言っても変えられないことは言わない」という晶の考え方があります。
作例衝突の場面(作例)
「四月に、向こうに行くんだってね」
晶は、手紙の束をそろえる手を止めなかった。
「言うつもりだった」
「いつ」
「全部、配り終わったら」
「二十年前も、そう言った」遥は、自分の声が思ったより大きいことに気づいた。「終業式が終わったら言う、って。言わないで、いなくなった」
晶は何も言わなかった。言い訳をしないところも、昔と同じだった。
この場面で、晶は誤解されているわけではありません。本当に、言わずに済ませるつもりでした。だから「誤解でした」と説明しても関係は戻らず、晶が自分の考え方を変える出来事が必要になります。晶が黙り込む場面のように、言葉にしない時間で緊張を伝える書き方は小説の沈黙の描写でも扱っています。
注意相手の意思をどう描くか
恋愛小説では、相手が断っているのに近づき続ける、相手の気持ちを確かめないまま行動する、といった展開が出てくることがあります。それをどう描くかは作品と書き手の判断ですが、読者がその行動を好意の表れとして読むのか、問題のある行動として読むのかは、書き方で大きく変わります。作中でその行動をどう位置づけたいのかを決め、ほかの人物の反応や結末での扱いが、その意図と食い違っていないかを確かめます。
結末では、関係の着地点を決める
恋愛小説の結末は、二人が結ばれることだけではありません。どの形を選んでも、最初の場面と比べて関係の何が変わったかが読者に分かれば、着地したと感じられます。
| 着地の形 | 何が変わったかの示し方 |
|---|---|
| 結ばれる | 告白の言葉より、そのあと二人の行動の何が変わったか(呼び方、並んで歩く位置、言わなかったことを言うようになった) |
| 離れる | 離れることを二人がどう選んだか。最初の別れ方と何が違うか |
| 形を変えて続く | 恋人とも友人とも名付けないまま、二人が新しく約束した関係の形 |
| 先が決まらないまま終える | 結論は出ていないが、二人の間で一つだけ確かに変わったこと |
作例の結末は、「形を変えて続く」を選びました。晶が自分から出発の日時を伝える、という選択が、二十年前の「黙って転校した」別れ方との違いになります。
作例結末の場面(作例)
出発の朝、改札の前で、晶は切符を握ったまま言った。
「着いたら、住所を送る」
「手紙で?」
「手紙で」
遥は鞄から封筒を一通出した。宛名は書いていない。
「じゃあ、これは一通目の返事。先に渡しておく」
晶は封筒を受け取り、表と裏を確かめてから、上着の内ポケットにしまった。
二十年前には、渡す相手も、受け取る場所もなかった。
二人は「好き」とも「付き合う」とも言っていません。それでも、配達を通じて手紙を届け合う関係ができ、黙って去る別れが、約束して離れる別れに変わりました。最初の場面の「事務的に引き受ける晶」と比べると、関係が動いたことが分かります。結末の選び方と読後感の整え方は小説の終わり方でも扱っています。
書いた原稿で、関係の変化を点検する
初稿を書き終えたら、二人の場面だけを抜き出して、次の項目を確かめます。
確認表恋愛小説の関係の変化を点検する
-
二人それぞれに、用事についての望みと、相手との関係についての望みがある
-
近づけない理由に、すれ違い以外のもの(外の事情か内側の考え方)が含まれている
-
段階ごとに、相手の新しい面を知る出来事が一つある。同じ発見を繰り返していない
-
好意を「好きだ」という内心だけで書いた箇所を、会話か行動で見せる場面に置き換えられないか
-
好意のきっかけになった出来事が、読者にも見える形で書かれている
-
衝突の場面で、誤解が解けたあとにも残る問題がある
-
結末で、最初の場面と比べて二人の関係の何が変わったかが分かる
-
相手の意思を無視する展開があるなら、その扱いが作品の意図と食い違っていない
投稿するときのジャンルの選び方
書き上げた恋愛小説を投稿サイトに載せる場合、ジャンルの分け方はサイトごとに違います。カクヨムのヘルプでは、「恋愛」を「主として女性が主人公、または同性間の恋愛を中心テーマとして描かれた作品」、「ラブコメ」を「主として男性が主人公の恋愛を中心テーマとして描かれた作品」と説明しています。小説家になろうのヘルプでは、恋愛の大ジャンルを、異世界を主な舞台とする作品と、現実に近い世界を舞台とする作品の二つに分けています。
同じ作品でも、サイトによって選ぶジャンルが変わることがあります。投稿する前に、そのサイトのジャンルの説明を読んで選びます。
恋愛小説に限らず、人物・構成・文章を本で体系的に学びたくなったら、今つまずいている工程に合わせて小説の書き方を学ぶおすすめ本から選べます。