小説の終わり方|結末の決め方と読後感を整える実例
PRこの記事には広告リンクを含みます。広告と紹介の基準
この記事の答え
結末は、物語が冒頭から読者に示してきた問いと、主人公の選択に答える場所です。
- 冒頭で生まれた疑問を書き出し、主人公の選択が答える「中心の問い」と、残してよい疑問を分ける
- 問題が解決する・関係が変わる・問いを残す、のどれを選んでも、中心の問いへの答えと選択の結果は最後の場面で見えるようにする
- 結末を決めた出来事が前の場面に出ていなければ、唐突なオチになる。最後の一文は、読者の目を最後にどこへ置くかで選ぶ
目次
書き終えたのに、結末だけがしっくりこない。気持ちを説明する段落が続いてしまう、あるいは山場のすぐあとで唐突に切れた感じがする。どちらも、結末で何に答え、何を残すかが決まっていないときに起きやすい不調です。この記事では、架空の短編「第一コース」の同じ筋に、三つの結末を書いて比べます。読み終えたら、自作の結末で答えるべき疑問と残してよい疑問を分け、最後の場面と最後の一文を選べます。
結末の不調は二つに分けて見る
結末がうまくいかないときは、症状を次の二つに分けて見ます。原因が違うので、直し方も違います。
| 症状 | 起きていること | 直す方向 |
|---|---|---|
| 説明的になる | 選択の結果を見せたあとに、主人公の気持ちや話の意味を言葉で説明している | 結果を見せた行動で止め、説明を削る。説明が要るなら、前の場面に材料が足りていない |
| 途中で切れた印象になる | 主人公の選択のあと、その結果が一つも見えないまま終わっている | 選択の結果が分かる短い場面か動作を一つ足す |
アリストテレスは『詩学』で、終わりを、何かのあとに自然に続き、そのあとには何も続かないもの、と説明しています(Project Gutenberg の S. H. Butcher 英訳による)。説明が続く結末は「終わったあとにまだ続いている」状態で、切れた結末は「そのあとに何かが続かなければならない」状態です。どちらも、最後の場面が何に答える場面なのかが定まっていません。
作例「第一コース」の筋と、冒頭で生まれる問い
ここからは、次の筋を使います(記事のために作った架空の短編です)。山場までは三つの結末で共通です。
作例「第一コース」の筋(山場まで)
千夏(17)は、市民プールで監視員のアルバイトをしている。監視員は利用者に泳ぎを教えない、というのが所長の決まりだ。「閉場は一分も延ばさない」が所長の口癖でもある。
場面1 七月。小学三年の蒼(あお)が毎日、開場と同時に来て、第一コースで二十五メートルに挑む。いつも十五メートルの旗の下で立ってしまう。千夏は監視台から見ているだけだ。
場面2 千夏は、蒼が一度も息継ぎをしていないことに気づく。監視台から「顔、横」と声をかけ、所長に「次は監視から外す」と注意される。
場面3 八月の終わり。蒼の母が受付で、九月一日の記録会で泳げなければ水泳はやめさせる、と話している。
場面4(山場) 八月三十一日、閉場三十分前。千夏は先輩に監視台を頼んで降り、プールサイドにしゃがんで、蒼に息継ぎを教え始める。事務所の窓から、所長が見ている。
この筋を読んだ人は、途中でいくつもの疑問を持ちます。結末を考える前に、それを全部書き出します。
| 読者の疑問 | 生まれた場面 | 種類 |
|---|---|---|
| 見ているだけの千夏は、決まりを越えて手を出すのか | 1・2 | 中心の問い(主人公の選択が答える) |
| 蒼は二十五メートル泳げるのか | 1 | 筋を運ぶ問い |
| 決まりを越えた千夏はどうなるのか | 2 | 物語が約束した問い(所長の注意) |
| 蒼の母は水泳をやめさせるのか | 3 | 脇の問い |
| 九月一日の記録会はどうなるのか | 3 | 物語の時間の外の問い |
中心の問いは、主人公の選択が答える問いです。この作品では視点が千夏にあり、迷うのも選ぶのも千夏なので、中心は「千夏は手を出すのか」です。この問いには、山場(場面4)ですでに答えが出ています。結末の仕事は、その選択の結果をどこまで見せ、ほかの疑問のどれに答えるかを決めることです。
もし中盤の大半が蒼の練習の場面で、千夏の迷いがほとんど書かれていなければ、中心の問いは「蒼は泳げるのか」に移ります。どの問いが中心かは、作者の意図だけでなく、本文でどの問いに字数を使ったかで決まります。
同じ物語に三つの結末を書いて比べる
山場のあとを、三通りに書きます。
案1 問題が解決する結末
作例案1(結び)
閉場の時刻を過ぎても、放送は流れなかった。
三回目で、蒼は十五メートルの旗をくぐった。
「横!」
千夏の声に合わせて、蒼の顔が水から出て、また沈んだ。二十メートル。もう一度、顔が出た。
指先が壁に触れた。蒼は壁につかまったまま振り返り、泳いできた二十五メートルを、初めて向こう側から眺めた。
閉場の放送が始まったのは、いつもより五分遅れてからだった。
千夏は監視台に戻り、最後の笛を吹いた。
案2 関係が変わる結末
作例案2(結び)
蒼はこの日も、二十メートルの手前で立った。三回目の息継ぎで、水を飲んだ。
閉場のあと、所長は千夏を事務所に呼び、「来週から受付に回って」とだけ言った。
自転車置き場で、母親の自転車の荷台から蒼が千夏を呼んだ。
「記録会、息継ぎ三回でいく」
千夏は笛の紐を首から外して、指を三本立てて見せた。
案3 問いを残す結末
作例案3(結び)
閉場まであと三分。蒼が壁を蹴った。
千夏はプールサイドを、蒼と並んで歩き出した。事務所の窓に所長の姿があるのは分かっていた。
一回目の息継ぎ。顔が横に出た。
十五メートルの旗が近づいてくる。
「横」
千夏は、蒼にだけ聞こえる声で言った。
三つの結末で、何が決まり何が残るか
| 比べる点 | 案1 解決する | 案2 関係が変わる | 案3 問いを残す |
|---|---|---|---|
| 蒼は泳げたか | 泳げた | 泳げなかった | 書かない |
| 千夏の選択の結果 | 所長が閉場を五分遅らせる(黙って認める) | 受付に回される(代償を払う) | 所長に見られながら、並んで歩き続ける |
| 千夏と蒼の関係 | 監視員と利用者のまま | 息継ぎの数を約束し合う二人になる | 同じ速さで進む二人 |
| 最後の千夏の位置 | 監視台の上(冒頭と同じ場所に、変わって戻る) | 笛を外す(監視の役を手放す) | プールサイド(監視台を降りたまま) |
| 読後に残るもの | 達成の手応えと、所長の小さな変化 | 記録会への期待と、千夏が払ったものの重さ | 最後の十メートルと、千夏が決まりを越えたことそのもの |
どの案でも、中心の問い(千夏は手を出すのか)への答えは最後の場面で見えています。違うのは、蒼の結果と千夏の代償のどちらを、どこまで見せるかです。
- 案1は、筋を運ぶ問いまで全部に答える、閉じた結末です。読み終えたときの満足は大きい一方、読者が結末のあとを想像する余地は少なくなります。
- 案2は、蒼の問題を解決しない代わりに、千夏が代償を払い、二人の関係が変わったことを見せます。問題が解決しなくても、主人公の選択に結果が出ているので、途中で切れた印象にはなりません。
- 案3は、蒼の結果を書かずに終えます。それでも、千夏が監視台を降りて歩き続けていること、所長に見られていることは書いてあります。選択の結果のうち「千夏が引き返さなかった」ことだけを確かに見せ、その先を読者に預けています。
どれが正しいということはありません。案3のように答えを書かない結末は失敗ではなく、案1のように全部に答える結末が平凡なわけでもありません。判断の基準は、冒頭から何を問い、本文でどの問いに重さをかけてきたかです。
決着と余韻を分ける
結末で迷う原因の一つは、決着と余韻を一つのものとして考えていることです。
- 決着:物語が約束したことに、最後の場面で答えること。中心の問いへの答えと、主人公の選択の結果。
- 余韻:決着のあとに、読者が自分で考え続けられる余白。物語の時間の外のこと、脇の人物の内心など。
余韻は「決着をつけないこと」ではありません。決着がついたうえで残る余白です。決着がないまま疑問が残ると、読者はそれを余韻ではなく未回収(約束された答えが出ていない)と受け取ります。
先ほどの疑問の表に、結末での扱いを書き足します。
| 読者の疑問 | 結末での扱い | 理由 |
|---|---|---|
| 千夏は手を出すのか | 必ず答える(山場で答え、結末で結果を見せる) | 主人公の選択が答える中心の問い |
| 決まりを越えた千夏はどうなるのか | 答えるのが基本。案1は閉場の遅れ、案2は配置換えで答える。案3で残すなら、所長が見ていることを書き、千夏がそれを承知で進んでいると分かる形にする | 場面2の所長の注意は「結果がある」という約束。何も触れずに終えると未回収に見える |
| 蒼は泳げるのか | 答えても、残してもよい | 中盤の字数を千夏の迷いに使っていれば、残しても未回収にならない。蒼の練習に字数を使っていれば、答えが要る |
| 蒼の母は水泳をやめさせるのか | 直接は答えなくてよい | 脇の問い。案1・2では蒼の様子から読者が想像できる |
| 九月一日の記録会の結果 | 残してよい | 物語の時間の外にある。余韻になる |
迷ったら、その疑問を生んだ場面で、作者が何を約束したかを読み直します。所長の「次は監視から外す」という台詞は、結果があることの約束です。蒼の母の言葉は、九月一日という期限を見せるための台詞で、母の決断までは約束していません。
閉じる結末と開く結末の選び方
閉じる結末(案1)と開く結末(案3)は、作品のどこに重さがあるかで選びます。
| 結末の形 | 合う作品 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 閉じる | 目標の達成や謎の解決を読者が最初から待っている作品。読後に満足を残したい作品 | 全部に答えたあとで、意味を説明し直さない。答えは出来事で見せる |
| 一部を開く | 問題の解決より、人物の関係や変化に重さがある作品 | 開いたままにする疑問を一つか二つに絞る。中心の問いは開かない |
| 大きく開く | 結果より、選んだ瞬間そのものを読者に手渡したい作品 | 主人公が何を選び、引き返していないことは、最後の場面ではっきり見せる |
開く結末で開いてよいのは、選択のその後です。選択そのもの(千夏が監視台を降りたか)まで開くと、物語が答えるはずの問いが宙に浮きます。案3が成り立っているのは、千夏が降りて歩き続けていることを、最後の場面に書いているからです。
結末の形が決まっても、山場の決断そのものが軽く見える場合は、結末ではなく山場までの準備が足りていません。決断に迷いと代償を積む方法は小説のクライマックスの作り方で扱っています。
唐突なオチを直す
結末で意外なことを起こしたくなることがあります。意外さそのものは悪くありませんが、前の場面に根拠がない意外さは、読者には作者の都合に見えます。案1を書く前の初稿の結末と比べます。
案1の初稿と改稿
初稿(唐突なオチ)
閉場三分前、所長がジャージのままプールに飛び込んだ。所長は昔、競泳の選手だったのだ。所長は蒼の手を取り、二十五メートルを一緒に泳ぎ切らせた。
改稿(案1の結び)
閉場の時刻を過ぎても、放送は流れなかった。
(中略)
閉場の放送が始まったのは、いつもより五分遅れてからだった。
変更の理由
- 初稿では「所長は元選手だった」という事実が結末で初めて出てきます。前の場面に一度も出ていない事実で問題が片付くと、読者は「そういう設定なら何でも起きる」と感じます。
- 初稿で蒼を泳がせたのは所長です。千夏が決まりを越えて教えた選択が、結末に効いていません。主人公の選択と関係なく問題が解決すると、山場の重さも消えます。
- 改稿では、所長がすることを「閉場の放送を五分遅らせる」だけにしました。冒頭近くに「閉場は一分も延ばさない」という口癖を置いてあるので、この五分が、千夏の選択を見ていた所長の変化として読めます。泳ぎ切ったのは蒼で、教えたのは千夏のままです。
- 所長の過去を使いたい場合は、中盤に「決まりができた理由」を一場面置き、所長が過去を語る理由を千夏の行動から生まれるようにします。そうすれば、結末で所長が動いても唐突にはなりません。
アリストテレスは『詩学』で、筋の解決は、もつれと同じく筋そのものから生まれるべきで、「機械仕掛けの神」(劇の終わりに神が現れて事態を片付ける手法)によってもたらされてはならない、と述べています(同じ英訳による)。意外な結末で読者が驚きと納得を同時に感じるのは、その結末を起こした出来事や情報が前の場面にすでに置かれていて、読み終えてからそれに気づくときです。
確認表唐突なオチの確認
-
結末を決めた出来事・情報・人物の能力は、前の場面で一度は出ているか
-
結末を起こしたのは、主人公の選択か、その結果か
-
結末で初めて名前が出る人物や設定はないか
-
意外な事実が明かされたあと、中心の問いへの答えが別の問いにすり替わっていないか
最後の一文を選ぶ
最後の場面が決まったら、最後の一文を選びます。最後の一文は、読み終えた瞬間に読者の目がどこにあるかを決めます。案2の結びで、最後の一文の候補を四つ比べます。
| 最後の一文の候補 | 読者の目が向く先 | 決めること・残すこと |
|---|---|---|
| 千夏は、あの日監視台を降りてよかったと思った。 | 千夏の気持ち | 選択の意味を言葉で閉じる。読者が考える余地はほとんど残らない |
| 「記録会、息継ぎ三回でいく」 | 蒼の決意 | 視線が蒼に移り、最後に千夏の側の変化が見えない |
| 千夏は笛の紐を首から外して、指を三本立てて見せた。 | 千夏の動作 | 笛を外す(監視の役を手放した)と、指三本(蒼に応えた)を一つの動作で見せる。記録会の結果は残す |
| 自転車置き場の屋根から、塩素の匂いのする水が一滴落ちた。 | 景色 | 夏の終わりの気分は残るが、何が決まったのかが景色に溶けて見えにくい |
案2では三つ目を選びました。監視員の役目のしるしである笛を外すことで、この夏に千夏が手放したものと、蒼に渡したものが同時に見えるからです。本文では、場面1で監視台にいる千夏の首に笛を下げておきます。冒頭にあった物や場所が最後にもう一度出てくると、読者は始まりと終わりを比べ、その間に変わったことを自分で受け取れます。
最後の一文を選ぶときは、次の三つを確かめます。
- 選択の結果を見せた動作のあとに、説明の文を足していないか。「そして千夏は思った」と続けると、動作が伝えたことを言い直すことになります。
- 最後の一文が、中心の問いの持ち主(この作品では千夏)に戻っているか。脇の人物の台詞で終えると、視線がその人物に移ったまま終わります。脇の人物で終えたい場合は、その台詞が主人公の変化への答えになっているかを確かめます。
- 景色で終える場合、景色が何かを担っているか。景色の一文は余韻を生みやすい反面、何も担っていないと、締めくくりの飾りに見えます。
気持ちを言葉にする一文が、いつも悪いわけではありません。一人称の語りで、語り手の言い方そのものに味がある作品なら、最後に気持ちを言い切る一文が作品の声になることもあります。その場合も、言い切る気持ちが、それまでの場面で見せたことの言い直しになっていないかを確かめます。
結末を直したあとの確認
確認表結末の確認表
-
冒頭から生まれた疑問を書き出し、中心の問いを一つ決めた
-
中心の問いへの答えと、主人公の選択の結果が、最後の場面で見える
-
物語が約束した疑問(台詞や出来事で「結果がある」と示したもの)に、答えるか、答えない理由がある
-
残す疑問は、物語の時間の外のことか、本文で重さをかけていないことに限られている
-
結末を決めた出来事・情報は、前の場面に出ている
-
最後の一文は、読者の目を置きたい場所(人物の動作・台詞・景色)に置いている
-
最後の動作のあとに、同じことを言い直す説明の文がない
結末を直すと、前の場面に置くべき準備や、要らなくなる場面が見えてきます。全体の筋に戻って因果をつなぎ直したいときは小説のプロットの書き方、作品全体を構成から改稿する順番は小説の推敲・改稿のやり方で扱っています。自分では、残した疑問が余韻として読まれるか未回収に見えるか判断できないときは、その一点を質問にして人に読んでもらう方法もあります。何を頼めばよいかは小説の感想を依頼するには?で、講評・添削の依頼先の選び方は小説の添削はどこに頼む?で確かめられます。