小説のクライマックスの作り方|決断が響く山場を準備する
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この記事の答え
山場は、事件の大きさではなく、主人公が後戻りできない選択をする場面として設計します。その選択が重く響くかどうかは、山場の前の場面で決まります。
- 山場で決まることを「主人公は、AとBのどちらを選ぶか」の一文にし、どちらを選んでも失うものがあるようにする
- 山場までの場面で、主人公の逃げ道を一つずつふさぎ、最後に二つの道だけを残す
- 前半に置いた情報(癖、約束、期限)を山場で働かせ、決断のあとは短く終える
目次
山場が盛り上がらないので、出来事を大きくしてみた。事故を起こし、嵐を呼び、期限を早めた。それでも、主人公が決断する瞬間が軽く見える。そういうとき、足りないのは山場の出来事ではなく、山場の前の場面に置いておくべき迷いと代償です。この記事では、「大切な人と目的のどちらを選ぶか」という題材で、山場だけを派手にした案と、前の場面から準備を積んだ案を比べます。読み終えたら、自作の山場で主人公の選択が重くなる条件を、前半のどこに置けばよいかを決められます。
山場で何が決まるのかを、一文で書く
辞書では、クライマックスは「ドラマの展開が最も緊張し、最高潮に達した点」(精選版 日本国語大辞典)と説明されます。コトバンクに収録されたブリタニカ国際大百科事典の項目は、筋が解決か崩壊かへ向かおうとする分岐点としています。盛り上がりの頂点であると同時に、話の行き先が分かれる点です。
この記事では、行き先を分けるものを主人公の選択として考えます。山場を考えるときは、出来事より先に次の一文を書きます。
要点山場の一文
(主人公)は、(A)と(B)のどちらを選ぶか。
この一文が書ければ、山場で起きる出来事は、主人公にこの選択を迫るための舞台です。書けない場合は、山場が「大きな出来事が起きる場面」になっていて、主人公が何も決めていない可能性があります。
山場に戦闘や大事件は要りません。何が決まるかが書けていれば、静かな場面でも山場になります。
| 作品の種類 | 山場で起きること | 山場で決まること |
|---|---|---|
| 家族の物語 | 遺品の整理の最終日 | 母の手紙を、読まずに燃やすか、読むか |
| 恋愛 | 送別会の帰り道 | 引き止めるか、黙って見送るか |
| 謎解き | 犯人が分かったあとの夜 | 親しい人が犯人だと、皆の前で言うか |
| 仕事の物語 | 会議での最終の発言 | 上司の案に従うか、自分の案を出すか |
| 冒険・戦い | 敵との対決 | 敵を倒すか、敵の差し出す取引に乗るか |
戦いの場面でも、決まるのが「勝つか負けるか」だけなら、主人公は選んでいません。戦いを山場にする場合も、その中に主人公の選択を一つ置くと、決断の場面になります。
作例:山場だけ派手な案と、準備を置いた案
ここからは次の題材を使います(記事のために作った架空の物語です)。
作例作例の前提
ひなた(22)と樹(いつき、22)は幼なじみの二人組。中学三年の冬から七年間、毎週土曜の夜、駅前で歌ってきた。歌うのはひなた、曲を書いてギターを弾くのは樹。
ある日、東京の音楽事務所の宮坂が、ひなたに一人での契約を持ちかける。
題材:大切な人(樹と、二人の歌)と、目的(歌で生きていくこと)のどちらを選ぶか。
同じ前提から作った二つのプロットです。
| 場面 | 山場だけ派手な案 | 準備を置いた案 |
|---|---|---|
| 1 | 駅前の路上ライブ。二人の普段の土曜 | 駅前の路上ライブ。曲の始まりと終わりは、樹のギターだけが鳴る。ひなたは、その前奏の四小節がないと歌い出せない。樹の曲はいつも最後の一行が空いていて、ひなたがその夜の客を見て、その場で歌う。二人だけの決まり |
| 2 | 宮坂から、ひなたに一人での誘い。上京が条件 | 宮坂から一人での誘い。曲は事務所が用意し、樹の曲は持っていかない方針。「月末の土曜、一曲だけ一人で歌ってみせて。それで決めて」 |
| 3 | ひなたは迷う。樹は「行けよ」と笑う | ひなたは樹に話せず、返事を延ばす。部屋で一人で歌ってみるが、前奏がないと声が出ない |
| 4 | ― | 宮坂が路上に来て、樹が誘いを知る。樹は「行けよ」と言う。その週から、樹の新しい曲は、最後の一行まで歌詞が書いてある |
| 5 | ― | 月末の土曜。宮坂も聴きに来ている。ひなたは二人の曲だけを歌って夜を終えようとする |
| 山場 | 上京の朝、駅のホーム。樹がバイクで事故に遭ったと電話が来る。ひなたは新幹線に乗らずに病院へ走り、契約は流れる | 最後の曲で、樹が前奏を弾かない。人垣の前の沈黙の中で、ひなたは一人で歌い出すか、樹の前奏を待つかを選ぶ |
派手な案の山場は、事故、駅のホーム、走る主人公と、出来事としては大きく動きます。それでも決断が響かないのは、次の四つが欠けているからです。
- 選択肢が実質一つしかない。事故に遭った幼なじみを置いて新幹線に乗る理由が、物語の中にありません。迷う余地のない選択は、選択に見えません。
- 失うものが準備されていない。契約が流れることが、ひなたにとってどれほどの損失なのかが、前の場面に書かれていません。
- 決断を迫ったのが偶然の事故。ひなたが何かをした結果として山場が来ていません。
- 後戻りできる。次の新幹線に乗ることも、宮坂に電話して事情を話すこともできます。
準備を置いた案の山場では、何も壊れず、誰もけがをしません。ギターの前奏が鳴らないだけです。それでも、ひなたが一人で歌い出すかどうかに、七年分の重さがかかります。その重さは、場面1から5のあいだに置いたものから来ています。
望みと失うものを、両方の選択肢に置く
山場の一文の「A」と「B」の両方について、得るものと失うものを書き出します。
| 山場の選択肢 | 得るもの | 失うもの | 準備した場面 |
|---|---|---|---|
| 一人で歌い出す | 東京で歌う道。一人でも歌える自分 | 樹の曲。七年続いた土曜の二人 | 1(前奏がないと歌えない)、2(樹の曲は持っていかない) |
| 歌わずに前奏を待つ | 樹と歌う土曜 | 誘い。そして、背中を押した樹の気持ちを無にすること | 2(月末の期限)、4(樹の「行けよ」と、書き切った歌詞) |
どちらを選んでも失うものがある。これが、決断が重くなる第一の条件です。派手な案と比べると違いがはっきりします。
| 派手な案の選択肢 | 得るもの | 失うもの |
|---|---|---|
| 病院へ走る | 樹のそばにいられる | 契約(ただし、それが何を意味するかは書かれていない) |
| 新幹線に乗る | 契約 | けがをした幼なじみを見捨てること(選ぶ理由がない) |
もう一つ大事なのは、準備した案の「歌わずに待つ」の失うものに、樹の気持ちが入っていることです。場面4で樹が自分から背中を押したので、ひなたがここに残ることは、もう「樹のため」にはなりません。大切な人を選ぶ道の中にも、大切な人を傷つける面が生まれています。二つの選択肢のどちらにも同じ人物が絡むと、迷いは深くなります。
この作例ではひなたに一人で歌い出させますが、前奏を待つほうを選ばせても、山場の重さは変わりません。重さは、どちらを選ぶかではなく、どちらにも失うものが準備されていることから生まれます。
主人公の望みそのものがまだ一行で言えない場合は、山場より先に人物の目的を決めておく必要があります。目的・弱点・行動のつなぎ方は小説のキャラクター設定の作り方で扱っています。
障害の段階を上げて、逃げ道を一つずつふさぐ
山場までの場面でしていることは、障害を大きくすることというより、主人公の逃げ道を一つずつふさぐことです。逃げ道が残っていると、主人公は山場でも決めずに済んでしまいます。
| 段階 | 場面 | ひなたが使っていた逃げ道 | ふさいだ出来事 |
|---|---|---|---|
| 1 | 3 | 返事を延ばす | 宮坂の「月末の土曜」という期限 |
| 2 | 4 | 樹のために断る、と思うこと | 樹が自分で「行けよ」と言い、最後の一行まで歌詞を書いてくる |
| 3 | 5 | 二人の曲だけ歌い、決めないまま夜を終える | 最後の曲で、樹が前奏を弾かない |
段階が上がるたびに、ふさぐのが外の事情(期限)から、樹の行動、さらに今この瞬間の沈黙へと、ひなたに近づいていきます。そして山場では、逃げ道がなくなり、「一人で歌い出す」と「歌わずに待つ」の二つだけが残ります。
逃げ道をふさぐ出来事が、宮坂の期限のあとは、どれも樹の行動から来ている点にも注目してください。偶然の事故や天気でふさぐと、主人公を追い込むのは作者の都合になります。脇の人物が自分の理由で動いた結果として逃げ道が消えると、山場は二人の関係の場面になります。樹がなぜ前奏を弾かなかったのかは、山場では説明しなくてかまいません。場面4までに、読者が理由を推し量れる材料(「行けよ」と、書き切った歌詞)があれば足ります。
中盤の場面で、同じ障害が繰り返されて段階が上がらない、目的が途中で消える、といった問題がある場合は、小説の中盤が書けないときの直し方で、場面ごとの目的と障害の見直し方を扱っています。
後戻りできない点を決める
逃げ道をふさいだ最後に、山場には後戻りできない点を置きます。そこを越えたら、主人公は元の状態に戻れない、という一点です。
準備した案では、ひなたが一行目を声に出した瞬間がそれにあたります。宮坂も、七年間ひなたの歌い出しを支えてきた樹も、それを聞いています。一人で歌えることは、もう取り消せません。派手な案には、この一点がありませんでした。
後戻りできない点は、契約書への署名、送信ボタン、口に出した一言、手放した物のように、取り消せない行動にすると読者に伝わりやすくなります。
前半の情報を、山場で働かせる
山場の重さは、前半に置いた情報が山場でもう一度働くことで生まれます。準備した案で、前半に置いて山場で使ったものです。
| 前半に置いた情報 | 置いた場面 | 山場での働き |
|---|---|---|
| 樹の前奏の四小節がないと、ひなたは歌い出せない | 1・3 | 前奏が来ないこと自体が、山場の出来事になる |
| 最後の一行は、ひなたがその場で歌う決まり | 1 | 樹が書き切った歌詞を持ってきたことが、別れの合図として読める |
| 「一曲だけ一人で歌ってみせて」という条件 | 2 | 一人で歌い出すことが、そのまま返事になる |
| 中学三年の冬、同じ駅前で初めて歌った | 前提・1 | 山場の場所が、七年前の始まりと重なる |
山場の場面を本文にすると、たとえば次のようになります。
作例準備を置いた案の山場(約230字)
最後の曲の前に、樹はチューニングを確かめるふりをして、弦から手を離した。
前奏が来ない。
いつもなら四小節目の終わりで、ひなたは息を吸う。その四小節が、来ない。
足元の缶に小銭が一枚落ちて、鳴った。人垣の後ろで、宮坂さんが腕時計に目をやった。
樹はギターを抱えたまま、ひなたを見ていなかった。駅の時計を見ていた。七年前の冬、ここで初めて歌った夜も、樹はああやって時計を見ていた。
ひなたは一度だけ咳払いをした。
それから、誰の音もないところで、一行目を歌い出した。
この場面には、説明の文がほとんどありません。「前奏がないと歌えない」「一人で歌えば返事になる」という事情は、前の場面で読者が知っているので、山場では「前奏が来ない」と書くだけで伝わります。山場で初めて事情を説明しなければならない場合は、その事情を前の場面へ移します。どの場面に、どのくらい目立たせて置くかは小説の伏線の張り方と回収で扱っています。
山場に向けて主人公がどう変わってきたかを、場面ごとの行動で見せる方法は小説のキャラクターの成長の描き方で扱っています。
山場の後を長くしすぎない
決断が済んだあとは、その結果を短く見せて終えます。山場のあとに場面をいくつも重ねると、決断の重さが後日談に薄まっていきます。
山場のあとの書き方
山場のあとに四つの場面を続けた初稿
(山場のあと)
・その夜、宮坂と契約の話をする場面
・一週間後、商店街の人たちが開いた送別会
・上京の朝、駅のホームで樹と別れる場面
・一年後、東京での初めての録音で、ひなたが樹の曲を思い出す場面
山場の直後で終える改稿
曲の最後の一行は、樹が書いてきた歌詞ではなく、ひなたがその場で決めた。
後奏だけを、樹が弾いた。
変更の理由
- 初稿の四つの場面は、どれも山場で決まったこと(ひなたは一人で歌う道を選んだ)を確かめ直しているだけで、新しく何かが決まる場面ではありません。読者はすでに知っていることを、四回読むことになります。
- 改稿の二行は、場面1で置いた「最後の一行はひなたがその場で歌う」と「曲の始まりと終わりは樹のギターだけ」を、最後にもう一度使っています。一人で歌い出したあとも、最後の一行だけは二人の決まりのまま残し、後奏で樹が応える。二人がこれからどうなるかは書かず、二人のあいだに何が残ったかだけを見せています。
- 山場のあとに場面が必要な作品もあります。謎解きの作品では、解決のあとに事件の全体を説明する場面が要ることがあります。その場合も、新しく明かすことがある場面だけを残し、すでに分かっていることの言い直しは削ります。
山場のあとに、どの出来事で終え、何を答えて何を残すかは、結末の問題です。
自分の山場を点検する
自作の山場を、次のメモに書き出してみます。
ひな形山場の設計メモ(コピーして使えます)
山場の一文:(主人公)は、(A)と(B)のどちらを選ぶか A を選んで得るもの/失うもの: B を選んで得るもの/失うもの: 失うものを準備した場面: 主人公が使っていた逃げ道と、それをふさいだ出来事(段階ごとに): 後戻りできない点(取り消せない行動): 山場で働く、前半に置いた情報: 山場のあとに書くこと(一、二の動作か短い場面):
確認表山場の確認表
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山場の一文が書け、AとBのどちらにも選ぶ理由がある
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AとBのどちらを選んでも、主人公が失うものがある
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失うものの重さは、山場より前の場面で見せている
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逃げ道をふさぐ出来事が、偶然ではなく人物の行動から来ている
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後戻りできない点が、取り消せない行動として書かれている
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前半に置いた情報が、山場で少なくとも一つ働いている
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山場で初めて説明しなければならない事情がない
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山場のあとに、すでに分かったことを言い直すだけの場面がない
山場を直すと、前の場面に足す準備や、因果のつなぎ直しが必要になることがあります。全体の因果を表で確かめたいときは小説のプロットの書き方に戻ってください。山場を直しても決断が響いているか自分では判断がつかない場合は、「山場で主人公が何を失ったと感じたか」のように質問を一つに絞って、人に読んでもらう方法もあります。依頼する作業の選び方は小説の添削はどこに頼む?、伝えたい点の整理は講評・添削の依頼メモが使えます。