本文へ移動
小説

小説のキャラクターの成長の描き方|変化を出来事と選択で示す

PRこの記事には広告リンクを含みます。広告と紹介の基準

この記事の答え

人物の成長は、「気づいた」「変わった」と説明するより、以前とは違う選択と、その選択に至る出来事で見せます。

  • 序盤に、人物の最初の考え方が表れる選択を一つ置く
  • その考え方が通用しなくなる出来事を重ね、すぐには変わらない抵抗の段階を一つ挟む
  • 終盤は序盤と同じ種類の状況に置き、違う選択をさせる。変わらずに残る部分も一つ書く

すべての人物が成長する必要はなく、変わらない人物や悪い方へ変わる人物も、作品の意図に合わせて選べます。

目次

終盤で主人公が大事なことに気づき、人が変わったように振る舞う。書いた本人は納得しているのに、読んだ人からは「急に改心したように見える」と言われる。原因の一つは、変化の結果だけが書かれていて、変化の前と途中が場面になっていないことです。この記事では、人の助けを断り続ける元大工の男が、最後には自分から隣人に頼むまでを、序盤・中盤・終盤の三つの選択で書き、説明だけで済ませた版と比べます。読み終えたら、自作の人物が変わる理由を、場面の並びとして組み立てられます。

急な改心に見えるのは、変化の「前」と「途中」がないから

まず、変化を説明だけで書いた版を見ます。

作例説明だけで書いた成長

梶山は、四十年間、人の家を建ててきた大工だった。人に頼るのが嫌いな頑固な性格で、隣の湯浅が何度手伝いを申し出ても断っていた。
ある冬の日、梶山は凍った道で転び、手首を痛めた。一人で生きることの限界を知った梶山は、人に頼ることは恥ずかしいことではないと気づいた。そして、湯浅に助けを求めた。湯浅は快く引き受けてくれ、二人は親しくなった。

筋としては通っています。それでも読者が変化を信じにくいのは、次の四つが欠けているからです。

欠けているもの この版での書き方 読者に起きること
最初の考え方が表れる選択 「頑固な性格」「断っていた」と要約している 断る場面を見ていないので、何が変わったのかを実感できない
考え方が通用しなくなる経験 転んだ出来事が一つだけ 一度の失敗で長年の考えが変わるのは、早すぎると感じる
すぐには変わらない抵抗 ない 人物が作者の都合で変えられたように見える
同じ状況での違う選択 「助けを求めた」と要約している 序盤と終盤を比べられない

以下、この四つを一つずつ場面にしていきます。人物の目的や恐れ、譲れないことをまだ決めていない場合は、先に小説のキャラクター設定の作り方で人物の設計表を作っておくと、どんな考え方から出発するかを決めやすくなります。

最初の考え方を、序盤の選択で見せる

変化を描くには、変わる前の人物が何を正しいと思って行動しているかを、一文で決めておきます。これを「最初の考え方」と呼ぶことにします。

最初の考え方は、単なる欠点ではありません。人物がそれで長く生きてこられた、それなりの理由がある考えを選びます。理由があるから簡単には手放せず、変わる過程に重みが出ます。

決めること 作例:梶山
人物 梶山{修
最初の考え方 人の手を借りるのは、自分の手で生きられなくなったときだけだ
その考え方を支えてきたもの 四十年、自分の仕事は自分で片付けてきた。弟子にも「人に頼る前に段取りを考えろ」と言ってきた
考え方が表れる行動 人の頼みは引き受けるが、自分は頼まない

最後の行が大切です。梶山は人嫌いではなく、人を助けることはします。助けを受け取ることだけができない。この偏りがあると、序盤の場面が「ただの頑固者」で終わらず、何が変わるべきなのかがはっきりします。

作例序盤の選択(十二月)

スタンドから戻ると、梶山は軽トラックの荷台から灯油缶を下ろしはじめた。赤い缶が二つ。
一つ目の取っ手をつかんだとき、隣の家の戸が開いた。
「梶山さん、それ、持ちましょうか」
越してきて半年になる湯浅だった。サンダルのまま、もう門のところまで出てきている。
「いい。自分でやる」
梶山は缶を右手から左手に持ち替え、裏の物置まで運んだ。二つ目も同じように運んだ。
戻ってくると、湯浅はまだ門のところにいた。自分の家の引き戸を開け閉めしている。戸は途中で引っかかり、そのたびにきしんだ。
「レールが曲がってる」
梶山は物置から道具箱を持ってきて、十分で直した。湯浅が財布を出そうとすると、手を振って家に入った。

この場面には「頑固」「人に頼るのが嫌い」という説明がありません。代わりに、申し出を断る選択と、頼まれてもいないのに戸を直す行動を並べています。助けは出すが、受け取らない。代金も受け取らない。最初の考え方が、二つの行動の対比で見えます。

変化を促す経験は、考え方が通用しなくなる出来事にする

人物を変えるきっかけには、誰かの説得より、最初の考え方どおりに行動したのに、うまくいかない経験を使います。一度で変えず、損なうものを少しずつ大きくしながら重ねます。

出来事 考え方が通用しなくなる点 梶山の受け止め(まだ変わらない)
一月、凍った裏道で灯油缶を抱えたまま転ぶ。右手首を痛め、灯油がこぼれる 一人で運ぶやり方で、物も体も損なう 「足元を見ていなかった」と、道のせいにする
こぼれた灯油を、湯浅が黙って新聞紙で吸い取っている 頼まなくても、助けは来てしまう 礼は言うが、目を合わせない
医者に、しばらく重い物を持たないように言われる 自分の手で片付けられない期間がある 左手でできることを数えはじめる
物置の戸が外れかけ、左手だけでは直せない 職人の自分にも、一人では直せない物がある 戸の前に板を立てかけて、見ないことにする

右の列のとおり、経験を重ねても梶山はすぐには考えを変えません。経験の直後に気づきの言葉を置くと、作例の「説明だけで書いた成長」と同じになります。経験は、考え方にひびを入れるところまでにとどめ、変わるのはもっと後にします。

周りの人物の言葉で変えたい場合も、言葉は経験のあとに置きます。転ぶ前の梶山に「無理しないでください」と言っても届きませんが、物置の戸を直せなかった夜に同じ言葉を聞けば、梶山の中で別の重さを持ちます。

すぐには変わらない抵抗を、一段だけ置く

考え方にひびが入った人物を、いきなり反対側へ移さず、元の考え方を守ったまま、やり方だけを少し変える段階を一つ挟むと、変化が段階として読めます。

抵抗の形 例
一部だけ変える 助けを受けるが、お金を払える相手にだけ頼む
言い訳を作る 「今回は手首のせいだから」と、例外扱いにする
一度変えて、戻る 一度頼んだあと、翌週はまた一人でやろうとする
他人に当たる 助けてくれた人に、かえって冷たくする

梶山には、一つ目の形を選びました。

作例中盤の選択(一月の終わり)

灯油が残り少なくなった日の夕方、湯浅がチャイムを鳴らした。
「スタンドに行くなら、うちの車で一緒に行きませんか。缶も運びますよ」
梶山は、包帯を巻いた右手をポケットに入れた。
「配達を頼んだ。明日来る」
「配達って、割高じゃないですか」
「金で済むことは、金で済ませる」
湯浅は少し黙ってから、「そうですか」と言った。
翌日、配達の若い男が物置まで缶を運び入れるのを、梶山は縁側から見ていた。代金を払い、釣りはいらないと言った。男が帰ったあと、物置の戸を閉めようとして、左手だけでは閉まらないことに気づいた。戸は、湯浅の家のと同じ音を立てた。

梶山は助けを受け入れるようになりました。ただし、お金を払えば借りにはならない、という形でです。「人の手を借りない」という考え方は、「借りを作らない」に少しだけ形を変えて残っています。抵抗の段階を置くと、読者は変わりつつあるが、まだ変わりきっていないことを見届けられ、終盤の選択を待つようになります。

終盤は、序盤と同じ状況で違う選択をさせる

変化を見せる方法として分かりやすいのは、序盤と同じ種類の状況をもう一度作り、違う選択をさせることです。読者は二つの場面を自分で比べ、何が変わったかを受け取ります。

梶山の終盤では、中盤の「金で済ませる」方法も通用しない状況を用意しました。

作例終盤の選択(二月、大雪の朝)

配達は雪で来られない、と朝のうちに電話があった。ストーブの給油ランプが点滅していた。
梶山は長靴をはいて、隣の玄関の前に立った。チャイムに伸ばした手を一度下ろし、もう一度上げた。
戸が開いた。引っかからずに、すっと開いた。
「スタンドまで、車を出してもらえないか」声が思ったより低く出た。「この手じゃ、雪道でハンドルを切れない」
湯浅は「すぐ出します」と言って、奥へ上着を取りに行った。
スタンドからの帰り、二人は缶を一つずつ持って、凍った裏道を歩いた。物置の前で缶を下ろすと、梶山は外れかけた戸を見た。
「この戸は、手が治ったら自分で直す」
「そのとき、見ててもいいですか」
梶山は答えず、缶を物置の奥へ押し込んだ。

三つの選択を並べて比べる

序盤(十二月) 中盤(一月の終わり) 終盤(二月)
状況 灯油缶を運ぶ。隣人が申し出る 灯油が切れかける。隣人が申し出る 配達が止まり、灯油が切れかける
選択 断って、一人で運ぶ 断って、お金で配達を頼む 自分から隣人に頼む
考え方 人の手は借りない 借りを作らなければいい 一人でできないことは頼む
変わらずに残るもの 頼まれれば人を助ける 同じ 「手が治ったら自分で直す」

序盤では、湯浅が申し出て梶山が断ります。終盤では、梶山が頼み、湯浅が応じます。誰が先に口を開くかが入れ替わったことが、変化そのものです。

表のいちばん下の行も大切です。終盤の梶山は、頼むことを覚えましたが、職人としての誇りまで手放したわけではありません。「自分で直す」という言葉が残っているので、別人になったのではなく、同じ人が一つだけ変わったと読めます。成長を描くときは、変わる部分と変わらない部分を一つずつ決めておくと、改心の唐突さが消えます。

説明だけの成長を、選択の場面に置き換える

修正前

一人で生きることの限界を知った梶山は、人に頼ることは恥ずかしいことではないと気づいた。そして、湯浅に助けを求めた。湯浅は快く引き受けてくれ、二人は親しくなった。

修正後

梶山は長靴をはいて、隣の玄関の前に立った。チャイムに伸ばした手を一度下ろし、もう一度上げた。
(中略)
「スタンドまで、車を出してもらえないか」声が思ったより低く出た。

変更の理由

  • 修正前の「限界を知った」「気づいた」は、変化の結果を作者が要約しています。読者は、梶山がどのくらい迷ったのかを見ることができません。
  • 修正後は、チャイムに伸ばした手を一度下ろす動作で、頼むことがまだ梶山にとって簡単ではないことを見せています。迷いが見えるので、そのあとの一言が重く聞こえます。
  • 「二人は親しくなった」も削りました。湯浅の「見ててもいいですか」と、答えない梶山のやり取りで、距離が縮みはじめたことは伝わります。
  • 要約が合う場合もあります。長編で何年もの変化を一段落で渡すときや、変化そのものより、変わったあとの出来事が物語の中心のときは、修正前のような要約で時間を飛ばしてかまいません。その場合も、変わったあとの最初の選択だけは場面にすると、要約が空回りしません。

人物の変化に伴って、二人の距離も変わっています。呼び方、頼みごとへの反応、言わなくなったことで関係の変化を追う方法は、小説の人物関係の描き方で扱っています。

変わらない人物、悪い方へ変わる人物も選べる

すべての主人公が成長する必要はありません。人物の変化の型には、いくつかの選び方があります。同じ梶山の物語で、終盤の選択を変えてみます。

変化の型 梶山の物語なら 終盤の選択 向く物語
よい方へ変わる 頼ることを覚える 隣人に頼む 作例のとおり
変わらず、周りを変える 一人で暮らす考えを貫く。その姿を見て、家族と疎遠だった湯浅が実家に電話をかける 雪の朝、手押し車を工夫して、自分で缶を運ぶ 人物の信念が物語の柱で、周りの人物が試される物語
悪い方へ変わる 失敗を恥じ、人をさらに遠ざける 湯浅の申し出に戸を閉め、娘からの電話にも出なくなる 頑なさの代償を描く物語
変わりかけて、戻る 一度は頼るが、元のやり方に戻る 頼んだ翌週、一人で缶を運ぶ姿を、湯浅が窓から見ている 変わることの難しさを描く短編

こうした型に名前を付けて解説する創作の本もあります。人物の内面の変化の道筋は、創作の解説で「キャラクターアーク」と呼ばれることがあります。たとえばフィルムアート社の『キャラクターからつくる物語創作再入門』は、一章から三章が「ポジティブなアーク」「フラットなアーク」「ネガティブなアーク」に充てられ、一章の最初に「人物が信じ込んでいる『噓』」、よくある質問をまとめた四章に「脇役たちにもアークは必要ですか?」「物語にキャラクターアークがない時は?」といった項目が並んでいます。

こうした呼び名は、物語を組み立てるための見取り図です。現実の人の心がこの順序で変わるという心理学の法則ではありませんし、どの作品もどれかの型に当てはめなければならないわけでもありません。自分の物語で、人物が最後に何を選ぶかを決める道具として使えば十分です。

変わらない人物は、変化を測る物差しになる

主人公が変わる物語でも、周りの人物がみな同じように変わると、誰が何によって変わったのかが見えにくくなります。作例の湯浅は、序盤から終盤まで、申し出の仕方がほとんど変わりません。押しつけもせず、あきらめもしない。湯浅が同じ位置にいるので、梶山の選択の違いが際立ちます。

変わらない人物の役割 例
変化を測る物差し 同じ申し出を繰り返す湯浅
主人公が戻れる場所、または戻れない場所 「こっちで一緒に住めば」と言い続ける娘
主人公の昔の姿を映す人物 梶山と同じように、助けを断り続ける元同業者

脇の人物を変化させる場合は、主人公の大きな選択の直前に置くと、主人公の選択のきっかけになります。長編で、複数の人物の変化を章ごとに割り当てる方法は、長編小説の書き方で扱っています。

自作の人物の変化を設計する

ひな形変化の設計メモ(コピーして使えます)

人物(一行):
最初の考え方(何を正しいと思っているか):
その考え方を支えてきたもの:
序盤の選択(考え方が表れる行動):
経験1(考え方にひびが入る出来事):
経験2(損なうものが大きくなる出来事):
抵抗(元の考えを守ったまま、やり方だけ変える行動):
終盤の状況(序盤と同じ種類の状況):
終盤の選択:
変わらずに残るもの:
変化の型(よい方へ/変わらず周りを変える/悪い方へ/変わりかけて戻る):

手順書いた原稿で変化を点検する手順

  1. 原稿の中から、主人公が何かを選んでいる場面を、序盤・中盤・終盤で一つずつ抜き出します。
  2. 三つの場面の状況が、同じ種類になっているかを確かめます。違う種類なら、序盤か終盤に、もう一方と同じ種類の状況を足せないか考えます。
  3. 「気づいた」「変わった」「分かった」など、変化を説明している文に印を付けます。印の文の直前か直後に、選択の場面があるかを確かめます。
  4. 序盤から終盤の間に、考え方が通用しなくなる出来事がいくつあるかを数えます。一つだけなら、損なうものの小さな出来事を一つ前に足します。
  5. 終盤の選択の直前に、迷いを見せる動作か間があるかを確かめます。
  6. 終盤の人物に、序盤から変わらずに残っているものを一つ書き出します。

確認表人物の変化の確認表

  • 最初の考え方を一文で書け、それを支えてきた理由がある
  • 序盤に、その考え方が行動で表れる選択がある
  • 考え方が通用しなくなる経験が二つ以上あり、少しずつ大きくなる
  • 経験の直後に、気づきの言葉で変化を済ませていない
  • 元の考え方を残したままの抵抗の段階がある
  • 終盤の状況が序盤と同じ種類で、選択が違う
  • 変わらずに残るものが一つある
  • 変わらない人物、悪い方へ変わる人物を選んだ場合も、終盤の選択が決まっている

自分では変化の段階を置いたつもりでも、読者がどこで人物が変わったと感じたかは、読んでもらわないと分かりません。原稿があり、点検しても迷いが残る場合は、読み手に「主人公が変わったと感じたのはどの場面か」「変わりそうで変わらなかったのはどこか」の二つを尋ねると、設計と読まれ方のずれが見つかります。質問の作り方は小説の感想を依頼するには?、講評を頼む先の違いは小説の添削はどこに頼む?で確かめられます。相談したい点は講評・添削の依頼メモで先に書き出しておくと、依頼先に伝えやすくなります。