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俳句

俳句の題材の見つけ方|見たものを一句の種にする観察メモ

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この記事の答え

俳句の題材は、「夏らしいもの」を探すより、いつもの場所で起きた小さな動きや変化から見つかります。

  • 「秋」「夏の朝」のような大きなテーマを、一つの場所・一つの物・一つの動きまで小さくする
  • 見た・聞いた・触れたことを、名詞だけでなく動詞を付けてメモし、感想は別の欄に分ける
  • メモの中から、その場でしか起きなかった一点を選び、十二音か一句にまとめる
目次

俳句を作ろうとして外を見ても、メモに残るのは「きれいな夕焼け」「秋らしい空」ばかり。題材が見つからないときは、景色が足りないのではなく、景色を大きなまま見ていることがあります。この記事では、架空の夏の朝のバス停を例に、同じ場所から五つの観察メモを取り、一句の中心を選んで二句にするまでを見せます。遠くへ吟行(外を歩いて句を作ること)に出なくても、通勤路や家の中で同じ手順が使えます。

大きなテーマを、一つの物の動きまで小さくする

「夏の句を作ろう」と考えると、頭に浮かぶのは誰もが知っている夏です。暑い、青空、入道雲。これらは間違いではありませんが、どの人の句にも出てくるので、読む人の前に新しい景が立ちません。

題材を見つけるには、テーマを一段ずつ小さくしていきます。

段階 例 この段階で書ける句
季節 夏 「暑い」「夏が来た」の言い換えになりやすい
生活の場面 夏の朝の通勤 まだ広い。誰の通勤でも同じに見える
場所 駅前のバス停 景が一つに決まる
物 ベンチの日陰 見るものが一つに決まる
動き・変化 日陰が細くなり、三人が肩を寄せて座り直す その朝その場所でしか起きないことになる

いちばん下の段まで来ると、もう「夏」と書かなくても夏の朝が見えます。俳句の題材は、この一番下の段にあります。

要点題材は「場所」より「動き」で決まる

バス停そのものは、毎日同じです。題材になるのは、その日のバス停で何がどう動いたか、何が変わったかです。場所は同じでも、動きを見れば毎日違う題材が拾えます。

同じ場所で、五つの観察メモを取る

場所を一つ決めたら、そこで五分間、見たものを書き出します。ここでは架空の場面として、七月下旬の朝のバス停で取ったメモを例にします。

五感ごとに問いを立てる

何を書けばよいか迷ったら、感覚ごとに一つずつ問いを立てます。

感覚 その場で自分に聞く問い
見る 何が光っているか。どこに影があるか。色や形がほかと違う物はないか
聞く 何が鳴っているか。急に止んだ音、かき消された音はないか
触れる 何に触れたか。熱い・冷たい・湿っているのはどこか
嗅ぐ 何の匂いがするか。どこから来たか
体で感じる 立つ位置を変えたか。待つあいだ、体はどう動いたか

動詞を付けて書く

メモは、物の名前だけで終えず、何がどうしたかまで書きます。名詞だけのメモは、あとで読み返しても、そのとき何が起きたかを思い出せません。

名詞だけのメモ 動きを付けたメモ
日傘 バスが角を曲がって見えると、並んだ人の日傘が前から順に閉じていく
ベンチ、日陰 ベンチの日陰がだんだん細くなり、三人が肩を寄せて座り直す
蝉 屋根の裏で蝉が鳴いている。バスのドアが開く音で、一瞬聞こえなくなる

動きを付けると、メモの中に時間が入ります。俳句は一瞬を切り取ることの多い形ですが、その一瞬は、前後の動きの中から選ぶほうが見つけやすくなります。

例:同じバス停の五つのメモ

作例観察メモ(架空・七月下旬の朝、駅前のバス停)

  1. 形:時刻表の数字のうち、日の当たる側の列だけ色が薄い
  2. 動き:バスが角を曲がって見えると、並んだ人の日傘が前から順に閉じていく
  3. 音:屋根の裏で蝉が鳴いている。バスのドアが開く音で、一瞬聞こえなくなる
  4. 変化:ベンチの日陰がだんだん細くなり、三人が肩を寄せて座り直す
  5. 手ざわり:屋根の柱にもたれたら、金属が背中に熱い

五つとも同じバス停ですが、見ている物も感覚も違います。メモの段階では、良し悪しを考えずに数をそろえることを優先します。

感想と観察を分ける

メモを取るとき、感想を書いてはいけないわけではありません。ただ、感想と観察が同じ行に混ざると、句にするときに感想のほうへ引っぱられます。

感想が中心のメモから、観察を分けたメモへ

感想が混ざったメモ

暑い朝。バス停はみんなつらそう。
空がきれいで、夏だなあと思った。
蝉がうるさい。早くバスが来てほしい。

観察と感想を分けたメモ

観察:ベンチの日陰がだんだん細くなり、三人が肩を寄せて座り直す
観察:屋根の裏で蝉が鳴いている。バスのドアが開く音で、一瞬聞こえなくなる
感想(別欄):暑くてつらい。早くバスが来てほしい

変更の理由

  • 修正前のメモは、どれも「暑い」「つらそう」「きれい」「うるさい」という判断で終わっています。判断の言葉は、そう感じた理由になった物や動きを隠してしまいます。
  • 修正後は、「つらそう」と感じた理由を、日陰に肩を寄せる三人という動きで書きました。これなら、句にしたときに読む人も同じものを見て、つらさを自分で感じ取れます。
  • 感想は捨てずに別欄に残します。どの観察を句の中心にするか迷ったとき、自分がどこで心を動かされたかの手がかりになります。

感想を観察に戻すこつは、「なぜそう感じたのか」をその場で一度だけ自分に聞くことです。「つらそう」→「なぜ?」→「日陰が細くて、肩を寄せて座っているから」。この答えが観察です。

一つの発見を選んで、一句の中心にする

五つのメモから、句の中心にするものを選びます。目安は次の四つです。

確認表句の中心に選ぶメモの目安

  • 「夏は暑い」のような、誰でも知っていることではなく、その場で見たことか
  • 一つの動きや変化にしぼれているか
  • 理由や背景を説明しなくても、景が見えるか
  • 十七音に入る大きさか(できごとが二つ以上重なっていないか)

五つのメモをこの目安で見ると、次のようになります。

メモ 判断 理由
1 時刻表の一列だけ色が薄い 保留 面白いが、日焼けしたことを説明しないと伝わりにくい
2 日傘が前から順に閉じる 選ぶ 一つの動きで、バスが来た瞬間が見える。「順に」が自分の発見
3 蝉の声がドアの音で消える 保留 音が二つ重なり、十七音では関係を見せにくい。蝉の声だけを季語として使える
4 日陰が細くなり、肩を寄せて座り直す 選ぶ 時間の経過と暑さが、動きだけで見える
5 柱が背中に熱い 保留 「熱い」という判断に近い。ほかの句の材料にする

保留にしたメモは捨てずに、種のノートに残しておきます。別の日に、別の季語と出会って一句になることがあります。

一案目:動きそのものを一句にする

メモ2は、季語「日傘」を含んでいます。きごさい歳時記では「日傘」は夏(三夏)の季語です。季語になっている物の動きをそのまま一句にします。

作例・俳句作例1:日傘

バスが来て日傘が順に閉じてゆく
句よみ音数
バスが来てばすがきて5音
日傘が順にひがさがじゅんに7音
閉じてゆくとじてゆく5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

※季語:日傘(夏)

この句の発見は「順に」です。日傘が閉じること自体は誰でも知っていますが、バスに近い人から一本ずつ閉じていく様子は、その場に立って見ていた人にしか書けません。「暑い」とは書いていませんが、日傘を差して待っていたことから、日差しの強さが伝わります。

季語の物そのものを見つめて深めるこの形は一物仕立てと呼ばれます。くわしい作り方は一物仕立ての俳句の作り方で扱っています。

二案目:十二音の種を作り、季語と組み合わせる

メモ4には季語が入っていません。こういうメモは、季語以外の部分(十二音)にまとめておき、別の季語と組み合わせます。

作例・その他十二音の種

日陰の幅に詰めて待つ
句よみ音数
日陰の幅にひかげのはばに7音
詰めて待つつめてまつ5音

合計12音(7・5)

※メモ4「ベンチの日陰がだんだん細くなり、三人が肩を寄せて座り直す」を十二音にした

「ベンチ」「三人」「座り直す」は削りました。「日陰の幅に詰めて」で、細くなった日陰に収まるよう体を寄せていることが分かるからです。「影の幅だけ詰めて」とする案も考えられますが、「〜の幅だけ詰める」は「その幅のぶん横へずれる」とも読めるので、「幅に」として意味を一つにしました。

組み合わせる季語は、保留にしたメモ3から取ります。きごさい歳時記では「蝉」は夏(晩夏)の季語で、多くの蝉が一斉に鳴く様子を雨音にたとえた「蝉時雨」が傍題に入っています。

作例・俳句作例2:日陰の幅

蝉時雨日陰の幅に詰めて待つ
句よみ音数
蝉時雨せみしぐれ5音
日陰の幅にひかげのはばに7音
詰めて待つつめてまつ5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

※季語:蝉時雨(「蝉」の傍題・夏)

降りそそぐような蝉の声と、細い日陰に身を寄せる人たち。上からの音と、地面の狭い日陰が一句の中で向き合います。蝉の声の大きさが、日差しの強さや待つ時間の長さまで感じさせます。

二句の違いを並べておきます。

作例1 日傘 作例2 日陰の幅
元のメモ 2 動き 4 変化(+3 音)
句の形 季語の物の動きを詠む 季語と、季語を含まない十二音を組み合わせる
発見 日傘が「順に」閉じる 細くなった日陰の「幅に」詰めて待つ
読みと音数 ばすがきて/ひがさがじゅんに/とじてゆく(5・7・5) せみしぐれ/ひかげのはばに/つめてまつ(5・7・5)

読みと音数を確かめるときは、かなで書いて指を折るか、かな入力の音数確認を使えます。

吟行に出られないときは、家の中で同じ場所を見る

遠くへ出かける時間がなくても、題材は家の中や毎日の道で拾えます。大事なのは、場所の珍しさより、同じ場所を何度も見ることです。何度も見ていると、昨日と違う点に気づけるようになります。

家の中の場所 見るところの例
窓辺 窓の外の光の向き、カーテンの揺れ方、ガラスについた跡
台所 湯気の立ち方、流しの水の音、冷蔵庫から出した物の表面
玄関 靴の並び方、傘立ての中身、戸を開けたときに入ってくる空気
ベランダ 洗濯物の乾き方、鉢の土の色、手すりの温度

練習同じ窓を三日見る(一日5分)

  1. 家の中で、毎日立ち寄る場所を一つ決めます。窓辺がいちばん試しやすい場所です。
  2. 三日間、同じ時刻にそこで5分、五感の問いを使って観察メモを三行書きます。必ず動詞を付けます。
  3. 三日目に、三日分のメモを並べて、前の日と違っていたことに印を付けます。
  4. 印を付けたものの中から一つを選び、十二音にまとめるか、季語を含むなら一句にします。

同じ場所を、季節ごとに見る

同じ場所に季節を変えて立つと、同じ問いに違う答えが返ってきます。その差が、その季節の題材になります。バス停で考えると、たとえば次のような項目です。

見る項目 季節によって変わること
立つ位置 日陰を探して立つのか、日なたに寄って立つのか
手に持つ物・身につける物 差している物、首や手に着けている物、何も持たない手
足元 濡れているか、乾いているか、何が落ちているか
聞こえる音 生き物の声、風の音、雨音、何も聞こえない静けさ
待つあいだの体 扇ぐ、汗をふく、手をこする、足踏みする

季節ごとに一度、同じ場所でこの表を埋めると、一つの場所から一年分の題材が見つかります。どの答えが季語にあたるか、季語として何の季節に置かれているかは、歳時記で確かめます。季節ごとの観察の対象と季語の使い方は、春・夏・秋・冬の俳句の作り方でそれぞれ扱っています。

メモから句にしたあとで確かめること

題材が決まり、句の形になったら、次の点を見直します。

  • 季語は一つか。メモから拾った言葉の中に、別の季語がまぎれていないか
  • メモの中の感想の言葉(暑い、つらい、きれい)が、句に入りこんでいないか
  • 句から削った言葉(作例2なら「ベンチ」「三人」)がなくても、景が伝わるか

最後の点は、自分では判断しにくいところです。数日置いて読み返すか、誰かに読んでもらって、何が見えたかを聞くと確かめられます。季語・具体性・助詞の順に句を直す方法は俳句の推敲のやり方で扱っています。季語を選ぶときに迷ったら、俳句の季語の選び方で、同じ十二音に季語を入れ替えて比べる方法を確かめてください。