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俳句

俳句の季語の選び方|意味・季節・句の主役を歳時記で確かめる

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この記事の答え

季語は季節名を足すための言葉ではありません。句の景と同じ時間・場所にあり、句の中で働く言葉を選びます。

  • 歳時記で季節(三秋・初秋など)と解説を読み、実際に見た場面の季節や時刻と合うか確かめる
  • 本意(その季語が長く担ってきた意味や情趣)が、句で伝えたいことと合うかを見る
  • 候補を二、三個に絞り、同じ十二音に当てはめて読み比べ、句の主役を邪魔しないものを選ぶ
目次

季語の一覧から言葉を選んで入れたのに、句が何を言いたいのか分からなくなった。夏休みに見た朝顔を詠んだら「それは秋の季語」と言われた。こうした迷いは、季語を「季節を示すラベル」として選んでいるときに起きやすくなります。この記事では、架空の帰り道の場面から作った同じ十二音に三つの季語を合わせ、歳時記の季節・解説・句の主役との関係から一つを選ぶまでを見せます。

季語は「季節のラベル」ではなく、句の中で働く言葉

季語は、歳時記に季節ごとに集められた言葉です。一句に入れると、その句がいつの景かが決まります。ただ、季語の役目はそれだけではありません。

季語が受け持つもの 例 句の中で起きること
時間 秋の暮 夕方の光や暗さを、書かなくても読む人が補う
空間 鰯雲 足元の景に、頭上の空が加わる
気分の伝統 秋の暮 長く詠まれてきた「寂しさ」が、句に重なって読まれる
句の主役そのもの 梨、朝顔 季語の物を見つめる句になる

季語は一語で、時間や空間や気分までを読む人に渡します。だからこそ、句の景と合わない季語を入れると、残りの十二音が言っていることとぶつかります。逆に、景と合う季語は、「夕方だった」「寂しかった」と書かずに済ませてくれます。

気をつけたいのは、「秋の」「春の」を付ければ季語になると考えて、季節名を足してしまうことです。「秋の〜」と付けた言葉がすべて季語として歳時記に載っているわけではありません。季節を示すために言葉を足すのではなく、景の中にある物や時間の中から、歳時記に載っている言葉を探します。

歳時記で確かめる三つのこと

季語の候補が浮かんだら、歳時記(季語を季節・分類ごとに集め、解説や例句を載せた本やサイト)で次の三つを確かめます。この記事の季語は、NPO法人季語と歳時記の会が公開している「きごさい歳時記」で確かめました。

季節:三秋・初秋などの区分を読む

歳時記では、春夏秋冬の各季節を、初め・中ごろ・終わりに分けて扱います(新年の季語は別にまとめられています)。秋なら初秋・仲秋・晩秋で、秋の全体にわたる季語は「三秋」と示されます。きごさい歳時記の「立秋」の項では、立秋から立冬の前日までを秋としています。

区分を読むと、同じ秋の季語でも使える時期の幅が分かります。たとえば「鰯雲」は三秋、「暮の秋」は晩秋です。十月の終わりに見た景なら、どちらも使えます。八月の初めの景に「暮の秋」を使うと、季節の終わりを惜しむ句として読まれ、場面と合わなくなります。

本意:その季語が長く担ってきた意味を読む

本意(ほんい)とは、和歌・連歌・俳諧で、ある題材が本来備えている、最もふさわしいと考えられる性質や意味のことです(精選版 日本国語大辞典による説明)。季語の解説を読むときは、言葉の辞書的な意味だけでなく、どんな情趣で詠まれてきたかに目を留めます。

季語 きごさい歳時記の季節 解説の要点
秋の暮 三秋・時候 秋の一日の夕暮れと、秋という季節の終わりの二つの意味がある。新古今集の歌などを経て、寂しさを象徴する季語になった
暮の秋 晩秋・時候 秋も終わりに近いころ。「秋の夕暮ではない」と明記されている

字の並びが入れ替わっただけに見える二つが、別の時間を指しています。しかも「秋の暮」には、書き手が「寂しい」と書かなくても、寂しさの気配が重なって読まれます。これが本意の働きです。明るく楽しい夕方を書きたい句に「秋の暮」を置くと、句が寂しいほうへ引っぱられます。それを狙うのか、避けたいのかを決めて選びます。

傍題:同じ季語の別の言い方を見る

見出しの季語の下には、同じ季語として扱われる別の言い方(傍題、子季語)が並んでいます。きごさい歳時記では、「秋の暮」の傍題に「秋の夕暮」「秋の夕」、「鰯雲」の傍題に「鱗雲」があります。

傍題を使うと、季語の意味を保ったまま、音数や響きを調整できます。「秋の夕」は「秋の暮」と同じ五音ですが、「暮」より「夕」のほうが、まだ明るさの残る時間に聞こえるかもしれません。どちらが自分の景に近いかを、声に出して比べます。

架空の場面から、十二音の種を作る

ここからは、架空の場面で季語を選ぶ過程を見ていきます。

作例場面のメモ(架空・十月の夕方)

駅から家までの帰り道。横断歩道で、なんとなく白線だけを踏んで渡った。子どものころの遊びを、大人になってひとりでやっている。渡りきってから見上げると、うろこのような雲が西の空にうすく広がっていた。少し暗くなりかけていた。

このメモの中心は、白線だけを踏んで渡ったことです。季語を含まないこの動作を、十二音にまとめます。

作例・その他十二音の種

白線だけを踏んでゆく
句よみ音数
白線だけをはくせんだけを7音
踏んでゆくふんでゆく5音

合計12音(7・5)

※季語を含まない十二音(七・五)。上に五音の季語を置いて一句にする

同じ十二音に、三つの季語を合わせて比べる

季語の候補を三つ出します。メモの中にある「鰯雲」と「秋の暮」に、比べるために季節の違う「春の暮」を加えました。

作例・俳句案A:鰯雲

鰯雲白線だけを踏んでゆく
句よみ音数
鰯雲いわしぐも5音
白線だけをはくせんだけを7音
踏んでゆくふんでゆく5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

作例・俳句案B:秋の暮

秋の暮白線だけを踏んでゆく
句よみ音数
秋の暮あきのくれ5音
白線だけをはくせんだけを7音
踏んでゆくふんでゆく5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

作例・俳句案C:春の暮

春の暮白線だけを踏んでゆく
句よみ音数
春の暮はるのくれ5音
白線だけをはくせんだけを7音
踏んでゆくふんでゆく5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

三つを、歳時記の季節・解説と、句の主役(白線を踏む足)との関係で比べます。

案 歳時記の季節と解説 句の読まれ方 主役との関係
A 鰯雲 三秋・天文。空一面に広がる雲が鰯の群れに似ていることからの名(きごさい歳時記) 足元の白線と、頭上の雲。視線が上下に広がり、明るく伸びやかに読める 雲も大きな景なので、主役を足と分け合う。白線と雲の「白いまだら」が似すぎると感じる人もいる
B 秋の暮 三秋・時候。秋の夕暮れ。寂しさを象徴する季語として詠まれてきた 一日の終わりに、ひとりで子どもの遊びをしている。おかしみの中に、さびしさが混じる 時間と気分だけを受け持ち、白線を踏む足が主役のまま残る
C 春の暮 三春・時候。春の終わり、または春の夕暮れ。今は後者の意味で使われることが多い(きごさい歳時記) 暖かい夕方の、のんびりした遊び心として読める 主役は足のまま。ただし十月の場面には合わない

同じ「白線だけを踏んでゆく」でも、Aでは空を見上げる前の楽しい一歩に、Bでは家路をひとりで遊びながら帰る姿に、Cでは春の暮れなずむ道の気楽な寄り道に見えます。十二音は一字も変えていないのに、句の気分が入れ替わります。

この場面で、どれを選ぶか

選ぶときは、次の順に判断します。

  1. 季節が場面と合うか。場面は十月なので、Cの「春の暮」は外れます。春の景として書き直すなら候補に戻せますが、それは別の句になります。
  2. 時刻や天候が場面と合うか。AもBも、メモの中に実際にあったものです。
  3. 何を句の主役にしたいか。この場面で心が動いたのは、大人がひとりで白線を踏んでいる、そのおかしさとさびしさでした。主役を足元に残したいので、Bの「秋の暮」を選びます。

もし心が動いたのが「渡りきって見上げたら、雲が広がっていた」瞬間なら、Aの「鰯雲」がふさわしくなります。その場合は、十二音のほうも「見上げる」動きが伝わる言葉に直すと、季語と十二音がかみ合います。季語の選び方に唯一の正解はなく、場面の事実と句で残したいものの両方に合うかで決まります。

季語と十二音を組み合わせるときの「近すぎる・遠すぎる」の判断は、俳句の取り合わせとは?で詳しく扱っています。

場面の季節と、歳時記の季節がずれるとき

季語の季節は、今の暮らしの感覚と一致しないことがあります。歳時記の季節は、旧暦の季節感や、長く詠まれてきた歴史の上に決まっているからです。

言葉 今の暮らしの感覚 きごさい歳時記での扱い
朝顔 夏休みの花 初秋。「秋の訪れを告げる花」とされ、旧暦七月(新暦では八月下旬)の七夕のころ咲くと説明されている
立秋 まだ真夏 初秋。新暦の八月七日ごろで、実際には一年でもっとも暑い時期にあたると説明されている
苺 冬から春に店に並ぶ果物 初夏。ハウスで年中栽培されるが、露地ものは五月から六月に熟すと説明されている

句を読む人は、季語を歳時記の季節で受け取ります。七月の朝のベランダで咲いた朝顔を「朝顔」と書けば、句は初秋の気配で読まれます。それでよければそのまま使い、真夏の朝として読ませたいなら、夏の季語を探して景を組み直します。

歳時記の側が、暮らしの変化を取り込むこともあります。きごさい歳時記には、「苺」(初夏)とは別に「春の苺」(三春)という見出しがあり、春に出回るハウス栽培の苺を指すと説明しています。こうした見出しがあるかどうか、季節の区分をどう取るかは、歳時記によって違うことがあります。迷ったら、使った歳時記の名前と見出しをメモに残し、句会や投稿先が歳時記を指定していればそれに合わせます。

注意言葉の季節感だけで決めない

「苺は冬の果物」「朝顔は夏の花」という感覚は、間違いではありません。ただ、俳句の季語としての季節は、その感覚とは別に歳時記で確かめます。感覚だけで季節を決めると、読む人との間で句の季節がずれてしまいます。

季語が二つ入るとき、見つからないとき

季語が二つ入ってしまったとき

メモの場面には「秋の暮」と「鰯雲」の両方がありました。両方を入れると、一句に季語が二つ並ぶ季重なりになります。

作例・俳句季重なりの例

鰯雲白線を踏む秋の暮
句よみ音数
鰯雲いわしぐも5音
白線を踏むはくせんをふむ7音
秋の暮あきのくれ5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

季語は一語でたくさんのことを読む人に渡すので、二つあると、どちらがこの句の季節と気分を受け持つのかがぼやけます。この例では、十二音に使える音が七音に減り、白線を「だけ」踏むというおかしみも消えました。季重なりは禁止ではなく、意図して効かせる句もあります。ただ、最初は季語を一つにして、もう一方を外したときに句が何を失うかを確かめてください。見直し方は俳句の季重なりとは?で扱っています。

景に合う季語が見つからないとき

場面の中に季語が見当たらないときは、その季節の歳時記をめくり、時候(「秋の暮」など)や天文(「鰯雲」など)の季語から、景を邪魔しないものを探します。それでも合うものがなければ、季語のない句として書く道もあります。季語のない無季の句と、音数にとらわれない自由律の句は別のものなので、違いを季語のない俳句とは?で確かめてから選んでください。

自分の句で季語を選ぶ手順

ここまでの判断を、自分の句で使える形にまとめます。

手順季語を選ぶ手順

  1. 場面の日付・時刻・場所を書く。季節と時間帯を照らし合わせるために使います。
  2. 季語を含まない部分を十二音(または十二音前後)にする。句の主役になる動きや物を、ここに入れます。
  3. 季語の候補を二、三個出す。場面の中にあった物を優先し、なければその季節の歳時記から探します。
  4. 歳時記で季節・解説・傍題を確かめる。本意が、句で伝えたいことと合うかも読みます。
  5. 十二音に当てはめて、声に出して読み比べる。季語を替えると句の何が変わるかを、一行ずつメモします。
  6. 主役を邪魔しない季語を選ぶ。季語のほうに目が行きすぎるなら、十二音を直すか、別の季語にします。

ひな形季語の候補を比べる記入表(コピーして使えます)

場面(日付・時刻・場所):
十二音の種:
句の主役(いちばん残したいもの):

候補1:   季節:   確かめた歳時記:
 解説・本意の要点:
 当てはめた句:
 読まれ方/主役との関係:

候補2:   季節:   確かめた歳時記:
 解説・本意の要点:
 当てはめた句:
 読まれ方/主役との関係:

候補3:   季節:   確かめた歳時記:
 解説・本意の要点:
 当てはめた句:
 読まれ方/主役との関係:

選んだ季語と理由:

練習自分の十二音で季語を入れ替える(15分)

  1. 最近作った句から、季語以外の部分を書き出します。まだ句がなければ、今日の場面から十二音を一つ作ります。
  2. 季語の候補を三つ出します。一つは場面の中から、一つは同じ季節の時候や天文の季語から、もう一つは比べるために別の季節から選びます。
  3. 三つの句を並べて声に出して読み、記入表に「読まれ方」と「主役との関係」を書きます。
  4. 場面の季節と主役に合うものを選び、選ばなかった二つは、なぜ外したかを一行ずつ書きます。

季語を何度か選んでみて、自分の手元に一冊の歳時記を置きたくなったら、収録範囲や索引の違いを俳句の入門書と歳時記で比べています。最初の一句をまだ作っていない人は、観察メモから一句にする流れを俳句の作り方で先に確かめておくと、この記事の手順が使いやすくなります。