俳句の季重なりとは?季語が二つある句を見直す方法
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この記事の答え
季重なりは、一句に季語が二つ以上入っている状態です。辞典では「一方が主であることが明らかなときなどを除いて、通常これを嫌う」と説明されており、すべてが誤りというわけではありません。片方を機械的に削る前に、次の順で確かめます。
- 歳時記で、二つの語が本当に季語か、季節はいつかを調べ直す
- 句の主役(いちばん見せたいもの)を一つ決め、もう一方を季語でない具体的な言葉に替える
- 両方を残すなら、主従がはっきりしているか、投句先や句会の決まりに合うかを確かめる
目次
作った句を読み返したら、季語が二つ入っていた。そこで、とりあえず片方を消そうとしていませんか。削る前に「本当に季語か」「どちらが主役か」「残す理由はあるか」を確かめると、削るだけより良い直し方が見つかることがあります。この記事では、冬の夜を詠んだ架空の句「雪の夜や蜜柑の甘さ格別に」を使い、主役を替える二つの修正案と、両方を残す案を比べます。季節の違う季語が入った例と、季語に見えるだけの例も扱います。
季重なりとは:一句に季語が二つ以上ある状態
『デジタル大辞泉』は季重なりを、「連句・俳句で、一句のうちに季語が二つ以上入ること。一方が主であることが明らかなときなどを除いて、通常これを嫌う」と説明しています。
嫌われる理由は、俳句の短さにあります。季語は一語だけで、季節の景色や、その言葉が積み重ねてきた気分を運んできます。それが二つあると、十七音の中に二つの世界が並び、読者の目がどちらを見ればよいか迷います。日本伝統俳句協会の入門講座も、一句に複数の季題が入る季重なりについて、短い句では感動の焦点が分かれて伝わりにくくなるので、初心者のうちは避けたほうがよいとしています。
一方で同じ講座は、名句にも季重なりの句が多いことにも触れています。辞典の説明にも「一方が主であることが明らかなとき」という例外があります。つまり季重なりは、焦点が割れやすい状態を知らせる目印であって、見つけたら必ず削る、という採点の規則ではありません。
季重なりと、季節の違う季語が入った句
季語が二つある句には、二つの季語が同じ季節の場合と、違う季節の場合があります。
| 状態 | 中身 | この記事の作例 |
|---|---|---|
| 同じ季節の季重なり | 季語が二つあり、どちらも同じ季節 | 雪(晩冬)と蜜柑(三冬) |
| 季節の違う季語が入る | 季語が二つあり、季節が違う。句の季節が決まらない | 朝顔(初秋)と夏休み(晩夏) |
| 季語に見えるだけ | 季語と同じ字を含むが、句の中では季節を表していない | 春雨サラダ(食品)と蝉時雨(晩夏) |
二つ目のように季節が食い違っている状態は、「季違い」と呼ばれることがあります。一般の辞書では「その物事にふさわしい季節と違っていること」という意味の言葉で、句会などでは、季節の違う季語が同じ句に入っている状態や、季語の季節と句の場面が合わない状態を指して使われることがあります。同じ季節の季重なりより、読者は句の季節に迷いやすくなります。
手順1:削る前に、季語を調べ直す
季重なりに気づいたら、最初にするのは削ることではなく、調べ直すことです。思い込みで季語だと判断していることも、反対に季語だと気づいていないこともあるからです。
手順季語を調べ直す手順
- 句の中の名詞・動詞を、すべて書き出す。
- 使っている歳時記の索引で、一語ずつ引く。複合語(「蜜柑の花」など)は、その形でも引く。
- 載っていた語について、季節と、季節の細分(初・仲・晩・三など)、解説の要点をメモする。
- 季語と同じ字を含んでいても、句の中で別の物を指していないか(食品名・商品名・柄など)を確かめる。
季語の季節は、思い込みとずれることがあります。この記事の作例に関係する語を、きごさい歳時記(NPO法人季語と歳時記の会)で確かめると次のようになります。
| 語 | きごさい歳時記での季節 | 気づきにくい点 |
|---|---|---|
| 朝顔 | 初秋 | 夏休みの宿題の印象が強いが、「秋の訪れを告げる花」と解説されている |
| 蜜柑 | 三冬 | 「蜜柑の花」は初夏、「青蜜柑」は三秋の別項目。同じ字でも形で季節が変わる |
| 春雨 | 三春 | 季語としては、春に降る雨のうち、こまやかに降りつづく雨。食品の春雨は、この項目の対象ではない |
| 夏休み | 晩夏 | 学校の夏の長期休暇。本意は旅行や帰省などを過ごす楽しさ |
季節の細分は歳時記によって違うことがあります。使う歳時記を一つ決めて、その分類で判断します。歳時記の索引の引き方や、傍題(同じ季語の別の言い方)の探し方は歳時記の使い方で扱っています。
手順2:句の主役を一つに決める
調べ直して、二つとも季語だと確かめられたら、次はどちらを句の主役にするかを決めます。
作例・俳句見直し前の句(季重なり)
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 雪の夜や | ゆきのよや | 5音 |
| 蜜柑の甘さ | みかんのあまさ | 7音 |
| 格別に | かくべつに | 5音 |
合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり
この句には「雪」(晩冬)と「蜜柑」(三冬)という、同じ冬の季語が二つあります。上五の「や」で雪の夜が取り出され、中七・下五では蜜柑の甘さが語られます。外の雪と、口の中の甘さ。目と舌が別々の方向を向き、どちらに感動したのかが分かりにくくなっています。そのうえ「格別に」は、甘さを感想として説明している言葉で、読者の想像を先回りしています。
主役を決めるときは、次の三つを自分に聞きます。
- その場で、実際に心が動いたのはどちらか(雪の静けさか、蜜柑の味か)
- 外して句が崩れるのはどちらか。外しても句が立つほうが従の役
- 歳時記の解説(本意)が、自分の見た場面に近いのはどちらか
答えが「雪」なら修正案A、「蜜柑」なら修正案Bへ進みます。どちらとも言えるなら、両方を作って比べるのがいちばん確かです。
手順3:もう一方を、季語でない言葉に替える
主役でないほうの季語は、ただ削るのではなく、季語でない具体的な言葉に置き換えます。削っただけだと音数が足りなくなり、穴埋めの言葉が入りやすいからです。
修正案A:雪を主役にする
蜜柑を季語でない物に替える
見直し前
作例・俳句見直し前
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 雪の夜や | ゆきのよや | 5音 |
| 蜜柑の甘さ | みかんのあまさ | 7音 |
| 格別に | かくべつに | 5音 |
合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり
修正案A
作例・俳句雪が主役
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 雪の夜や | ゆきのよや | 5音 |
| 上履き二足 | うわばきにそく | 7音 |
| 窓に干す | まどにほす | 5音 |
合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり
変更の理由
- 蜜柑を、季語でない「上履き二足」に替えました。週末に洗った学校の上履きを、雪で外に干せないので窓辺に干している場面です。「二足」から、子どもが二人いる暮らしも見えてきます。
- 雪は「外に干せない」という暮らしの事情として句の中で働き、上履きの白と窓の外の雪が重なります。主役は雪の夜のまま、焦点は一つです。
- 「格別に」のような感想の言葉も外し、見えた物と動作だけにしました。
修正案B:蜜柑を主役にする
雪を外して、蜜柑をよく見る
見直し前
作例・俳句見直し前
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 雪の夜や | ゆきのよや | 5音 |
| 蜜柑の甘さ | みかんのあまさ | 7音 |
| 格別に | かくべつに | 5音 |
合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり
修正案B
作例・俳句蜜柑が主役
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 剥きかけの | むきかけの | 5音 |
| 蜜柑に爪の | みかんにつめの | 7音 |
| 跡残る | あとのこる | 5音 |
合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり
変更の理由
- 雪を外し、蜜柑を主役にしました。「甘さ」という感想のかわりに、剥きかけのまま置かれた蜜柑と、皮に残った爪の跡という、見て分かる細部を書いています。
- 誰かが途中で呼ばれて席を立ったのか、と読者が想像できる余地が生まれます。
- 雪がなくなっても、蜜柑が冬の季語なので季節は伝わります。季語を外した結果、句に季語が一つもなくなっていないかは必ず確かめます。
修正案Aは、もう一方の季語を十二音ほどの別の素材に替えて、季語と組み合わせる形です。この組み合わせ方は俳句の取り合わせと同じ考え方で、替える素材と季語の距離を調整できます。修正案Bは、一つの物をよく見て細部で句を作る形に近づいています。
注意替えた結果、季語がなくなったとき
季語を二つとも外してしまい、季語のない句になることがあります。季語のない俳句(無季俳句)を意図して作る考え方もありますが、それは季重なりの直し方とは別の選択です。季語のない句の扱いは季語のない俳句とはで整理しています。
手順4:両方を残す場合は、主従をはっきりさせる
二つの季語を残すこともできます。その場合は、どちらが主でどちらが従かが、読者にはっきり分かる形にします。
作例・俳句残す案
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 雪の夜や | ゆきのよや | 5音 |
| 蜜柑の皮を | みかんのかわを | 7音 |
| 窓に干す | まどにほす | 5音 |
合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり
雪も蜜柑も入ったままです。ただし見直し前の句とは、二つの役割が違います。
- 「雪の夜や」で切って、雪を句の主役として取り出している
- 蜜柑は「甘さ」ではなく「皮」になり、窓辺に干された部屋の小道具に下がっている
- 同じ冬の季語どうしなので、季節は食い違わない。雪の白と皮の橙が、窓のガラス越しに一つの景になる
辞典の説明にある「一方が主であることが明らかなとき」に近い形です。
注意残す場合の限界
- 季重なりであることに変わりはありません。句会の選者や投句先によっては、それだけで評価を下げることがあります。投句・応募する場合は、募集要項や句会の決まりを先に確かめます。
- 作者が主従をはっきりさせたつもりでも、蜜柑の存在感を強く読む人はいます。説明なしで誰かに読んでもらい、どちらが主役に見えたかを聞くと確かめられます。
- 残す理由を一行で言えないとき(「どちらも入れたかった」など)は、修正案AかBを選んだほうが焦点ははっきりします。
三案を並べて選ぶ
| 案 | 主役 | 残ったもの | 向いている場合 |
|---|---|---|---|
| 修正案A | 雪 | 雪の夜と、暮らしの小さな事情 | 外の雪の静けさに心が動いたとき |
| 修正案B | 蜜柑 | 蜜柑の細部と、そこにいない人の気配 | 手元の蜜柑そのものを見せたいとき |
| 残す案 | 雪(蜜柑は従) | 雪の白と皮の橙が並ぶ窓辺の景 | 二つが一つの景として見えていたとき |
どれが正解ということはありません。自分が実際に見た場面と、読者に残したいものに近い案を選びます。
季節の違う季語が入った句を直す
次は、二つの季語の季節が違う例です。
作例・俳句季節の違う季語が入った句
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 朝顔の | あさがおの | 5音 |
| 観察日記 | かんさつにっき | 7音 |
| 夏休み | なつやすみ | 5音 |
合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり
小学生の夏の宿題を思い出させる句ですが、きごさい歳時記では「朝顔」は初秋、「夏休み」は晩夏の季語です。夏の終わりと秋の初めは隣り合っているので、実際の暮らしでは同じ時期に重なって見えます。それでも句の上では季節が二つになり、読者はいつの景色として読めばよいか迷います。また「観察日記」「夏休み」は見慣れた組み合わせで、句が思い出の説明にとどまりやすい点も気になります。
直し方は、同じ季節の場合と同じく、どちらの季節を見せたいかを先に決めることです。
作例・俳句夏休みを主役にした案
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 絵日記の | えにっきの | 5音 |
| 天気みな晴れ | てんきみなはれ | 7音 |
| 夏休み | なつやすみ | 5音 |
合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり
朝顔を外し、夏休みの宿題の一場面に絞りました。最後の日にまとめて書いたのか、本当に晴れが続いたのか。天気の欄という具体物が、夏休みの時間を読者に想像させます。
作例・俳句朝顔を主役にした案
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 朝顔や | あさがおや | 5音 |
| 鉢に名前の | はちになまえの | 7音 |
| シール剥げ | しーるはげ | 5音 |
合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり
こちらは夏休みを外し、朝顔を秋の初めの花として見ています。鉢に貼った名前のシールが剥げかけていることで、夏が過ぎた時間の長さが伝わります。
季語に見えるだけの言葉は、残せる場合がある
最後に、季語と同じ字を含んでいても、句の中で季節を表していない例です。
作例・俳句季語に見えるだけの例
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 蝉時雨 | せみしぐれ | 5音 |
| 春雨サラダ | はるさめさらだ | 7音 |
| 二人分 | ふたりぶん | 5音 |
合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり
季語は「蝉時雨」(きごさい歳時記では「蝉」の傍題で晩夏)です。「春雨」は春の季語ですが、この句の「春雨サラダ」は食品の名前で、春の雨を表していません。このように季節として働いていない語は、季重なりとして直さなくてよい場合があります。
ただし、読者が一瞬「春の雨」を思い浮かべて引っかかる可能性はあります。季語の働きをはっきりさせたい場合や、季語の数を厳しく見る句会に出す場合は、別の料理名に替えることも考えます。
見直しの確認表
確認表季語が二つ見つかったときの確認表
-
二つの語を歳時記で引き、季語かどうかと季節を確かめた
-
複合語や食品名など、季語と同じ字でも別の物を指していないか確かめた
-
二つの季語の季節が同じか違うかを確かめた
-
実際に心が動いたのはどちらか、主役を一つ決めた
-
従の季語を外すなら、季語でない具体的な言葉に替えた(削っただけで穴埋めの言葉を入れていない)
-
直したあと、句に季語が一つ残っている
-
両方を残すなら、主従がはっきりしていて、その理由を一行で言える
-
投句・応募する場合は、募集要項や句会の決まりを確かめた
練習自分の句で三案を作る(20分)
- 季語が二つある自作の句を一つ選び、二つの語の季節を歳時記で書き出します。
- 一つ目の季語を主役にした案と、二つ目の季語を主役にした案を作ります。外す季語は、季語でない具体物に替えます。音数はかな入力の音数確認で確かめます。
- 両方を残す案も作り、主従がはっきり分かるように語順や切れを調整します。
- 三案を並べ、自分が実際に見た場面にいちばん近いものを選びます。
直した句を、季語だけでなく具体性や助詞まで含めて見直したい場合は俳句の推敲のやり方へ進みます。