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俳句

歳時記の使い方|季語の意味・季節・例句を作句に生かす手順

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この記事の答え

歳時記は、季語の見出し→季節→解説(本意)→傍題→例句の順に読み、最後に自分の観察メモへ戻って使います。

  • 季節が分からない言葉は、季節の巻を開く前に索引(総索引)やことば検索で引く
  • 解説では、言葉の意味だけでなく、どんな時期・気分の言葉として詠まれてきたかを読む
  • 例句は言葉を借りるためではなく、その季語がどんな物と組み合わされてきたかを知るために読む
目次

歳時記を手に入れたのに、どこを読めばよいのか分からない。例句を読んでいるうちに、似たような句しか浮かばなくなった。歳時記は、最初から通して読む本ではなく、季語を一つ引いて、自分の句に使えるかを確かめる道具です。この記事では、架空の検索場面で季語「小春」を引き、見出しから例句までを順に読み、観察メモに戻って一句にするまでを見せます。

歳時記と季寄せの違いを知っておく

歳時記は、俳句の季語を集めて分類・整理し、解説や例句を載せた本です(デジタル大辞泉)。似た言葉に季寄せ(きよせ)があります。辞書によっては同じ意味として扱いますが、区別する場合は、歳時記より小型で簡略なもの(世界大百科事典)、現在では季語を分類しただけで解説のないもの(ブリタニカ国際大百科事典)を季寄せと呼んでいます(いずれもコトバンク「歳時記」による)。

歳時記 季寄せ
解説 季語の意味や由来、詠まれ方まで書かれている 短いか、ない
例句 多い 少ないか、ない
向く場面 季語の意味と本意を確かめる。句に合うかを判断する 季語の候補と季節を素早く探す。外で持ち歩く

作句で迷ったときに頼りになるのは、主に解説です。季寄せで候補を見つけたら、歳時記で解説を読む、という使い分けもできます。ウェブで引ける歳時記もあり、NPO法人季語と歳時記の会が公開しているきごさい歳時記では、ことば検索、季節別・分類別の一覧、50音の目次から季語を引けます。この記事の季語は、ここで確かめました。

季節の分からない言葉は、索引から引く

歳時記は季節ごとに季語を並べているので、言葉の季節が分かっていれば、その季節の章(季節別の歳時記ならその巻)を開けば見つかります。困るのは、季節が分からない言葉です。

手元の歳時記 季節の分からない言葉の引き方
四季と新年が一冊の歳時記 巻末の索引(五十音順)から引く
季節別の巻 総索引のある巻から引く。たとえば『俳句歳時記 第五版』(角川ソフィア文庫)は、新年の巻に全五巻の季語・傍題の総索引が付いていると出版社が紹介している
ウェブの歳時記 ことば検索を使う。きごさい歳時記では、漢字で見つからないときはひらがなで探すよう案内している

索引にない言葉は、その歳時記では季語として扱っていないと考えます。ただし、別の歳時記には載っていることもあります。句会や投稿先が基準にする歳時記があれば、それで引き直します。

一つの項目で読む部分と、読む順番

季語の項目には、たいてい次の部分があります。上から順に読むと、その季語が自分の句に使えるかを判断できます。

順番 部分 書かれていること 読むときの問い
1 見出しと読み 季語の代表の形と、そのよみ 使いたい言葉は見出しか、傍題か
2 季節 初冬・三冬などの区分 場面の日付と合うか
3 分類 時候・天文・動物・植物など 時間の季語か、空の季語か、物の季語か
4 解説 意味、由来、どう詠まれてきたか 自分の景と同じ時期・気分か
5 傍題 同じ季語として扱われる別の言い方 音数や場面により合う形はあるか
6 例句 その季語を使った過去の句 どんな物や景と組み合わされてきたか

紙の歳時記を使い始めるときは、最初に凡例(本の使い方の説明)を読んでおきます。季節の区分の示し方、傍題の載せ方、記号の意味は、歳時記ごとに凡例で説明されています。

架空の検索場面で、一つの季語を引いてみる

ここからは、次の架空の場面を使って、歳時記を引く順番を見ていきます。

作例観察メモ(架空・十一月中旬の土曜、晴れ)

・ベランダで、子どもの上履きを洗面器につけてブラシでこする
・暖かいので、袖を肘までまくった。水も思ったほど冷たくない
・つま先の灰色がなかなか落ちない
・洗い終えて、物干しに二足を並べる
・ベランダの床の水の跡が、見ているうちに乾いていく
感想:春みたいな暖かさ。もうすぐ冬なのに

書きたいのは、冬の入り口なのに春のように暖かい日のことです。この「暖かさ」を表す季語を探します。

手順1:思いついた言葉をそのまま引き、季節を見る

まず「暖か」を引きます。きごさい歳時記では「暖か」は春(三春)の季語で、暑くも寒くもないほどよい温度をいう、と解説されています。十一月の句に「暖か」と書くと、句は春の景として読まれます。

ここで分かるのは、ふだんの言葉の意味と、季語としての季節は別に確かめるということです。「暖か」は十一月にも使う言葉ですが、季語としては春に置かれています。

手順2:場面の季節の章から、近い季語を探す

場面は十一月中旬です。きごさい歳時記の「立冬」の項では、立冬を十一月八日ごろとしているので、歳時記の上ではもう冬(初冬)です。冬の季語のうち、天気や暑さ寒さを表す「時候」の季語を見ていくと、暖かい日を表す季語が二つ見つかります。

見る部分 小春(こはる) 冬暖(ふゆあたたか)
季節・分類 初冬・時候 三冬・時候
解説の要点 陰暦十月の異称。まだ本格的な冬ではなく、暖かい日和が春先の陽気を思わせる。春とは区別して「小春」と呼ぶ。冬に備えるころの日和 冬のさなかの暖かい日。冷たい風も吹かない穏やかな日和
傍題 小六月、小春日、小春日和、小春空、小春風、小春凪 冬ぬくし、暖冬

手順3:解説から本意を読み、場面と照らし合わせる

解説は、言葉の意味を知るためだけに読むのではありません。その季語がどんな時期の、どんな気分の言葉として扱われてきたか(本意)を読みます。

  • 「小春」は冬の初めの、春先を思わせる暖かさです。「もうすぐ冬なのに春みたい」というメモの感想とそのまま重なります。冬に備えるころの日和、という説明も、冬の前の晴れた土曜に洗い物をしている場面に合います。
  • 「冬暖」は冬のさなかの暖かい日です。三冬の季語なので十一月に使えないわけではありませんが、解説からは、真冬の一月や二月に、ふと風のない暖かな日があった、という場面のほうが合います。

季節の区分ではどちらも使えますが、本意が場面に近いのは「小春」なので、こちらを選びます。名前に「春」が付いていますが、冬の季語であることに注意してください。

手順4:傍題から、句に使う形を選ぶ

見出しの「小春」のほかに、傍題として「小春日」「小春日和」「小春空」「小春風」「小春凪」などがあります。どれも同じ季語として扱われるので、場面と音数で選べます。

傍題 音数 合う場面
小春 3 日和全体を言う。「小春かな」で下五にしやすい
小春日 4 日差しに目が向いている場面
小春日和 6 上五や下五に置くと一音はみ出す
小春空 5 空を見上げた場面
小春風 5 風を感じた場面

このメモでは、空や風ではなく、手元の洗い物と暖かさが中心です。日和全体を受け持つ「小春」を選び、下五に「小春かな」と置く形を考えます。

手順5:例句から「何と組み合わされてきたか」を読む

例句は、その季語を使った過去の句です。ここで読むのは、句の言葉ではなく、季語がどんな物や景と組み合わされてきたかです。

きごさい歳時記の「小春」には十三句の例句があり、木の実、山や海、古い家、大仏、小鳥の籠、白い雲、肌着など、組み合わされている物の幅が広いことが分かります。遠くの山並みのような大きな景にも、家の中の小さな物にも合う季語だと読めます。

ここから自分の句に生かすのは、次の二つです。

  1. 小春は、生活の小さな物と組み合わせても成り立つ。上履きのような身近な物を使ってよい。
  2. 例句にある物(小鳥の籠、木の実など)は、自分の場面になければ使わない。例句の言葉を組み替えた句は、自分の見た景から離れてしまいます。

注意例句を言い換えて自作にしない

例句の語順や言葉を入れ替えただけの句は、元の句を知っている人には同じ句に見えます。例句は「この季語はこういう景にも使える」と知るための資料です。句の言葉は、自分の観察メモから選びます。

調べた結果を「季語メモ」に残す

引いた結果は、句を作る前に短くメモしておきます。あとで推敲するとき、句会で季語について聞かれたとき、別の句に同じ季語を使うときに役立ちます。今回の検索場面で書いたメモです。

項目 記入例
引いた理由 十一月中旬なのに春のように暖かい日を書きたい
最初に引いた言葉 暖か → 三春。十一月の句には使わない
選んだ見出し 小春(こはる)
季節・分類 初冬・時候
解説・本意の要点 陰暦十月の異称。春先を思わせる暖かい日和。冬に備えるころ
傍題の候補 小春日、小春空、小春風、小春日和(6音)
例句から分かったこと 遠くの大きな景にも、家の中の小さな物にも合わせられている
使わない言葉 例句にある物(自分の場面になかった物)
確かめた歳時記 きごさい歳時記「小春」

ひな形季語メモ(コピーして使えます)

引いた理由(何を書きたくて引いたか):
最初に引いた言葉と結果:
選んだ見出し(読み):
季節・分類:
解説・本意の要点:
傍題の候補(音数):
例句から分かったこと(組み合わされてきた物・景):
使わない言葉(例句にあって、自分の場面になかった物):
確かめた歳時記(書名・版、またはサイト名):

観察メモに戻って一句にする

季語が決まったら、歳時記を閉じて、観察メモに戻ります。歳時記の解説に書かれていることは、季語がすでに読む人に伝えてくれます。句の残りの十二音には、歳時記には書いていない、自分が見たことを入れます。

解説をなぞった句から、観察メモの句へ

歳時記の解説をなぞった句

作例・俳句作例:春みたい

春みたい十一月の小春の日
句よみ音数
春みたいはるみたい5音
十一月のじゅういちがつの7音
小春の日こはるのひ5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

観察メモから作った句

作例・俳句作例:上履き

袖まくり上履き洗う小春かな
句よみ音数
袖まくりそでまくり5音
上履き洗ううわばきあらう7音
小春かなこはるかな5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

変更の理由

  • 修正前は、「春みたい」「十一月」と、季語「小春」の解説に書いてあることを句の中でもう一度言っています。小春という季語を置けば、春のような初冬の暖かさは読む人に伝わるので、残りの言葉が説明に使われてしまいました。
  • 修正後は、メモの「袖を肘までまくった」「上履きを洗う」を使いました。暖かさを「暖かい」と書かずに、袖をまくる動作で見せています。上履きからは、子どものいる家の週末の洗い物という場面が浮かびます。
  • 季語の解説の言葉が、句の中で効く場合もあります。ただ、季語と同じことを言い直しているだけなら、その音を自分の見た物に使ったほうが、句が具体的になります。

句の中の「袖まくり」と「上履き洗う」はどちらも季語ではないので、季語は「小春」一つです。読みをかなで書き、五・七・五を確かめてから、季語メモと一緒に保存しておきます。冬の季語と身近な動作を組み合わせる作り方は、冬の俳句の作り方でさらに作例を比べています。

歳時記ごとの違いを記録しておく

歳時記は一冊ごとに編集方針があり、同じ言葉でも、季節の区分、傍題の範囲、見出しの表記が違うことがあります。たとえば、きごさい歳時記の見出しは「冬暖(ふゆあたたか)」ですが、『俳句歳時記 第五版 冬』の出版社ページに載っている目次では「冬暖か」と表記されています。また、同じ書名でも版が改まると、例句や見出しが見直されることがあります。

違いがあること自体は問題ではありません。困るのは、どの歳時記で確かめたかが分からなくなることです。季語メモの最後に、歳時記の書名と版(ウェブならサイト名)を必ず書いておきます。

確認表季語を引いたあとの確認

  • 使う言葉が、見出しか傍題として載っているか
  • 季節(初冬・三冬など)が、場面の日付と合っているか
  • 解説の本意が、句で伝えたいことと合っているか
  • 傍題の中に、音数や場面により合う形はないか
  • 例句の言葉を、自分の場面にないのに使っていないか
  • 解説に書いてあることを、句の中で言い直していないか
  • 確かめた歳時記の書名と版をメモしたか

練習自分の観察メモで季語を一つ引く(15分)

  1. 最近の観察メモから、句にしたい場面を一つ選び、日付と時刻を確かめます。
  2. 場面を表すのに使いたい言葉を一つ決め、索引(またはことば検索)で引きます。季節が場面と合わなければ、場面の季節の時候・天文の季語から近いものを二つ探します。
  3. 見出し→季節→分類→解説→傍題→例句の順に読み、季語メモを埋めます。
  4. 歳時記を閉じ、観察メモだけを見て十二音を作り、選んだ季語と合わせます。解説の言葉を言い直していないかを確認表で見直します。

季語の候補が複数あって、どれを選ぶかで迷うときは、同じ十二音に季語を入れ替えて比べる方法を俳句の季語の選び方で扱っています。