季語のない俳句とは?無季俳句と自由律の違い・作り方を整理
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この記事の答え
季語のない俳句は無季俳句と呼ばれ、俳句の一つの書き方です。季語がないことと、五七五によらない自由律であることは、別の問いとして分けて考えます。
- 「季語があるか」と「五七五の定型か」の二つの軸で、有季定型・無季定型・有季の自由律・無季の自由律の四つに分けられる
- 季語がないつもりの言葉(マスク・扇風機・台風など)も歳時記に載っていることがある。無季にするなら、まず歳時記で確かめる
- 季語を抜いた句では、季語が受け持っていた時間や気分を、具体物と別の言葉で補う。応募できるかは、募集ごとの要項と主催者の案内で確かめる
目次
季語の入っていない句を作ったら、「それは川柳では」と言われた。五七五でもないし、自分の句が何なのか分からない。こうした迷いは、「季語があるか」と「五七五で作ったか」という二つの問いを、一つにまとめて考えているときに起きやすくなります。この記事では、二つの問いを別々の軸に分け、架空の同じ場面を有季定型・無季定型・自由律で書き比べて、何を変えると何が起きるかを見せます。最後に、無季や自由律の句を応募するときに、募集要項のどこを確かめるかをまとめます。
「季語があるか」と「五七五か」は別の問い
まず、言葉の意味を辞典で確かめておきます。
- 無季俳句:季語・季感をもたない俳句(日本大百科全書)。同じ辞典は、明治末からの新傾向俳句、昭和初期の新興俳句、戦後の前衛俳句などに見られたと説明しています(コトバンク「無季俳句」)。
- 自由律俳句:五七五の形にとらわれず、心のリズムのままに書く俳句。荻原井泉水の俳誌「層雲」が1912年ごろから唱え、尾崎放哉や種田山頭火が代表的な作者になったとされます(コトバンク「自由律俳句」、世界大百科事典ほか)。
無季は季語についての言葉で、自由律は音の形についての言葉です。自由律の運動の中では季題を不要とする主張も唱えられましたが、自由律の句に季語にあたる言葉が入ることもあります。二つを別の軸にすると、句は次の四つに分けられます。
| 季語がある | 季語がない | |
|---|---|---|
| 五七五の定型 | 有季定型(入門で練習しやすい形) | 無季定型 |
| 定型によらない(自由律) | 有季の自由律 | 無季の自由律 |
季語がないからといって自由律になるわけではなく、五七五をはみ出したからといって無季になるわけでもありません。自分の句を見るときは、「季語はあるか」「五七五で作ったか」を一つずつ答えます。
字余りと自由律は違う
五七五で作ろうとして一、二音はみ出した句は、字余りの句です。定型を基準にしていて、その基準から少しずれている状態です。自由律は、はじめから五七五を基準にしません。字余りの句を「自由律にした」と言い換えても、句の作り方は変わりません。定型の中での直し方と残し方は俳句の字余り・字足らずで扱っています。
古典の自由律で、二つの軸を確かめる
著作権の切れた自由律の古典を二句だけ見ます。どちらも青空文庫に収められています。
| 句 | 作者・出典 | 音の形 | 季語の軸 |
|---|---|---|---|
| 咳をしても一人 | 尾崎放哉(『尾崎放哉選句集』青空文庫。同書には「せきをしてもひとり」の表記も並べて載っている) | せきをしてもひとり。9音で、五七五よりずっと短い | 「咳」は、きごさい歳時記では三冬の季語として載っている言葉 |
| 分け入つても分け入つても青い山 | 種田山頭火(『草木塔』青空文庫) | わけいってもわけいってもあおいやま。合計17音だが、区切りは6・6・5で、五七五のリズムで作られていない | ここでは音の形だけを見る |
放哉の句は、自由律でありながら、歳時記で引くと冬の季語にあたる言葉を含んでいます。作者が季語として置いたかどうかとは別に、音の形の軸と季語の軸は独立していることが分かります。山頭火の句は、音を数えると十七音ですが、五七五の区切りでは読めません。自由律かどうかは合計の音数ではなく、定型のリズムを基準にしているかどうかで決まります。
同じ場面を四つの形で書き比べる
ここからは、架空の場面を使って、季語と音の形を一つずつ変えていきます。
作例観察メモ(架空・十月の終わり、引っ越しの前の夜)
家具を運び出した部屋。壁の、カレンダーを掛けていたところだけが四角く白く残っている。真ん中に画鋲の穴が一つ。十年住んだ。夜になって、急に冷えてきた。
感想:さびしい。あっという間だった。
有季定型:季語に時間と気分を任せる
作例・俳句A 有季定型
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 画鋲穴 | がびょうあな | 5音 |
| ひとつ残して | ひとつのこして | 7音 |
| 夜寒かな | よさむかな | 5音 |
合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり
※季語:夜寒(晩秋)
「夜寒」は、きごさい歳時記で晩秋の季語とされ、夜更けになって感じる寒さを言います。この一語が、十月の終わりという時期と、日が暮れて冷えてきた部屋の空気、家具のなくなった部屋の心細さまでを受け持っています。十二音は、画鋲の穴という一点だけを書けば足ります。
季語を抜いただけの無季定型:時間が空白になる
季語を外して、別の五音で埋めてみます。
作例・俳句季語を抜いただけの案
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 画鋲穴 | がびょうあな | 5音 |
| ひとつ残して | ひとつのこして | 7音 |
| 白い壁 | しろいかべ | 5音 |
合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり
五七五の形は保たれていますが、いつの、どんな気分の部屋なのかが消えました。「白い壁」は見たとおりですが、すでに画鋲の穴から想像できる情報を足しているだけです。季語を抜くと、季語が受け持っていた時間と気分が空白になります。無季で書くときは、この空白を別の言葉で埋める必要があります。
無季定型:季語の代わりに、別の時間を置く
作例・俳句B 無季定型
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 十年の | じゅうねんの | 5音 |
| 壁に画鋲の | かべにがびょうの | 7音 |
| 穴ひとつ | あなひとつ | 5音 |
合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり
※季語なし
季語の代わりに、メモの「十年住んだ」を使いました。季節の時間ではなく、住んだ年月という時間が句に入ります。十年のあいだに、この壁に画鋲を刺したのはカレンダーの一つだけだった、という小さな事実から、暮らしの長さや、部屋を去る前夜の気持ちが読めます。季語はありませんが、景(壁と一つの穴)と余韻(十年)が残っています。
自由律:定型を外し、話し言葉のリズムにする
作例・自由律C 無季の自由律
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 画鋲の穴ひとつ | がびょうのあなひとつ | 9音 |
| 十年ここにいた | じゅうねんここにいた | 9音 |
合計18音(9・9)
※季語なし。一行で書く句で、表は区切りごとの音数
作例・自由律D 有季の自由律
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 夜寒の壁に | よさむのかべに | 7音 |
| 画鋲の穴がひとつ | がびょうのあながひとつ | 10音 |
合計17音(7・10)
※季語:夜寒(晩秋)。一行で書く句で、表は区切りごとの音数
Cは、九音と九音の二つの区切りが向き合う形です。「十年ここにいた」は、誰かに話しかけるような口調で、定型の句にはない声の近さがあります。Dは同じ自由律に季語の「夜寒」を入れました。季語が時間と空気を受け持つので、後半は画鋲の穴を言うだけになり、Cより静かな句になります。
四つの形を並べる
| 案 | 季語 | 音の形 | 時間・気分を受け持つ言葉 | 読後に残るもの |
|---|---|---|---|---|
| A 有季定型 | 夜寒(晩秋) | 5・7・5 | 夜寒 | 晩秋の夜の冷えと、空になった部屋 |
| 季語を抜いただけ | なし | 5・7・5 | なし | 白い壁の説明だけ |
| B 無季定型 | なし | 5・7・5 | 十年 | 住んだ年月と、去る前の静けさ |
| C 無季の自由律 | なし | 9・9 | 十年ここにいた | 話しかけるような声と年月 |
| D 有季の自由律 | 夜寒(晩秋) | 7・10 | 夜寒 | 季節の冷えと、話し言葉の近さ |
どれが正しいということはありません。季節の夜を残したいならA、年月を残したいならB、声の近さを残したいならC、と何を残したいかで選びます。無季がすべて誤りというわけでも、季語があれば必ず良い句になるわけでもありません。
無季の句で、景と余韻を残すこつ
季語のない句を作るときは、季語が一語でしていた仕事を、別の言葉に分けて担わせます。
手順無季の句を作るときの手順
- 場面の中から、具体物を一つ選ぶ。作例では画鋲の穴です。季語がない句は、物がぼやけるとすぐに説明文になります。
- 季語が受け持っていた「時間」を、別の言葉で入れる。十年、終電、引っ越しの前の夜のように、季節以外の時間の幅を示す言葉を探します。
- 感想で閉じない。「さびしい」「あっという間」と書くと、句は気持ちの報告で終わります。気持ちは、具体物と時間の組み合わせから読む人が受け取ります。
- 季語にあたる言葉が紛れていないか、歳時記で確かめる。次の節で見るように、季語でないと思った言葉が歳時記に載っていることがあります。
季語がないつもりでも、歳時記に載っている言葉
ふだんの言葉の中には、歳時記で季語として扱われているものがあります。きごさい歳時記で確かめた例です。
| 言葉 | きごさい歳時記での扱い | 無季のつもりで使うと |
|---|---|---|
| マスク | 三冬の季語 | 一年中つける物として書いても、冬の句として読まれることがある |
| 扇風機 | 三夏の季語 | 夏の句になる |
| 台風 | 仲秋の季語 | 秋の句になる |
| 咳 | 三冬の季語 | 冬の句になる |
| 夜寒/寒き夜 | 夜寒は晩秋。解説では「寒き夜」「夜寒き」は冬の季語と注記されている | 語順を入れ替えるだけで季節が変わる |
季語を含んでいることに気づいたら、その季節の句として読まれてよいか、季語でない言葉に替えるかを決めます。季語の季節と意味の確かめ方は俳句の季語の選び方で扱っています。季語にあたる言葉が二つ入っていた場合は、俳句の季重なりとは?の手順で主役を決め直します。
季語のない句は、川柳なのか
季語がないことだけで、その句が川柳になるわけではありません。辞典では、川柳は「季語や切れ字などの制約はなく」と説明されています(コトバンク「川柳」、デジタル大辞泉)。制約がないというのは、季語を入れなくてよいという意味で、入れてはいけないという意味ではありません。一方で、季語を持たない無季俳句も、俳句の書き方の一つとして辞典に載っています。
つまり、季語の有無だけでは、俳句か川柳かは決まりません。どちらとして書き、どちらの場に出すかは、作者が決めることです。題材や言葉の選び方を含めた二つの違いは、俳句と川柳の違いで作例を使って比べています。
応募・投句の前に、募集が求める形式を確かめる
無季や自由律の句を投句(新聞・雑誌・大会などに句を送ること)するときは、その募集が無季や自由律を受け付けているかを、募集ごとの要項で確かめます。俳句の団体の中にも、さまざまな考え方があります。たとえば現代俳句協会は、協会の紹介で「有季定型で作る人たちのほか有季・無季を問わず定型で作る人さらには口語書きや自由律で作る人までさまざまな俳句観の人たちが集まっています」と書いています(現代俳句協会)。
ところが、募集要項に季語や定型の条件がはっきり書かれているとは限りません。実在の募集を二つ見ると、次のようになっていました。
| 募集 | 要項に書かれていた条件 | 季語・定型・自由律についての記述 |
|---|---|---|
| 第28回NHK全国俳句大会(NHK学園) | 自由題と題詠(題詠は「間」の字を入れる)。未発表・自作に限る | 見当たらない |
| 第62回 関西俳句大会(俳人協会) | 未発表、2句1組で何組でも可 | 見当たらない |
記述がないことは、無季や自由律を受け付けるという意味とも、受け付けないという意味とも読めません。要項で判断できないときは、主催者の問い合わせ先で確かめます。自分で「たぶん大丈夫」と決めないことが大切です。
要項に条件が書かれている場合の読み方を、架空の書き方で整理しておきます。
| 要項の書き方(架空の例) | 無季定型の句 | 自由律の句 |
|---|---|---|
| 「有季定型の作品に限ります」 | 出せない | 出せない |
| 「季語の有無は問いません」 | 出せる | 定型についての記述を別に確かめる |
| 「自由律も可」 | 季語についての記述を別に確かめる | 出せる |
| 「当季雑詠」(今の季節の季語を使った自由な題) | 季語が要ると読める。主催者に確かめる | 季語の要否と形を主催者に確かめる |
| 条件の記述なし | 主催者に確かめる | 主催者に確かめる |
表の判断は、要項の文言から読み取れる範囲の目安です。最終的な可否は、その募集の主催者の案内に従います。
自分の句を二つの軸で点検する
確認表季語のない句・自由律の句の点検
-
季語はあるか。季語でないつもりの言葉を、歳時記で一度引いたか
-
五七五の定型で作ったか、はじめから定型によらずに作ったか(字余りと自由律を混同していないか)
-
季語を抜いた場合、季語が受け持っていた時間や気分を、別の言葉で補ったか
-
具体物が一つ見えるか。感想の言葉で句を閉じていないか
-
自由律の句は、声に出して読み、区切りと区切りのつながりを確かめたか
-
季語がないことだけを理由に、川柳と決めつけていないか
-
出す先の募集要項に、季語・定型・自由律の条件が書かれているか。書かれていなければ主催者に確かめたか
練習同じ場面を三つの形で書く(20分)
- 季節に関係のない場面を一つ選び、具体物と、そこにある時間(何年、何回目、何時など)を書きます。
- まず有季定型で一句作ります。季語は歳時記で季節と意味を確かめます。
- 季語を外し、季語が受け持っていた時間や気分を、手順1で書いた時間の言葉で補って、無季定型の句にします。
- 同じ場面を、声に出して自然な区切りで、五七五によらない自由律の句にします。
- 三つを並べ、それぞれに「季語:あり/なし」「音の形:定型/自由律」を書き込み、何を残したいかで一つを選びます。音数を数えるときはかな入力の音数確認が使えます。
まだ有季定型で一句も作っていない人は、観察メモから最初の一句を作る俳句の作り方で手順を一通り試してから戻ると、季語を外したときに何が変わるかがよく分かります。