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俳句

俳句の推敲のやり方|季語・具体性・助詞を順に確かめる

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この記事の答え

推敲は、まず残したい景を一行で書き出し、それに照らして大きいところから小さいところへ順に確かめます。

  • 1:季語(季節は景と合うか、一つにしぼれているか)
  • 2:主役と具体(「懐かしい」「思い出」など、説明や抽象語で済ませていないか)
  • 3:動詞・助詞・語順(動詞は多すぎないか、助詞と最後の語で焦点が合っているか)
  • 4:声に出して、修正前の句と並べて比べる(直して失ったものがないか)
目次

一句を見直そうとすると、季語が合っているか、説明っぽくないか、「が」と「の」のどちらがよいかが一度に気になり、どこから手をつければいいか分からなくなります。この記事では、三つの架空の初稿を「景のメモ→季語→主役と具体→動詞・助詞・語順→音読」の順に直し、直した箇所、あえて残した箇所、直して失ったものを並べて見せます。読み終えたら、同じ順番で自分の句のどこを直すかを選べます。

直す前に「残したい景」を一行で書く

推敲で起きやすい失敗の一つは、直しているうちに、最初に詠みたかった景から離れてしまうことです。言葉を一つ替えるたびに句の主役が少しずつずれ、気づくと別の句になっています。

それを防ぐために、直す前に景のメモを書きます。句ではなく、普通の文で構いません。

ひな形推敲前の景のメモ

いつ(季節・時刻):
どこで:
見えたもの・聞こえたもの・触れたもの:
いちばん心が動いた一点(句の主役):
句に入れなくてよいこと(事情・理由・前後の出来事):

特に大事なのは「いちばん心が動いた一点」です。推敲の判断は、すべてこの一点に照らして行います。ある言葉を削るか残すか迷ったら、「その言葉は主役を見せる助けになっているか」を聞けば決まります。

推敲は大きいところから小さいところへ進める

推敲の順番を決めておくと、迷いが減ります。助詞を磨いたあとで季語を替えると、磨いた助詞ごと作り直しになるからです。この記事では、次の順で確かめます。

順 確かめること 起きやすい問題
1 季語 季節は景と合うか。季語は一つにしぼれているか 季節違い、季語が二つ、季語の意味を重ねて言う
2 主役と具体 主役は一つか。抽象語や説明で済ませていないか 「懐かしい」「思い出」、理由の「〜ので」
3 動詞 動詞の数と種類は適切か 動詞が三つ、「見る」「思う」、「〜ている」
4 助詞・語順 助詞と最後に置く語で、焦点が合っているか 「が」と「の」、「で」と「に」、結びの語
5 音読と比較 声に出して詰まらないか。初稿より景が見えるか 直して失ったものに気づかない

音数の確かめ方や、字余りを直すか残すかの判断は、俳句の字余り・字足らずで扱っています。この記事では、音数は5の段階で確かめます。

三つの初稿に、この順番を当てはめた結果が次の表です。すべての段階で直す必要はありません。問題がない段階は、そのまま残すのも推敲の判断です。

確かめる順 初稿A(駅の迎え) 初稿B(割烹着) 初稿C(風鈴)
1 季語 「春の夜」と「月」の二語で春の月を言っている(月は単独では秋の季語) → 一語にまとめる 「行く秋」一つで景と合う → 残す 「風鈴」一つで景と合う → 残す
2 主役と具体 メモにある改札が句にない → 足す 「思い出」「懐かしい」で中身が見えない → 直す 店主と風鈴、主役が二つ → 選ぶ
3 動詞 「見上げて」「待つ」の二つ → 一つに 動詞なし → 必要なら足す 「鳴っている」「寝る」と「のに」 → 一つに
4 助詞・語順 場所を「で」で示す 「や」の切れは残す 「が」を「の」に。最後に置く語を決める

初稿A:季語の季節と、句の主役を確かめる

景のメモ:三月の夜、塾帰りの娘を駅まで迎えに行った。改札の上の空に、輪郭のぼやけた月が出ていた。主役は「改札で娘を待っている時間」。

作例・俳句初稿A

春の夜の月を見上げて娘待つ
句よみ音数
春の夜のはるのよの5音
月を見上げてつきをみあげて7音
娘待つむすめまつ5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

1 季語:「月」は単独では秋の季語

「春の夜」は春の季語です。一方、「月」はデジタル大辞泉で秋の季語とされ、精選版日本国語大辞典にも「特に秋の月をさすことが多い」とあります。初稿は「春の夜の月」と続けているので春の月だとは分かりますが、季語にあたる語が二つあり、季節と月を言うだけで上五と中七の頭の八音を使っています。

春の、ぼんやりかすんだ月には、それ自体を表す季語があります。「朧月(おぼろづき)」は春の季語です。「春の夜の月」を「朧月」の一語にまとめると、季語が一つになり、メモにある「輪郭のぼやけた月」もそのまま言えます。しかも上五の五音に収まるので、中七を別のことに使えます。

季語が二つ入った句の見直し方は俳句の季重なりで、景に合う季語の探し方は俳句の季語の選び方で詳しく扱っています。

2 主役と具体:空いた中七に、メモの場所を入れる

景のメモの主役は「改札で待っている時間」でした。ところが初稿には、改札が出てきません。空いた中七に、具体的な場所を入れます。

3 動詞:「見上げて」は月が出れば要らない

初稿には「見上げて」「待つ」と動詞が二つあります。月が句に出てくれば、読む人は自然に空を見上げます。「見上げて」は、季語が見せている動作を言い直しているだけなので削れます。

4 助詞:待つ場所は「で」で示す

「改札口で娘待つ」の「で」は、待つという動作をする場所を示します。「改札口に」にすると「改札口にいる娘を待つ」とも読めて、待つ人の立ち位置がぼやけます。「娘を待つ」の「を」は、動詞のすぐ前なので省いても意味が通ります。

作例・俳句初稿Aの修正案

朧月改札口で娘待つ
句よみ音数
朧月おぼろづき5音
改札口でかいさつぐちで7音
娘待つむすめまつ5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

※「朧月」は春の季語。上五のあとで切れる。

初稿Aで直したこと、残したこと

初稿

春の夜の 月を見上げて 娘待つ

修正案

朧月 改札口で 娘待つ

変更の理由

  • 直した:季語を「朧月」一つにまとめた。「見上げて」を削り、空いた音に場所(改札口)を入れた。
  • 残した:下五の「娘待つ」。迎えに来た親の視点が、この句の芯だから。
  • 失ったもの:「見上げる」という親の動作。ただ、月が出ていれば見上げていることは伝わるので、失って困るものではないと判断した。

主役を変えれば、別の句になります。たとえば、待っていた娘が改札を抜けて手を振った瞬間を主役にするなら、次のような案も考えられます。

作例・俳句初稿Aの別案(主役を手を振る子に)

朧月改札抜けて手を振る子
句よみ音数
朧月おぼろづき5音
改札抜けてかいさつぬけて7音
手を振る子てをふるこ5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

修正案と別案のどちらが正しい、ということはありません。景のメモに書いた主役がどちらなのかで選びます。

初稿B:抽象語と説明を、見えた物に置き換える

景のメモ:十月の終わり、実家を片づけていたら、母の割烹着のポケットから輪ゴムが三本出てきた。台所に立っていた母を思い出した。主役は「ポケットから出てきた輪ゴム」。

作例・俳句初稿B

行く秋や母の思い出懐かしい
句よみ音数
行く秋やゆくあきや5音
母の思い出ははのおもいで7音
懐かしいなつかしい5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

「行く秋」は、過ぎ去ろうとする秋を表す秋の季語です(デジタル大辞泉)。季語は景と合っていて、「や」で切って季節を置く形もはっきりしています。ここは残します。「や」を使うかどうかで迷う場合は、俳句の切れ字「や・かな・けり」の使い方で、切れの位置と効果を比べられます。

問題は中七と下五です。「母の思い出」も「懐かしい」も、作者の中にある気持ちの名前で、読む人には何も見えません。思い出の中身が書かれていないので、読む人は自分の母を思い浮かべるしかなく、作者が見た景に近づけません。

説明になりやすい言葉を見つける

初稿で次のような言葉を見つけたら、その言葉の代わりに「そう感じたきっかけになった物や動作」を書けないか考えます。

説明になりやすい形 例 置き換えの方向
気持ちの形容詞 懐かしい・寂しい・うれしい その気持ちになった物・音・動作を書く
まとめる名詞 思い出・景色・季節・幸せ 何の、どの場面かに分ける
理由・つながり 〜ので・〜から・〜のに 原因と結果のどちらか一方を景で見せる
見る・思う動詞 見上げる・思い出す・感じる 見えた物、思い出した物そのものを書く
季語の意味の言い直し 春風やさしく・秋の暮寂し 季語がすでに持つ感じを重ねて言わない

景のメモを見ると、気持ちの中身は「割烹着のポケットから輪ゴムが出てきた」という一点にありました。それをそのまま句にします。

作例・俳句初稿Bの修正案

行く秋や割烹着から輪ゴム出る
句よみ音数
行く秋やゆくあきや5音
割烹着からかっぽうぎから7音
輪ゴム出るわごむでる5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

※「行く秋」は秋の季語。上五のあとで切れる。

輪ゴムを何本も取っておく暮らしぶり、使い込んだ割烹着、それを片づけている今。「懐かしい」と書かなくても、読む人は自分で懐かしさにたどり着けます。

置き換えて失ったものを確かめる

この修正では「母」という語が消えました。割烹着は、台所に立つ年長の家族を思わせますが、母とは限りません。母であることがどうしても必要なら、「母の割烹着」(はは・の・かっ・ぽう・ぎ)は八音になり、字余りを受け入れるか、季語との組み合わせから考え直すことになります。この判断は作者にしかできません。この記事では、割烹着という具体物のほうが「母」の一語より多くを伝えると考えて、削る方を選びました。

輪ゴムの本数を残したい場合は、次のような別案もあります。

作例・俳句初稿Bの別案(本数を残す)

行く秋や輪ゴム三本割烹着
句よみ音数
行く秋やゆくあきや5音
輪ゴム三本わごむさんぼん7音
割烹着かっぽうぎ5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

修正案は「出てきた瞬間」、別案は「並べて置いた物」の印象になります。

注意抽象語が効く場合もある

抽象的な言葉がいつも悪いわけではありません。ほかの部分がとても具体的な句では、最後に一語だけ置いた気持ちの言葉が、かえって強く響くことがあります。また、「懐かしい」と言うはずの場面で逆の言葉を置く、という使い方もあります。ただし初稿Bのように、句の半分以上が抽象語のときは、まず具体物に置き換えてから、それでも気持ちの言葉が必要かを考える順番にします。

初稿C:動詞・助詞・語順で焦点を合わせる

景のメモ:八月の午後、商店街の金物屋の軒先に風鈴がたくさん吊られていて、風が通るといっせいに鳴った。奥では店のおじいさんが椅子にもたれて居眠りしていた。

作例・俳句初稿C

風鈴が鳴っているのに店主寝る
句よみ音数
風鈴がふうりんが5音
鳴っているのになっているのに7音
店主寝るてんしゅねる5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

「風鈴」は夏の季語(デジタル大辞泉・精選版日本国語大辞典)で、季語は一つ、景とも合っています。気になるのは次の三点です。

  • 「のに」:「鳴っているのに寝ている」と、二つの出来事を理屈でつないでいます。読む人に「おかしいでしょう」と答えを渡してしまう形です。
  • 動詞が二つ:「鳴っている」「寝る」。二つの動作が並ぶと、主役が風鈴なのか店主なのか決まりません。
  • 「〜ている」:「鳴っている」は状態の説明に寄り、音が鳴った瞬間の感じが弱くなります。

景のメモを読み返すと、心が動いた点が二つありました。「いっせいに鳴った音」と「それでも眠っている店主」です。一句に二つの主役は入りにくいので、どちらかを選びます。ここでは両方の案を作ります。

作例・俳句初稿Cの修正案1(音を主役に)

いっせいに風鈴の鳴る金物屋
句よみ音数
いっせいにいっせいに5音
風鈴の鳴るふうりんのなる7音
金物屋かなものや5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

作例・俳句初稿Cの修正案2(店主を主役に)

風鈴の下に居眠る金物屋
句よみ音数
風鈴のふうりんの5音
下に居眠るしたにいねむる7音
金物屋かなものや5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

動詞は一つにし、具体的なものを選ぶ

どちらの案も、動詞を一つにしました。修正案1は「鳴る」、修正案2は「居眠る」です。「居眠る」は、座ったまま眠ることを表す動詞で(精選版日本国語大辞典)、「寝る」より、店番の椅子でうとうとしている姿がはっきりします。動詞を選ぶときは、「歩く」より「踏む」、「寝る」より「居眠る」のように、その場面でしか使わない動詞がないかを探します。

助詞は、つながり方を決める

修正案1では「風鈴が鳴る」を「風鈴の鳴る」に替えました。「が」だと「風鈴が鳴る。」でいったん文が終わりかけますが、「の」にすると「風鈴の鳴る金物屋」と、中七が下五の「金物屋」にかかって一続きになります。音と店が一つの景になります。

修正案2の「下に居眠る」は、「下で居眠る」とも書けます。「で」は居眠りという動作の場所を示し、「に」はそこに居ることを示します。「に」にすると、店主が風鈴と一緒に軒先に吊られた品物の一つのように見えて、少しおかしみが出ます。どちらも文法的には成り立つので、作者が見せたい感じで選びます。

語順は、最後に置く語で決まる

俳句では、最後に置いた語が読み終えたときに残ります。二つの案は、どちらも下五を「金物屋」にしました。金物屋は店の名前であると同時に、そこの店主を指す呼び方でもあります(「八百屋さん」と同じ言い方)。修正案2では、その二重の意味で、眠っているのが店主だと伝えています。初稿の「店主」より、どんな店かまで見える具体的な語です。

初稿Cで直したこと、残したこと

初稿

風鈴が 鳴っているのに 店主寝る

修正案2

風鈴の 下に居眠る 金物屋

変更の理由

  • 直した:理屈の「のに」を削った。動詞を「居眠る」一つにした。「店主」を「金物屋」に置き換えた。
  • 残した:季語の「風鈴」と、店主が眠っているという景。
  • 失ったもの:風鈴が「鳴っている」こと。修正案2では、風鈴は吊られているだけで、音は読む人の想像に任せている。音を残したいなら修正案1を選ぶ。

声に出して、修正前の句と並べて比べる

直し終えたら、最後に修正前の句と並べて読みます。ここで「直したら悪くなった」と気づくこともあります。その場合は、初稿や途中の案に戻してかまいません。推敲は、前に進むだけの作業ではありません。

手順修正前と比べる手順

  1. 初稿と修正案を、上下に並べて書きます。途中の案も消さずに残しておきます。
  2. それぞれを声に出して二回ずつ読みます。つかえる箇所、息が続かない箇所に印を付けます。
  3. 景のメモの「主役」の欄を読み、どちらの句のほうが主役がはっきり見えるかを比べます。
  4. 修正案で失ったものを一行で書きます。失って困るものなら、別の直し方を探すか、初稿に戻します。
  5. できれば一晩置いて、もう一度読みます。直した直後は、自分の頭の中の景で句を補って読んでしまうからです。

確認表俳句を推敲するときの確認表

  • 直す前に、景のメモ(主役の一点)を書いたか
  • 季語は一つにしぼれているか。季節は景と合っているか
  • 季語がすでに持つ感じを、別の言葉で言い直していないか
  • 「懐かしい」「思い出」など、気持ちやまとめの言葉で済ませていないか
  • 「〜ので」「〜のに」で、出来事を理屈でつないでいないか
  • 動詞は多すぎないか。「見る」「思う」など、なくても伝わる動詞はないか
  • 助詞を替えたとき、句のつながり方(切れるか、続くか)がどう変わるか確かめたか
  • 最後に置いた語は、読み終えたときに残したい語か
  • 声に出して読み、音数とつかえる箇所を確かめたか
  • 修正案で失ったものを書き出し、それでも直すほうがよいと判断できたか

確認表を印刷したり、句ごとにチェックした結果を保存したりしたいときは、作品別の推敲チェックが使えます。

音数や季語の有無は、道具や辞書で確かめられます。しかし、二つの案のどちらがよいかを点数で決める方法はありません。AIの添削や採点の結果も、一つの意見として扱い、景のメモに照らして採るかどうかを決めます。