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俳句

俳句の切れ字「や・かな・けり」の使い方|位置と効果を比べる

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この記事の答え

切れ字は音数を埋める飾りではなく、句の中に切れ(間)と詠嘆を作る言葉です。三つは働きと付け方が違います。

  • や:名詞に付けて、その物を取り出し、そこで切る。上五の終わりに置くことが多い
  • かな:句末で、名詞や連体形に付き、一句全体の感動を最後の一点に集める
  • けり:動詞などの連用形に付き、気づきの詠嘆や言い切りの重さで結ぶ(「探しけり」は合い、「探すけり」は合わない)

一句に切れ字を二つ置くと焦点が割れやすいので、足す前に「どこで切りたいか」を決めます。切れ字がなくても切れは作れます。

目次

「や」「かな」「けり」を入れると、それだけで俳句らしく見えます。けれども、置く場所や付け方を誤ると、意味の通らない句になったり、強調が二か所に割れたりします。この記事では、架空の場面「初雪の朝、子どもの長靴を出す」を一つ決め、切れ字の種類と位置を入れ替えた作例で、何が変わるかを比べます。文法の合わない例には、理由と直し方を付けました。

切れと切れ字は別のもの

最初に、二つの言葉を分けておきます。日本伝統俳句協会の入門講座は、「切れ」を「句切れ、意味や内容、リズムの切れ目」、切字を「「切れ」を作るための言葉」と説明しています。

  • 切れ:句の中で、意味やリズムがいったん途切れるところ。読者はそこで一呼吸置き、前後の間を想像で埋める
  • 切れ字:その切れを、はっきり作るための言葉。「や」「かな」「けり」が代表

つまり、切れ字は切れを作る手段の一つです。切れ字を使わなくても、名詞で区切ったり、文を言い切ったりすれば切れは生まれます。

作例・俳句切れ字を使わずに切る

初雪だ子の長靴の片っぽう
句よみ音数
初雪だはつゆきだ5音
子の長靴のこのながぐつの7音
片っぽうかたっぽう5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

「初雪だ」と口語で言い切ったところで、文がいったん終わります。読者はそこで一呼吸置いてから、玄関の長靴へ目を移します。切れ字がなくても、切れはここにあります。

切れ字の歴史は連歌にさかのぼり、室町時代には「十八字」と呼ばれる一覧が定められました(数え方や字は資料によって違いがあります)。一方で、芭蕉は内容から考えて、どの言葉でも切れ字になりうるとしたと伝えられます。現代の辞典でも、切れは特定の切れ字だけで生まれるものではない、と説明されています。切れ字がなければ俳句でない、ということはありません。

そのうえで、「や」「かな」「けり」は、もっともよく使われてきた三つです。『日本大百科全書(ニッポニカ)』の「切字」の項には、次の古典の句が例として挙がっています。

切れ字 古典の例 作者
や 荒海や佐渡に横たふ天の川 松尾芭蕉
かな 富士ひとつうづみ残して若葉かな 与謝蕪村
けり 大根引き大根で道を教へけり 小林一茶

ここからは、自作の作例で働きを比べていきます。

三つの切れ字の違いを先に一覧で見る

比べる点 や かな けり
置く位置 上五の終わりが多い。中七の終わりにも置ける 句末 句末が多い
付く形 名詞に付けることが多い 名詞、活用語の連体形 動詞などの連用形
主な働き その物を取り出し、そこで切って間を作る 一句全体の感動を、最後の一語に集める 気づきの詠嘆や、言い切りの重さで結ぶ
気をつける点 口語の並列「AやB」と紛れる 口語の「〜かな」は疑問に聞こえる 終止形や口語の「た」に付けない

付く形は辞典の説明に沿った一般的な目安です。古語辞典では、「かな」は体言・活用語の連体形に付いて感動・詠嘆を表し、「けり」は動詞・助動詞の連用形に付くとされています。

この記事の作例で使う季語は「初雪」です。きごさい歳時記では初冬の季語で、その冬に初めて降る雪を指し、「初」の字に喜びと、本格的な冬を迎える心構えが込められていると解説されています。

「や」で取り出す:置く位置で焦点が変わる

上五に置く

作例・俳句「や」を上五に

初雪や子の長靴の片っぽう
句よみ音数
初雪やはつゆきや5音
子の長靴のこのながぐつの7音
片っぽうかたっぽう5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

「初雪や」で、まず初雪が取り出され、そこで切れます。外の白い景色を大きく置いてから、視線が玄関の小さな長靴へ移り、それも片方しか見つからない、という順に読めます。「や」の後ろは、初雪とは文法的につながっていません。つながっていないからこそ、読者が二つの間を埋めます。季語に「や」を付けて上五に置く形は、取り合わせでよく使われる組み立てです。

中七に置く

作例・俳句「や」を中七に

初雪に子の長靴や片っぽう
句よみ音数
初雪にはつゆきに5音
子の長靴やこのながぐつや7音
片っぽうかたっぽう5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

今度は「子の長靴や」で切れます。取り出されるのは初雪ではなく長靴です。「初雪に」は長靴を出す場面の説明に回り、強い光は長靴に当たります。

位置 取り出されるもの 読後に残るもの
上五の「や」 初雪(季節の大きな景) 白い外と、玄関の小さな片方の対比
中七の「や」 子の長靴 長靴そのもの。片方という事実が後から添えられる

どちらも成り立ちます。季節の景を大きく見せたいなら上五、物そのものを見せたいなら中七、と考えると選びやすくなります。中七の「や」は、句の真ん中で流れを止めるので、下五が付け足しに聞こえないか、声に出して確かめます。

並列の「や」と取り違える

「や」が切れ字として働かない例

修正前

作例・俳句並列に読まれる「や」

長靴や帽子を出して初雪に
句よみ音数
長靴やながぐつや5音
帽子を出してぼうしをだして7音
初雪にはつゆきに5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

修正後

作例・俳句並べたいなら「や」を使わない

長靴も帽子も出して初雪に
句よみ音数
長靴もながぐつも5音
帽子も出してぼうしもだして7音
初雪にはつゆきに5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

変更の理由

  • 修正前は、「長靴や帽子を出して」と一続きに読め、口語の「長靴や帽子など」という並列に聞こえます。「や」の後ろが同じ動詞「出して」の目的語になっているため、切れが生まれません。
  • 並べることが目的なら、修正後のように「も」で並べ、切れ字は使わないほうが誤解がありません。
  • 切れを作りたいなら、「や」の後ろを別の場面にします(上の「初雪や子の長靴の片っぽう」の形)。

「かな」で詠嘆する:感動を最後に集める

作例・俳句「かな」を句末に

初雪に子の長靴の赤さかな
句よみ音数
初雪にはつゆきに5音
子の長靴のこのながぐつの7音
赤さかなあかさかな5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

「かな」は句の途中で切らず、上五から一続きに流れてきた言葉を、最後の「赤さ」で受け止めて詠嘆します。白い雪の中に置かれた長靴の赤が、句の最後に残ります。「や」が途中で間を作るのに対して、「かな」は句末で一句を締めくくり、余韻を残す働きです。

「かな」が生きるのは、最後の一語に感動を集める価値があるときです。「〜の朝かな」「〜の空かな」のように、何を見ても付けられる語に「かな」を付けると、詠嘆の中身が空になりがちです。

口語の「かな」と文語の「かな」

修正前

作例・俳句疑問に聞こえる「かな」

初雪に子の長靴の赤いかな
句よみ音数
初雪にはつゆきに5音
子の長靴のこのながぐつの7音
赤いかなあかいかな5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

修正後

作例・俳句名詞に付ける

初雪に子の長靴の赤さかな
句よみ音数
初雪にはつゆきに5音
子の長靴のこのながぐつの7音
赤さかなあかさかな5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

変更の理由

  • 現代の話し言葉で「赤いかな」と言うと、「赤いだろうか」という疑問や独り言に聞こえやすくなります。詠嘆のつもりが、長靴の色を迷っているように読まれます。
  • 修正後は「赤さ」という名詞に「かな」を付けました。文語の形容詞の連体形に付けて「赤きかな」とする方法もあります。
  • 口語の句で疑問の「かな」を意図して使うこともできます。その場合は切れ字としての詠嘆ではない、と自分で分かって使います。

「けり」の文法と働き:連用形に付けて言い切る

作例・俳句「けり」を句末に

初雪に子の長靴を探しけり
句よみ音数
初雪にはつゆきに5音
子の長靴をこのながぐつを7音
探しけりさがしけり5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

「けり」は助動詞です。古語辞典では、動詞などの連用形に付き、過去を伝え聞いた話として振り返る意味や、初めて気づいたことを「…たのだなあ」と詠嘆する意味などが説明されています。

俳句の句末では、「探した」と事実を述べるだけでなく、「初雪の日に、自分は子の長靴を探していたのだ」と、行為を振り返って言い切る重さが加わります。去年の冬にしまった長靴を探す、という時間の厚みが、「けり」の一語でにじみます。

「けり」の付け方の誤りと直し方

誤りの例 直した形 理由
探すけり 探しけり 「けり」は連用形に付く。「探す」は終止形なので合わない
探したけり 探しけり(文語)/探してる(口語) 口語の過去「た」と文語の「けり」を重ねている。どちらか一方にそろえる

二つ目の誤りは、下五の音数を整えようとして起きやすいものです。口語で「初雪に子の長靴を探した」と書くと、下五「さがした」は4音で一音足りません。そこを切れ字で埋めようとして「探したけり」とすると、口語の「た」と文語の「けり」が重なり、音数も6音に増えてしまいます。

音数合わせで「けり」を足さない

修正前

作例・俳句音数を埋めるための「けり」

初雪に子の長靴を探したけり
句よみ音数
初雪にはつゆきに5音
子の長靴をこのながぐつを7音
探したけりさがしたけり6音字余り(基準5音)

合計18音(5・7・6)/基準は5・7・5

修正後

作例・俳句口語にそろえる

初雪に子の長靴を探してる
句よみ音数
初雪にはつゆきに5音
子の長靴をこのながぐつを7音
探してるさがしてる5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

変更の理由

  • 修正前は下五が6音で字余りになり、そのうえ口語の「た」と文語の「けり」が重なっています。音数を埋めるために切れ字を足すと、こうした無理が出やすくなります。
  • 修正後は口語にそろえ、「探してる」で今まさに探している場面にしました。文語の重さがほしいなら「探しけり」にします。
  • どちらを選ぶかは、句の調子全体で決めます。他の部分が口語なら口語に、文語なら文語にそろえると落ち着きます。

動詞によって連用形の形は違います(「見る」の連用形は「見」、「落つ」の連用形は「落ち」など)。迷ったら、古語辞典でその動詞の連用形を確かめてから「けり」を付けます。

切れ字を重ねる・足す前に確かめる

一句に二つ置くと、焦点が割れる

切れ字が二つある句を一つにする

修正前

作例・俳句「や」と「かな」が重なる

初雪や子の長靴の赤さかな
句よみ音数
初雪やはつゆきや5音
子の長靴のこのながぐつの7音
赤さかなあかさかな5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

修正後

作例・俳句「や」を残す

初雪や子の長靴の片っぽう
句よみ音数
初雪やはつゆきや5音
子の長靴のこのながぐつの7音
片っぽうかたっぽう5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

作例・俳句「かな」を残す

初雪に子の長靴の赤さかな
句よみ音数
初雪にはつゆきに5音
子の長靴のこのながぐつの7音
赤さかなあかさかな5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

変更の理由

  • 修正前は「初雪や」で一度切れて詠嘆し、「赤さかな」でもう一度詠嘆しています。感動の中心が初雪と赤さの二か所に分かれ、どちらを見ればよいかがぼやけます。
  • 『日本大百科全書』の「切字」の項でも、切れ字は一句に二つ以上あってはいけない「とされている」と、伝統的な考え方として紹介されています。
  • 直し方は、どちらの切れを残すかを選ぶことです。初雪の景を大きく取り出したいなら「や」を、長靴の赤に感動を集めたいなら「かな」を残します。作者が意図して二か所で切る句もありますが、まず一つに絞ると、自分が何に感動したかがはっきりします。

足す前の確認表

確認表切れ字を入れる前に

  • どこで切りたいか(上五のあと/中七のあと/句末)を先に決めた
  • 切れ字がなくても、名詞や言い切りで、すでにそこで切れていないか確かめた
  • 付ける語の形が合っている(「や」は名詞、「かな」は名詞か連体形、「けり」は連用形)
  • 口語と文語が一句の中で混ざっていない(混ぜる場合は理由がある)
  • 一句に切れ字が二つ入っていない
  • 音数を埋めるためだけに付けていない(外しても音数以外に困らないなら、別の言葉を探す)
  • 声に出して読み、切れ字のあとに一呼吸の間がある

最後の項目は、名詞で句を終える形とも関係します。名詞で止めると、そこでも切れと余韻が生まれます。「かな」で結ぶか、名詞で止めるか、動詞で言い切るかの比べ方は俳句の体言止めの使い方で扱っています。

練習自分の句で三通り作って比べる(15分)

  1. 最近作った句を一つ選び、切れ字を外した形に書き直します。
  2. 同じ素材で、「や」を上五に置いた形、「かな」で結ぶ形、「けり」で結ぶ形を作ります。音数はかな入力の音数確認で確かめます。
  3. 三句それぞれについて、「最後に何が残るか」を一行で書きます。
  4. 上の確認表で付け方を点検し、自分が残したいものと一致する一句を選びます。どれも合わなければ、切れ字を使わない形を選んでかまいません。

続けて学びたいとき

切れ字の使い分けは、季語の選び方や句の組み立てと一緒に身につくものです。切れ字そのものより、季語をどう選ぶかで迷う場合は俳句の季語の選び方が先に役立ちます。切れや取り合わせを入門書で順を追って学びたい場合は、作句・鑑賞・季語調べの目的別に俳句の入門書と歳時記で本の選び方を比べています。