本文へ移動
俳句

俳句の体言止めの使い方|余韻と説明の違いを作例で確認する

PRこの記事には広告リンクを含みます。広告と紹介の基準

この記事の答え

体言止めは、句の最後を名詞(体言)で終える形です。辞典では余韻・余情を生む効果があると説明されますが、名詞で止めれば効くわけではありません。

  • 最後の名詞には、読者の目に残したい「見えた物」を置く
  • 「頼もしさ」「日曜日」のように、評価や場面全体を名付ける名詞で止めると、説明の見出しになりやすい
  • 動作で終える案も作って比べ、物の姿を残したいなら名詞、瞬間や動きを残したいなら動詞を選ぶ
目次

末尾を名詞に直したのに、句がかえって説明っぽくなった。体言止めで起きやすいのは、名詞で止めたこと自体ではなく、最後に置いた名詞の選び方の問題です。この記事では、架空の場面「秋の夕方、父が庭で秋刀魚を焼く」を一つ決め、名詞で止める案と動詞で終える案を作って、焦点と余韻の違いを比べます。名詞に説明が集まった失敗例と、その直し方も示します。

体言止めとは:句の最後を名詞で終える形

『デジタル大辞泉』は体言止めを「和歌・俳諧などで、最後の句を体言で終わらせること」とし、「余韻・余情を生じさせる効果がある」と説明しています。体言は名詞のことで、名詞止めとも言います。

国語の授業では、体言止めを、文章や詩歌の中から見つけて名前を答える表現技法の一つとして学ぶことがあります。けれども自分で俳句を作るときに考えたいのは、「名詞で止めるかどうか」より「どの名詞を最後に置くか」です。俳句では季語を下五に置くことも多く、名詞で終わる句はもともと珍しくありません。名詞で終えただけで句が良くなるわけではないのです。

古典の例を一つだけ挙げます。

句 作者・出典 形
閑さや岩にしみ入蝉の声 松尾芭蕉『おくのほそ道』 上五の「や」で切れ、下五の「蝉の声」という名詞で止まる

文の形で見る違い

体言止めの句は、上から下まで言葉が最後の名詞にかかっていき、「〜だ」「〜した」という述語で言い切らないまま終わります。読者は、言われていない述語を自分で補いながら、最後の名詞を見つめることになります。これが余韻の正体です。

反対に動詞で終える句は、「誰が・何が、どうした」と文を言い切ります。動きや出来事が、その瞬間のまま読者に手渡されます。どちらが上ということはありません。残したいものが物の姿か、動きや出来事かで選びます。

同じ景を、名詞で止める案と動詞で終える案にする

作例・俳句名詞で止める案

秋刀魚焼く煙の奥の父の肩
句よみ音数
秋刀魚焼くさんまやく5音
煙の奥のけむりのおくの7音
父の肩ちちのかた5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

作例・俳句動詞で終える案

秋刀魚焼く煙の奥で父笑う
句よみ音数
秋刀魚焼くさんまやく5音
煙の奥でけむりのおくで7音
父笑うちちわらう5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

季語は「秋刀魚」です。きごさい歳時記では晩秋の季語で、脂が多く塩焼きにして食べる、秋を代表する魚と解説されています。二句の違いは、中七の助詞一字(「の」と「で」)と下五だけです。

比べる点 名詞で止める案 動詞で終える案
文の形 「秋刀魚焼く煙の奥の」が全部「父の肩」にかかる。述語がない 「父」が主語、「笑う」が述語。文として言い切る
最後に残るもの 煙の向こうに見える父の肩(静かな姿) 父の笑い声と表情(動き)
句の時間 止まった一枚の絵 動いている一瞬
読者が補うもの 肩から見える父の年齢、背負ってきたもの 父がなぜ笑ったのか、誰と話しているのか

名詞で止める案は、煙で輪郭のぼやけた肩だけが残り、父について何も説明していないのに、読者は父の年月まで想像できます。動詞で終える案は、煙の奥から聞こえる笑い声で場面が明るくなり、家族の会話が聞こえてきます。同じ景でも、句が見せる父の姿はずいぶん違います。

最後の名詞に、主役の物を置く

体言止めでは、最後の名詞がそのまま句の主役になります。同じ場面でも、最後に置く名詞を替えると主役が入れ替わります。

作例・俳句最後の名詞を替えた案

煙たつ網の上なる秋刀魚の目
句よみ音数
煙たつけむりたつ5音
網の上なるあみのうえなる7音
秋刀魚の目さんまのめ5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

今度は父の姿が消え、網の上の秋刀魚の目に焦点が絞られました。焼けて白く濁っていく魚の目は、季語の秋刀魚をよく見たときにしか書けない細部です。

最後の名詞 句の主役 読後に残るもの
父の肩 焼いている人 父の姿と、過ぎてきた年月
秋刀魚の目 焼かれている魚 網の上の小さな生々しさ

「秋刀魚の目」のように季語を含む名詞で止めると、季節と細部が最後に重なって残ります。「父の肩」のように季語でない名詞で止める場合は、季語を上五に置いて先に季節を示しておくと、最後の名詞がその季節の光や空気の中に置かれます。どちらの形も、俳句ではよく使われます。

最後の名詞を選ぶときは、次の二つを確かめます。

  • 目で見える物か、触れられる物か。見える物で止めると、読者の頭の中に像が残ります。
  • その名詞まで、の・の・のと長くつながりすぎていないか。「秋刀魚焼く煙の奥の父の肩」は「の」が二つで収まっていますが、さらに重ねると、最後の名詞にたどり着くまでに焦点がぼやけます。

名詞が説明の見出しになる場合

名詞で止めても余韻が出ないのは、その名詞が句の中身をまとめた見出しになっているときです。見出しになりやすい型を二つ挙げます。

評価や気持ちを名詞にして止める

評価の名詞から、見えた物へ

修正前

作例・俳句評価の名詞で止めた句

秋刀魚焼く父の背中の頼もしさ
句よみ音数
秋刀魚焼くさんまやく5音
父の背中のちちのせなかの7音
頼もしさたのもしさ5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

修正後

作例・俳句見えた物で止めた句

秋刀魚焼く煙の奥の父の肩
句よみ音数
秋刀魚焼くさんまやく5音
煙の奥のけむりのおくの7音
父の肩ちちのかた5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

変更の理由

  • 「頼もしさ」は名詞ですが、中身は作者の評価です。「父は頼もしい」と説明しているのと同じで、読者が感じるはずのことを先に言ってしまっています。
  • 修正後は、頼もしいと感じたもとになった「煙の奥の父の肩」で止めました。頼もしいと感じるか、老いを感じるかは読者に任せています。
  • 「懐かしさ」「美しさ」「さびしさ」など、形容詞から作った名詞で止めたときは、それが評価の見出しになっていないかを疑います。ただし「白さ」「冷たさ」のように、目や肌で確かめられる性質なら、見えた物の代わりとして働くこともあります。

場面全体に名前を付けて止める

場面の名前から、動作へ

修正前

作例・俳句場面に名前を付けた句

秋刀魚焼く父と二人の日曜日
句よみ音数
秋刀魚焼くさんまやく5音
父と二人のちちとふたりの7音
日曜日にちようび5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

修正後

作例・俳句動作で終えた句

秋刀魚焼く父と二人で煙たがる
句よみ音数
秋刀魚焼くさんまやく5音
父と二人でちちとふたりで7音
煙たがるけむたがる5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

変更の理由

  • 「日曜日」は、場面全体に付けた題名のような名詞です。「父と二人の日曜日」は、日記の見出しや写真の説明文として読めてしまい、何が起きたかは見えません。
  • 修正後は動詞で終え、父と二人で煙に顔をしかめている様子を書きました。並んで同じ動作をしている姿から、二人の距離が伝わります。
  • 「思い出」「風景」「帰り道」「休日」なども、場面の題名になりやすい名詞です。ただし、前の十二音に具体的な物があり、その名詞が意外な時間や場所を示す場合は、見出しにならずに効くこともあります。
見出しになりやすい名詞 確かめる問い
頼もしさ・懐かしさ・美しさ それは作者の評価か。評価のもとになった物は何か
日曜日・休日・帰り道 場面の題名になっていないか。その日らしさを示す物は句にあるか
思い出・風景・光景 句全体を言い換えただけではないか

体言止めと切れの関係

体言止めは、句末を言い切らずに名詞で止めるので、そこが一つの切れになります。上五で「や」を使って切り、下五を名詞で止める形は、芭蕉の「閑さや」の句のように古くから見られる組み立てです。切れ字の使い分けは俳句の切れ字の使い方で比べています。

注意したいのは、名詞で止める箇所が句の途中にも重なる場合です。

名詞の塊が三つ並んだ句を、一つにつなぐ

修正前

作例・俳句三か所で止まる句

夕暮や秋刀魚の煙父の肩
句よみ音数
夕暮やゆうぐれや5音
秋刀魚の煙さんまのけむり7音
父の肩ちちのかた5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

修正後

作例・俳句一続きで最後に止まる句

秋刀魚焼く煙の奥の父の肩
句よみ音数
秋刀魚焼くさんまやく5音
煙の奥のけむりのおくの7音
父の肩ちちのかた5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

変更の理由

  • 修正前は「夕暮や」「秋刀魚の煙」「父の肩」と、名詞の塊が三つ並び、それぞれで止まっています。一般に三段切れと呼ばれる形で、三つの関係をすべて読者に預けることになり、焦点が散りやすくなります。
  • 修正後は「秋刀魚焼く煙の奥の」と助詞でつなぎ、最後の「父の肩」一か所で止めました。視線が煙を抜けて肩へ届く順番が、言葉の順番と一致します。
  • 名詞を並べて画面を切り替える効果をねらう句もあります。その場合は、三つの名詞の関係が読者に見えるかを、声に出して確かめます。

別の結びへ直す

名詞で止めて説明っぽさが消えないとき、動詞で終えて落ち着かないときは、結び方そのものを替えてみます。同じ場面で、作者自身の体の反応を残したい場合は、文語の「けり」で言い切る方法もあります。

作例・俳句「けり」で結ぶ案

秋刀魚焼く父の煙に噎せにけり
句よみ音数
秋刀魚焼くさんまやく5音
父の煙にちちのけむりに7音
噎せにけりむせにけり5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

「噎せ」は文語の動詞「噎す」の連用形で、「にけり」は「〜てしまったことだ」に近い言い切りです。主語が父から作者に移り、煙を浴びて咳きこむ自分の体が句に残ります。

結び 作例 残るもの
名詞 煙の奥の父の肩 父の静かな姿
動詞(口語の終止形) 煙の奥で父笑う 父の笑い声と動き
動詞(口語) 父と二人で煙たがる 並んで同じ動作をする二人
けり 父の煙に噎せにけり 作者の体の反応と、言い切りの重さ

名詞で止めるのと、名詞に「かな」を付けるのとでは何が違いますか

「かな」は詠嘆を表す切れ字で、最後の名詞に「…だなあ」という作者の感動をはっきり乗せます。名詞だけで止める場合は、感動を言葉にせず、物をそこに置いて終わります。感動の向きを読者に示したいなら「かな」、物だけを差し出して読者に感じ取ってほしいなら名詞止め、と考えると選びやすくなります。「かな」の付け方は切れ字の記事で扱っています。

手順結びを選ぶ手順

  1. 句を読み終えたとき、読者に残したいものを一語で書く(例:父の肩、笑い声、自分の咳)。
  2. それが物の姿なら名詞で、動き・音・変化なら動詞で終える案を作る。
  3. もう一方の結びの案も必ず作り、二つを声に出して読み比べる。
  4. 結びを替えると音数が変わることがあるので、かな入力の音数確認で数える。字余りになった場合に残すか直すかは俳句の字余り・字足らずで判断できる。

確認表体言止めにする前の確認表

  • 最後の名詞は、目で見える物か、触れられる物か
  • 最後の名詞が、作者の評価や気持ち(頼もしさ・懐かしさ等)を名詞にしたものではない
  • 最後の名詞が、場面全体の題名(日曜日・思い出・風景等)になっていない
  • その名詞まで「の」が続きすぎていない
  • 句の途中にも名詞で止まる箇所が重なり、三か所で切れていない(意図がある場合を除く)
  • 動詞で終える案も作り、比べたうえで名詞を選んだ

練習自分の句で結びを三通り作る(15分)

  1. 名詞で終わっている自作の句を一つ選びます。
  2. 最後の名詞が、見えた物か、評価・題名の名詞かを確認表で調べます。
  3. 同じ場面で、最後の名詞を別の物に替えた案と、動詞で終える案を作ります。
  4. 三つの案それぞれについて「最後に何が残るか」を一行で書き、残したいものと一致する案を選びます。