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俳句

秋の俳句の作り方|秋の季語と光・音・変化を具体的に詠む

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この記事の答え

秋の句は「寂しい」「しみじみ」と書く前に、その夜、その道で見えた光・聞こえた音・人の動きを一つ選ぶと具体的になります。

  • 俳句の秋は立秋(8月7日ごろ)から立冬の前日(11月7日ごろ)まで。立秋後の暑さは秋の季語「残暑」、名月は旧暦八月十五日の月
  • 蟋蟀のように寂しさを本意に持つ季語もあれば、夜長・爽やかのように明るい気分の季語もある。秋を寂しさに決めつけない
  • 季語がすでに伝えていること(月の明るさ、虫の寂しさ、実が落ちて匂うこと)は十二音で言い直さず、そのまわりの人や物の動きを書く
目次

秋の句を作ろうとすると、「寂しい」「しみじみ」「もの悲しい」が先に浮かび、どの句も同じ気分の説明になってしまう。秋の季語には、それだけで寂しさを読む人に渡すものがあるので、同じ気分を言葉でもう一度言うと、句の中に見える物がなくなります。この記事では、俳句の秋の範囲を確かめたうえで、架空の三場面(名月の夜の歩道橋、夜の台所、朝の銀杏並木)を使い、光・音・実りの観察から一句にするまでを見せます。

俳句の秋は、8月の暑さから始まる

NPO法人季語と歳時記の会が公開している「きごさい歳時記」の「秋の季語」一覧は、秋の季語を次の区分で並べています。日付は同じ歳時記の立秋・白露・寒露・立冬の項にある目安で、年によって一日ほど前後します。

区分 二十四節気での範囲 新暦の目安 季語の例(きごさい歳時記の区分)
初秋 立秋から白露の前日まで 8月7日ごろ〜9月7日ごろ 残暑、鈴虫、鉦叩
仲秋 白露から寒露の前日まで 9月8日ごろ〜10月7日ごろ 名月、十六夜、葡萄
晩秋 寒露から立冬の前日まで 10月8日ごろ〜11月7日ごろ 銀杏、栗、紅葉
三秋 秋の全体 8月7日ごろ〜11月7日ごろ 月、蟋蟀、夜長、爽やか、秋風、露

残暑と名月は、暦で確かめる

暮らしの感覚とずれやすいのが、秋の初めの暑さと、名月の日付です。

8月の暑さは「残暑」で詠みます。きごさい歳時記の「残暑」は初秋の季語で、立秋を過ぎたあとの暑さを言い、八月いっぱいごろまで暑い日が続くと説明されています。傍題に「秋暑し」もあります。お盆のころの猛暑を「暑し」(夏の季語)で書くと、句は立秋前の夏として読まれます。暑さが秋の言葉になるのは意外に感じますが、印象で決めずに歳時記の区分に合わせます。

名月は、旧暦八月十五日の月です。きごさい歳時記の「名月」(仲秋)の解説では、旧暦と月齢が一致しないので満月とは限らないこと、2009年は新暦の十月三日だったことが書かれています。辞典でも、旧暦八月十五日と決まっているので秋分の近くの十五夜の月になる、と説明されています(コトバンク「中秋の名月」、世界大百科事典)。新暦の日付は毎年変わるので、名月を句にするときは、その年の暦で日付を確かめます。

注意区分と実際の時期がずれるとき

虫の鳴き始めや実の熟す時期は、地域や年で違います。実際に見た時期が区分と少しずれていても、秋の季語を秋の場面に使うこと自体は問題ありません。気をつけたいのは、残暑・名月のように暦で時期が決まる時候や天文の季語です。区分の示し方や見出しの言葉は歳時記によって違うことがあるので、句会や投稿先が歳時記を指定していればそれに合わせます。

秋の季語は、寂しさだけを持っているわけではない

秋の句が寂しさの説明になりやすいのは、秋の季語の中に、蟋蟀や秋の暮のように寂しさを長く担ってきた言葉があるからです。ただ、秋の季語がすべて寂しいわけではありません。きごさい歳時記の解説から、季語ごとの気分(本意)の違いを並べてみます。

季語 区分 解説に書かれた気分
蟋蟀 三秋 家の片隅など身近な所で鳴く。鳴き声を聞くと寂しく、秋の風情をしみじみ感じさせる
夜長 三秋 秋の夜の長いこと。涼しくなった夜が長くなるのを喜ぶ気持ち。読書や夜業に身が入る
爽やか 三秋 さらりと乾いた秋風から、心地よい秋の気分全般へ

蟋蟀を季語にすれば、「寂しい」と書かなくても寂しさは読む人に届きます。反対に、夜長や爽やかを使えば、同じ秋の夜でも、くつろいだ気分や晴れやかな気分の句になります。秋を寂しさに決めつけず、場面の気分に合う季語を選ぶこと、そして季語が持っている気分を十二音で言い直さないことが、この記事の二つの柱です。季語の本意の読み方は俳句の季語の選び方で詳しく扱っています。

光・音・実りの三つに分けて観察する

秋の観察は、目に入る光、耳に入る音、手や足で触れる実りの三つに分けると、場面を選びやすくなります。

観察の対象 見つけ方の問い 季語の例(きごさい歳時記)
光 月や夕日を、誰がどこから見ていたか。灯りはいつ点いたか 月・秋の日・釣瓶落し(三秋)、名月・十六夜(仲秋)
音 何が、いつ鳴り始め、いつ止んだか 蟋蟀(三秋)、鈴虫・鉦叩(初秋)、秋風(三秋)
実り 落ちた実、店先の実のまわりで、人はどう動いたか 栗・銀杏(晩秋)、葡萄(仲秋)、稲(三秋)
身近な変化 窓、上着、夜の過ごし方は先月と変わったか 夜長・爽やか・身に入む(三秋)、残暑(初秋)

架空の観察メモ

九月から十月にかけて書いた、という設定のメモです。

作例観察メモ(架空・九月下旬〜十月中旬)

[名月の夜・駅前の歩道橋]帰り道、歩道橋の上で、知らない人が三人、同じ方を見上げて立っていた。自分も立ち止まり、同じ方を向いた。月は駅ビルの上に出ていた。
[十月上旬・夜・台所]寝る前に台所の灯を消すと、どこかでこおろぎが鳴きだす。灯をつけると止む。消すと、また鳴く。
[十月中旬・朝・駅までの歩道]銀杏並木の下に、黄色い実がたくさん落ちている。においがする。通勤の人がみんな、そこだけ爪先で歩いていく。
感想:秋はなんとなく寂しい。月がきれいだった。季節が進んだ。

季語と区分を確かめる

季語 区分・分類 解説の要点 メモとの合い方
名月 仲秋・天文 旧暦八月十五日の月。傍題に十五夜、今日の月、望月など 名月の夜の場面
蟋蟀(こおろぎ) 三秋・動物 草地や暗い所、家の片隅で鳴く。傍題にちちろ、ちちろ虫など 十月上旬、台所で鳴く
銀杏(ぎんなん) 晩秋・植物 黄色く熟す丸い実。落ちると臭気を発し、触れるとかぶれることがある。傍題に銀杏の実 十月中旬(晩秋)、歩道に落ちた実

銀杏は、きごさい歳時記ではこの季語の読みを「ぎんなん」としています。木の名前の「いちょう」と読まれると別の景になるので、作例では仮名で書きます。

光:名月そのものより、見上げる人を書く

最初の場面は名月の夜です。「月がきれい」「しみじみ」という感想から書いた初稿と比べます。

抽象的な初稿から、見上げる人の向きを書いた句へ

感想で書いた初稿

作例・俳句初稿:しみじみ

名月や心しみじみ秋の夜
句よみ音数
名月やめいげつや5音
心しみじみこころしみじみ7音
秋の夜あきのよる5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

歩道橋の上の人を書いた句

作例・俳句作例1:歩道橋

名月へ見知らぬ人と同じ向き
句よみ音数
名月へめいげつへ5音
見知らぬ人とみしらぬひとと7音
同じ向きおなじむき5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

※季語:名月(仲秋)

変更の理由

  • 初稿の「心しみじみ」は気持ちの説明で、何を見てそう感じたのかが分かりません。「秋の夜」も三秋の季語なので、名月と季語が二つ並び、どちらも「秋の夜」という同じ時間を言っています。
  • 修正後は、月の姿を一言も書いていません。月が丸い、明るい、美しいということは、名月という季語が受け持ちます。十二音には、メモの「知らない人と同じ方を向いていた」だけを入れました。
  • 歩道橋で立ち止まった見知らぬ人どうしが、同じ一つの月のほうを向いている。その景から、少しの照れくささや、声をかけない連帯のようなものが伝わります。寂しさとは別の、この夜にしかなかった気分です。
  • 「名月や」と切る形でも成り立ちます。「名月へ」とすると、人の体の向きが月へ引かれていく動きが出ます。

音:寂しさは季語に任せ、鳴り方を書く

二つ目の場面は、夜の台所のこおろぎです。

寂しさを言った初稿から、鳴き始める瞬間を書いた句へ

寂しさを書いた初稿

作例・俳句初稿:さびしき夜長

こおろぎの声のさびしき夜長かな
句よみ音数
こおろぎのこおろぎの5音
声のさびしきこえのさびしき7音
夜長かなよながかな5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

灯を消す動作と鳴き声を書いた句

作例・俳句作例2:台所の灯

こおろぎや灯を消すとまた鳴きはじめ
句よみ音数
こおろぎやこおろぎや5音
灯を消すとまたひをけすとまた7音
鳴きはじめなきはじめ5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

※季語:蟋蟀(三秋)

変更の理由

  • 初稿には、蟋蟀と夜長の二つの季語があります。しかも、蟋蟀の解説にある「鳴き声を聞くと寂しく」を「声のさびしき」で言い直し、きごさい歳時記が夜長の解説に挙げる「長い夜を喜ぶ気持ち」とは逆の気分を重ねています。季語二つと説明の言葉が、互いに打ち消し合っている状態です。
  • 修正後は、メモにある「灯を消すと鳴き、つけると止む」という一点だけを書きました。灯を消した台所の暗さ、寝る前の静けさ、こおろぎと人だけが起きている夜が、読む人に見えます。
  • 寂しいと書いていないので、読む人によっては、こおろぎが話し相手のようにも感じられます。季語の本意は残しながら、句の気分を一つに押しつけない書き方です。
  • 寂しさをはっきり出したい句なら、言葉で言わずに「ひとり分の皿」のような物を一つ置く手もあります。感想を物に置き換えるという考え方は同じです。

実り:季語の説明をやめ、そのまわりの動きを見る

三つ目の場面は、銀杏並木の歩道です。ここでは、季語と十二音の距離を見直します。

季語の説明になった句から、人の動きを書いた句へ

季語の説明になった初稿

作例・俳句初稿:匂い

ぎんなんの落ちて匂いの立つ歩道
句よみ音数
ぎんなんのぎんなんの5音
落ちて匂いのおちてにおいの7音
立つ歩道たつほどう5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

通勤の人の足どりを書いた句

作例・俳句作例3:爪先

ぎんなんの歩道をみんな爪先で
句よみ音数
ぎんなんのぎんなんの5音
歩道をみんなほどうをみんな7音
爪先でつまさきで5音

合計17音(5・7・5)/俳句の基準どおり

※季語:銀杏(晩秋)

変更の理由

  • 初稿の「落ちて匂いの立つ」は、きごさい歳時記の解説(落ちると臭気を発する)とほとんど同じです。季語と十二音の距離がなく、銀杏の実を知っている人には新しい発見がありません。
  • 修正後は、実そのものではなく、実の落ちた歩道を通る人たちの足どりを書きました。「爪先で」から、においや踏みたくない気持ち、皆がそろって同じ歩き方になるおかしさが伝わります。においという言葉を使わずに、においのある景になっています。
  • 秋の実りの句は、寂しさとは関係なく、こうしたおかしみのある句にもなります。
  • 反対に、季語と十二音を離しすぎると、読む人が二つのつながりを見つけられなくなります。距離の測り方は俳句の取り合わせとは?で、季語の物を見つめて深める作り方は一物仕立ての俳句の作り方で扱っています。

三句の記録

句 観察の種類 季語・区分 よみと音数
名月へ見知らぬ人と同じ向き 光(月を見る人) 名月(仲秋)/きごさい歳時記 めいげつへ/みしらぬひとと/おなじむき(5・7・5)
こおろぎや灯を消すとまた鳴きはじめ 音(鳴き始める瞬間) 蟋蟀(三秋)/きごさい歳時記 こおろぎや/ひをけすとまた/なきはじめ(5・7・5)
ぎんなんの歩道をみんな爪先で 実り(まわりの動き) 銀杏(晩秋)/きごさい歳時記 ぎんなんの/ほどうをみんな/つまさきで(5・7・5)

三句とも「寂しい」「秋」を使っていません。それでも、一句目は人と人の距離、二句目は夜の静けさ、三句目はおかしみと、それぞれ違う秋の気分が出ています。読みをかなで入力して音数を確かめたいときはかな入力の音数確認が使えます。

秋の句を見直す確認表

確認表秋の句の見直し

  • 「寂しい」「しみじみ」「もの悲しい」を、見えた物・聞こえた音・人の動きに置き換えられないか
  • 季語の本意(蟋蟀の寂しさ、名月の明るさ、銀杏の実のにおい)を、十二音で言い直していないか
  • 名月と秋の夜、蟋蟀と夜長のように、同じ時間や気分の季語を二つ並べていないか
  • 場面の気分と季語の本意が合っているか。くつろいだ夜を寂しさの季語で書いていないか
  • 立秋(8月7日ごろ)以降の暑さを、夏の「暑し」で書いていないか(秋は「残暑」)
  • 名月の句は、その年の旧暦八月十五日を確かめたか
  • 読みが二通りある季語(銀杏など)の読みを、歳時記で確かめたか
  • 読みをかなで書き、五・七・五を数えたか

練習秋の夜に、光・音・動きを一行ずつ書く(15分)

  1. 夜、窓辺か帰り道で5分間、光(月・灯り)、音(虫・物音)、人や物の動きを一行ずつ書きます。
  2. 感想の欄を別に作り、「寂しい」「きれい」などの言葉はそちらに書きます。
  3. 三行のうち、その夜にしかなかったものを一つ選びます。
  4. 季語を歳時記で引き、区分と解説の気分を確かめます。季語の解説に書いてあることは、十二音に入れない言葉として印を付けます。
  5. 一句にしたら、確認表で見直します。

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