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執筆環境・原稿

スマホで小説を書く方法|入力・保存・推敲から原稿の書き出しまで

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この記事の答え

スマホだけでも小説は書き始められます。ただし、どこへ出すか(投稿サイトか、公募のファイルか)を先に決め、その形式で取り出せるかを最初の一場面で確かめておきます。

  • 入力は短い単位で区切り、区切るたびに保存と字数を確かめる
  • 一日の終わりに、別の端末やアプリを開き直して最後の一文が残っているかを見る
  • 推敲は、場面の中の文はスマホで、全体の構成は大きな画面や紙で見る
  • 提出前に、指定の形式で書き出したファイルを実際に開き、改行・ルビ・記号が崩れていないかを確かめる
目次

通勤の電車や寝る前の数分で書けるのが、スマホで小説を書く強みです。一方で、書き上げてから「応募に必要な形式で取り出せない」「ルビが記号のまま残った」と気づくこともあります。この記事では、架空の短編『終バスの窓』の一場面を使って、出し先を決めるところから、入力・保存・推敲・書き出し・提出形式の確認までを順にたどります。

機種やアプリの版によって操作が違うため、特定の機種でのタップの順番は載せていません。

書き始める前に、出し先と形式を決める

スマホで書いた原稿をどこへ出すかによって、最後に必要な形が変わります。最初に決めておくと、使うアプリや書き方を選べます。

出し先 求められる形 スマホで先に確かめること
投稿サイト サイトの入力欄に本文を入れる。ルビや傍点はサイトごとの記法で書く 使うサイトの記法。アプリで付けたルビが貼り付けで消えないか
Web応募の公募 応募要項が指定するファイル(.docx、.txtなど) 使うアプリでその形式を書き出せるか。スマホから応募フォームに添付できるか
印刷・読み直し用 PDF 縦書きや判型を選べるか
電子書籍 EPUBなど 書き出せても、それだけで電子書籍が完成するわけではない

公募の形式は賞ごとに違います。たとえば集英社短編小説新人賞の応募要項はWord(.docx)かテキスト(.txt)を指定し、長さは400字詰め原稿用紙25〜30枚相当で、400字詰めの設定の書式で長さを確かめるよう求めています。新潮社の「女による女のためのR-18文学賞」の応募要項はテキスト形式(.txt)を指定し、原稿の冒頭に題名・枚数・氏名・連絡先などを書くよう求めています。どちらも応募はWebのフォームです。応募する回の要項で、形式を先に確かめてください。

電子書籍として公開したい場合は、書き出したファイルのほかに表示の確認などの工程があります。その流れは小説を電子書籍にする方法で扱っています。

一場面を入力して、改行と字数を確かめる

形式が決まったら、使うアプリで一場面だけ書いてみます。長い原稿を書き進めてから問題に気づくより、最初の一場面で確かめるほうが直す量が少なくて済みます。次は、架空の短編『終バスの窓』の一場面です。

作例『終バスの窓』場面3(架空・約300字)

終バスの窓に、自分の顔が映っていた。
 隣の席の少年は、さっきから膝の上で単語帳をめくっている。表紙の端に、マジックで「ハルト」と書いてある。
「降りる停留所、過ぎてない?」
 声をかけると、少年は顔を上げずに首を振った。
「終点まで」
「終点って、鴇ヶ谷の車庫だよ」
「知ってる」
 少年は単語帳を閉じ、窓の曇りに指で小さな丸を描いた。丸の向こうを、シャッターの下りた商店街の灯りが流れていく。
 わたしは、自分が十五のときにも、こうして終点まで乗ったことがあるのを思い出した。帰りたくなかった理由は、もう覚えていない。

*

「車庫から家まで、歩いて帰れるの」
「二十分」
 少年は、そこで初めてこちらを見た。

入力したら、次の点を見ます。

  • 字下げ:地の文の行頭に全角の空白を入れるか。会話の行は入れないか。提出先の書式や、投稿サイトでの表示に合わせて決める
  • 空行と場面の区切り:場面の区切りを空行にするか、「*」などの記号を置くか。空行は書き出したときに消えたり増えたりすることがあるので、あとで書き出して確かめる
  • 字数:アプリの字数表示を控える。空白や改行を数えるかどうかはアプリによって違うので、比べるときは文字数・段落数カウンターに同じ本文を貼って、同じ数え方でそろえる

短い単位で区切って入力する

スマホでは、一度に長く書くより、短い単位で区切って書き、区切るたびに保存されたかを確かめるほうが失敗を見つけやすくなります。人物名や地名(作例なら「鴇ヶ谷」)、よく使う記号(――、……)は、キーボードのユーザー辞書(単語登録)に入れておくと、変換の手間と誤変換が減ります。登録のしかたは機種やキーボードのヘルプで確かめてください。

スマホで短く区切って入力すると、一文ごとに改行してしまうことがあります。地の文がすべて一文一行になっていないか、段落の切れ目が意図どおりかも見ておきます。

一文ごとに改行した段落を、段落にまとめる

一文ずつ改行した入力

少年は単語帳を閉じた。
 窓の曇りに指で小さな丸を描いた。
 丸の向こうを、商店街の灯りが流れていく。

段落にまとめた形

少年は単語帳を閉じ、窓の曇りに指で小さな丸を描いた。丸の向こうを、シャッターの下りた商店街の灯りが流れていく。

変更の理由

  • スマホの画面では一文一行のほうが読みやすく見えますが、原稿用紙やWordの縦書きに移すと、行頭の字下げが続いて間延びして見えることがあります。
  • 動作の続きは一つの段落にまとめ、場面の視点や時間が変わるところで段落を変えると、どの画面でも区切りが伝わります。
  • 投稿サイトに載せる作品で、スマホでの読みやすさを優先して短く改行する書き方を選ぶこともできます。その場合も、公募用の原稿とは改行の扱いを分けて考えます。

長くなった原稿の中を移動し、表記をそろえる

場面が増えると、スマホの小さな画面では目的の箇所までスクロールするのが大変になります。原稿の持ち方を決めておきます。

持ち方 よいところ 気をつけること
一つのファイルに全部 書き出しが一度で済む。全体の字数がすぐ分かる 移動に手間がかかる。場面の頭に目印を置き、検索で飛ぶ
場面・章ごとに別のファイル 開くのが速く、移動しやすい 提出前に一つにまとめる手間がある。順番を取り違えない名前にする

一つのファイルで書く場合は、場面の頭に「◆3」のような本文で使わない目印を入れておき、検索で目印を探して移動します。提出前には目印を消すか、場面の区切りの記号に置き換えます。

表記の揺れ(「わたし」と「私」、「ハルト」と「はると」など)は、検索と置換でそろえます。置換は一括で行わず、一つずつ確かめながら進めます。会話の中だけ別の表記にしている箇所まで変えてしまうことがあるからです。検索・置換が使えるかどうかはアプリによって違うので、アプリを選ぶ段階で試しておきます。

保存されたかを、別の端末で確かめる

自動で保存するアプリでも、「保存されたつもり」で失うことがあります。書き終えるたびに、次の順で確かめます。

手順一日の終わりの保存の確認

  1. アプリを閉じて開き直す:最後に書いた一文が残っているかを見る。
  2. 別の端末で開く:同期するアプリなら、PCやタブレットで同じ原稿を開き、最後の一文が同じかを見る。
  3. 接続のない場所で書いた日は特に確認する:電波の届かない場所で書いた分が、接続が戻ったあとに反映されているかを見る。
  4. 節目には別の場所へコピーする:初稿が書き上がった日などに、日付を入れた名前でコピーを作る。

同期は便利ですが、一台で消した内容がほかの端末にも広がります。たとえばiCloud Driveでは、ファイルを一台の端末で削除すると、同じApple Accountでサインインしているすべての端末から削除されます。同期のほかに、節目の版を別の場所に残す方法と、誤って消したときの戻し方は小説原稿のバックアップ方法で扱っています。

スマホで読み直して推敲する

スマホの画面は、一度に見える範囲が狭い分、一文一文に目が届きやすい画面です。反対に、場面の順番や全体の長さの釣り合いは見えにくくなります。見るものを分けます。

スマホで見ること 大きな画面や紙で見ること
一文の長さ、語尾の偏り、同じ言葉の重なり 場面の順番、要らない場面、足りない場面
会話のテンポ、会話の話し手が分かるか 全体の長さの配分(山場に字数を使っているか)
誤字・脱字、変換の誤り 縦書きにしたときの見え方、ページの区切り

スマホで推敲するときは、一場面ずつ区切って読みます。前の場面の最後の数行から読み始めると、つながりの不自然さに気づきやすくなります。アプリに文字の大きさや表示(縦書きのプレビューなど)を変える機能があれば、変えて読むと、書いたときとは違う目で読めます。

全体の構成を見直す段階では、PCで開くか、PDFにして読みます。スマホだけで最後まで仕上げることもできますが、構成の見直しだけは画面の大きい端末や紙を使うと、場面の並びを一度に見渡せます。

練習スマホで一場面を推敲する(15分)

  1. 書いた原稿から一場面を選び、前の場面の最後の三行から読み始める。
  2. 読みながら、気になった箇所に「【?】」と印だけ付ける(その場では直さない)。
  3. 読み終えたら、印の箇所を「文の長さ」「語尾」「誤変換」「その他」に分け、「その他」以外を直す。
  4. 「その他」に残ったもの(場面の順番、説明の過不足など)は、修正メモに書き写し、大きな画面で見直す日に回す。

原稿を書き出して、実際に開く

ここまでの作業を、提出用のファイルにつなげます。スマホで書いた原稿が提出できる形になるまでの流れは、次のとおりです。

段階 スマホでの作業 確かめること
1 入力 短い単位で入力し、場面の頭に目印を置く 改行・空行・字数
2 移動・置換 目印を検索して移動し、表記の揺れを一つずつ置換する 置換しすぎていないか
3 保存 閉じて開き直し、別の端末で開く 最後の一文が同じか
4 書き出し 出し先の指定する形式(.docx、.txt、PDFなど)で書き出す ファイル名と形式
5 開いて確認 書き出したファイルを、提出先と同じ形式を開くアプリで開く 改行・ルビ・記号・冒頭の記載事項
6 提出 応募フォームに添付する、またはサイトの入力欄に貼る 受付完了の表示や確認メール、公開前の表示(ある場合)

アプリによって、書き出せる形式は違います。同じアプリでも、端末によって違うことがあります。たとえばGoogleドキュメントでは、Android版のアプリはDOCX・EPUB・RTF・TXT・PDF・ODT・ウェブページ(zip形式のHTML)に書き出せ、iPhone・iPad版はDOCXかPDFとして書き出せます。iPhone・iPad版のヘルプにはTXTへの書き出しの記載がないため、.txt指定の公募に出す場合は、テキスト形式で書き出せる別の道具を用意します(たとえばAppleのPagesは、TXTへの書き出しに対応しています)。

このように、スマホのアプリ一つで、どの提出形式でも作れるとは限りません。書き出しが足りない部分は、PCのWordで整える、別のアプリで書き出すなど、最後の工程だけほかの道具を使う方法もあります。

書き出したら、必ず開いて確かめます。

確認表書き出したファイルを開いて確かめること

  • ファイルが開け、文字化けしていない
  • 段落・改行・空行が、スマホで書いたときと同じ位置にある
  • 字下げの全角空白が残っている(または意図どおり消えている)
  • ダッシュ(――)や三点リーダー(……)が別の記号に変わっていない
  • ルビ・傍点が、提出先の書き方になっている
  • 場面の目印(◆3など)が残っていない
  • 字数が、書き出す前と大きく違わない
  • 公募なら、冒頭の題名・氏名などの記載事項が要項どおり

提出先ごとに、ルビ・縦書き・形式の扱いを確かめる

ルビ(ふりがな)の書き方は、出し先によって違います。カクヨムと小説家になろうの欄は、各サイトのヘルプにある記法です。

出し先 ルビの書き方 気をつけること
カクヨム 「|親文字《るび》」。親文字が漢字だけなら「|」を省ける。親文字は20字、ルビは50字まで。傍点は《《 》》で囲む 改行をまたぐと無効。ルビと傍点は同時に使えない
小説家になろう 「|親文字《るび》」(|は全角・半角どちらでも)。漢字の親文字にひらがな・カタカナのルビなら「|」を省け、()でもルビになる。親文字は1〜10字、ルビは10字まで 読みを()で書いたつもりがルビになることがある。避けるには(の直前に「|」を置く
Word(.docx) ふりがなの機能で付ける アプリで付けたルビが、書き出した.docxで残っているかを開いて確かめる
テキスト(.txt) テキスト形式には文字の書式が保存されない ルビを付けたいときは、応募要項や主催者の案内で書き方を確かめる

作例の「鴇ヶ谷(ときがや)」にルビを付ける場合、「ヶ」が漢字として扱われるかどうかは、どちらのヘルプにも書かれていません。カクヨムで「鴇ヶ谷《ときがや》」とだけ書くと、「ヶ」が漢字と見なされなければ、直前の漢字だけの部分である「谷」にしかルビが付かないおそれがあります。漢字以外の字を含む語は、「|鴇ヶ谷《ときがや》」と「|」から書いておくと、どちらのサイトでも親文字の範囲がはっきりします。

アプリのルビ機能で付けたルビは、投稿サイトの入力欄に貼り付けると消えることがあります。投稿サイトに載せる作品は、最初からサイトの記法で書いておくと、貼り付けたあとの手直しが減ります。Wordで付けるルビや、投稿サイトとWordの両方に出す場合の書き分けは小説原稿のルビ・傍点の付け方で扱っています。

縦書きや、一行の字数・一ページの行数の指定は、スマホのアプリの見え方ではなく、提出するファイルの設定で合わせます。.docxで縦書きや字数・行数を指定されている場合の設定はWordで小説原稿を整える方法で、PDFで出す場合の確認は小説原稿をPDFにする方法で扱っています。

確認表スマホ執筆の入力・保存・出力の確認表

  • 【出し先】投稿サイトか公募か、提出の形式(.docx・.txt・PDF・サイトに貼る)が決まっている
  • 【入力】一場面を入力し、字下げ・空行・字数を確かめた
  • 【入力】人物名・地名・よく使う記号をユーザー辞書に入れた
  • 【移動】場面の頭の目印か、場面ごとのファイルの名前の付け方を決めた
  • 【保存】アプリを閉じて開き直し、別の端末でも最後の一文が同じだった
  • 【保存】節目の版を、日付入りの名前で別の場所に残した
  • 【推敲】一場面ずつの推敲はスマホで、構成の見直しは大きな画面か紙で行う
  • 【出力】指定の形式で書き出し、そのファイルを開いて崩れがないか確かめた
  • 【形式】ルビ・傍点を出し先の書き方にそろえた

まだ一作も書き上げていない場合は、この流れを意識しすぎず、まずは短い一作を最後まで書いてみてください。題材の決め方から初稿を書き切るまでの手順は小説の書き方で扱っています。