小説の設定と創作メモを整理する方法|本文と資料を迷わず管理する
PRこの記事には広告リンクを含みます。広告と紹介の基準
この記事の答え
設定メモは量を増やすより、どの設定を本文のどこで使ったかを追える形にします。
- メモを「アイデア・仮案・確定・出典」に分け、本文に書いた設定だけを「確定」に移す
- 人物表・時系列表・章一覧の各行に、使った場面の印(例:【2-1】)を書き、本文の場面の頭にも同じ印を置く
- 設定を変えたら、時系列表の「使う場面」と本文の検索で直す箇所を集め、場面ごとに直し方を決める
目次
人物の年齢、出来事の年、町の地理。書き進めるほど設定は増え、本文を書きながら「あの人は何歳だったか」とメモを探す時間が増えていきます。この記事では、架空の長編『潮見坂写真館』を例に、メモを分類し、人物表・時系列表・章一覧を本文の場面と結びつける管理のしかたを示します。後半では、設定を一つ変えたために矛盾した二つの場面を使って、どのメモと本文を直すかを順に追います。
メモを「アイデア・仮案・確定・出典」に分ける
設定のメモが散らばる原因の一つは、思いつきと決定事項が同じ場所に混ざっていることです。メモを四つに分けます。
| 分類 | 入れるもの | 例(『潮見坂写真館』) | 本文との関係 |
|---|---|---|---|
| アイデア | 思いついた断片。使うかどうか分からないもの | 暗室の赤い光の中で、主人公が写真を見て泣く場面 | まだ本文と関係しない |
| 仮案 | 使うつもりだが、まだ決めていない設定 | 冬子の弟は、港で姿を消したのではないか | 本文では触れないか、ぼかしておく |
| 確定 | 本文に書いた、または書くと決めた設定 | 古賀家の家族写真を撮ったのは1978年8月 | 本文と一致させ続ける |
| 出典 | 調べた事実の出どころ | 1978年8月の天気を調べた資料 | 本文の根拠。あとで確かめ直す |
大事なのは、本文に書いた時点で「確定」に移すという決まりです。頭の中で決めただけの設定は、まだ仮案です。こうしておくと、確定の欄を見れば「本文と食い違ってはいけないこと」が一覧でき、仮案の欄は自由に書き換えられます。
アイデアの欄は、整理しなくてかまいません。使うかどうか分からないものに分類や項目を付けると、その作業だけで時間が過ぎます。
短編なら、確定と仮案の表一枚で足りる
『潮見坂写真館』は、最初は場面が四つの短編として書かれた、という想定です。短編のときの設定は、次の表一枚で足りていました。
| 項目 | 確定した内容 | 本文の場所 |
|---|---|---|
| 主人公 | 葉山澪(はやま みお)、29歳、港町の写真館の三代目 | 場面1 |
| 依頼人 | 古賀冬子(こが ふゆこ)、78歳。47年前に撮った家族写真の焼き増しを頼みに来る | 場面1 |
| 写真 | 1978年8月の撮影。右端の少年(冬子の弟)だけが目を閉じている | 場面2 |
| 結末 | 澪がネガの中から、弟が目を開けている別のカットを見つけて焼く | 場面4 |
| 仮案 | 弟はその後、行方が分からなくなった(短編では書かない) | — |
短編は場面が少なく、全体を一度に読み返せます。この程度の表があれば、人物表や時系列表を別に作る必要はありません。表が要るのは、作品が長くなり、一度に読み返せなくなってからです。
人物・世界・時系列は、最小の項目から始める
短編を長編に書き直すと、人物が増え、過去の出来事が何年にわたるようになります。ここで三つの表を作りますが、項目は最小限から始めます。人物の目的や弱点の決め方はキャラクター設定の作り方で、世界のルールの決め方と見せ方は小説の世界観の作り方で扱っています。この記事で作る表は、それらで決めた内容を本文と食い違わないように保管するためのものです。
人物表:本文に書いた事実と、その場面
| 名前(読み) | 生年・年齢 | 関係・立場 | 本文に書いた事実(場面) |
|---|---|---|---|
| 葉山澪(はやま みお) | 1996年生。物語の現在29歳 | 写真館の三代目 | 左利き【1-1】。暗室が苦手【3-2】 |
| 葉山宗一(そういち) | 1953年生。2022年に死去 | 二代目。澪の祖父 | 1976年に写真館を継ぐ【4-1】 |
| 古賀冬子(こが ふゆこ) | 1947年生。物語の現在78歳 | 依頼人 | 家族写真の焼き増しを頼む【1-2】 |
| 古賀晴生(はるお) | 1961年生 | 冬子の弟。1979年に行方不明 | 写真の右端で目を閉じている【2-1】 |
「本文に書いた事実」の欄には、性格の説明ではなく、本文に一度書いたら変えられない具体的なこと(年齢、利き手、口癖、呼び方など)を、書いた場面の印と一緒に入れます。
世界・場所のメモ:本文で使った分だけ
| 項目 | 確定した内容 | 本文の場所 |
|---|---|---|
| 町 | 架空の港町「潮見」。写真館は潮見坂の中ほど | 【1-1】 |
| 写真館 | 一階が撮影室、二階に暗室。窓から港が見える | 【1-1】【3-1】 |
| 港まで | 写真館から坂を下って歩いて10分ほど | 【5-1】 |
町の歴史や人口のように、本文で使わない設定は書かなくてかまいません。書いた場面が増えたら、その分だけ行を足します。
時系列表:年ごとの出来事と、そのときの年齢
| 年月 | 出来事 | そのときの年齢 | 使う場面 |
|---|---|---|---|
| 1976年 | 宗一、写真館を継ぐ | 宗一23 | 【4-1】【7-3】 |
| 1978年8月 | 古賀家の家族写真を撮影 | 宗一25・冬子31・晴生17 | 【2-1】【2-3】【7-3】 |
| 1979年 | 晴生、行方が分からなくなる | 晴生18 | 【2-3】【6-2】 |
| 2022年 | 宗一、死去 | 宗一69 | 【1-1】 |
| 2025年10月 | 冬子が焼き増しを頼みに来る(物語の現在) | 澪29・冬子78 | 【1-2】 |
年齢の欄は、生年から計算して入れます。登場人物の年齢がずれる矛盾は、この欄を作っておくと見つけやすくなります。「使う場面」の欄は、あとで設定を変えるときに、直す場面を集める手がかりになります。
長編は章一覧を作り、場面に印を付ける
長編では、どの章で何が起き、どの設定を使ったかを一覧にします。筋そのものの組み立て方は小説のプロットの書き方で扱っています。ここで作る章一覧は、筋を決めるためではなく、設定と本文の場所を結ぶための表です。
| 章 | 起きること | 使う設定 | 状態 |
|---|---|---|---|
| 1 | 冬子が焼き増しを頼みに来る | 写真館、冬子、宗一の死 | 初稿済み |
| 2 | ネガを探し、写真の中の晴生に気づく | 1978年8月の撮影、晴生 | 初稿済み |
| 3 | 暗室で焼き付けを試す | 暗室、澪が暗室を苦手とすること | 初稿済み |
| 4 | 父から、祖父が店を継いだころの話を聞く | 宗一が継いだ年 | 初稿済み |
| 5 | 冬子と港へ行く | 港までの道、潮見の町 | 初稿済み |
| 6 | 晴生がいなくなった日のことを聞く | 1979年の出来事 | 初稿済み |
| 7 | 宗一の撮影台帳を見つける | 台帳、1978年8月の記録 | 初稿済み |
| 8〜10 | 仮案のみ | — | 未着手 |
本文の側では、場面の頭に章と場面の番号を入れた印(【2-1】【2-3】など)を置きます。印は本文で使わない記号にしておくと、検索ですぐに見つかります。提出前に印を消すのを忘れないよう、確認表に入れておきます。
場面の順番を入れ替えたくなったときも、この章一覧の上で先に動かしてみると、使う設定の順番に無理がないかを確かめられます。場面の順番と描写の量の見直し方は小説のテンポが悪いときの直し方で扱っています。
資料と本文を行き来する
本文を書いている途中で、調べないと書けない事実に出会うことがあります。そのたびに手を止めて調べると、書く流れが途切れます。
手順本文と資料を行き来する手順
- 本文に印を置いて先へ進む:調べることを【要確認:1978年8月の潮見の天気】のように書き、続きを書く。
- 調べる時間をまとめて取る:一日の終わりなどに【要確認】を検索して集め、まとめて調べる。
- 出典を記録する:調べた資料、調べた日、使う場面を出典の表に書く。
- 確定の表と本文を直す:調べた結果を本文に反映し、【要確認】の印を消す。本文に書いた事実は確定の表にも移す。
出典の表は、次のような形にします。架空の町でも、モデルにした地域の天気や月の満ち欠けを確かめておくと、場面の描写に迷いが減ります。
| 調べたこと | 資料(発行者) | 使う場面 |
|---|---|---|
| 1978年8月、モデルにした港町に近い観測地点の日ごとの天気 | 過去の気象データ検索(気象庁) | 【2-1】【7-3】 |
| 撮影した日の夜の月の満ち欠け | こよみの計算(国立天文台 暦計算室) | 【6-2】 |
気象庁の「過去の気象データ検索」では、都府県・地方と地点を選び、年・月・日を指定して、日ごとや1時間ごとなどの値を表示できます。国立天文台の暦計算室の「こよみの計算」では、各地の日の出入りや月の出入り、月の満ち欠け・月齢などを計算できます。地点や年によって残っているデータの種類が違うこともあるため、どの地点・期間の値を見たかも控えておきます。どちらも、何を調べたかと、調べた日を記録しておけば、後で確かめ直せます。
調べた結果を本文にどこまで書くかは別の問題です。資料で分かったことをすべて書く必要はなく、場面に要る分だけを使います。
設定を変えたら、影響する場面を表で追う
設定は、書いている途中で変わります。変えること自体は問題ではありません。問題になるのは、変えた設定と、すでに書いた本文が食い違ったまま残ることです。
例:祖父が店を継いだ年を変える
第8章を構想しているうちに、作者は新しい筋を思いつきました。「宗一は1981年まで地元の新聞社の写真部に勤めていて、1979年に晴生がいなくなった日に港の写真を撮っていた」という筋です。この筋を使うために、宗一が写真館を継いだ年を1976年から1981年に変更しました。
すると、1978年8月の家族写真を撮ったのは宗一ではなく、初代の葉山清(宗一の父)ということになります。すでに書いた本文のうち、次の二つの場面がこの変更と食い違います。
作例【2-1】の本文(変更前に書いたもの)
「撮ってくれたのは、まだ若いお祖父さんだったわ。二十五かそこらの」
冬子は写真の縁を指でなぞった。
作例【7-3】の本文(変更前に書いたもの)
台帳の一九七八年八月の欄に、祖父の右上がりの字があった。〈古賀様 家族四名 撮影 宗一〉。
直す場面を集める手順
手順設定の変更から、直す場面を集める
- 変更を記録する:変更の記録に「宗一が写真館を継いだ年 1976年→1981年。理由:第8章の新聞社の筋」と日付を書く。
- 時系列表で影響する行を探す:1976年の行を1981年に直し、その行に関係する行(1978年8月の撮影者、継いだときの年齢)を探す。
- 「使う場面」から印を集める:関係する行の「使う場面」欄から【4-1】【7-3】【2-1】【2-3】を集める。
- 本文を検索して漏れを拾う:「継い」「お祖父さん」「宗一」「二十三」「一九七六」などの語で本文を検索し、表に書いていなかった箇所を拾う。
- 場面ごとに直し方を決める:直す、そのまま残す(人物の記憶違いとして意味を持たせる)、変更そのものを取り消す、のどれにするかを決める。
- 表を更新する:直した本文に合わせて、人物表・時系列表の「本文に書いた事実」と「使う場面」を書き換える。
手順3で集めた場面と、手順4の検索で見つかった場面を一つの表にまとめます。
| 場面 | 今の本文 | 変更後に食い違う点 | 直し方 |
|---|---|---|---|
| 【2-1】 | 冬子「撮ってくれたのは、まだ若いお祖父さん」 | 1978年に撮ったのは初代の清 | 冬子の台詞を直す(下の修正例) |
| 【2-3】 | 写真の日付と晴生の年齢 | 食い違いなし | 直さない(確かめたことだけ記録) |
| 【4-1】 | 父「親父は二十三で店を継いだんだ」 | 継いだのは28歳 | 「二十八で」に直し、新聞社にいたことを一言足す |
| 【7-3】 | 台帳〈撮影 宗一〉 | 撮影者は清 | 〈撮影 清〉に直し、余白に宗一の字の書き込みを足す |
【4-1】は時系列表の「使う場面」には入っていましたが、「二十三」という年齢を台詞で書いていたことは、検索で初めて気づいた、という想定です。表だけに頼らず、本文の検索を組み合わせるのはこのためです。
【2-1】冬子の台詞を、変更後の設定に合わせる
変更前の設定で書いた台詞
「撮ってくれたのは、まだ若いお祖父さんだったわ。二十五かそこらの」
冬子は写真の縁を指でなぞった。
変更後の設定に合わせた台詞
「撮ってくれたのは、あなたのひいお祖父さん。横で息子さんがレフ板を持ってたわね。新聞社の腕章をしたまま」
冬子は写真の縁を指でなぞった。
変更の理由
- 撮影者を初代の清に直し、同時に「宗一は新聞社に勤めていた」という新しい設定を、第8章より前にさりげなく見せる場所として使いました。
- 冬子が宗一を撮影者だと思い込んでいた、という形で元の台詞を残す方法もあります。その場合は、第7章の台帳で読者と澪が記憶違いに気づく流れにし、記憶違いであることを確定の表に書いておきます。
- どちらにするかは物語の都合で決めます。大事なのは、選んだ直し方を表に記録し、本文と表が同じ内容を指している状態に戻すことです。
設定の変更に限らず、書き上げた原稿全体で年齢や時系列、出来事の食い違いを点検したい場合は、次の記事の点検表が使えます。
整理に時間をかけすぎない
設定の表は、本文を書くための道具です。表を整えること自体が目的になると、本文が進まなくなります。次の決まりを作っておきます。
要点整理に時間をかけすぎないための決まり(例)
- 最初に作る表は、確定(世界・場所のメモを含む)・人物・時系列・章一覧・出典の五つまで。新しい表は、同じことを本文で二回以上調べ直したときだけ作る
- 表に書くのは、本文に書いたことと、これから書くと決めたことだけ。空欄があってかまわない
- 表を更新するのは、書いた日の終わりの5分。その日に本文で確定した事実だけを写す
- 仮案は消さずに仮案の欄に残す。決める期限(例:第8章を書く前)を書いておく
- 一週間のうちで、表の作業が本文を書く時間より長くなったら、表の作業を止めて本文に戻る
表やメモをどのアプリで管理するかは、使っている執筆の道具しだいです。原稿と一緒に人物や世界観の資料を置ける執筆アプリもあれば、文書や表計算のファイルで十分な場合もあります。道具の選び方は小説を書くアプリ・ソフトを比較で、資料のファイルを原稿と一緒に保存し、版を残す方法は小説原稿のバックアップ方法で扱っています。
最後に、ここまでの表をまとめたひな形です。必要な欄だけを使ってください。
ひな形設定ノートのひな形(必要な欄だけ使う)
【確定】 項目|内容|本文の場所(場面の印)|決めた日 【仮案】 内容|使うかもしれない場面|決める期限 【アイデア】 (自由に書く。整理しない) 【人物】 名前(読み)|生年・年齢|関係・立場|本文に書いた事実(場面の印) 【時系列】 年月|出来事|そのときの年齢|使う場面 【章一覧】 章|起きること|使う設定|状態(未着手・執筆中・初稿済み) 【出典】 調べたこと|資料(発行者・書名またはURL)|調べた日|使う場面 【変更の記録】 日付|変えた設定(前→後)|理由|直した場面
確認表設定ノートの点検(週に一度)
-
本文に書いた設定が、「確定」に移っている
-
人物の年齢が、生年と時系列表の年から計算した値と合っている
-
本文に残っている【要確認】の印を、すべて調べるか、仮案に戻した
-
変更の記録にある設定の変更について、直した場面が書いてある
-
提出前に、本文の場面の印(【2-1】など)を消す予定を入れた