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小説

小説の設定矛盾の見つけ方|時系列・人物・出来事を表で点検する

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この記事の答え

矛盾は「本文のある文」と「別の文や設定」の食い違いです。本文から事実を抜き出して時間・所在と移動・知った時点・道具のルールの四つの表に並べ、行どうしを照らすと見つかります。

  • 表には必ず「どの場面のどの文か」を写し、食い違った文を特定できるようにする
  • 見つけたら、時刻表や地理など後の場面でも使う設定を基準に残し、直す側の文と、その事実に頼っている文をまとめて直す
  • 人物の記憶違いや嘘など、意図した食い違いには読者に分かる印を付ける。表を作ったあと、直した場面を通して読み直して完了にする
目次

長い原稿を読み返していて、「この人はまだこのことを知らないはずでは」「この時刻にここにいるのは無理では」と気づく。読者に指摘される前に、そうした食い違いを自分で見つけるには、記憶に頼って読み返すより、本文の事実を表に抜き出して並べるほうが確実です。この記事では、わざと矛盾を入れた独自の三場面を使い、時間・移動・知った時点・道具のルールの四つの表を作って六つの食い違いを特定し、どちらを残すか決めて直すまでを示します。読み終えたら、自作の原稿で「どの文とどの設定が食い違うか」を指させるようになります。

矛盾の種類と、見つける表を決める

設定の矛盾とは、本文のある文が、別の文や作者の決めた設定と同時には成り立たない状態です。この記事では、次の四つに分けて探します。

種類 食い違いの例 見つける表
時間 曜日・時刻・年数・年齢が場面ごとに合わない 時間表
所在と移動 移動にかかる時間が足りない。同じ時刻に二か所にいる 所在と移動の表
知った時点 まだ聞いていない情報を、人物が話したり使ったりしている 知った時点の表
能力・道具・物 能力や道具の決まり、物の状態や特徴が場面によって変わる ルールと状態の表

次の二つは、矛盾とは分けて扱います。

  • 未回収の伏線:先に置いた物や謎が、最後まで使われずに終わること。文どうしは食い違っていないので、矛盾ではありません。点検のしかたは小説の伏線の張り方と回収で扱っています。
  • 意図した食い違い:人物の嘘、記憶違い、語り手の思い込みなど、作者がわざと書いた食い違い。誤りではありませんが、読者が誤植と区別できる印が必要です(後で例を示します)。

作例:食い違いを入れた三つの場面

次の三場面は、この記事のために作った架空の物語です。島に住む高校二年生の西尾実花が、本土の病院に入院した祖母へ届け物をする一日を書いています。作者の設定資料には、次のことが書いてあります。

作例作者の設定資料(架空)

千代島(ちよじま)と本土の戸浦(とうら)を結ぶフェリー。所要25分。
島発 7:10/10:40/14:20/17:50
戸浦発 8:30/12:00/15:40/18:30(最終)
戸浦港から市民病院まで、道路距離1.6km。
祖父・西尾正造は六年前に死去。
物語の現在は九月の第二土曜日。

本文の三場面です。読む前に、いくつ食い違いがあるか数えてみてください。

作例場面1 島の家(土曜の朝)

電話が鳴ったのは、朝の七時を少し過ぎたころだった。
「ばあちゃん、ゆうべ戸浦の病院に運ばれた。台所で転んで、足の骨にひびが入ったって」
 兄の圭吾の声は、店の冷蔵庫のうなりにまぎれて聞き取りにくかった。
「俺は店を開けなきゃならん。お前、昼前の便で行ってくれ。茶箪笥の帳面を持ってきてほしいってさ」
 実花は茶箪笥の引き出しを開けた。紺色の表紙の帳面が、祖父の眼鏡ケースの下にあった。祖父が亡くなって六年、眼鏡ケースはずっと同じ場所にある。
 充電器はどこを探しても見つからなかった。スマートフォンの電池は、残り一割を切っていた。

作例場面2 市民病院(昼前)

十時四十分の便に乗り、病院に着いたのは十一時前だった。
 祖母は四人部屋の窓際で、ギプスをはめた足を毛布から出していた。
「月曜の手術、怖くない?」
 実花が聞くと、祖母は「この年で怖いもんかね」と笑った。
「帳面は」
 実花は鞄から赤い表紙の帳面を出した。祖母はそれを胸に抱えて、しばらく黙っていた。
 話の途中で、スマートフォンの画面が暗くなった。電池が切れたのだ。

作例場面3 病院から港へ(夕方)

三時を過ぎたころ、看護師の森田さんが点滴を替えに来た。
「お孫さん? 手術は月曜の朝になりますからね。前の晩から食事は止めます」
 実花はうなずいた。
 帰りぎわ、祖母が言った。「おじいさんが死んで、もう十年になるねえ」
 港まで歩きながら、実花は時計を見た。十六時の船に乗れば、夕飯には間に合う。
 待合所のベンチに座ると、スマートフォンが震えた。兄からだった。〈店閉めたら港まで迎えに行く〉

三場面、千字に満たない文章でも、読み流すと気づきにくい食い違いがあります。ここから四つの表で探します。

時間表を作る

最初に、本文に出てくる時間の言葉をすべて抜き出します。「ゆうべ」「昼前」「六年」のような相対的な言葉も、物語の現在を基準に具体的な日時に直して並べます。直さないと比べられません。

本文の言葉 場面 具体的な日時に直すと 照らす相手 判定
朝の七時を少し過ぎたころ 1 土曜 7:05ごろ — 問題なし
ゆうべ運ばれた 1 金曜の夜 — 問題なし
祖父が亡くなって六年 1 六年前に死去 設定資料「六年前」 一致
十時四十分の便に乗り 2 島発 10:40 時刻表 一致
病院に着いたのは十一時前 2 10:59以前 移動の表で確かめる 要確認
月曜の手術 2 二日後の月曜 知った時点の表で確かめる 要確認
三時を過ぎたころ 3 15:00過ぎ — 問題なし
おじいさんが死んで、もう十年 3 十年前に死去 場面1「六年」 食い違い
十六時の船 3 戸浦発 16:00 時刻表(15:40/18:30) 食い違い

時間表で直接見つかったのは二つです。祖父の死の年数が場面1と3で違うこと、そして時刻表にない十六時の船です。「十一時前」と「月曜の手術」は、時間表だけでは判断できないので、ほかの表に回します。

時間の食い違いを探すときは、次の言葉を原稿の中で検索すると、抜き出し漏れが減ります。

  • 時刻・曜日・日付・季節の言葉(〜時、〜曜、〜月、夏休み など)
  • 相対的な言葉(昨日、ゆうべ、今朝、さっき、〜前、〜後、翌日、来週、去年 など)
  • 年数・年齢・回数(〜年ぶり、〜歳、〜回忌、三度目 など)

人物の所在と移動を確かめる

次に、人物が「いつ、どこにいたか」と、場所の間の移動にかかる時間を並べます。移動時間は、本文の時刻と比べられるように最短でも何分かかるかを出します。

区間 手段 かかる時間 根拠
千代島港 → 戸浦港 フェリー 25分 設定資料(架空の時刻表)
戸浦港 → 市民病院 徒歩 約20分 道路距離1.6km ÷ 80m/分
市民病院 → 戸浦港 徒歩 約20分 同上

場面2の実花は、10:40に島を出て、11:05に戸浦港に着き、そこから歩けば病院に着くのは早くても11:25ごろです。「十一時前」には着けません。これで一つ目の食い違いが確定しました。

時刻 実花の所在(本文から) 前の所在からの移動 判定
7:05ごろ 島の家 — 問題なし
10:40 島発のフェリー 家から港(本文に記述なし) 問題なし
10:59以前 市民病院 最短でも11:25ごろ着 食い違い
15:00過ぎ 病室 — 問題なし
16:00より前 戸浦港の待合所 病院から約20分 移動は可能。ただし乗る船がない(時間表)

移動時間の根拠を、資料で決めておく

この作例の島とフェリーは架空なので、時刻表と所要時間は作者が決めた設定です。架空の条件は、設定資料に「架空」と書いて、本文の側はそれに従わせます。

実在の場所を舞台にする場合は、距離を実際の地図で確かめます。国土地理院の地理院地図には、距離を計測する機能があります。徒歩の時間は、不動産広告の表示のルール(不動産の表示に関する公正競争規約施行規則)が、道路距離80メートルにつき1分として計算し、1分未満は切り上げると定めているので、目安として使えます。ただしこれは広告の表示のための基準です。坂道、荷物、子どもや足の悪い人との移動では、もっとかかると考えるのが自然です。人物に合わせて「この人なら何分」と決めたら、その数字も設定資料に書いておきます。

誰がいつ何を知ったかを表にする

三つ目の表は、情報ごとに「誰が、どの場面で、誰から知ったか」と「その人が初めてその情報を使った場面」を並べます。使った場面が、知った場面より前にあれば矛盾です。

情報 知った人 知った場面・相手 初めて使った場面 判定
祖母が転んで入院した 実花 場面1・兄の電話 場面1 問題なし
帳面を持ってきてほしい 実花 場面1・兄の電話 場面2 問題なし
手術が月曜にある 実花 場面3・看護師 場面2(「月曜の手術、怖くない?」) 食い違い
手術の前の晩から食事を止める 実花 場面3・看護師 — 問題なし

場面1の兄の電話には、手術の話が出てきません。実花が手術の日を知るのは場面3の看護師の言葉なのに、場面2で先に口にしています。作者は全部の設定を知っているので、書いているときには気づきにくい種類の矛盾です。

この表は、読者の側でも作れます。「読者がこの情報を知るのはどの場面か」を同じ形で並べると、まだ読者に見せていない事実を、語り手が知っている前提で書いていないかを確かめられます。語り手や視点人物が知り得ないことが混ざる問題は、小説の視点がぶれるときの直し方で扱っています。

能力・道具のルールと、物の状態を書き出す

四つ目の表には、場面をまたいで続く決まりと状態を並べます。ファンタジーの魔法の制約もここに入りますが、現代の物語でも、電池の残り、乗り物の時刻表、怪我の程度、物の色や形など、続いている状態はたくさんあります。

決まり・状態 決めた場面 使った場面 判定
フェリーの時刻表 設定資料 場面2(10:40)、場面3(16:00) 場面3が食い違い
スマートフォンの電池 場面1(残り一割)、場面2(切れる) 場面3(兄からの通知が届く) 食い違い
帳面の表紙の色 場面1(紺色) 場面2(赤い表紙) 食い違い
祖母の足の怪我 場面1(骨にひび) 場面2(ギプス) 問題なし
実花が時刻を知る手段 決めていない 場面3(「時計を見た」) 要決定

最後の行は矛盾ではありませんが、表に書いて初めて分かったことです。電池が切れたあとの実花は、どの時計を見たのでしょうか。腕時計を持っているのか、待合所の時計なのか。決めていないことは、次に書く場面で食い違いの元になるので、ここで決めておきます。

どちらを残すか決めて、影響範囲ごと直す

四つの表で見つかった食い違いは、次の六つです。直す前に、それぞれどちらの事実を基準に残すかを決めます。迷ったときは、次の順で考えます。

  1. 後の場面でも使う決まり(時刻表、地理、能力の制約)は残す
  2. 物語の核に関わる事実(筋が変わってしまう方)は残す
  3. 外の事実(実在の地理・暦・移動時間)と合う方を残す
  4. それでも決まらなければ、直す文の少ない方を残す
食い違い 残す事実 直す文 直したことで影響が出る箇所
病院に十一時前に着く 時刻表と徒歩20分 場面2「十一時前」 場面2のほかの時刻(なし)。昼食の時刻を後で書くなら11:25以降に
手術の日を先に知っている 手術は月曜 場面2の実花の台詞 場面3の看護師の台詞(同じ情報の繰り返しにならないか)
帳面の色 紺色(最初に書いた方) 場面2「赤い表紙の」 帳面が出てくる以降の章
電池が切れたのに通知が届く 電池が切れる(後の章で、実花が帳面を写真に撮れず、帰りの船で手で書き写す場面に使う) 場面3の通知 兄が「迎えに行く」と知る手段。場面3の「時計を見た」
十六時の船 時刻表 場面3「十六時の船」「夕飯には間に合う」 島に着く時刻(18:55)。兄が店を閉める時刻
祖父の死から六年と十年 六年(語りの地の文と設定資料) 意図かどうかで決める(下で説明) —

右端の列が、この記事でいう影響範囲です。一つの文を直すと、その文の事実に頼っていた別の文が、今度は食い違うことがあります。電池の件で場面3の通知を消すと、兄が港へ迎えに来ることを実花がどうやって知るのかが宙に浮きます。直すときは、表の行ごとではなく、影響範囲までまとめて一度に直します。

場面2を直す

到着時刻と、手術の日の知り方を直す

直す前(場面2の一部)

十時四十分の便に乗り、病院に着いたのは十一時前だった。
(中略)
「月曜の手術、怖くない?」
 実花が聞くと、祖母は「この年で怖いもんかね」と笑った。
「帳面は」
 実花は鞄から赤い表紙の帳面を出した。

直した後

十時四十分の便に乗り、病院に着いたのは十一時半近くだった。
(中略)
「手術、するの?」
「月曜だってさ」祖母はギプスの足を見て笑った。「この年で怖いもんかね」
「帳面は」
 実花は鞄から帳面を出した。

変更の理由

  • 到着時刻は、時刻表と徒歩20分に合わせて「十一時半近く」にしました。時刻表を変えて合わせる方法もありますが、時刻表は場面3でも使う決まりなので、本文の方を直しています。
  • 手術の日は、場面3の看護師より先に、祖母本人から聞く形にしました。患者本人は医師から聞いているはずなので、無理がありません。場面1の兄の電話に入れる方法もありますが、兄の電話は用件だけで短くしたかったので選びませんでした。
  • 帳面の色は、二度書く必要がないので、場面2では色を省きました。同じ特徴を何度も書くほど、食い違う機会が増えます。

場面3を直す

船の時刻と、電池の切れた電話を直す

直す前(場面3の後半)

港まで歩きながら、実花は時計を見た。十六時の船に乗れば、夕飯には間に合う。
 待合所のベンチに座ると、スマートフォンが震えた。兄からだった。〈店閉めたら港まで迎えに行く〉

直した後

港に着くと、待合所の丸い時計は三時四十二分を指していた。十五時四十分の船は、もう桟橋を離れていた。次は最終の十八時半だ。
 実花は待合所の隅の公衆電話に十円玉を入れ、店の番号を押した。
「最終で帰る。電池、切れちゃって」
「分かった。店閉めたら港まで迎えに行く」

変更の理由

  • 時刻表にない「十六時の船」をやめ、十五時四十分の便に乗り遅れて最終を待つ形にしました。島に着くのは18:55になるので、十六時の船を前提にした「夕飯には間に合う」も削りました。
  • 電池が切れたという事実を残し、兄と連絡を取る手段を公衆電話にしました。兄の「迎えに行く」は台詞として残るので、後の章の筋に影響しません。
  • 「時計を見た」の時計を、待合所の時計に決めました。表で「要決定」だった行が、これで埋まります。
  • 手術の日はすでに場面2で知っているので、場面3の看護師の台詞は「朝になります」「前の晩から食事は止めます」という新しい情報を伝える形のまま残せます。直す必要はありません。

意図した食い違いには、印を付ける

祖父の死を、場面1の地の文は「六年」、場面3の祖母は「十年」と言っています。これを誤りとして「六年」にそろえるか、祖母の記憶違いとして残すかは、物語しだいです。

  • 誤りなら:祖母の台詞を「もう六年になるねえ」に直します。
  • 意図なら:読者が誤植と区別できるように、実花の反応を一行足します。たとえば「六年だよ、と言いかけて、実花は口をつぐんだ。」とすれば、作者が分かって書いていることが伝わり、祖母の衰えを実花が感じ取った場面にもなります。

意図した食い違いは、設定資料にも「祖母は場面3で年数を間違える(意図)」と書いておきます。書いておかないと、次に読み返したとき、自分で「誤り」として直してしまうことがあります。

表を作ったあとで、本文を通して読む

表は、本文から抜き出した事実しか比べられません。抜き出し漏れがあれば、その矛盾は表に出てきません。表で見つけた食い違いを直したら、最後に直した場面を前後の場面と一緒に通して読みます。

確認表点検を終える前の確認

  • 食い違いごとに、「どの場面のどの文」と「どの設定または文」がぶつかっていたかを書き出せる
  • 直した文の事実に頼っている別の文(影響範囲)を探し、一緒に直した
  • 直したことで、時間表・移動の表・知った時点の表の行が変わった場合、その行だけもう一度照らした
  • 意図した食い違いには、本文に読者向けの印があり、設定資料にも「意図」と書いた
  • 表で「要決定」になった行を、すべて決めた
  • 直した場面を、前後の場面と続けて読み、流れが不自然になっていない

長編で全部の場面の表を一度に作るのは大変です。最初は、結末に関わる事実(犯人が知ったこと、約束の日付、移動の多い章など)だけを抜き出し、矛盾が見つかった章から範囲を広げると、作業が続きます。構成から文章までの改稿全体のどこでこの点検をするかは、小説の推敲・改稿のやり方で扱っています。

ひな形四つの点検表(コピーして使えます)

【時間表】
本文の言葉|場面|具体的な日時に直すと|照らす相手|判定

【所在と移動の表】
区間|手段|かかる時間|根拠(架空の設定/地図・資料)
時刻|人物の所在(本文から)|前の所在からの移動|判定

【知った時点の表】
情報|知った人|知った場面・相手|初めて使った場面|判定

【ルールと状態の表】
決まり・状態|決めた場面|使った場面|判定

【直す一覧】
食い違い|残す事実|直す文|影響が出る箇所|意図か誤りか

自分で表を作って点検しても、どこが分かりにくいのか判断がつかない場合は、他の人に「時系列や人物の知っていることで引っかかった箇所はあったか」と質問を絞って読んでもらうと、答えが返ってきやすくなります。依頼の前に、作品の長さや相談したい点を整理するには講評・添削の依頼メモが使えます。