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言葉・表現

小説の声の描写|高さ・速さ・間を場面に合わせて選ぶ

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この記事の答え

声は、その人がいつも持っている声質と、その場での話し方に分けて考えます。場面で意味を変えるのは、主に話し方のほうです。

  • 話し方は、高さ・音量・速さ・間・息・語尾の残り方から、その場面で意味を変える一つか二つを選ぶ
  • 「高い声」「大きな声」と言い切るより、いつもの声、周りの音、相手との距離、聞いた人の反応と比べて書くと、読者に音が届く
  • 「冷たい声」「優しい声」は聞こえた音ではなく受け取った意味。形容詞を重ねるより、一つの音と周りの反応に置き換える。声の高さから性格や性別を決めつけない
目次

人物の声を書こうとすると、「低い声で言った」「冷たい声だった」で止まってしまい、その場の空気まで伝わらない。この記事では、同じ一言「わかった、やる」を、速さ・音量・間・語尾の残り方を変えた三つの版と、「〜と言った」に説明を付けただけの版で比べます。声質と話し方の分け方、息や途切れの書き方、相手によって変わる声、形容詞を重ねすぎた声の直し方まで扱います。

声は「聞こえた音」と「受け取った意味」に分けて書く

音の性質を説明するとき、事典では音の大きさ、音の高さ、音色の三つを「音の三要素」と呼んでいます(改訂新版 世界大百科事典「音色」)。人の声にも、この三つがあります。そこに話すときの速さや間、息づかいが加わったものが、小説で書く「声」です。国語辞典のデジタル大辞泉は、口調を「ものの言い方のようす。声の出し方や言葉の使い方などに表れた特徴」と説明しています。

声の描写で混ざりやすいのは、耳に聞こえた音と、聞いた人が受け取った意味です。

種類 例 読者に伝わること
聞こえた音 低い、小さい、速い、途中で切れた、息が混じった どんな音だったか。意味は読者が推し量る
受け取った意味 冷たい声、優しい声、不機嫌そうな声 聞いた人がどう感じたか。音そのものは分からない

「冷たい声」は、音の説明のように見えて、実は受け取った意味です。同じ低くて小さい声でも、ある人には冷たく、別の人には落ち着いて聞こえます。受け取った意味を書くこと自体は悪くありませんが、それだけでは読者に音が届きません。まず何が聞こえたかを書き、意味は場面に任せるか、視点人物の受け取り方として添えると、声が場面の中で働きはじめます。

注意声の高さで、性格や性別を決めつけない

「低い声だから落ち着いた人」「高い声だから子どもっぽい」のように、声の高さを性格や性別に結びつける書き方は、実際の人の声の幅に合いません。同じ人でも、相手や状況によって声の高さは変わります。視点人物がそうした思い込みを持っている設定なら、語り手の断定ではなく、その人物の受け取り方として書きます。声と人物像が食い違うこと(大きな体の人が、驚くほど小さな声で話す、など)のほうが、かえって人物を印象づけることもあります。

声質と話し方を分ける

声には、その人がいつも持っている性質と、その場で変わる出し方があります。

分け方 声質 話し方
何か その人の声そのものの性質 その場での声の出し方
例 高さの幅、太さ、かすれ、響き、こもり 音量、速さ、間、抑揚、語尾の残り方、息
変わるか 変わりにくい(風邪、年齢などでは変わる) 相手、場所、気持ちで変わる
書く場所 人物が初めて話すとき。声が物語に関わるとき 声で意味が変わる場面ごと

声質は、人物紹介のように一度書けば足ります。毎回「ハスキーな声で」と付ける必要はありません。紹介するときも、形容詞を並べるより、その声が周りでどう聞こえるかを一つ書くほうが記憶に残ります。

形容詞を並べた紹介 周りでの聞こえ方で見せた紹介
里帆は少しかすれた、低めの、よく通る声をしている 学生のころ、騒がしい学食の端の席から呼ばれても、里帆の声はすぐに分かった
沙月の声はやわらかく、か細い 沙月が電話に出ると、相手はたいてい「起こしちゃった?」と言った

場面ごとの意味を変えるのは、主に話し方のほうです。次の作例では、声質は変えずに、話し方だけを変えています。

作例:同じ「わかった、やる」を三つの声で書く

沙月は春に結婚します。高校からの友人の里帆に、披露宴の友人代表のスピーチを頼む場面です。視点は頼む側の沙月に寄った三人称で、里帆の声は沙月の耳に届いたものとして書きます。三つの版で、沙月の頼み方と里帆の言葉は同じです。変えたのは、場所と、声の速さ・音量・間・語尾の残り方です。

作例版A 駅のホームから、電話で

「結婚式で、友人代表のスピーチ、お願いできないかな」
電話の向こうで発車ベルが鳴っていた。ベルに負けない声が、間をおかずに返ってきた。
「わかった、やる!」
最後の「る」が、ベルと一緒に割れて聞こえた。「ごめん、乗るね、またかける」と言う声は、もう半分走っていた。

作例版B 夜、静かな部屋から、電話で

「結婚式で、友人代表のスピーチ、お願いできないかな」
電話の向こうは静かだった。里帆が息を吸う音が聞こえ、それから少しのあいだ、何も聞こえなくなった。
「……わかった」
もう一度、息を吸う音がした。
「やる」
二つめの言葉は、一つめよりも小さかった。語尾は、受話口にかかる息の中に消えた。

作例版C 喫茶店で、向かい合って

「結婚式で、友人代表のスピーチ、お願いできないかな」
カウンターの奥で、豆を挽く音が止まった。里帆はカップを受け皿に戻した。
「わかった。やる」
いつもより低い声だった。一語ずつ区切って、どちらの語尾も最後まで言い終えた。

変えた所 版A 版B 版C
速さ 速い。間をおかずに返す 遅い。言葉と言葉の間が長い ゆっくり。一語ずつ区切る
音量 大きい。ベルに負けない 小さい。二語めはさらに小さい ふつう。向かいの相手に届く大きさ
間 なし 返事の前と、二語の間に息 返事の前に、カップを戻す一動作
語尾の残り方 割れるほど強く言い切る 息の中に消える はっきり言い終える
距離と周りの音 電話。発車ベルが鳴る 電話。向こうは静か 向かい合う。豆を挽く音が止まる
聞こえ方の例 迷わず引き受けた。あるいは深く考えずに返した 引き受けることに、ためらいがある 重さを分かったうえで引き受けた

表の最後の行は、作者が考えた聞こえ方の一例です。版Aは、ベルの中で急いでいるだけで、本当はよく考えていないのかもしれません。版Bのためらいが、スピーチが苦手だからなのか、沙月との間に何かあるからなのかも、この場面だけでは決まりません。声は意味を一つに決めるより、読者が意味を探しはじめるきっかけを作るものです。

場所と声の関係にも注意してください。版Aで里帆が大きな声を出すのは、気持ちのせいではなく、ベルの音に負けないためです。版Cで豆を挽く音が止まるのは、静かになった店で、里帆の低い声がそのまま届くようにするためです。周りの音と相手との距離が決まると、出せる声と出したときの意味が決まります。

「〜と言った」に説明を付けただけの版と比べる

同じ三つの聞こえ方を、セリフのあとに説明を付けるだけで書くと、次のようになります。

作例説明だけの版

「わかった、やる」と里帆は明るく言った。
「わかった、やる」と里帆はためらいがちに言った。
「わかった、やる」と里帆はきっぱりと言った。

それぞれの意味は、三つの版より早く、はっきり伝わります。けれども、読者には何も聞こえません。速かったのか、遠かったのか、どこで息をついたのか。「明るく」「ためらいがちに」「きっぱりと」は、すべて受け取った意味の言葉です。読者は結論を受け取るだけで、推し量る余地がありません。

説明だけの版が悪いわけではありません。声が場面の中心でない所、会話をすばやく進めたい所では、副詞一つで済ませるほうが流れを止めずにすみます。反対に、その一言の響き方で二人の関係が変わる所では、作例のように音を書く価値があります。友人代表を引き受けるこの一言は、沙月にとって里帆との距離を測る瞬間なので、三つの版のように書きました。

高さ・音量・速さは、比べる相手を決めて書く

「高い」「大きい」「速い」は、何かと比べて初めて決まる言葉です。小説では、その比べる相手を書くと、音が具体的になります。比べる相手には、次の四つがあります。

  1. その人のいつもの声(いつもより一段高い、ふだんの半分の速さ)
  2. 周りの音(ベルに負けない、換気扇の音にまぎれる)
  3. 相手との距離(隣にしか届かない、廊下の端まで届く)
  4. 聞いた人の反応(周りの客が振り向いた、二度聞き返された)
要素 比べる相手のない書き方 比べる相手を決めた書き方
高さ 高い声で言った 最後の「ね」だけ、声が上がった/いつもより一段上ずった
音量 小さな声で言った 隣に座る沙月が、身をかがめて聞き返した
音量 大きな声で言った 発車ベルに負けない声だった
速さ 早口で言った 一息で言い切った/息をつがずに三つ並べた
速さ ゆっくり言った 一語ずつ区切った/言葉の間に、カップを置く音が入った

高さについては、声全体の高さより、一つの文の中での上がり下がり(抑揚)のほうが場面では効きます。問いかけでもないのに語尾が上がる、ふだん抑揚のある人が平らな声で読み上げるように話す、といった変化は、それだけで何かがあったと読者に伝わります。

「叫んだ」「つぶやいた」「ささやいた」のような話し方の動詞にも、音量の情報が含まれています。音量が意味を持つ所で使うと効きますが、毎回違う動詞に言い換えると、かえって声の変化が目立たなくなります。話者の示し方全体の整え方は、小説の会話文の書き方で扱っています。

息と途切れで、言葉になる前を書く

声の描写でいちばん細かく人物の状態を伝えるのが、息と途切れです。言葉になる前の音、言葉にならなかった部分を書くことで、言えなかったことの重さが伝わります。

書き方 例 伝わりやすいこと 気をつけること
言う前に息を吸う 息を吸う音が聞こえた 言うのに力がいる 毎回書くと、ただの癖に見える
息が混じる、かすれる 語尾が息の中に消えた 声を出しきれない 声質のかすれと区別する
息が続かない 二語めで息が切れた 走ったあと、強い気持ち 原因が場面から分かるようにする
言いかけてやめる 「あの」と言ったきり、続かなかった 言えない何かがある 続きを地の文で説明しない
遮られる 「でも――」 相手が聞こうとしない、急ぎ 遮った側の声も書くと関係が見える
言葉を探す 「……わかった」 返事の前のためらい 三点リーダーを重ねすぎない

途切れを三点リーダーだけで書くと、すべての間が同じ長さに見えます。

三点リーダーの連続を、一か所の息にする

修正前

「……あの……ごめん……スピーチ……やっぱり……無理かも……」

修正後

「……あの……、ごめん……」
そこで里帆は、一度長く息を吸った。吸った息を、言葉にしないまま吐いた。
「スピーチ……、やっぱり……無理かも……」

変更の理由

  • 修正前は、すべての語のあとに同じ「……」があり、どこがいちばん言いにくいのかが分かりません。読者は記号を読み飛ばすようになります。
  • 修正後は、いちばん言いにくい所(スピーチを断る直前)に、息を吸って吐くだけの一文を置きました。間の長さと、そこで何かを飲みこんだことが伝わります。
  • 残りは読点でつなぎ、言いにくさは「やっぱり」という言葉そのものに任せています。
  • 走ったあとやけがをしている場面など、息が続かないこと自体を見せたい場合は、短く区切る書き方を残してかまいません。そのときも、区切る長さに変化をつけると単調になりません。

三点リーダーやダッシュを二つ重ねるかどうかといった表記の決め方は、小説の句読点・かぎ括弧・三点リーダーで扱っています。

視点人物が自分で話すときは、自分の声は外からは聞こえません。「声が震えた」と書いてもかまいませんが、喉が締まる、息が足りなくなる、自分の声が遠くに聞こえる、といった本人の感覚で書くと、視点の内側から声が伝わります。

相手が変わると、同じ人の声も変わる

同じ人物でも、話す相手が変われば声が変わります。言葉づかい(敬語か、呼び方はどうか)が変わるのはもちろんですが、ここで見るのは音そのものの変化です。

作例保育園で働く里帆の、相手ごとの声

「せんせい、くつ、はけない」と言う三歳の子の前で、里帆はしゃがんで目の高さを合わせた。「どっちの足から、はこうか」。声はいつもより少し高く、一語ずつゆっくりだった。
お迎えに来た父親には、立ち上がって半歩下がり、ふつうの高さで話した。「今日はお昼寝が短めでした。夜、早く眠くなるかもしれません」
休憩室で沙月からの電話に出ると、声は半分の大きさになり、速さは倍になった。「あ、ごめん、まだ仕事。六時にかけ直す」

里帆の声を変えているのは、気持ちだけではありません。相手との距離(しゃがむ、半歩下がる)、相手の聞き取りやすさ(三歳の子には、ゆっくり、はっきり)、場所の決まり(休憩室では小声)が重なっています。こうした変化を一場面に並べると、里帆の仕事ぶりと、沙月との近さが、説明なしに見えてきます。

声の変化は、いつもの声を読者が知っているときに最も効きます。沙月と話すときだけ速く小さくなる里帆の声を、物語の前半で何度か見せておけば、後半で里帆が沙月に向かって、保護者に話すときのような落ち着いた声を出した瞬間、読者は二人の間に距離ができたことに気づきます。怒りを抑えた声の書き分けは小説で怒りを描写するには?、緊張がほどけて声がいつもに戻る瞬間は小説で安心・安堵を描写するには?で、それぞれ場面ごとに扱っています。

形容詞を重ねた声を、一つの音と周りの反応に直す

声を強く印象づけたいとき、形容詞や比喩を重ねたくなります。けれども重ねるほど、読者に届く音はぼやけていきます。

重ねた形容詞を、一つの音と周りの反応にする

修正前

園長は、低く、冷たく、怒りを押し殺したような、凍りつくほど鋭い声で「誰が門を開けたままにしたの」と言った。

修正後

園長は、低く、冷たく、怒りを押し殺したような、凍りつくほど鋭い声で「誰が門を開けたままにしたの」と言った。声は大きくなかった。園庭で走り回っていた子どもたちが、一人ずつ足を止めた。

変更の理由

  • 修正前の五つの修飾のうち、聞こえた音は「低く」だけです。「冷たく」「怒りを押し殺したような」「凍りつくほど鋭い」は、どれも受け取った意味で、同じことを違う言葉で三回言っています。
  • 修正後は、聞こえた音を「大きくなかった」の一つにし、その声が周りに与えた効果(子どもたちが足を止める)を書きました。大きくない声で場が止まることから、読者は声の強さと園長の怒りを自分で受け取れます。
  • 「凍りつくほど」のような比喩を使いたいなら、一つに絞り、その比喩が音のどの性質(高さか、速さか、響きか)を伝えるのかを決めてから選びます。
  • 語り手が大げさな言い回しをする人物で、その誇張が作品の調子になっている場合は、重ねた形容詞を残す選択もあります。

形容詞を減らすときの手順は、次のとおりです。

  1. 声を修飾している言葉を全部書き出す
  2. 「聞こえた音」と「受け取った意味」に分ける
  3. 聞こえた音から、場面で意味を変える一つを残す
  4. 受け取った意味は、周りの反応か、視点人物の受け取り方の一文に置き換えるか、削る

自作の声の描写を点検する

手順声の描写を見直す手順

  1. 原稿の一場面で、「声」「言った」「つぶやいた」「叫んだ」を含む文に印を付けます。
  2. 印の付いた文の修飾を、「聞こえた音」と「受け取った意味」に分けます。受け取った意味しかない文に、もう一つ印を付けます。
  3. 声質の紹介(かすれ、太さなど)が毎回くり返されていないか確かめ、最初の一回と、物語に関わる所だけに残します。
  4. 声で意味が変わる一言を、場面ごとに一つ選びます。その一言について、速さ・音量・間・息・語尾の残り方から、一つか二つを選んで書き直します。
  5. 場所の音と相手との距離を確かめ、その声がその場で出せる声か、届く声かを見直します。
  6. 同じ人物が別の相手と話す場面と見比べて、声の変化が意味を持っているか、意味のない揺れになっていないかを確かめます。

確認表声の描写の確認表

  • 「冷たい声」「優しい声」など、受け取った意味の言葉だけで済ませていない
  • 声質は一度紹介すれば足り、毎回くり返していない
  • 高さ・音量・速さを、いつもの声、周りの音、距離、反応のどれかと比べて書いている
  • 三点リーダーを、すべての間に同じように置いていない
  • 視点人物の声は、本人の感覚(喉、息)として書いている
  • 相手によって声が変わる所に、場面上の理由(距離、聞き取りやすさ、場所、関係)がある
  • 声の高さから、人物の性格や性別を語り手が決めつけていない

声の描写は、書いた本人の頭の中では音が鳴っているため、文字だけで伝わっているかを確かめにくい部分です。原稿があり、具体的な疑問が残っている場合は、読み手に「このセリフを、どんな声で読んだか」と尋ねると、意図との差が分かります。尋ね方は小説の感想を依頼するには?で扱っています。講評を頼む場合は、講評・添削の依頼メモに、確かめたいセリフと、そこで選んだ要素(速さ・音量・間・息・語尾のどれか)を書き出しておくと、狙った聞こえ方になっているかを答えてもらいやすくなります。依頼先の違いは小説の添削はどこに頼む?で比べています。