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言葉・表現

小説に使う類語辞典のおすすめと選び方|言い換え・感情描写で比較

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この記事の答え

小説で使う「類語辞典」は、調べたいものによって種類が分かれます。

  • 別の言い方を探すなら、意味の分類から語を引く『新明解類語辞典』(三省堂)のような類語辞典
  • 似た語の違いを確かめるなら、使い分けを説明する『使い方の分かる類語例解辞典』(小学館)のような辞典と国語辞典
  • 感情を動作や体の反応で書きたいなら、『感情類語辞典[増補改訂版]』(フィルムアート社)のような創作向け資料

どれを使っても、見つけた語は国語辞典で意味と助詞を確かめ、場面と人物に合わせて自分の文に作り直してから採用します。

目次

類語辞典で見つけた語に置き換えたら、文の意味や人物の印象まで変わってしまった。そんな失敗は、辞典の種類と調べたいことが合っていないところから起きることがあります。この記事では、3冊の辞典・資料と無料で使える代替を、用途ごとに比べます。そのうえで自作の一場面を二種類の辞典で直し、候補語を国語辞典で照合して採用するまでの手順を見せます。

類語辞典と感情類語辞典は、調べるものが違う

書名に「類語辞典」と付いていても、引いたときに返ってくるものは大きく三つに分かれます。

種類 引くときの入口 返ってくるもの 小説で向く場面
分類型の類語辞典 意味の分類(ジャンル)や見出し語 同じ意味の範囲にある語の一覧 同じ語が続く、もっと合う動詞を探したい
使い分け型の類語辞典 似た語のグループ 共通する意味、用例、語ごとの違い 候補が二つ三つあり、どれが正しいか迷う
創作向けの感情資料 感情の名前 その感情に伴う動作、体の感覚、考えの動き 「悲しかった」と書くしかなく、場面にならない

上の二つは語を探す道具、三つ目は人物の反応の発想を広げる道具です。たとえば「寂しい」を分類型の類語辞典で引くと、近い意味の形容詞が並びます。創作向けの感情資料で「寂しさ」に当たる感情を引くと、言葉の言い換えではなく「その感情のとき人はどう振る舞うか」の観点が並びます。

この違いを知らずに、言い換えのつもりで感情資料を開くと「欲しい語が載っていない」と感じます。反対に、心理描写を増やしたいのに分類型の類語辞典を引くと、「寂しい」を「侘しい」「心細い」に替えるだけで、場面は動かないままです。

そしてどちらの場合も、最後に使うのは国語辞典です。類語辞典は候補を出す道具であり、その語がこの文脈で正しいかを決める道具ではありません。

自分が調べたいのは、意味・文体・人物の反応のどれか

辞典を開く前に、今の困りごとを一つに絞ります。困りごとが分かれば、開く辞典も決まります。

困りごと 調べること 最初に開くもの
同じ動詞が三行の間に何度も出る 同じ意味の別の語 分類型の類語辞典
「見つめる」と「眺める」のどちらが合うか分からない 語の意味の違い 使い分け型の類語辞典、国語辞典
時代小説なのに現代的な語が混じっていないか気になる 語の古さ・硬さ(文体) 国語辞典(語義の注記や用例)
感情を言葉で言い切ってしまい、場面が平板 人物の反応の種類 創作向けの感情資料
人物の性格を行動で見せたい 性格に伴う行動 同じ系統の創作資料(性格・場面などの巻)

文体の問題は、類語辞典だけでは判断しにくい点に注意してください。語の硬さや古さは、国語辞典の用例や、自分の作品のほかの箇所の語との釣り合いで決まります。

候補を用途で比べる

ここでは3つの候補を、収録内容と向く課題で比べます。順位は付けません。

候補 収録内容 向く課題 向かない課題
新明解類語辞典(三省堂、中村明編、2015年8月発行、B6判1616頁) 約5万7千項目。「三大分類18ジャンル」の分類体系から語を引く。言い換え探し向け 同じ意味の範囲で、まだ思いつかない語を広く探す 似た語の細かな使い分けを一つずつ確かめる(使い分けの説明があるかは、実物で確かめてから選ぶ)
使い方の分かる類語例解辞典(小学館、遠藤織枝 他編、新装版2003年) 基本語約2万5000語を約6000グループに分け、共通する意味・用例・使い分けを記述。類語対比表約1700点 候補が絞れていて、どれが文脈に合うか比べたい 珍しい語や文学的な言い回しを大量に探す(収録は基本語中心)
感情類語辞典[増補改訂版](フィルムアート社、アンジェラ・アッカーマン、ベッカ・パグリッシ著、滝本杏奈・新田享子訳、2020年4月、A5判324頁) 130の感情項目。各項目に外的なシグナル、内的な感覚、精神的な反応、強い・長期の場合のサイン、隠している・自覚がない場合のサインを収める 感情を言葉で言い切らず、動作や体の反応で書く発想を広げる 同義語探し。日本語の語の意味や用法の確認

版と形の違いも確かめる

  • 感情類語辞典は、旧版の75項目から、増補改訂版で130項目に増えています。改訂版ではまえがきの加筆、感情を想起させる動詞のリスト、感情が発展・後退したときに至る感情の参照も加わりました。古本や図書館で旧版を手に取る場合は、項目数が違うことを前提にしてください。電子書籍もあります。また、フィルムアート社のサイトの「ためし読み」で、刊行にあたっての文章や「『感情類語辞典』の使い方」などを読めます。買う前に、欄の立て方が自分の用途に合うかを確かめる材料になります。
  • 類語例解辞典は、小学館の辞典のオンライン版を扱うジャパンナレッジにも収録されています。ジャパンナレッジ版は項目数6,274で、分類一覧から周辺の語をたどれます。紙の新装版の判型や現在の流通状況は、書店や図書館で確かめてから選ぶと安心です。
  • 新明解類語辞典は、中身を見てから選びたい場合、図書館や書店で実物を確かめます。電子辞書や辞書アプリで使いたい人は、収録辞典の一覧で書名を確かめてから選びます。

フィルムアート社からは、同じ系統の資料として『性格類語辞典』(ポジティブ編・ネガティブ編)、『場面設定類語辞典』『トラウマ類語辞典』なども出ています。感情ではなく人物の性格や舞台を考えたいときは、そちらが入口になります。

買う前に使える無料の代替

代替 できること 限界
図書館の辞書・参考図書の棚 上の辞典を含め、複数の類語辞典を並べて引き比べる 貸出できない参考図書もある。所蔵は館ごとに違う
図書館が契約するオンライン辞書(ジャパンナレッジ等) 契約館では館内などで辞典の本文を検索できる場合がある 契約の有無と利用条件は図書館ごとに確認が必要
コトバンクなど無料の国語辞典検索 候補語の語義・用例を確かめる。見出しによっては類語の欄もある 類語の欄は語の一覧で、使い分けの説明はない語が多い

まず図書館で分類型と使い分け型を一度ずつ引き、自分がどちらを頻繁に開くかを確かめてから買うと、手元に置く一冊を選びやすくなります。

同じ場面を、二種類の辞典で検討する

ここからは、新しく作った一場面を使って、辞典の使い方を順に見ます。弟が就職で家を出る朝、姉の千夏が駅で見送る場面です。

作例修正前の一節

千夏は、弟の乗った電車をじっと見ていた。電車が見えなくなっても、しばらく見ていた。寂しかった。

この三文には、二つの別の問題があります。

  • 「見ていた」が二度続く(語の問題→類語辞典の出番)
  • 「寂しかった」と感情の名前で言い切り、千夏がどんな人で、どう寂しいのかが見えない(反応の問題→感情資料の出番)

一つの道具で両方を直そうとしないのが要点です。

「見る」の候補を類語辞典で出し、国語辞典で照合する

分類型の類語辞典で「見る」の周辺を引くと、見つめる、眺める、見入る、見送る、見やる、目を凝らす……と候補が並びます。ここで最初の一語に飛びつかず、候補を四つほど選んで国語辞典で確かめます。下の「辞典の記述」はデジタル大辞泉(コトバンク)の語義からの抜粋で、「この場面での判断」はこの作例に合わせた判断です。

候補 辞典の記述(デジタル大辞泉の語義から抜粋) この場面での判断 つながる助詞
見つめる 「対象から目をそらさずにじっと見つづける」 視線の強さは合う。ただ相手は電車で、人物の顔ではない 〜を見つめる
眺める 「視野に入ってくるもの全体を見る。のんびりと遠くを見る」が第一の語義 「のんびり」の語感が別れの直後とぶつかりやすい。物思いの語義もあるが、読者は第一の意味で読みがち 〜を眺める
見入る 「じっと見つめる。また、見とれる」。用例は「掲示に見入る」 「見とれる」の含みがあり、去っていく電車には合いにくい 〜に見入る(助詞が変わる)
見送る 「遠ざかる物や人をその後方で眺める」 場面の状況そのもの。一語で「別れ」が伝わる 〜を見送る

ここで分かったのは次の三つです。

  1. 見入るは助詞が「に」になるため、「電車を見入っていた」と置き換えると文が崩れます。類語を差し替えるときは、助詞ごと確かめます。
  2. 眺めるには物思いの意味もありますが、読者が最初に受け取るのは「のんびり見渡す」の意味です。語義があることと、その場で伝わることは別です。
  3. 見送るは最も合いますが、同じ辞典には「葬送する」「やりすごす」の語義も並んでいます。この場面では「弟の乗った電車を」と目的語があるので誤読の心配は小さいものの、「祖母を見送った」のように人だけを置くと別の意味に読まれる可能性があります。

二つ目の「見ていた」は、一つ目を「見送った」に替えれば、「見えなくなっても、まだホームを離れなかった」のように行動で言い換える選択肢も出てきます。重複を消すのに、必ずしも別の類語は要りません。

「寂しさ」の反応を、感情資料の欄立てで自分で書き出す

次は「寂しかった」です。感情類語辞典は、一つの感情を「外的なシグナル」「内的な感覚」「精神的な反応」などの欄に分けて収めています。ここではその欄の立て方だけを借りて、千夏という人物に合わせた反応を自分で書き出します(以下はすべてこの記事のための自作で、書籍の掲載文ではありません)。

先に人物の条件を一行で決めておきます。「千夏は人前で感情を見せない。弟の前ではずっと姉らしく振る舞ってきた」。

欄 千夏ならどうなるか(自作) 採用の判断
外に見える動作 改札の方へ向き直ってから、もう一度だけ線路を振り返る/弟に持たせそびれた保冷バッグを持ち替える 採用候補。持ち物は場面に固有で、ほかの作品と似にくい
体の内側の感覚 喉の奥が乾く/朝の冷えが急に指先に来る 一つだけなら使える。多いと説明に戻る
頭の中の反応 帰りの電車で座る席の数を数えてしまう/今夜の夕飯を二人分で考えかけてやめる 採用候補。生活の細部が「一人になる」ことを示す
隠そうとするとき 弟が窓越しに手を振ったとき、先に目をそらす 人物の条件と合う。ただし「見送る」と同じ文に入れると視線の動きが続きすぎる

候補を全部入れると、寂しさを説明する一覧になってしまいます。人物の条件(感情を見せない)に一番合い、ほかの場面とつながる一つを選びます。ここでは、渡しそびれた保冷バッグを選びました。前の場面で姉が弁当を作っていたことにすれば、伏線としても使えます。

二種類の辞典を使い分けて直した一節

修正前

千夏は、弟の乗った電車をじっと見ていた。電車が見えなくなっても、しばらく見ていた。寂しかった。

修正後

千夏は、弟の乗った電車を見送った。電車が見えなくなっても、しばらくホームを離れなかった。
右手の保冷バッグが重い。渡しそびれた弁当が、まだ二つ入っている。

変更の理由

  • 一文目の「見ていた」は、類語辞典で出した候補を国語辞典で照合し、状況そのものを表す「見送る」にしました。
  • 二文目は類語に替えず、「ホームを離れなかった」という行動にして、重複と時間の長さを同時に処理しています。
  • 「寂しかった」は削り、感情資料の欄立てを借りて自分で書き出した反応から、人物と場面に固有の一つ(渡しそびれた弁当)を選びました。
  • 千夏が自分の気持ちを言葉にできる人物で、一人称の語りなら、「寂しかった」と言い切るほうが合う場合もあります。言い切りそのものが誤りなのではなく、人物と語りの形で決めます。

感情の種類ごとに、場面と人物で反応を描き分ける方法は、小説で孤独・寂しさを描写するにはで別の場面を使って扱っています。感情・思考・行動の組み合わせ方の全体像は小説の心理描写の書き方で確認できます。

候補語を採用する前の照合手順

上の作例でしたことを、どの語にも使える手順にまとめます。

手順類語を本文に入れる前の六つの確認

  1. 元の文で言いたいことを一行で書く。「電車が去るのを、去ったあとも見ていた」のように、語ではなく状況で書きます。これが照合の基準になります。
  2. 類語辞典で候補を三〜五語選ぶ。一覧の最初の語や、響きのよい語から選ぶのではなく、一行の状況に近いものを選びます。
  3. 国語辞典で語義の番号まで確かめる。多義語は、自分の使う意味が何番目かを見ます。第一の語義と違う意味で使う場合は、読者がその意味で読める文脈になっているかを確かめます。
  4. 助詞と活用を確かめる。「〜を」か「〜に」か、自動詞か他動詞かで、文の組み立てが変わります。用例の形に合わせて文を作り直します。
  5. 人物と文体に合うか確かめる。語り手や人物の年齢・時代・職業から見て、その語を使いそうか。漢語が硬すぎないか、ほかの地の文と釣り合うかを見ます。
  6. 前後二、三文と一緒に声に出して読む。一語だけでは合っていても、前後の語尾や音が重なることがあります。

手順3と4は、辞典を一冊しか持っていなくても、無料の国語辞典検索で行えます。類語辞典を買う前に、この照合の習慣を先に作っておくと、どの辞典を選んでも置き換えの失敗が減ります。

辞典の表現を、そのまま本文へ移さない

類語辞典の見出し語(一語の言葉)を使うことは、辞典の本来の使い方です。気をつけたいのは、例文や説明文、反応の記述をそのまま本文に写すことです。

  • 作品の印象が似てくる。同じ資料は、ほかの書き手も開いています。掲載された言い回しをそのまま使うと、ほかの作品と同じ反応が並びやすくなります。
  • 人物から離れる。資料の記述は、特定の人物を想定していません。千夏の作例で選んだ「渡しそびれた弁当」のように、その人物の持ち物・場所・関係から作った反応のほうが、場面に固定されます。
  • 権利の面でも避ける。辞典の例文や説明文には著作権がある場合があります。必要な範囲を超えて文章を写すことは避け、引用が必要なときは出典を示します。具体的な扱いに迷う場合は、出版社の示す条件を確認してください。

確認表辞典を使ったあとの見直し

  • 見出し語ではなく、例文や説明の文をそのまま写した箇所はないか
  • 選んだ語の意味を、国語辞典で語義の番号まで確かめたか
  • 置き換えたことで、助詞や文の組み立てが崩れていないか
  • 感情の反応は、この人物の持ち物・場所・関係から作り直してあるか
  • 一つの感情に、反応を三つ以上並べて説明に戻っていないか

ありきたりな言い回しを自分の比喩に作り直したいときは、比喩表現の作り方で、似ている点を選ぶ手順を扱っています。

自分に合う一冊を選ぶ

ここまでの手順は、無料の国語辞典検索と図書館だけでも行えます。手元に辞典を置くかどうかは、「どの困りごとが一番多いか」で決めると迷いません。

困りごと 合う候補 向かない人
同じ語の重複、もっと合う動詞が思いつかない 新明解類語辞典 語の違いの説明を一つずつ読みたい人
候補はあるが、違いが分からず選べない 使い方の分かる類語例解辞典(オンライン版を含む) 珍しい語や文学的な語を大量に探したい人
感情の名前で言い切ってしまい、場面にならない 感情類語辞典[増補改訂版] 日本語の語の意味や用法を確かめたい人

類語を探すより、文の長さや読点の位置が気になってきたら、小説の文章のリズムの整え方が次の作業になります。辞典ではなく、文章表現全体を本で学びたい場合は、小説の書き方を学ぶおすすめ本で目的別に比べています。