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言葉・表現

小説で同じ言葉を繰り返すときの直し方|残す反復と削る重複

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この記事の答え

同じ言葉が続いたら、類語に替える前に、その反復が何をしているかを三つに分けます。

  • 対象を示すための反復(似た物や人物が並ぶ所で、何の話か・誰の動作かを示す)→ 残す
  • 意味を重ねる反復(確かめる、強める、前の言葉と呼応させる)→ 残す
  • 同じことを言い直しているだけの重複 → 省略するか、文をまとめる

類語への置き換えは最後の手段です。言い換えた語は意味や響きが少しずつ違い、別の物の話に見えることもあるので、辞典で意味を確かめてから使います。

目次

読み返すと「手紙」が何度も出てくる。気になって「書簡」「文面」と言い換えていったら、何の話をしているのか自分でも分かりにくくなった。この記事では、リサイクルショップで働く人物が、買い取った机から手紙を見つける一段落を使い、同じ名詞・動詞・感情語が重なる初稿を直します。繰り返しを三つの種類に分け、省略する、文をまとめる、残す、類語に替える、の四つの案を比べるので、自作の段落でどの反復を残し、どれを削るかを決められるようになります。

まず、何を繰り返しているかを見る

同じ言葉が近くで続いているとき、すぐに別の言葉へ替える前に、繰り返している言葉の種類を確かめます。種類によって、繰り返しが必要な理由が違うからです。

繰り返している言葉 主な役割 判断の目安
人物の名前・呼び方 誰の動作かを示す 同じ人物の動作が続く間は省ける。二人以上いる場面や段落の頭では残す
物の名前 何の話かを示す 似た物が二つ以上ある所では残す。一つしかないなら省ける
動詞 同じ動作、または対比 同じ動作の言い直しなら省く。「〜してはいけないと思いながら、〜した」のような対比なら残す
感情の言葉 気持ちを伝える 同じ気持ちを何度も名指ししていないか。一つにして、残りは具体的な物や動作で伝える
語句・言い回し 印象づける、前と呼応させる 意図があれば残す

「近くで続く」に、決まった距離はありません。同じ文の中、隣り合う文、同じ段落の中のどれでも、音読して言葉だけが耳に残るなら点検の対象になります。反対に、離れていても、読者が前の箇所を思い出すように置いた言葉は、意図した反復です。

なお、文末の「〜た。」が続くような語尾の重なりは、小説で同じ語尾が続くときの直し方で扱っています。この記事では、文の中の言葉の繰り返しを扱います。

作例:同じ名詞・動詞・感情語が重なる段落

リサイクルショップで働く紬が、閉店後に買い取ったばかりの机を点検していて、引き出しの奥から手紙を見つける場面です。視点は紬に寄った三人称です。

作例初稿

閉店後、紬は買い取ったばかりの木の机を点検していた。引き出しを開けると、奥に手紙が入っていた。手紙は水色の便箋に、万年筆で書かれていた。紬は手紙を取り出し、手紙を広げた。手紙の宛名は、買い取りの書類にあった名前と同じだった。読んではいけないと思いながら、紬は手紙を読んだ。懐かしい字だった。読むほどに懐かしい気持ちになった。差出人の名前は知らないのに、なぜか懐かしかった。手紙の最後には、「春になったら、また机の具合を見に行きます」と書いてあった。紬は引き出しを外して、裏返した。底板の裏に、同じ字で小さく日付が書いてあった。

十二の文に、「手紙」が七回、「紬」が四回、「読む」が三回、「懐かしい」が三回、「書く」が三回出てきます。これらを、役割で分けてみます。

繰り返し 回数 種類 判断
手紙 7 最初の一回は対象を示すため。あとは同じ物を指し続けているだけ 一回残し、あとは省く
紬 4 ほかに人物がいないので、主語を示す必要は少ない 段落の頭と、動作が切り替わる所に残す
読む 3 「読んではいけない」と「読んだ」は対比。「読むほどに」は言い直し 対比の二回を残し、三回めは削る
懐かしい 3 同じ気持ちを三回名指ししている 一回にまとめる
書く 3 偶然の重複 構文を変えて減らす
字 2 「懐かしい字」と「同じ字」で、手紙と机を結ぶ 残す

「字」の二回は、ほかとは性質が違います。最後の「同じ字」は、引き出しの日付を書いた人と手紙を書いた人が同じだと気づく瞬間です。前に「字」が出ていなければ、この気づきは成り立ちません。これが意味を重ねる反復です。

対象を示す言葉は、省く前に「何を指すか」を確かめる

名詞や人物名は、省いても通じる所と、省くと何の話か分からなくなる所があります。初稿の「紬は手紙を取り出し、手紙を広げた。」の二回めの「手紙」は、同じ文の中で同じ物を指しているので、省いても迷いません。

ところが、場面に似た物が二つ以上あると、省いた言葉の行き先が分からなくなります。この場面には、手紙と、日付の書かれた引き出しがあります。

「それ」が手紙か引き出しか分からない

修正前

紬は手紙を、外した引き出しの中に戻して、店長を呼びに行った。戻ってくると、店長はそれを裏返して見ていた。

修正後

紬は手紙を、外した引き出しの中に戻して、店長を呼びに行った。戻ってくると、店長はそれ引き出しを裏返して、底板の日付を見ていた。

変更の理由

  • 手紙も引き出しも「裏返して見る」ことができるので、「それ」がどちらか決まりません。読者は、店長が日付に気づいたのか、手紙の裏を見ていたのかを判断できません。
  • 修正後は、前の文に出た「引き出し」をもう一度書き、何を見ていたかまで示しました。名詞を繰り返したほうが、文は少し重くなりますが、場面の要点(店長も日付に気づいた)がはっきりします。
  • 物が一つしかない場面や、直前の文がその物の話だけをしている場合は、「それ」や省略で十分に伝わります。

省略したあとは、主語と対象を一つずつ声に出して確かめるのが確実です。「誰が」「何を」と問いかけて、答えが一つに決まらない文は、言葉を戻します。人物が二人以上いる場面では、主語を省いたために動作の主が入れ替わって読めてしまうこともあります。

類語に置き換えると、意味と響きがずれる

同じ言葉を避けようとすると、類語を順番に使いたくなります。けれども類語は、意味がまったく同じとは限りません。初稿の三つの繰り返しを、類語に置き換えてみます。

繰り返しを類語に置き換えた修正(避けたい例)

初稿の一部

手紙は水色の便箋に、万年筆で書かれていた。(中略)読んではいけないと思いながら、紬は手紙を読んだ。懐かしい字だった。読むほどに懐かしい気持ちになった。

類語に置き換えた修正

手紙その書簡は水色の便箋に、万年筆で書かれていた。(中略)読んではいけないと思いながら、紬は手紙を読んだ手紙に目を通した。懐かしい字だった。読むほどに懐かしい気持ちになった読み進めるほどに郷愁を覚えた。

変更の理由

  • 「目を通す」は、国語辞典で「ひととおり見る。通覧する」(デジタル大辞泉)、「ざっと見る」(精選版 日本国語大辞典)と説明される語です。「読んではいけないと思いながら」読む、ためらいを含んだ読み方とはずれます。直後の「読み進めるほど」とも合いません。
  • 「郷愁」は、まず「他郷にあって故郷を懐かしく思う気持ち」(デジタル大辞泉)を指す語です。辞典には「過去のものや遠い昔などにひかれる気持ち」という意味も載っていますが、名前も知らない人の字に覚えた親しみには、重く遠い言葉です。一方「懐かしい」には「心がひかれて離れがたい」という意味もあり、知らない人の字にひかれる紬の気持ちには、元の言葉のほうが合っています。
  • 「書簡」は辞典で「手紙。書状」と説明され、意味は同じです。ただ漢語の改まった響きがあり、閉店後の店で一人手紙を見つけた紬の目線より、語り手の説明に近い言葉になります。さらに、読者は呼び名が変わると、別の書類が出てきたのかと一瞬迷います。
  • 類語が合う場合もあります。ただしそれは、繰り返しを避けるためではなく、その語の意味がその場面に必要なときです。

類語を使うかどうかは、次の二つで決めます。

  1. 辞典で意味を確かめて、その場面に合うか:意味の違い、使われる場面(改まった場か、くだけた場か)を確かめます。
  2. 呼び名を変えても、同じ物だと読者に分かるか:一つの物を途中で別の名前で呼ぶと、読者は別の物が出てきたと受け取ることがあります。

文をまとめる、構文を変える

繰り返しを減らすときに先に試したいのは、類語を探すことではなく、同じ言葉が必要なくなるように文を組み直すことです。

初稿 直し方 直した形
紬は手紙を取り出し、手紙を広げた 二つの動作をまとめ、対象を一回にする 取り出して広げると、
手紙は水色の便箋に、万年筆で書かれていた 「書く」を使わない形にする 水色の便箋に万年筆の字が並んでいた
手紙の宛名は、〜同じだった 直前の文で手紙の話が続いているので、所有を示す言葉を省く 宛名は、〜同じだった
懐かしい字だった。読むほどに懐かしい気持ちになった。差出人の名前は知らないのに、なぜか懐かしかった 三つの文を一つにまとめる 差出人の名前は知らないのに、どこか懐かしい字だった
「〜」と書いてあった 引用の形を変える 「〜」とあった

「懐かしい」の三回をまとめたときは、何を残すかを選んでいます。初稿の三文は、字→気持ち→理由が分からないこと、と順に言い換えているだけで、気持ちが進んでいません。そこで、いちばん情報の多い「名前は知らないのに」と「字」を一文に残しました。もし三回の「懐かしい」で気持ちの深まりを見せたいなら、二回めを「祖母の手帳の字に似ている」のような具体的な連想に替えるほうが、同じ語を重ねるより気持ちが進みます。

これらをまとめて直すと、次のようになります。

作例直した段落

閉店後、紬は買い取ったばかりの木の机を点検していた。引き出しを開けると、奥に手紙が入っていた。取り出して広げると、水色の便箋に万年筆の字が並んでいた。宛名は、買い取りの書類にあった名前と同じだった。読んではいけないと思いながら、紬は読んだ。差出人の名前は知らないのに、どこか懐かしい字だった。最後の行には、「春になったら、また机の具合を見に行きます」とあった。紬は引き出しを外して、裏返した。底板の裏に、同じ字で小さく日付が書きこまれていた。

言葉 初稿 直した段落
手紙 7 1
紬 4 3
読む 3 2(対比として残す)
懐かしい 3 1
書く 3 1
字 2 3

「字」は、直した段落でかえって三回に増えました。けれども、これは残す反復です。手紙という言葉を減らしたぶん、段落の後半は手紙の中身ではなく、字そのものを追う流れになりました。万年筆の字、懐かしい字、同じ字と重ねることで、最後の発見に向かって読者の注意が字に集まります。数を減らすことが目的ではないので、ここは直しません。

省略した箇所は、主語と対象を確かめておきます。「取り出して広げると」の主語は紬、対象は直前に出た手紙です。「紬は読んだ」の対象も、前の文から続く手紙です。どちらも、ほかに読める物や取り出せる物が場面にないので、迷いません。

意図した反復は、そろえたまま残す

同じ言葉をあえて重ねると、確かめる、強める、前の言葉に呼応させる、といった効果が生まれます。この種の反復を類語でばらすと、効果が消えるだけでなく、意味が変わることもあります。

「同じ」を三回重ねた文を残す

元の文(こちらを残す)

日付は、手紙と同じ字だった。同じ万年筆の、同じ右上がりの字だった。

類語でばらした案

日付は、手紙と同じ字筆跡だった。同じ同一の万年筆のによる、同じ似通った右上がりの字文字だった。

変更の理由

  • 元の文は「同じ」を三回重ね、紬が一つずつ確かめていく順番(字が同じ、万年筆が同じ、癖が同じ)をなぞっています。重ねるほど、同じ人が書いたという確信が強まります。
  • 類語の案では、「似通った」で「同じ」が「似ている」に弱まり、意味が変わってしまいました。「同一の」「による」は、紬の目線から離れた硬い言い方です。「字」「筆跡」「文字」と呼び名が変わるので、読者は別の物を比べているのかと迷います。
  • 反復を残すときは、くり返す言葉のほかの部分(ここでは「万年筆の」「右上がりの」)で、少しずつ新しい情報を足すと、同じ言葉が続いても話が進みます。

意図した反復かどうかは、その言葉を一つ消したときに何が失われるかで確かめます。失われるものが「同じ言葉が多い感じ」だけなら、不要な重複です。確信の強まりや、前の場面との呼応が消えるなら、残す反復です。

物語の後半で、前半に出た言葉をもう一度使うのも、意図した反復の一つです。この手紙の「春になったら」という言葉を、たとえば物語の最後の場面で、紬が持ち主に連絡するときにもう一度使えば、二つの場面が結ばれます。離れた場所で同じ言葉を使うと、読者は前の場面を思い出します。詩の中で同じ言葉を重ねて響きを作る方法は、詩の反復とリズムの作り方で扱っています。

自作の段落で繰り返しを点検する

手順同じ言葉の繰り返しを直す手順

  1. 一つの段落を選び、二回以上出てくる名詞・動詞・感情の言葉に印を付けて、回数を数えます。
  2. 印の付いた言葉を、「対象を示す」「意味を重ねる」「同じことの言い直し」の三つに分けます。
  3. 「同じことの言い直し」は、まず省略できないかを試します。省略して主語や対象が分からなくなるなら、文をまとめるか、構文を変えます。
  4. 「対象を示す」反復は、似た物や人物が場面にある限り残します。省くなら、「誰が」「何を」と問いかけて答えが一つに決まるか確かめます。
  5. 「意味を重ねる」反復は残し、言葉を一つ消したら何が失われるかを確かめておきます。
  6. それでも言い換えが必要な所だけ、類語を探します。候補は辞典で意味と使われる場面を確かめてから使います。

確認表繰り返しを直すときの確認表

  • 同じ言葉が出ることを、それだけで欠点として扱っていない
  • 省略した文で、誰が・何をが一つに決まる
  • 似た物や人物が二つ以上ある場面で、指す言葉を省いていない
  • 同じ気持ちを名指しする言葉が、言い直しのまま重なっていない
  • 類語に替えた語の意味を、辞典で確かめた
  • 一つの物を途中で別の名前で呼んで、別の物に見えていない
  • 意図した反復は、消したときに失われるものを説明できる

文の長さや読点まで含めて、段落全体の読み心地を整えたい場合は、小説の文章のリズムの整え方で、同じ段落を三つの長さと読点で比べています。

繰り返しが気になるかどうかは、読む人によって感じ方が違います。原稿があり、具体的な疑問が残っている場合は、読み手に「同じ言葉が気になった所」と「何の話か分からなくなった所」を一つずつ挙げてもらうと、削りすぎと残しすぎの両方が分かります。尋ね方は小説の感想を依頼するには?で扱っています。講評を頼む場合は、講評・添削の依頼メモに、直す前と直した後の段落を並べ、残した反復の理由を一行ずつ添えておくと、その意図が読者に伝わっているかを確かめてもらえます。依頼先の違いは小説の添削はどこに頼む?で比べています。