小説で孤独・寂しさを描写するには?空間と行動で伝える例
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この記事の答え
寂しさは、一人でいることだけでは決まりません。誰とのつながりが欠けているのかを決め、それを空間・人との距離・物・習慣の動作で示します。
- 同じ一人の部屋でも、満ち足りている人と寂しい人がいる。違いは、周りの「つながりの気配」への反応に出る
- 人の多い場所の孤独は、声は届くのに輪に入れない距離と、代わりに引き受ける役割で書く
- 「寂しい」と書くのは、その言葉を口に出すこと自体が出来事になる場面や、一人称の素直な語りに向く
目次
「部屋に一人きりで、寂しかった」と書いても、読者には寂しさの中身が見えません。一人でいることを楽しんでいる人もいれば、大勢の中にいるほうが寂しい人もいるからです。この記事では、同じ間取りの部屋に住む性格の違う二人、職場の送別会、五年ぶりに送ったメッセージの返信を待つ夜という三つの架空の場面を使い、空間・人との距離・物・習慣の動作から、寂しさと孤独を書き分ける方法を比べます。読み終えたら、「一人でいること」と「孤独を感じること」を分けて、自作の場面に置けます。
「一人でいる」と「寂しい」を分ける
デジタル大辞泉の「寂しい」には、「心が満たされず、物足りない気持ちである」「仲間や相手になる人がいなくて心細い」という気持ちの語義に加えて、「人の気配がなくて、ひっそりとしている」(用例「寂しい夜道」)という、場所の様子を表す語義があります。「孤独」は、「仲間や身寄りがなく、ひとりぼっちであること。思うことを語ったり、心を通い合わせたりする人が一人もなく寂しいこと」と説明されています。
ここから、書くときに分けておきたいことが二つ見えてきます。
- 場所の寂しさと、人物の寂しさは別のもの。人けのない部屋を描いても、そこにいる人物が寂しいとは限りません。
- 孤独の中心は「心を通い合わせる人がいない」こと。周りに人がいても、思うことを語れる相手がいなければ、人物は孤独を感じます。
同じ間取りの部屋に住む、性格の違う二人で確かめます。
作例一人の部屋①:佐和(七十二歳。夫を見送って十年、一人の暮らしを気に入っている)
日曜の夕方、佐和は窓際の椅子で、図書館で借りた本の続きを読んでいた。やかんが鳴る少し前に立って火を止め、湯をポットに移した。
隣の部屋から、子どもが廊下を走る音と、母親の呼ぶ声が聞こえた。佐和は二、三行読み返してから、また先へ進んだ。
夕飯は、昨日の煮物の残りで足りる。佐和は栞をはさまずに、本を伏せた。
作例一人の部屋②:航(十八歳。春に大学へ入り、この部屋に越して三週間)
日曜の夕方、航は床に座って、スマートフォンで動画を流していた。見てはいなかった。一本終わると、すぐに次を流した。
隣の部屋から、子どもが廊下を走る音と、母親の呼ぶ声が聞こえた。航は動画の音量を一つ上げた。
冷蔵庫には、実家から届いたレトルトのカレーが三つ並んでいる。航はそのうち一つを手に取り、知っている作り方を、箱の裏で最後まで読んだ。
| 佐和 | 航 | |
|---|---|---|
| 部屋の中の位置 | 窓際の椅子。自分の場所が決まっている | 床。まだ場所が決まっていない |
| 隣の家族の声への反応 | 少し気を取られるが、本に戻る | 音量を上げて、聞かないようにする |
| 習慣の動作 | やかんが鳴る前に立つ。暮らしの調子ができている | 動画を流しつづける、知っている作り方を読む。時間を埋めている |
| 物 | 図書館の本、昨日の煮物 | 実家から届いたカレー |
二人の部屋の静けさは同じです。違うのは、隣の家族の声という「つながりの気配」に、どう反応するかと、習慣が暮らしを支えているのか、時間を埋めるためにあるのかです。佐和の場面に寂しさがないのは、一人だからではなく、この夕方に足りないものがないからです。佐和にも、別の日には寂しい夕方があるかもしれません。人物を「寂しい人」「平気な人」と固定せず、その場面で何が足りないかで決めます。
誰とのつながりが欠けているのかを決める
寂しさを書く前に、人物が誰と(何と)つながりたいのかを決めます。ここが決まると、人物の目が向く先も決まります。
| 欠けているつながり | 目が向きやすいもの | 場面の例 |
|---|---|---|
| 特定の一人(離れた家族、別れた人) | その人に結びつく物、その人なら言いそうなこと | 航の部屋の、実家から届いたカレー |
| 仲間や集団(輪に入れない) | 輪の中の会話、自分との距離、共有されていない話 | 次の節の送別会 |
| 分かってくれる人 | 言いかけてやめた話、伝わらなかった言葉 | 誰にも話していない悩みを抱えたまま、雑談に相づちを打つ |
| 居場所そのもの | 帰る場所、名前を呼ばれない時間 | 引っ越し先の町で、まだ店の人に顔を覚えられていない |
航の寂しさは「実家の家族」とのつながりが欠けているものです。だから、隣の家族の声が刺さり、実家のカレーが目に入ります。もし航が「大学で友だちができない」ことに寂しさを感じているのなら、目が向く先は隣の部屋ではなく、キャンパスで笑いながら通り過ぎる三人組になるはずです。欠けている相手を決めないまま書くと、寂しさの描写が部屋の静けさや夕焼けのような、誰にでも当てはまる景色に流れてしまいます。
人の多い場所の孤独は、距離と役割で書く
人の多い場所での孤独は、周りに人がいる分、一人の部屋より描きにくく感じるかもしれません。手がかりは、声は届くのに輪に入れない距離と、輪に入れない人物が代わりに引き受ける役割です。
作例人の中の孤独:送別会の座敷
送られるのは、二十年この営業所にいた村井さんだった。座敷の真ん中で村井さんを囲み、昔の失敗談が次々に出てくる。「あの台風の日の」「そうそう、伝票が全部」。誰かが言いかけるだけで、全員が笑った。
菜摘はこの営業所に来て四か月だった。台風の日の話は、どれも知らなかった。
菜摘は空いたジョッキを数えて、店員を呼んだ。届いたジョッキを奥から順に回し、空いた皿を重ねてテーブルの端に寄せた。
「菜摘さん、気がきくねえ」と隣の課長が言った。
「いえ」
最後に誰かが「写真撮ろうよ」と言った。菜摘は差し出されたスマートフォンを受け取って、座敷の入口に立った。
「もう少し寄ってください。……はい、全員入りました」
| 書く要素 | 作例 | 伝わること |
|---|---|---|
| 距離 | 座敷の真ん中の輪と、端の席、入口 | 声が届くほど近いのに、輪の外にいる |
| 共有されていない話 | 「あの台風の日の」 | つながりが欠けている理由が、四か月という時間にある |
| 引き受けた役割 | 注文、皿、写真を撮る側 | 輪に入れない人物が、役に立つことでその場にいる |
| 周りの善意 | 課長の「気がきくねえ」 | 誰かが冷たいせいで起きている孤独ではない |
この場面では、誰も菜摘を仲間外れにしていません。課長は親切ですし、写真を頼んだ人にも悪気はありません。それでも、菜摘は「全員入りました」と言う側に立ち、写真の中にはいません。周りが悪くない場面のほうが、孤独は人物の内側に残り、読者も簡単に解決できない感覚を受け取ります。誰かが意図して人物を締め出す場面を書く場合は、孤独よりも、締め出す側との対立が場面の中心になります。
なくなった物と、変わった習慣を書く
誰かがいなくなった後の寂しさは、その人の物がなくなった跡と、暮らしの習慣の変化に出ます。三年間ルームシェアをしていた友人のゆかりが引っ越していった部屋で、理沙が過ごす最初の週の場面を比べます。
がらんとした部屋の説明を、物の跡と習慣の変化へ
修正前
ゆかりが出ていった部屋はがらんとしていて、理沙は寂しかった。部屋がとても広く感じられた。
修正後
棚の上の段だけ、四角く色が違っていた。ゆかりのポトスが三年間、日差しを遮っていた跡だった。
仕事の帰りに寄ったスーパーで、理沙はいつもの二リットルの麦茶をかごに入れた。少し考えてから、それを棚に戻し、隣の小さい方を取った。
変更の理由
- 「がらんとした」「広く感じられた」は、誰かが去った部屋の描写としてよく使われる言い方で、ゆかりがどんな人で、二人がどう暮らしていたかが伝わりません。
- 修正後は、なくなった物を直接書かず、物があった跡(日に焼けていない四角)を書きました。ポトスという具体と「三年間」で、ゆかりが部屋に残したものと、共に過ごした時間が見えます。
- 二リットルの麦茶を戻すのは、習慣の変化です。二人分の量で暮らしていたことと、それがもう要らないことに、理沙自身がスーパーの棚の前で気づく場面になっています。
- 「寂しかった」を削っても、場面の中で理沙が気づく順番(家で跡を見る→外で量に気づく)によって、不在が家の外まで続いていることが伝わります。
物の不在と習慣の変化は、次のような形で探すと見つかります。
- 物があった跡:日焼けの残らない四角、画びょうの穴、使わなくなったフックに残る鍵の傷
- 量の変化:買う物の大きさ、炊く米の量、洗濯物の干し方
- 言わなくなった言葉、言いかける言葉:帰ったときの一言、相手の名前を呼びかけてやめる
- 埋めるための新しい習慣:テレビをつけたまま眠る、帰り道を遠回りする
いなくなった理由が死別で、悲しみそのものを描く場面なら、時間の経過によって反応を変える書き方が合います。喪失の直後と時間がたった後の書き分けは、小説で悲しみを描写するにはで扱っています。
返信を待つ夜は、時間と届かないもので書く
連絡を待つ場面は、「何度もスマートフォンを見た」の一文で終わってしまうことがあります。待っている相手との関係と、時間の刻み方、そして待っている返信の代わりに届くものを書くと、場面になります。
作例返信を待つ夜:五年ぶりのメッセージ
弟の誕生日に、拓真は五年ぶりにメッセージを送った。〈誕生日おめでとう。元気か〉。送ったのは夜の九時だった。
十時半、拓真は自分の送った一行を読み返した。「元気か」の「か」が、命令のように見えた。
十一時すぎ、画面が光った。通販のセールの知らせだった。拓真はスマートフォンを寝室の充電器につなぎに行き、台所に戻って流しの皿を洗いはじめた。洗い終わると、皿を拭く前に、寝室へ取りに戻った。
零時を回って、弟の誕生日は終わった。拓真は〈遅くにごめん〉と打ちかけて、消した。何を謝るつもりだったのか、自分でも分からなかった。
この場面で使っているのは、次の五つです。
- 時刻の刻み:九時、十時半、十一時すぎ、零時。間隔が延びていくことで、待つ時間の長さが分かります。
- 届かないものの代わりに届くもの:通販の知らせ。待っていない知らせが光ることで、待っている返信が来ないことが強調されます。
- 離してみて、取りに戻る:充電を口実にスマートフォンから離れ、皿を拭く前に取りに戻る。待っていないふりと、待っていることの両方が、一つの動作の往復で分かります。
- 自分の言葉を読み返す:「か」が命令に見える。返信がない理由を、相手ではなく自分の言葉の中に探しはじめています。
- 区切りの時刻:零時で誕生日が終わる。返信を待つ理由そのものが、時間で失われます。
拓真がつながりたい相手は、はっきり弟です。五年という年数と、誕生日という口実が、二人の間に何かがあったことを示しています。その「何か」をこの場面で説明する必要はありません。読者は、送った一行の短さと、謝りかけてやめる指から、二人の距離を受け取ります。
「寂しい」と書く場面を選ぶ
ここまでの作例では、地の文で「寂しい」と書いていません。ただ、この語を使ってはいけないわけではありません。効くのは、主に次のような場面です。
- 人物が「寂しい」と口に出す、または口に出すのを避けること自体が、関係を動かす場面
- 一人称の語り手が、自分の気持ちを素直に名前で呼ぶ人物であるとき
- 寂しさが場面の中心ではなく、一語で済ませて先へ進みたいとき
航が母親と電話で話す場面で、語り手が説明する版と、言葉を会話の中に置く版を比べます。
語り手の「寂しかった」を、会話の中の「寂しくない?」へ
修正前
母から電話がかかってきた。航は寂しかった。母の声を聞くと、ますます寂しくなった。
修正後
「カレー、届いた。ありがとう」
「ちゃんと食べてる? 寂しくない?」
「別に」
母の声の後ろで、テレビがついていた。いつも居間で流れている、夕方のニュースの声だった。
「……そっちのテレビ、もうちょっと音大きくして」
変更の理由
- 修正前は、語り手が「寂しかった」「ますます寂しくなった」と二度言いますが、航が何を恋しく思っているのかは分かりません。
- 修正後は、「寂しい」という語を母の質問の中に置き、航には「別に」と否定させました。否定したすぐあとに、実家の居間のテレビの音を聞きたがることで、本当は何が足りないのかが伝わります。
- 航が自分から「寂しい」と言える人物で、それを言うことが母との関係の転機になる話なら、本人に言わせるほうが合います。その場合は、言ったあとの母の反応か、言った本人の行動を一つ書いて、言葉を場面に固定します。
表記も小さな選択です。デジタル大辞泉の補説では、「さびしい」と「さみしい」は近世以降どちらも使われてきたが、放送用語などでは「さびしい」を標準形としている、と説明されています。地の文は漢字の「寂しい」で通し、会話では人物の話し方に合わせて「さみしい」とかなで書く、といった使い分けも、人物の声を作る手がかりになります。
練習自作の人物で、孤独の場面を一つ組み立てる(20分)
- 自作の人物について、「この場面で、誰(何)とのつながりが欠けているか」を一行で書きます。
- その相手に結びつく物を一つと、人物の習慣の動作を一つ決めます。
- 人物の周りに「つながりの気配」(隣の家の声、輪の中の笑い、別の人への知らせ)を一つ置き、人物がそれにどう反応するかを書きます。
- 「寂しい」を使わずに五〜八文で書いてから、使うならどの一か所か、誰の口から出すかを決めます。
確認表寂しさ・孤独の場面の確認表
-
人物が誰(何)とのつながりを欠いているかが決まっている
-
人けのなさ(場所の寂しさ)だけで、人物の寂しさを示そうとしていない
-
周りの「つながりの気配」と、それへの人物の反応がある
-
人の中の孤独では、距離と、人物が引き受ける役割を書いている
-
不在を、物の跡や習慣の変化(量・言葉・新しい習慣)で示している
-
「寂しい」を使う場合、その一語が出来事になる位置に置いている
抑えて書いた孤独が読者に届いているかどうかは、書き手には見えにくいものです。原稿があり、具体的な疑問が残る場合は、読み手に「この人物は誰を求めていると思ったか」と尋ねてみてください。答えが自分の意図と違えば、物や距離の選び方を見直す手がかりになります。尋ね方は小説の感想を依頼するには?で扱っています。有料の講評を検討するなら、講評・添削の依頼メモに、人物が欠いているつながりを一行で書き添えておくと、読み手の答えと自分の狙いを比べてもらいやすくなります。依頼先の違いは小説の添削はどこに頼む?で比べています。