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言葉・表現

比喩表現の作り方|直喩・隠喩の違いと自分の言葉にする練習

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この記事の答え

比喩は、伝えたいもの(A)と、借りてくるもの(B)の共通点を一つ選んで、Aの性質を読者に渡す方法です。

  • 作るときは、先にAの性質を書き出し、その一つを持つBを探す。見た目だけでなく、動き・音・重さ・時間の感じ方・関係も共通点になる
  • 「〜のように」で似ていると示すのが直喩、示さずにAをBとして書くのが隠喩。隠喩は強いぶん、前後の文脈がないと伝わらない
  • 共通点が読者に見えない比喩、二つの像が混ざった比喩、決まり文句は、観察に戻して作り直す。比喩を使わずに書くほうが伝わる場面もある
目次

比喩の種類は覚えたのに、自分の文章に入れようとすると、ありきたりな言い回しか、意味の分からないたとえしか出てこない。そういうときは、借りてくる言葉のほうから探し始めていることがあります。この記事では、架空の場面「返事を待つ時間」を一つ決め、その性質を書き出すところから五つの比喩を作る過程を見せます。直喩・隠喩・比喩を使わない書き方を同じ対象で比べ、通じない比喩と決まり文句の直し方まで扱います。

比喩は、共通点を一つ選んで渡すこと

国語辞典(デジタル大辞泉)は、比喩を「ある物事を、類似または関係する他の物事を借りて表現すること」と説明しています。ここで大事なのは「借りて」という部分です。比喩には、いつも二つのものが登場します。

呼び方 中身 「返事を待つ時間」の例
伝えたいもの(A) 読者に伝えたいのに、そのままでは伝わりにくいもの 返事を待つ時間
借りてくるもの(B) 読者がよく知っていて、Aと同じ性質を持つもの 投げた硬貨、開けては閉める冷蔵庫など
共通点 AとBが共有している性質。比喩で読者に渡すのはここ 結果がどちらに出るか、自分ではもう決められない

比喩がうまく働くと、読者はBについて知っていることを使って、Aの性質を一瞬で受け取ります。逆に言えば、比喩は難しい言葉や美しい言葉に置き換える技法ではありません。Bが読者にとってAより分かりにくければ、比喩はかえって伝わりにくくなります。

そこで、比喩を作るときは順番を逆にします。借りてくる言葉(B)を探す前に、伝えたいもの(A)の性質を先に書き出すのです。

「返事を待つ時間」から、五つの比喩を作って選ぶ

ここからは、次の架空の場面を使います。

作例場面の設定(架空)

大学時代の友人・遥と、一年前にささいなことで口をきかなくなった湊。夜十時、湊は謝りたいとメッセージを送った。既読はまだ付かない。湊はスマートフォンを机に伏せ、また表に返す。

手順1:Aの性質を、見た目以外も含めて書き出す

「返事を待つ時間」には見た目がありません。だからこそ、性質を言葉にしておく必要があります。思いつくまま書き出すと、次のようになりました。

作例性質のメモ

・実際は十五分なのに、一時間くらいに感じる(時間の感じ方)
・何も来ていないと分かっているのに、何度も画面を見てしまう(繰り返し)
・ほかのことに手が付かない(体の状態)
・小さな物音に、通知かと思って反応してしまう(音)
・許してもらえるか、もらえないか。どちらかに決まるが、まだ分からない(宙づり)
・送ってしまった以上、もう自分では何もできない(主導権が相手にある)

見た目以外の共通点として、時間の感じ方、動き、音、重さ、温度、手触り、関係(誰が決めるか)などが使えます。性質を六つ書き出したのは、比喩ごとに渡す性質を一つに決めるためです。一つの比喩に全部を詰めると、何を伝えたいのかがぼやけます。

手順2:性質ごとにBを探し、文にして判断する

性質を一つ選び、その性質を持っていて、読者がよく知っているものを探します。五つ作った過程を表にまとめます。

選んだ性質 借りてきたもの(B) できた文 判断
1 繰り返し 何も入っていない冷蔵庫 何も入っていないと分かっている冷蔵庫を開けるように、湊は何度もアプリを開いた。 採用候補。身近な動作なので、「分かっているのにやめられない」がすぐ伝わる
2 宙づり/主導権 投げた硬貨 投げた硬貨は、まだ落ちてこなかった。 採用候補。二択と「もう手を離れた」を同時に渡せる。ただし前後の文脈が必要(後述)
3 時間の感じ方 待合室で自分だけ呼ばれない名前 歯医者の待合室で、後から来た人の名前ばかり呼ばれるときのように、時計の針が進まなかった。 保留。共通点(自分だけ取り残される)は合うが、文が長く、場面の緊張がゆるむ
4 主導権が相手にある 釣り糸と浮き 湊は釣り糸を垂れたまま、動かない浮きを見ている人のようだった。 不採用。「待つ」「自分では動かせない」は合うが、釣りののんびりした語感が謝罪の場面とぶつかる
5 音への反応 物音に耳を立てる猫 物音がするたびに、湊は猫のように顔を上げた。 不採用。共通点は合うが、「廊下で誰かが鍵を落とした音にまで、肩がはねた。」と出来事をそのまま書くほうが具体的

5番目は、比喩にしてみたうえで使わなかった例です。性質を書き出してみると、比喩にするより、そのまま書いたほうが伝わる性質もあると分かります。比喩を作る練習は、比喩を使わない判断の練習でもあります。

4番目のように、共通点は合っているのに語感が場面と合わないこともあります。Bは、共通点のほかにも色々な連想(釣りなら休日、川辺、のどかさ)を一緒に運んできます。その連想が場面の気分とぶつかっていないかを、最後に確かめます。

直喩・隠喩・比喩なしで、同じ対象を書き分ける

辞典では、直喩を「ようだ」「ごとし」などの語を用いて二つの事物を直接に比較して示すもの、隠喩をそうした形を用いずに、そのものの特徴を直接他のもので表現する方法と説明しています。小説の文章で考えると、違いは次のようになります。

書き方 作例 読者に起きること 向く場面
比喩なし 送信してから二十分、湊は三回アプリを開き、三回とも何も来ていないのを確かめた。 事実から、読者が自分で気持ちを推し量る 出来事の具体が強いとき。語り手が冷静なとき
直喩 何も入っていないと分かっている冷蔵庫を開けるように、湊は何度もアプリを開いた。 「似ている」と示されるので、読者は比べながら読む。誤解が少ない 共通点が少し意外で、比べる過程を見せたいとき
隠喩 投げた硬貨は、まだ落ちてこなかった。 AがBとして書かれるので、読者は一瞬で像を受け取る。文脈がないと比喩だと気づかれない 前後で状況がはっきりしていて、印象を強く残したいとき

直喩と隠喩に優劣はありません。直喩は「〜のように」がある分だけ文が長くなりますが、読者を迷わせません。隠喩は短く強い代わりに、置く場所を選びます。

隠喩は、前後の文で支える

上の隠喩「投げた硬貨は、まだ落ちてこなかった」だけを読むと、本当に硬貨を投げた場面に見えます。隠喩は、前の文でAをはっきりさせておくと働きます。

隠喩が通じる位置に置く

隠喩だけを置いた場合

投げた硬貨は、まだ落ちてこなかった。湊はスマートフォンを机に伏せた。

前の文でAを示した場合

送信ボタンを押した指を、湊はしばらく画面から離せなかった。投げた硬貨は、まだ落ちてこなかったこない。湊はスマートフォンを机に伏せた。

変更の理由

  • 先に「送信ボタンを押した」と書くことで、読者は硬貨=送ったメッセージ、と結び付けられます。
  • 硬貨が「表か裏か」に決まるものであることから、「許されるか、許されないか」の二択が、説明なしに伝わります。
  • 現在形「落ちてこない」にしたのは、待っている時間がまだ続いていることを示すためです。過去形のままでも誤りではありません。

意味が通じない比喩を、共通点から直す

作った比喩が読者に通じないときは、次の四つの原因を順に疑います。似ていないものを比べてしまった例と、その修正版を見ます。

共通点が読者に見えない

作例修正前

返事を待つ時間は、祖父の家の柱時計のようだった。

書き手には「祖父の家で、柱時計の音だけが大きく聞こえた静けさ」という記憶があるのかもしれません。しかし読者には、柱時計のどこが似ているのか(音か、古さか、遅さか)が分かりません。共通点が書き手の個人的な記憶の中にしかない状態です。

共通点を文の中に出す

修正前

返事を待つ時間は、祖父の家の柱時計のようだった。

修正後

部屋が静かすぎて、壁掛け時計の秒針の音まで、祖父の家の柱時計のように一つずつ大きく聞こえた。

変更の理由

  • 「音が大きく聞こえる」という共通点を文の中に書き、柱時計を借りる理由を読者に見せました。
  • 祖父の家の記憶が作品の中で別に語られているなら、元の短い形でも通じることがあります。比喩が通じるかは、その一文ではなく作品全体で決まります。

二つの像が混ざっている

作例修正前

不安の波が、胸の中で静かに根を張っていった。

「波」と「根を張る」は、どちらも不安の比喩として使えますが、波は寄せては返すもの、根は動かずに広がるものです。一つの文に二つの像を入れると、読者の頭の中で像が結べません。

直し方 修正例 渡す性質
波にそろえる 不安が、波のように寄せては引き、引いたと思うとまた寄せてきた。 繰り返し来る
根にそろえる 不安は、胸の中で静かに根を張っていった。 動かずに広がり、抜けなくなる

どちらを選ぶかは、湊の不安が「何度もぶり返す」のか「じわじわ固まる」のかで決まります。ここでも、先に性質を決めることが助けになります。

借りたものが、伝えたいものより分かりにくい

「返事を待つ時間は、存在の空白のようだった」のように、Bが抽象的な言葉だと、読者はBを理解するところで止まってしまいます。比喩のBは、読者が体で知っている具体物や動作から選ぶのが基本です。

語り手や人物の世界にないものを借りている

十歳の子どもが語り手の作品で「株価のチャートのように気分が上下した」と書くと、比喩自体は通じても、語り手の声から外れます。Bは、その場面の視点人物が知っていて、思い浮かべそうなものから選びます。子どもの語り手なら「ブランコみたいに」のほうが声に合います。

決まり文句を、自分の観察に戻す

「時間が止まったように感じた」「胸が張り裂けそうだった」「永遠のように長かった」。こうした言い回しは、誰でも意味が分かるからこそ広く使われてきました。決まり文句が悪いのではなく、どの作品のどの人物にも同じように使えるため、その場面だけの手触りが残らないことが問題です。

決まり文句は、次の三つの手順で自分の言葉に戻せます。

手順決まり文句を作り直す手順

  1. 決まり文句が渡している性質を一語で言う。「永遠のように長かった」なら「時間が長く感じる」です。
  2. その性質が、この場面のこの人物では、どんな行動や感覚として現れたかを観察する。時計を見た回数、手に取った物、聞こえた音などを、場面の中から拾います。
  3. 拾ったものを、そのまま書くか、新しいBを借りるかを選ぶ。行動だけで性質が伝わるなら比喩はいりません。行動だけでは弱いときに、性質のメモからBを探します。

決まり文句を観察に戻した例

修正前

返事を待つ時間は、まるで永遠のように長かった。

修正後(比喩を使わない案)

湊は二十分のあいだに三回、充電の残りを確かめた。返事が来たときに電池が切れていたら、と思うと、ほかのことは何も手に付かなかった。

変更の理由

  • 「時間が長く感じる」という性質を、「充電の残りを何度も確かめる」という湊の行動に置き換えました。返事を逃したくない気持ちも、同時に伝わります。
  • 比喩をやめたのは、行動そのものに具体性があり、借りてくるものがなくても読者に伝わるからです。
  • 場面全体が淡々とした語りで、ここだけ強い印象を残したい場合は、決まり文句を一つだけ残す選択もあります。決まり文句は、読者にすぐ伝わるという長所も持っています。

決まり文句から作り直すときに、「もっと合う言葉はないか」と語彙を広げたくなることがあります。その場合は、言い換えの候補を辞典で探し、意味と用法を国語辞典で確かめてから使います。

比喩を入れないほうがよい場面もある

比喩は、多いほど文章がうまくなるものではありません。次のような場面では、比喩を減らすか、使わない判断をします。

  • 出来事を正確に伝える場面。事故の経過や手がかりの提示など、読者に事実を誤解なく渡したいときは、比喩が読みの妨げになることがあります。
  • 一つの段落に、比喩がすでに一つある場面。比喩が続くと、像が重なって焦点がぼやけます。一番伝えたい性質の比喩を一つ残します。
  • 語り手が比喩を使いそうにない場面。感情を言葉にしない人物の視点で、凝った比喩が続くと人物像とずれます。
  • 説明が長くなっている場面。比喩で説明を飾るより、説明そのものを削るほうが先のことがあります。説明の削り方は小説が説明ばかりになるときの直し方で扱っています。

反対に、見た目のないもの(時間、気持ち、関係、音の質)を伝えたいときや、読者がまだ知らないもの(架空の生き物や道具)の性質を伝えたいときは、比喩が最も役に立ちます。

自分の場面で、五つ作って三つに書き分ける

最後に、この記事の手順を自分の原稿で試します。

練習比喩の作成練習(20分)

  1. 自分の原稿から、見た目のないもの(待つ時間、気まずさ、安心、声の調子など)が出てくる場面を一つ選びます。
  2. それを「伝えたいもの(A)」として、性質を五つ以上書き出します。見た目以外(時間、動き、音、重さ、関係)を必ず入れます。
  3. 性質を一つずつ選び、それを持つ身近なもの(B)を探して、五つの文にします。
  4. 五つのうち一つを、比喩なし・直喩・隠喩の三通りで書き分け、前後の文と一緒に声に出して読みます。
  5. 場面に入れる一つを選び、「どの性質を渡したか」を一行で書きます。一行で書けない比喩は、共通点が決まっていない可能性があります。

ひな形比喩の作成メモ(コピーして使えます)

場面:
伝えたいもの(A):
Aの性質(見た目以外も):
1.
2.
3.
4.
5.
選んだ性質:
借りてくるもの(B)の候補:
Bが一緒に運んでくる連想(場面とぶつからないか):
比喩なし:
直喩:
隠喩(前の文でAを示す):
採用した文と、渡した性質(一行):

短歌や詩では、比喩の置き方や言いすぎの判断が、行の短さや改行と結び付いて変わります。短歌の場合は短歌の比喩の作り方、詩の場合は詩の比喩の作り方で、それぞれの形式に合わせた作例を扱っています。

比喩だけでなく、描写や人称など文章表現を一冊で体系的に学びたい場合は、小説の書き方を学ぶおすすめ本で目的別に比べています。