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詩

詩の比喩の作り方|イメージを重ね、ありきたりな言葉を見直す

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この記事の答え

詩の比喩は、詩の場面の中にある具体物から、見た目だけでなく音・動き・見え方・時間などの性質を書き出し、伝えたいことと共通する性質を一つ選んで作ります。

  • 直喩(〜のように)は比べる道筋が見えて伝わりやすく、隠喩は短く強いぶん、前の行や題名で何をたとえたかを支える
  • 一篇の中では、比喩の像を一つに絞って次の行へつなげる。別の像を持ちこむと、イメージが散らばる
  • 共通点が詩の中から見つかれば飛躍は面白さになり、見つからなければ伝わらない。比喩を外して事実だけを置くほうが強い行もある
目次

詩に比喩を入れようとすると、どこかで見た言い回しになるか、自分でも説明できないほど飛んだ言葉になる。この記事では、架空の詩「湯をわかす」の初稿を使い、場面にあるやかんの性質から比喩の候補を三つ作り、共通点のない案、説明しすぎた案、余白を残す案、比喩を外す案と並べて選びます。比喩を一篇の中でつなげる方法まで扱うので、読み終えたら自分の詩の比喩を候補の中から選び、像が散らばっていないか点検できます。

比喩の基本(たとえるものとたとえられるもの、共通点の選び方、小説の文章での使い方)は比喩表現の作り方で扱っています。ここでは、行と連でできた詩の中で、比喩をどう作り、どうつなげるかに絞ります。

作例の初稿:どこかから借りてきた比喩

次の初稿を直していきます。同居している姉に、春から部屋を出ると言い出せずにいる人の詩です。

作例・詩初稿:湯をわかす

夜の台所で やかんを火にかける
姉は隣の部屋でテレビを見ている
春からこの部屋を出ることを
まだ言えずにいる
言葉が胸の中で
風船のようにふくらんでいく
早く言わなきゃ

「風船のようにふくらんでいく」は、言いたいことがたまっていく様子を伝える、よく見かける比喩です。意味は通じます。けれども、この詩の場面は夜の台所で、風船はどこにもありません。読者の頭の中に、台所とやかんの像ができかけたところへ、急に風船が浮かびます。詩の比喩は、その一行だけでなく、一篇の像の中で働くので、場面の外から借りてきた像は、場面の像とぶつかりやすいのです。

そこで、比喩の材料を、詩の中にすでにある物から探します。この詩には、やかんがあります。

場面にある物の性質を、見た目以外も書き出す

やかんの見た目(丸い、銀色、注ぎ口がある)だけでは、言い出せない言葉との共通点は見つかりません。音、動き、見え方、温度、時間など、見た目以外の性質を書き出します。

性質の種類 やかんの性質 言い出せない言葉と重なるか
音 沸く前に、小さくしゅうしゅう鳴りはじめる 言いかけては飲みこむ息と重なる
見え方 外からは、中の湯がどれだけ熱いか分からない 姉には、わたしの決心がまだ見えていない
動き 沸くと、ふたがかたかた鳴って持ち上がる 言葉が、こらえきれずに出かかる
温度 火を止めても、しばらく持ち手が熱い 言ってしまったあとも、気持ちが冷めない
時間 見ていると、なかなか沸かない 言うきっかけを待つ時間が長い

五つの性質のうち、どれを選ぶかで、比喩が伝えるものが変わります。同じやかんから、三つの候補を作ってみます。

同じやかんから、比喩の候補を三つ作る

初稿の「言葉が胸の中で/風船のようにふくらんでいく」の二行を、それぞれの候補に置き換えます。

候補1:音から作る直喩

作例・詩候補1:音(直喩)

やかんが 小さく鳴りはじめる
言いかけては飲みこむ
わたしの息のように

辞典は直喩を、「ようだ」「ごとし」などの語を用いて「二つの事物を直接に比較して示すもの」と説明しています(デジタル大辞泉)。「〜のように」があるので、読者は、やかんの音と息を比べればよいと分かります。比喩だと気づかれないおそれはありません。行の終わりに「ように」を置くと、最後の行まで読んで初めて、やかんの音が息のたとえだったと分かる、という順番も作れます。

候補2:見え方から作る隠喩

作例・詩候補2:見え方(隠喩)

姉から見たら わたしは
まだ鳴らないやかん

隠喩は、「…のようだ」といった語を使わず、ものの特徴を別のもので直接言い表す方法です(デジタル大辞泉)。「わたしは/まだ鳴らないやかん」と言い切るので、候補1より短く、強く残ります。共通点は「外からは、中の熱さが分からない」です。まだ鳴っていないやかんは、中で湯が熱くなっていても、外から見ただけでは分かりません。前の連で、姉がまだ何も知らないことが書かれているので、読者は「鳴らない」を「まだ言っていない」と結び付けられます。

候補3:動きから作る、物に人の動作をさせる比喩

作例・詩候補3:動き(物に人の動作をさせる)

ふたが かたかたと
先に言いだしそうになる

ふたが「言いだす」はずはありません。人間以外のものを人間に見立てて表す書き方は、擬人法と呼ばれます(デジタル大辞泉)。ここでは、言い出せないわたしの代わりに、やかんが先に言ってしまいそうになる、という動きで、こらえている気持ちを見せています。「わたし」とも「言葉」とも書いていませんが、前の行に「まだ言えずにいる」があるので、読者は誰が言いだせずにいるのかを補えます。

三つの候補を比べる

候補 選んだ性質 読者に残るもの 気になる点
1 音・直喩 沸く前の小さな音 息の音。体の近さ 「息」という二つ目の像が入る。「ように」で少し説明的になる
2 見え方・隠喩 外から熱さが分からない 姉の目から見たわたし。関係 前の連がないと、ただのやかんの描写に見える
3 動き・擬人 ふたが鳴って持ち上がる こらえきれない感じ。少しのおかしみ 一行だけでは弱い。やかんがすでに場面にあることが前提

日本大百科全書は、隠喩が省略的・感性的であるのに対し、直喩は論理的・説明的だとしています。候補1と候補2の違いもそこにあります。どちらが優れているということはなく、詩の中でどの働きが必要かで選びます。

共通点のない案、説明しすぎた案、余白を残す案

候補を選ぶ前に、比べる相手として、うまくいかない案と、比喩を言わない案も作っておきます。

共通点が見つからない案

作例・詩共通点のない案

言えない言葉は
青いやかん

やかんは場面にあり、「青い」は具体的です。けれども、言えない言葉とやかんの共通点が、詩のどこからも見つかりません。色が青いことと、言えないことは結び付かないからです。書き手の中には何かのつながりがあったとしても、読者はそこへ行く道を持っていません。

候補3の「ふたが先に言いだしそうになる」も、現実にはありえない言い方です。それでも伝わるのは、ふたが鳴って持ち上がる、という性質が場面から読み取れて、「言いだす」とつながるからです。飛躍が面白さになるか、曖昧さになるかは、共通点を詩の中から見つけられるかどうかで分かれます。

説明を足しすぎた案

作例・詩説明を足しすぎた案

わたしの言葉は やかんの湯と同じだ
少しずつ温まって
外からは見えないけれど
中で沸いて
最後には ふたを鳴らしてあふれ出す

共通点はすべて正しく、誤解のしようがありません。その代わり、やかんと言葉の重なりを、作者が一つずつ全部言っています。読者が自分で結び付ける部分が残らないので、読み終えても何も起きません。詩の比喩は、共通点を一つ渡したら、残りは読者に任せるくらいがちょうどよいことが多いです。

余白を残す案:比喩を言わずに並べる

作例・詩余白を残す案

やかんが 小さく鳴りはじめる
わたしは まだ何も言っていない

「ように」も「は〜だ」もありません。やかんが鳴りはじめたことと、わたしが何も言っていないことを、二行並べただけです。それでも読者は、鳴りはじめたやかんと、鳴らないわたしを比べて読みます。詩では、二つの事実を隣の行に置くだけで、比喩に近い働きが生まれます。行が短く、行と行のあいだに間がある詩だからこそできる方法です。

比喩を外す案

作例・詩比喩を外す案

やかんの湯が沸くまで
台所の床の 同じ板の上に立っていた

ここでは、やかんと言葉を比べることもやめています。湯が沸くまで一歩も動かなかった、という体の様子だけを書いています。比喩がなくても、ためらいは伝わります。言い出せない時間を具体的な行動で見せられるなら、比喩を使わない行のほうが、詩全体の中で落ち着いて強く残る場合もあります。

比喩を一篇の中でつなげる

候補と比べる案がそろったら、一篇の中でどう組み合わせるかを決めます。ここで気をつけるのは、像を一つに絞って、次の行へつなげることです。

像が二つあると散らばる

風船とやかんが同じ詩にある場合

二つの像が混ざった案

作例・詩二つの像が混ざった案(一部)

まだ言えずにいる
言葉が胸の中で
風船のようにふくらんでいく
姉から見たら わたしは
まだ鳴らないやかん

やかんに絞った案

作例・詩やかんに絞った案(一部)

まだ言っていない

姉から見たら わたしは
まだ鳴らないやかん

変更の理由

  • 風船(ふくらむ、空気、割れる)と、やかん(熱、湯、鳴る)は、どちらも「たまっていく」ことのたとえとして使えますが、像の種類が違います。四行のあいだに二つ並ぶと、読者の頭の中で一つの絵になりません。
  • 風船を外し、場面にあるやかんの像だけを残しました。初稿の「まだ言えずにいる」は、「まだ言っていない」と事実だけの形にして、比喩の前に置きました。
  • 風船の比喩が悪いわけではありません。たとえば子ども部屋の場面で、実際に風船がある詩なら、風船のほうが場面とつながります。

一つの像を、次の行へ延ばす

像を一つに決めると、その物が持っている性質を、次の行で続けて使えます。やかんなら、火にかける、鳴りはじめる、ふたが鳴る、火を止める、という順番があります。この順番を、言い出すまでの気持ちの順番に重ねると、比喩が一篇の筋になります。

候補2(まだ鳴らないやかん)のあとに、候補3(ふたが先に言いだしそうになる)を続けると、同じやかんの像の中で時間が進みます。新しい像を持ちこまずに、気持ちを一段先へ進められます。

延ばしすぎると、何の詩か分からなくなる

一方で、すべての行を比喩でつなげると、どこまでが本当の場面なのかが見えなくなります。

作例・詩比喩で埋めすぎた案

わたしは まだ鳴らないやかん
胸の底で 小さな泡が生まれ
ふたの裏で 言葉が水滴になり
注ぎ口から 春が噴きだす

一つの像でつながってはいますが、姉も台所も消え、何をたとえているのかを読者がたどれなくなりました。「春が噴きだす」は、初稿にあった「春から部屋を出る」を知っている作者にしか読めません。比喩の行のあいだに、比喩でない行(夜の台所、隣の部屋の姉、テレビの音)を残しておくと、読者はそこを足場にして、比喩の行を読み解けます。

選んだ案と、選んだ理由

ここまでの候補と比較から、次の形を選びました。

作例・詩選んだ案:湯をわかす

夜の台所で やかんを火にかける
姉は隣の部屋でテレビを見ている
春からこの部屋を出ることを
まだ言っていない

姉から見たら わたしは
まだ鳴らないやかん

ふたが かたかたと
先に言いだしそうになる
火を止めて
湯のみを二つ出す

要点選んだ理由

  • 中心の比喩は候補2(見え方・隠喩)にしました。共通点の「外からは熱さが分からない」が、姉はまだ知らない、という二人の関係に重なるからです。前の連で姉が何も知らないことを書いたので、隠喩でも読者はたどれます。
  • 候補3(動き)は、同じやかんの像を延ばす行として使いました。新しい像を持ちこまずに、こらえきれなくなっていく時間を進められます。
  • 候補1(音・直喩)は外しました。「息」という二つ目の像が入り、「ように」で一度説明の調子になるので、候補2・3と同じ詩に並べると、像の数が多くなると判断しました。候補1だけで一篇を組むなら、十分に成り立つ比喩です。
  • 最後の二行は比喩を外しました。火を止めて湯のみを二つ出す、という行動だけで、姉と向き合うつもりになったことを伝えています。比喩の連なりのあとに事実の行を置くと、詩が場面に着地します。
  • 第一連も比喩のない行だけにして、読者が比喩を読み解く足場にしました。

選んだ案は一つの答えにすぎません。余白を残す案(やかんが鳴りはじめる/わたしはまだ何も言っていない)を中心に、比喩をまったく言わない一篇にすることもできます。その場合は、読者に任せる部分が大きくなり、静かな詩になります。

伝わりにくさを点検する

比喩を入れた詩は、書いた本人にはどうしても通じてしまいます。一晩置いてから、初めて読む人のつもりで次の点を確かめます。

確認表詩の比喩の点検表

  • 何をたとえたのか(たとえられるもの)が、前後の行・連・題名のどこかで分かる
  • 共通点を、一語か一行で言える。言えない比喩は、まだ共通点が決まっていない
  • 比喩の材料が、詩の場面にある物か。外から持ちこんだなら、場面の像とぶつかっていない
  • 一つの連の中に、種類の違う像が二つ以上入っていない
  • 共通点を全部説明していない。読者が自分で結び付ける部分が残っている
  • 比喩でない行(場面の事実)が残っていて、読者の足場になっている
  • 比喩の部分を指で隠して読んでも、前後の行で場面が分かる
  • 飛躍した比喩は、その共通点を詩の中から見つけられる
  • 同じ所を、比喩を外した事実だけの行でも書いてみて、比べた
  • 難しい言葉や珍しい言葉を、比喩の代わりに置いていない

最後の項目について補足します。「刹那」「深淵」「残響」のような言葉を入れると、詩らしく見えることがあります。けれども、難しい言葉は像を運ばないことが多く、読者の目には何も浮かびません。比喩を新しくするのは、言葉の難しさではなく、共通点の新しさです。

決まり文句(「時が止まったように」「胸が張り裂けそう」など)を外すときの考え方は、比喩表現の作り方で、観察に戻して作り直す手順として扱っています。詩の中で比喩の材料が見つからないときは、場面の五感のメモを増やすところから始めると、使える物が増えます(詩の題材とイメージの見つけ方)。

自分の詩で、候補を三つ作って選ぶ

練習比喩の候補を三つ作って比べる(30分)

  1. 比喩を入れたい箇所、または決まり文句になっている箇所を、自分の詩から一つ選びます。
  2. その詩の場面にある具体物を一つ選び、見た目以外の性質(音・動き・見え方・温度・時間)を五つ書き出します。
  3. 性質を一つずつ選んで、比喩の候補を三つ作ります。直喩と隠喩の両方を入れます。
  4. 比べる相手として、余白を残す案(二つの事実を並べる)と、比喩を外す案を一つずつ作ります。
  5. 前後の行と一緒に声に出して読み、中心にする比喩を一つ選びます。ほかの候補は、同じ像を延ばす行として使えるか、外すかを決めます。
  6. 点検表で確かめ、選んだ理由を一行で書きます。

ひな形詩の比喩の候補メモ(コピーして使えます)

比喩を入れたい箇所:
伝えたいこと(たとえられるもの):
場面にある具体物:
その物の性質(音・動き・見え方・温度・時間):
1.
2.
3.
4.
5.
候補1(性質/直喩か隠喩か):
候補2:
候補3:
余白を残す案(二つの事実を並べる):
比喩を外す案:
選んだ比喩と、共通点(一行):
同じ像を延ばす行:
比喩でない足場の行: