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詩

詩の題材とイメージの見つけ方|五感のメモを言葉へ広げる

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この記事の答え

詩の題材は、「悲しみ」「希望」のようなテーマの名前から探すより、手で触れた物、耳に残った音、思い出したこと、引っかかった言葉から探すほうが見つかります。

  • 身近な物を一つ決め、見える・聞こえる・触れる・においなどを、比喩を使わずに見たまま書く
  • その物から、形・動き・記憶・言葉・周りの音などの方向へ連想を広げ、離れた連想どうしを一度だけ結んで飛躍を試す
  • 連想は全部使わない。一篇に残す関係を一つ選び、残りは次の題材としてとっておく
目次

詩を書こうとしても、浮かぶのは「悲しい」「きれい」「なつかしい」といった言葉ばかりで、その先が続かない。題材がないのではなく、気持ちの名前のところで止まっているのかもしれません。この記事では、架空の「台所の窓辺」を例に、一つの物を五感でメモし、そこから連想を広げ、記憶とつなぎ、飛躍を試し、最後に一篇に残すイメージを選ぶところまでを示します。読み終えたら、自分の身近な物から、詩の題材と使える言葉を集められます。

気持ちの名前を、物と感覚の言葉に置き換える

「悲しい」「きれい」は、誰の悲しみにも、どんな景色にも使える言葉です。そのため、詩の中に置くと、読者には作者が何を見たのかが伝わりません。題材を見つける最初の一歩は、気持ちの名前を、その気持ちになったときに目の前にあった物に置き換えることです。

詩で「イメージ」と言うとき、それは辞典が「心象」として説明する「心の中に描き出される姿・形。心に浮かぶ像」(デジタル大辞泉)のことです。読者が頭の中で見たり、聞いたり、触れたりできるものが、詩のイメージになります。

置き換えには、次のような問いを使います。

浮かんだ言葉 自分に向ける問い 置き換えた例(架空)
きれい そのとき、何がどう光っていたか 洗ったばかりのコップの縁だけが、夕方の光で白い
悲しい そのとき、手もとに何が残っていたか 返しそびれた本に、しおりが途中のページのまま挟まっている
なつかしい 何の音やにおいで思い出したか 階段の三段目だけが、昔の家と同じ音できしむ
さびしい 何がなくて、何が残っていたか 傘立てに、自分の傘だけが濡れたまま立っている

右の列には、気持ちの名前が一つも入っていません。それでも、左の列の気持ちが少しずつ伝わります。題材探しとは、この右の列のような場面や物を集めることです。

題材の入口は、大きく四つあります。どれか一つから始めれば十分です。

入口 探し方 メモの例(架空)
物の感触 今日、手が触れた物を三つ書く 冷えたドアノブ、乾ききっていないタオル、レシートの裏のざらつき
音 今、聞こえている音を三つ書く 冷蔵庫のうなり、遠くの踏切、隣の部屋のドライヤー
記憶 目の前の物を見て、思い出したことを書く 同じ形の湯のみが、祖父の家の食器棚にもあった
引っかかった言葉 看板・貼り紙・会話で気になった言葉を書き写す 「この先 行き止まり」「ご自由にお持ちください」

注意題材の一覧から選ぶときは

「季節」「家族」「夢」のような題材の一覧から選ぶと、言葉も一覧と同じ抽象度に戻りやすくなります。一覧は、観察する物を決めるきっかけとして使い、詩に入れる言葉は自分のメモから拾います。

一つの物を決めて、五感で記録する

ここからは、一つの物を題材にして、メモから詩の言葉を集めていきます。物は、今いる場所から見える、ありふれた物で十分です。例として、次の架空の場面を使います。

作例観察メモ「台所の窓辺」(架空の場面)

物:窓辺に置いたジャムの空き瓶。水の中に、使い終わった長ねぎの根元が三本。白い根がひげのように水の中に広がっている。上の切り口から、緑の芽が二センチほど伸びている。
見える:瓶の水が少し濁っている。夕方の光が瓶を通って、窓枠に丸い明るい形を落とす。瓶のラベルをはがした跡が白く残っている。網戸の破れをテープでふさいである。
聞こえる:外でリコーダーの練習。同じところでつかえて、また最初から吹きはじめる。五時のチャイム。
触れる:瓶の水は冷たい。根はぬるっとしている。
におい:ねぎの青いにおい。水を替えると強くなる。
時間:毎朝、水を替える。芽は一日で少し伸びる。

メモを取るときのこつは三つです。

  • 比喩を使わずに見たまま書く。「根がひげのように」は、思わず浮かんだので残していますが、できるだけ形・色・数・長さで書きます。比喩はあとの段階で試します。
  • 数や長さを入れる。「少し伸びている」より「二センチ」、「何本か」より「三本」のほうが、あとで詩の言葉として使いやすくなります。
  • その物の周りも書く。瓶だけでなく、光、音、時間も書いておくと、連想の材料が増えます。作例のリコーダーは、瓶とは関係のない音ですが、あとで重要な役をします。

五感の欄をすべて埋める必要はありません。味がない物なら味の欄は空けておきます。埋めようとして作った言葉は、自分が実際に感じたことから離れてしまいます。

一つの物から、方向を決めて連想を広げる

メモができたら、中心の物から連想を広げます。連想は、方向を決めて広げると散らばりにくくなります。作例では、形・動き・記憶・言葉の四つに、メモにあった周りの音を加えて、五つの方向に広げました。

作例連想メモ「瓶のねぎ」

中心:瓶の水に挿したねぎの根元

形から:白い根 → ひげ → 祖父の朝のひげそり → 洗面台に落ちた白い毛
動き・時間から:切られても伸びる → 切りすぎた前髪がまた伸びる → 毎朝の水替え → 誰かの世話をする
記憶から:祖母も台所の窓辺で同じことをしていた → 祖母の瓶は牛乳瓶だった → 牛乳瓶のふたの紙
言葉から:「根元」 → 「根に持つ」 → 言い返せなかったこと
周りの音から:リコーダーが同じところでつかえる → また最初から → 練習 → 何度でもやり直す

連想を広げるときに覚えておきたいのは、連想は人によって違うということです。ねぎの芽から「生命力」を思う人もいれば、「節約」や「冷蔵庫の残り物」を思う人もいます。物に決まった意味があるわけではないので、辞典のように「ねぎは〇〇を表す」と決めて使う必要はありません。自分の頭に実際に浮かんだものを書き、ありきたりに思えても、まず書いておきます。

一つの方向で三つ四つ進むと、最初の物から遠いところに着きます。「白い根」から「洗面台に落ちた白い毛」までは、三歩分の距離です。この遠さが、次の「飛躍」で使う材料になります。

記憶とつなげるときは、記憶の側も物で書く

物を見て何かを思い出したら、それは詩の題材として強い手がかりです。今目の前にある物と、記憶の中の物が並ぶと、そのあいだに時間の幅が生まれます。

ただし、記憶をそのまま書くと、説明に戻りやすくなります。「祖母はやさしい人で、よく台所で野菜を育てていた」と書くと、祖母の人柄の説明になります。記憶とつなげるときは、記憶の側も物で書くのがこつです。

書き方 例 読者が受け取るもの
記憶を説明する 祖母はやさしい人で、よく台所で野菜を育てていた 祖母についての情報
記憶を物で書く 祖母の窓辺では、牛乳瓶だった 牛乳瓶とジャムの瓶、二つの窓辺の違い

二つ目の書き方では、「やさしい」とは言っていません。それでも、今の自分が祖母と同じことをしている、という時間のつながりが見えます。

なお、ここでの「祖母」は作例のための架空の記憶です。自分の詩で記憶を使うときは、実際に思い出したことだけを材料にします。思い出せない部分を作って埋めると、メモの他の言葉と手触りが合わなくなります。

離れた連想を結んで、飛躍を試す

連想メモの別々の枝の先にあるもの同士を結ぶと、ふつうの文章では並ばない組み合わせができます。これが詩の飛躍です。飛躍があると、読者は「そう来るのか」と立ち止まり、詩が説明文から離れます。

試し方は、連想メモの枝の先を二つ選び、共通点が一つだけあるかを確かめることです。共通点がまったくないと読者がついてこられず、共通点が多すぎると驚きがありません。

結んだ二つ 共通点 試した一行 判断
白い根 × 祖父のひげ 形(白くて細い) 瓶の中で、祖父のひげが伸びている 形が似ているだけで、二つのあいだに何も起きない。保留
伸びる芽 × リコーダーのつかえ 何度でもやり直す つかえた笛がまた最初から吹きはじめる/芽がまた少し伸びる 植物と音で遠いが、「くり返し」でつながる。採用候補
根元 × 言い返せなかったこと 「根」という言葉 根に持つ、と言われたことを思い出す 言葉遊びが前に出て、窓辺の像が消える。今回は外す
ジャムの瓶 × 祖母の牛乳瓶 同じ窓辺の仕事 祖母の窓辺では、牛乳瓶だった 飛躍は小さいが、時間の幅ができる。採用候補

飛躍の一行は、たくさん作って、ほとんどを捨てるくらいでちょうどよいものです。一篇の中で大きな飛躍を何度も使うと、読者はどこにいるのか分からなくなります。最初は、一篇に一つと決めておくと選びやすくなります。

使うイメージを絞る:全部残した案と、焦点を選んだ案

連想を広げたら、最後に一篇で使うものを選びます。集めた材料は、どれも捨てがたく見えるものです。まず、全部を残した案を見てみます。

作例・詩案A:連想を全部残した案

台所の窓辺に
ねぎの根元が三本
白いひげを水の中に広げている
祖父のひげのようだ
祖母も牛乳瓶で育てていた
切られても伸びる命の強さ
外ではリコーダーが何度もつかえる
五時のチャイム
網戸の破れのテープ
夕日が窓枠に丸い光を落とす
わたしもがんばろうと思う

材料は豊かですが、読み終えたあと、何の詩だったかが残りません。祖父、祖母、命、リコーダー、網戸と、視線が次々に移り、どれにも立ち止まれないからです。さらに「命の強さ」「がんばろうと思う」で、気持ちの名前と教訓に戻っています。

次に、「伸びる芽 × リコーダーのつかえ」の関係だけを選んだ案です。

作例・詩案B:くり返しの関係を選んだ案「練習」

窓辺の瓶で
ねぎが二センチ伸びた

外で
リコーダーが同じところでつかえて
また最初から吹きはじめる

水を替える
根がゆれて
もう一度
はじめの形に広がる

同じメモから、「ジャムの瓶 × 祖母の牛乳瓶」の関係を選ぶと、別の一篇になります。

作例・詩案C:記憶との関係を選んだ案「瓶」

祖母の窓辺では
牛乳瓶だった

わたしの窓辺は
ジャムの空き瓶で
ラベルの跡が
まだ少し白い

根は
どちらの水でも
同じほうへ広がる

比べる点 案A(全部残す) 案B(くり返し) 案C(記憶)
残した関係 なし(材料を並べた) 伸びる芽と、つかえてやり直す笛 今のジャムの瓶と、祖母の牛乳瓶
外した材料 なし 祖父・祖母・網戸・チャイム・光 リコーダー・祖父・網戸・チャイム・光
気持ちの扱い 「命の強さ」「がんばろう」と書く 書かない。やり直しても続くものが、根と笛の両方に見える 書かない。二つの瓶と同じ向きの根で、時間のつながりを見せる
終わり方 教訓 水を替えたあと、元の形に戻る根(像) どちらの水でも同じほうへ広がる根(像)

案Bと案Cは、同じ瓶から始まっているのに、まったく別の詩になりました。どちらが正しいということはありません。一篇に残す関係を一つ選ぶと、残りの材料は外すことになりますが、外したものは捨てる必要はありません。案Bで外した祖母の牛乳瓶が、案Cの中心になっているように、連想メモは次の一篇の題材帳になります。

イメージを絞るときの目安です。

  • 一篇の中心になる「関係」を一つ決める(物と記憶、物と別の音、今と昔など)
  • その関係に関わらない材料は、どんなに気に入っていても外す
  • 抽象語が残っていたら、メモに戻り、その言葉を感じさせた物に置き換える

抽象語をメモの物に戻す

修正前

切られても伸びる命の強さ

修正後

切り口から
緑が二センチ

変更の理由

  • 「命の強さ」は、読者がすでに知っている言葉で、作者の結論です。読者は二センチの芽を見て、自分で強さを感じることができます。
  • メモの「二センチ」という数字が、そのまま詩の言葉になりました。メモで数や長さを書いておく理由はここにあります。
  • 詩の終わりで一度だけ抽象語を置くと、それまでの像がまとまって響くこともあります。その場合も、像だけで伝わっているかを先に確かめます。

選んだイメージを使って、行と連を置き、読み直して一篇に仕上げる手順は、詩の書き方で作例とともに扱っています。

練習:身の回りの物から題材を集める

練習一つの物から二篇分の題材を作る(30分)

  1. 今いる場所から見える物を一つ選びます。新しい物より、毎日使っている物や、置きっぱなしになっている物のほうが、記憶とつながりやすくなります。
  2. 見える・聞こえる・触れる・におい・時間の欄に、比喩を使わずにメモします。数や長さを一つ以上入れます。その物の周りの光や音も書きます。
  3. 形・動き・記憶・言葉・周りの音の中から三つの方向を選び、それぞれ三〜四歩ずつ連想を進めます。
  4. 別々の枝の先を二つ結び、共通点が一つだけある組み合わせを三つ作ります。それぞれ一行の詩句にしてみます。
  5. 一篇に残す関係を一つ選び、使わない材料に線を引きます。別の関係でもう一篇作れそうなら、そちらも書き留めます。