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短歌

短歌の題材の見つけ方|日常・気持ち・物・季節を一首にする

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この記事の答え

短歌の題材は、大きな出来事でなくてかまいません。目に止まった物、自分のした動作、気持ちが動いた瞬間の場面から選べます。

  • メモを「見えた物・したこと」と「思ったこと」に分けて書き、一首には見えた物を中心に残す
  • 気持ちから始めるときは、「その気持ちになったとき、どこで何を見ていたか」に戻す
  • 季節は桜や紅葉のような大きな景色より、毎日見ている物の切り替わりに表れる
  • 「家族」「仕事」のような大きなテーマは、場面→場所→物→一瞬の順に小さく切ってから詠む
目次

短歌を作ろうとしても、詠みたいのは「疲れた」「季節が変わった」「家族のこと」のような大きなことばかりで、どこから一首にすればいいか分からない。この記事では、台所の物、待ち時間の気持ち、身近な季節の変化という三つの架空の観察メモを使い、メモのどこを一首の中心に選び、何を外したかを順に見せます。読み終えたら、自分の一日のメモから、詠める一場面を選び出せるようになります。

題材は「出来事」より「目に止まった一点」から選ぶ

日本大百科全書は、短歌の五句の形を、焦点をもって凝集した心情を表現する叙情の形式として適している、と説明しています。三十一音には、一日の出来事のあらすじは入りません。入るのは、焦点を一つに絞った場面です。

そのため、題材を探すときに「何か特別なことはなかったか」と考える必要はありません。特別な出来事がなくても、毎日の中で目に止まった一点があれば、それが題材になります。入口は三つあります。

入口 最初に書くこと 一首の中心になりやすいもの
物から 気になった物と、その形・位置・変化 物の細部と、それに触れた自分の動作
気持ちから 気持ちの名前(疲れた・うれしい・焦った) その気持ちになった場所と、そこで見えた物
季節から 季節が変わったと感じたきっかけ 毎日見ている物の、小さな切り替わり

どの入口から入っても、最後は一つの場面にたどり着きます。そこで大事になるのが、メモの書き方です。

メモは「見えた物」と「思ったこと」を分けて書く

題材メモを書くときは、二つの欄を分けます。

欄 書くこと 例
見えた物・したこと 目で見た物、聞いた音、触れた感じ、自分の動作 かごの底の玉ねぎから芽が出ていた
思ったこと 気持ち、感想、理由、考えたこと 最近忙しくて料理していなかった

短歌の中心になるのは、主に左の欄です。右の欄は、一首には直接書かずに、左の欄の言葉を選ぶための手がかりとして使います。思ったことをそのまま歌にすると、読者は作者の気持ちを知らされるだけで、場面を見ることができないからです。

物と動作を観察する:台所の玉ねぎ

一つ目は、物から入る例です。台所の隅にある、ふだん気に留めない物を観察します。

作例観察メモ1:台所の玉ねぎ(架空)

見えた物・したこと:
・流しの下のかごに、買い置きの玉ねぎが三つ。
・そのうち一つから、青い芽が指一本ぶん伸びていた。
・芽はまっすぐではなく、窓のある方へ少し曲がっていた。
・手に取ると、皮が乾いてかさかさ鳴った。
思ったこと:
・このところ忙しくて、料理をしていなかった。
・玉ねぎのほうが自分より元気だ。

物を観察するときの問い

物を見つけたら、名前を書くだけで止めずに、次の問いで細部を書き足します。

問い 玉ねぎのメモでの答え
形や色はどうなっているか 青い芽、乾いた皮
どこにあるか、何の隣か 流しの下のかご、ほかの玉ねぎの中
ふだんと違うところはどこか 芽が出ている。窓の方へ曲がっている
触ると、音や手触りはどうか 皮がかさかさ鳴る
自分はそれに何をしたか 手に取った

「ふだんと違うところ」の答えが、一首の中心の候補になりやすい問いです。この例では、芽が出ていること、そしてその芽が窓の方へ曲がっていることが、ふだんの玉ねぎと違う点でした。

思ったことを書いた初稿と、物を中心にした歌

メモの「思ったこと」を中心に作ると、次のような歌になります。

思ったことから、曲がった芽へ

思ったことを中心にした初稿

作例・短歌玉ねぎ(初稿)

忙しく料理をしない間にも玉ねぎの芽は元気に伸びる
句よみ音数
忙しくいそがしく5音
料理をしないりょうりをしない7音
間にもあいだにも5音
玉ねぎの芽はたまねぎのめは7音
元気に伸びるげんきにのびる7音

合計31音(5・7・5・7・7)/短歌の基準どおり

見えた物を中心にした歌

作例・短歌玉ねぎ(完成)

かごの底玉ねぎひとつ芽を出して窓のほうへと少し曲がって
句よみ音数
かごの底かごのそこ5音
玉ねぎひとつたまねぎひとつ7音
芽を出してめをだして5音
窓のほうへとまどのほうへと7音
少し曲がってすこしまがって7音

合計31音(5・7・5・7・7)/短歌の基準どおり

変更の理由

  • 初稿は、「忙しく料理をしない」という事情と、「元気に」という評価を言葉で伝えています。読者は事情を知らされますが、玉ねぎの姿は「芽が伸びる」以上には見えません。
  • 完成した歌では、メモの中で一番ふだんと違った「窓のほうへ曲がった芽」を中心にしました。芽が伸びて曲がるほどの日数、誰もかごを開けなかったことが、言わなくても伝わります。
  • 「忙しい」とは書いていませんが、放っておかれた時間は、曲がった芽の長さで見えます。どれほど忙しかったのかを想像するのは、読者に任せました。
  • 外した材料:皮のかさかさした音は、この歌には入れていません。音を中心にした別の一首の種として残せます。

感情を場面へ戻す:待ち時間のいらだち

二つ目は、気持ちから入る例です。気持ちが先にあるときは、その気持ちを言葉のまま詠むのではなく、気持ちが生まれた場面まで戻ります。

最初に浮かんだのは、次のような歌でした。

作例・短歌気持ちをそのまま詠んだ歌

雨続き洗濯物も乾かない同じ毎日いらいらしてる
句よみ音数
雨続きあめつづき5音
洗濯物もせんたくものも7音
乾かないかわかない5音
同じ毎日おなじまいにち7音
いらいらしてるいらいらしてる7音

合計31音(5・7・5・7・7)/短歌の基準どおり

音数は合っていますが、「同じ毎日」「いらいらしてる」と、気持ちと状況のまとめが並んでいます。誰が詠んでも同じような雨の日の歌になり、作者だけの場面が見えません。

気持ちから場面へ戻る問い

気持ちの言葉を書いたら、次の問いに順に答えて、場面を探します。

問い このメモでの答え
その気持ちを一番強く感じたのは、いつか 雨の四日目の夜
そのとき、どこにいたか 近所のコインランドリー
目の前に何があったか 乾燥機の丸い窓。中で自分のシャツが回っている。残り時間の数字
自分は何をしていたか 丸いすに座って、窓と数字を交互に見ていた
何か音はしたか 乾燥機の低い音。ボタンが窓に当たる音

問いに答えていくと、「いらいら」という気持ちが、コインランドリーの一場面に結びつきます。

作例観察メモ2:コインランドリー(架空)

見えた物・したこと:
・乾燥機の丸い窓の中で、自分のシャツが持ち上がっては落ちる。
・表示は「残り7分」。さっきから何度も見ている。
・シャツのボタンが窓に当たって、ときどき音がする。
・丸いすに座って待っている。
思ったこと:
・雨続きで、洗濯物が部屋で乾かない。
・毎日が同じことの繰り返しで、うんざりしている。
・自分の生活も、この乾燥機の中みたいに回っているだけだ。

メモの「思ったこと」の三つ目、「自分の生活も乾燥機の中みたいに回っている」は、そのまま書くと比喩の説明になります。けれど、この思いがあるからこそ、見えた物の中から「持ち上がっては落ちるシャツ」を選ぶ理由ができます。思ったことは、見えた物を選ぶための物差しとして使います。

作例・短歌コインランドリー(完成)

乾燥機窓の向こうで僕のシャツ落ちては上がる残り七分
句よみ音数
乾燥機かんそうき5音
窓の向こうでまどのむこうで7音
僕のシャツぼくのしゃつ5音
落ちては上がるおちてはあがる7音
残り七分のこりななふん7音

合計31音(5・7・5・7・7)/短歌の基準どおり

メモの「思ったこと」 一首の中では
同じことの繰り返し 「落ちては上がる」という動きの繰り返し
待っていて、うんざりする 「残り七分」という、まだ終わらない数字
雨続きで乾かない 書いていない。乾燥機に来ている理由として読者が補える

「いらいら」という言葉は一度も使っていませんが、繰り返す動きと、なかなか減らない数字で、待つ時間の長さが伝わります。「僕の」を入れたのは、窓の中で回っているのがほかの誰かの物ではなく、自分の物だと示すためです。

気持ちの言葉を使ってはいけないわけではありません。場面が十分に見えている歌に、最後に一語だけ気持ちを置くと、かえって強く響くこともあります。気持ちを場面に置き換える方法は、恋の気持ちを例に恋愛の短歌の作り方でも扱っています。

季節の小さな変化を見つける:自販機の赤い列

三つ目は、季節から入る例です。季節を詠もうとすると、桜、紅葉、雪のような大きな景色が先に浮かびます。それらも題材になりますが、昔から繰り返し詠まれてきた景色なので、自分だけの一首にするには工夫が要ります。

自分の季節を見つけやすいのは、毎日見ている物が、ある日切り替わった瞬間です。

毎日見ている物 季節の切り替わりで起きること
通勤路の自販機 冷たい飲み物の青い表示が、温かい飲み物の赤い表示に替わる
寝室の窓 寝る前に閉める日が増える
帰り道の街灯 点いている時刻が早くなる
自分の手 ポケットに入れて歩くようになる

この表は題材の候補を並べたものではなく、どこに目を向けると切り替わりに気づけるかの例です。自分の毎日の道筋の中で、同じ物を思い浮かべてみてください。

作例観察メモ3:自販機(架空)

見えた物・したこと:
・駅からの帰り道の自販機。いちばん下の一列が、昨日まで青い表示だったのに、赤い「あったか〜い」に替わっていた。
・缶コーヒーとコーンスープが並んでいる。
・立ち止まって、上着のポケットの小銭を探した。
思ったこと:
・もうそんな季節か。
・今年は暑さが長かった。

季節の名前を書く案と、自分の動作を書く案

作例・短歌自販機(季節の名前で結ぶ案)

自販機のいちばん下の一列が赤く変わって十月になる
句よみ音数
自販機のじはんきの5音
いちばん下のいちばんしたの7音
一列がいちれつが5音
赤く変わってあかくかわって7音
十月になるじゅうがつになる7音

合計31音(5・7・5・7・7)/短歌の基準どおり

作例・短歌自販機(自分の動作で結ぶ案)

自販機のいちばん下の一列が赤く変わって小銭を探す
句よみ音数
自販機のじはんきの5音
いちばん下のいちばんしたの7音
一列がいちれつが5音
赤く変わってあかくかわって7音
小銭を探すこぜにをさがす7音

合計31音(5・7・5・7・7)/短歌の基準どおり

比べる点 十月になる 小銭を探す
季節の伝え方 月の名前で言う 赤い表示と、温かい物を買おうとする手で見せる
自分の反応 入っていない 立ち止まり、ポケットを探る動作がある
赤い表示との関係 同じこと(季節が変わった)を二度言っている 表示を見て、体が先に動いた、というつながりができる

二案は四句まで同じで、違うのは結句だけです。赤く変わった表示を見れば、季節が寒い方へ動いたことは読者に分かります。そこに「十月」と重ねると、同じ情報を二度伝えることになります。「小銭を探す」にすると、季節の変化に自分の体が反応した瞬間が入ります。この作例では、自分の動作で結ぶ案を選びました。

なお、短歌には、俳句のように季語を入れる決まりはありません。この作例でも季節を表す言葉は使っていません。季節を詠むかどうか、どの言葉で示すかは自由に選べます。俳句との違いは短歌と俳句の違いで比べています。

大きなテーマを小さく切る

「家族」「仕事」「ふるさと」のような大きなテーマを詠みたいときは、テーマをそのまま歌にせず、段階を踏んで小さく切ります。ここでは「仕事」を例にします。

段階 問い 書いたこと
テーマ 何について詠みたいか 仕事
場面 その中で、最近一番心が動いたのはいつか 残業のあと、最後に職場を出るとき
場所 それはどこか 誰もいなくなったフロア
物 そこに何があったか 電源を切った自分のパソコン
一瞬 一首に残したい一瞬は何か 黒くなった画面に、自分の顔と、非常口の緑の灯りが映った

最後の段まで来ると、「仕事」という言葉を使わなくても、働くことについての一首が作れる場面になります。黒い画面に映った自分の顔は、一日働いたあとの自分を、自分で見ている瞬間だからです。

切るときのこつは、一段ごとに「その中の一つだけ」を選ぶことです。場面の段で「残業も、通勤も、会議も」と並べると、次の段に進めません。選ばなかった場面は、別の一首の入口として残しておきます。何首かを並べて一つのテーマを詠む方法は短歌の連作の作り方で扱っています。

一首に残す情報を選ぶ

三つのメモから一首を作るとき、残した情報と外した情報を並べます。

メモ 一首に残したもの 外したもの 外してよかった理由
1 台所の玉ねぎ 窓のほうへ曲がった芽 忙しかったこと、皮の音、玉ねぎの数 曲がった芽の長さで、放っておかれた時間が伝わる
2 コインランドリー 落ちては上がるシャツ、残り時間 雨続き、いらいら、生活が回っているという考え 繰り返す動きと数字で、待つ時間の重さが伝わる
3 自販機 赤く変わった一列、小銭を探す手 もうそんな季節か、暑さが長かったこと、飲み物の種類 表示と手の動きで、季節の切り替わりが伝わる

表を見ると、三つとも同じ選び方をしていることが分かります。

要点一首に残す情報の目安

  • 見えた物を一つか二つ。そのうち一つは、ふだんと違うところ。
  • 自分の動作か反応を一つ。物を見ただけで終わらせない。
  • 必要なら、時間か場所の手がかりを一つ。
  • 理由・感想・評価は、見えた物から読者が気づけるなら外す。
  • 作者しか知らない事情で、外すと場面の意味が変わってしまうものは残す。

外した情報は捨てずにメモに残します。皮のかさかさ鳴る音、雨続きの部屋干し、暑さが長かった夏は、それぞれ別の一首の中心になり得ます。

選んだ一点をどう五・七・五・七・七に並べるか、言葉を削って音数を確かめる手順は、次に読む記事で扱います。

題材メモを続ける

題材は、思い出して探すより、その場で書き留めたほうが見つかります。気持ちが動いたら、十秒以内に目の前にあった物を一つ書く、という習慣だけでも、メモはたまっていきます。

ひな形題材メモ(一日一場面・コピーして使えます)

日付:
いつ・どこで:
見えた物・聞いた音・触れた感じ:
自分がしたこと:
思ったこと(歌には直接書かない):
ふだんと違ったところ:
一首の中心にするなら:

練習三つの入口で一つずつメモを書く(20分)

  1. 物から:今いる部屋か台所で、ふだん気に留めない物を一つ選び、「形・位置・ふだんと違うところ・手触り・自分がしたこと」を書きます。
  2. 気持ちから:最近強く感じた気持ちを一語で書き、「いつ・どこで・目の前に何があったか・自分は何をしていたか」に答えます。
  3. 季節から:毎日見ている物を一つ思い浮かべ、最近切り替わったところを書きます。
  4. 三つのメモそれぞれで、一首に残す一点に印を付け、外す情報に線を引きます。
  5. 一番書きたくなったメモを一つ選び、一首にします。

確認表題材を選んだときの確認表

  • メモを「見えた物・したこと」と「思ったこと」に分けて書いた
  • 一首の中心を、見えた物の中から一つ選んだ
  • 選んだ一点は、ふだんと違うところを含んでいる
  • 気持ちから始めた場合、その気持ちが生まれた場所と物まで戻った
  • 季節を詠む場合、月の名前や季節の言葉を、見えた物と重ねて二度言っていない
  • 大きなテーマは、場面→場所→物→一瞬の順に、一つずつ選んで絞った
  • 外した情報は、別の一首の種としてメモに残した

一首にしたあと、読みを入れて句ごとの音数を確かめるときはかな入力の音数確認が使えます。五・七・五の上の句と七・七の下の句に、メモの中の何を振り分けるかで迷ったら、短歌の上の句・下の句で、同じ上の句に違う下の句を付けた比較を見られます。