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短歌

恋愛の短歌の作り方|気持ちを一場面にして詠む実例

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この記事の答え

恋の短歌は、「好き」「会いたい」と言うだけでなく、その気持ちになったとき何を見て、何をしていたかを一場面に絞って詠むと、自分だけの一首になります。

  • 気持ちの言葉を、その場の物と動作に置き換える
  • 相手との距離は、物の位置、時間のずれ、触れる・触れないで見せる
  • 言えなかった言葉は、代わりにした動作と組み合わせる
  • 同じ「待つ」場面でも、幸福と不安では選ぶ物と動作が変わる。作例では、幸福の歌に温かい飲み物と自分から包む手を、不安の歌に溶けていく氷を選んだ

「好き」を使ってはいけないわけではありません。場面が具体的なら、一語の「好き」が強く効くこともあります。

目次

恋の歌を作ろうとすると、「会いたい」「寂しい」「好き」といった言葉が先に出て、誰が詠んでも同じような一首になってしまう。この記事では、待つ、すれ違う、別れたあとの日常という三つの架空の場面を使い、気持ちを説明した初稿と、物や動作に託して直した歌を、読みと音数付きで並べます。言わなかった言葉の詠み方、同じ場面を幸福と不安で詠み分ける方法、具体物と音数の直し方まで示すので、読み終えたら自分の気持ちを一つの場面にして一首にできます。

恋の歌は「思いを述べる」と「物に寄せる」の両方がある

恋の歌は、短歌の歴史の中でも古くから詠まれてきました。『万葉集』には、雑歌・挽歌と並ぶ部立て(歌の分類)として「相聞」があります。デジタル大辞泉は、相聞を親しい間柄で贈答された歌とし、特に恋の歌が多いと説明しています。

日本大百科全書は、相聞の歌が表現の方法によって「正述心緒」「寄物陳思」「譬喩」などに分類されると述べています。字の意味から読むと、正述心緒は思いを直接述べる歌、寄物陳思は物に寄せて思いを述べる歌です。

つまり、気持ちをまっすぐ言う歌も、物に託して言う歌も、どちらも古くからある恋の歌の形です。この記事でも、気持ちを直接言うことを禁じるわけではありません。ただ、「会いたい」「寂しい」は誰もが使う言葉なので、それだけで一首を作ると、読者には「よく聞く気持ち」として届きます。その気持ちになった、あなただけの場面を一つ選び、物と動作で見せると、同じ気持ちでも自分の一首になります。

この記事の作例は、すべて架空の場面です。相手は「君」と呼び、性別や関係の形は決めていません。一人称(わたし・僕・俺など)や、相手の呼び方(君・あなた・名前)は、自分の歌の声に合わせて選んでください。

気持ちを、物と動作に置き換える

最初の場面は「待つ」です。待ち合わせの店で、相手が来ない。説明的な初稿と、物と動作で直した歌を比べます。

気持ちの言葉から、テーブルの上の物へ

説明的な初稿

作例・短歌待つ(初稿)

待ち合わせ君が来なくて不安になる会いたい気持ち胸がいっぱい
句よみ音数
待ち合わせまちあわせ5音
君が来なくてきみがこなくて7音
不安になるふあんになる6音字余り(基準5音)
会いたい気持ちあいたいきもち7音
胸がいっぱいむねがいっぱい7音

合計32音(5・7・6・7・7)/基準は5・7・5・7・7

物と動作に託した歌

作例・短歌待つ(不安)

君の分先に置かれたお冷やには汗がつたって氷が鳴った
句よみ音数
君の分きみのぶん5音
先に置かれたさきにおかれた7音
お冷やにはおひやには5音
汗がつたってあせがつたって7音
氷が鳴ったこおりがなった7音

合計31音(5・7・5・7・7)/短歌の基準どおり

変更の理由

  • 初稿は「不安」「会いたい気持ち」「胸がいっぱい」と、気持ちを三回言っています。読者は作者の気持ちを知らされますが、店の様子は何も見えません。三句は六音の字余りです。
  • 直した歌では、店の人が先に置いていった相手の分のお冷やを中心にしました。グラスの汗(水滴)がつたい、溶けた氷が音を立てる。どちらも、時間がたったことを示す物の変化です。
  • 「不安」とは一言も書いていませんが、誰も口をつけないグラスと、静かな席で鳴る氷の音で、待つ時間の長さと落ち着かなさが伝わります。
  • 失ったもの:「会いたい」という気持ちの向きです。待っている理由が恋なのか、仕事の約束なのかは、この一首だけでは決めきれません。連作の中に置くか、恋だと分かる言葉を一つ入れるかは、作者の選択です。

置き換えるときは、場面メモを使います。気持ちの言葉を書いたら、その横に「そのとき目の前にあった物」「自分がしていたこと」を書き出します。

初稿の気持ちの言葉 そのとき目の前にあった物 自分がしていたこと・起きたこと
不安になる 相手の分のお冷や、氷 何度も入口を見る。スマートフォンを伏せる
会いたい気持ち 向かいの空いた椅子 椅子に置いた上着を、自分の側に寄せる
胸がいっぱい 溶けていく氷 自分のグラスだけが減っていく

表の右二列のどれかを使えば、別の一首も作れます。一首に入れる物は一つか二つに絞ります。書き出した物を全部入れると、焦点が散ります。

相手との距離を、物の位置や時間のずれで見せる

恋の歌で詠みどころになりやすいのが、相手との距離です。距離といっても、何キロ離れているかだけではありません。近くにいるのに会えない、同じ部屋にいるのに話せない、という距離もあります。

二つ目の場面は「すれ違う」です。一緒に暮らしているのに、仕事の時間が合わず、顔を合わせない日が続いています。

「すれ違い」という言葉から、洗面所の二本へ

説明的な初稿

作例・短歌すれ違う(初稿)

すれ違いばかりの日々が寂しくて会えない君を想ってる朝
句よみ音数
すれ違いすれちがい5音
ばかりの日々がばかりのひびが7音
寂しくてさびしくて5音
会えない君をあえないきみを7音
想ってる朝おもってるあさ7音

合計31音(5・7・5・7・7)/短歌の基準どおり

物の位置と時間のずれで見せた歌

作例・短歌すれ違う(直した歌)

洗面所二本並んだ歯ブラシの君のほうだけまだ濡れている
句よみ音数
洗面所せんめんじょ5音
二本並んだにほんならんだ7音
歯ブラシのはぶらしの5音
君のほうだけきみのほうだけ7音
まだ濡れているまだぬれている7音

合計31音(5・7・5・7・7)/短歌の基準どおり

変更の理由

  • 初稿は「すれ違い」「寂しくて」「会えない」と、状況と気持ちをすべて言葉にしています。音数は五・七・五・七・七にそろっていますが、目に浮かぶ物がありません。
  • 直した歌では、二本並んだ歯ブラシのうち、相手のほうだけが濡れていることに焦点を絞りました。並んでいることで一緒に暮らしていること、濡れていることでついさっきまで相手がそこにいたことが分かります。
  • 「会えない」と書かずに、すれ違った時間の差(数分前まで、ここにいた)が見えます。近くにいるのに会えない、という距離です。

距離は、次のような形で一首に表れます。

距離の表れ方 作例の中の言葉 ほかの場面での例
物の位置 二本並んだ歯ブラシ、向かいの席 自転車を押して歩く幅、並んだ傘の間
時間のずれ 君のほうだけ、まだ濡れている 既読の時刻、ぬるくなったコーヒー
触れる・触れない (次の節のマフラー) 手袋を外すか外さないか
呼び方 君 名字で呼ぶか、名前で呼ぶか

言わなかった言葉を、代わりの動作と組み合わせる

恋の歌では、言った言葉より、言わなかった言葉のほうが強く残ることがあります。言えなかった言葉は、代わりに何をしたかと組み合わせると、一首の中心になります。

次の二首は、同じ動作(ほどけたマフラーの端を結び直す)を、言わなかった言葉を書く形と、書かない形で詠んだものです。

作例・短歌言わなかった言葉を書く

「好きだ」とは言わずに君のマフラーのほどけた端を結び直した
句よみ音数
「好きだ」とはすきだとは5音
言わずに君のいわずにきみの7音
マフラーのまふらーの5音
ほどけた端をほどけたはしを7音
結び直したむすびなおした7音

合計31音(5・7・5・7・7)/短歌の基準どおり

作例・短歌言わなかった言葉を書かない

改札の手前で君のマフラーのほどけた端を結び直した
句よみ音数
改札のかいさつの5音
手前で君のてまえできみの7音
マフラーのまふらーの5音
ほどけた端をほどけたはしを7音
結び直したむすびなおした7音

合計31音(5・7・5・7・7)/短歌の基準どおり

比べる点 言わなかった言葉を書く 書かない
伝わること まだ気持ちを伝えていない関係だと、はっきり分かる 改札で別れる前の、短い時間
結び直す動作の意味 言葉の代わりの行為として読まれる 親しさ、世話を焼く気持ち、別れぎわのためらいなど、読者によって変わる
読者に任せること 動作の手つき 二人の関係そのもの

一首目は「好きだ」という言葉を使っていますが、気持ちを宣言しているのではなく、言わなかったことを書いています。「好き」は禁じ手ではありません。この一首のように、言わなかった言葉として置いたり、「君の好きな」のように相手について知っていることを示したりすると、ありきたりな告白とは違う働きをします。

二首目は言葉を一切書かず、場所(改札の手前)と動作だけを残しました。関係の説明がないぶん、読者は「この二人はどういう関係なのか」を、結び直すという動作から想像します。どちらを選ぶかは、読者に「言えなかった」ことまで渡したいか、動作だけを渡したいかで決まります。

同じ「待つ」でも、幸福と不安で選ぶ物が変わる

最初の場面「待つ」を、今度は幸福な気持ちで詠んでみます。相手は来ると分かっていて、到着を楽しみに待っている場面です。

作例・短歌待つ(幸福)

君の分先に頼んだミルクティー冷めないように両手で包む
句よみ音数
君の分きみのぶん5音
先に頼んださきにたのんだ7音
ミルクティーみるくてぃー5音
冷めないようにさめないように7音
両手で包むりょうてでつつむ7音

合計31音(5・7・5・7・7)/短歌の基準どおり

初句は不安の歌と同じ「君の分」ですが、そのあとに選んだ物と動作がまったく違います。

比べる点 不安の歌(お冷や) 幸福の歌(ミルクティー)
物の温度 冷たい。氷が溶けていく 温かい。冷めないように守る
動作の主 店の人が置いた物を、作者は見ているだけ 作者が自分で頼み、自分の手で包む
時間の向き 過ぎていく時間(汗、溶ける氷) 相手が来るまでの時間(冷める前に)
音 氷が鳴る、ふいの音 音はなく、手のひらの温かさだけ

同じ「待つ」でも、気持ちが違えば、目に入る物も、自分のする動作も変わります。この作例では、不安の歌に変化していく物(溶ける氷)を、幸福の歌に相手のために自分からする動作を選びました。不安なら変化していく物(溶ける氷、減っていく電池)、幸福なら相手のためにする動作、と探す方向を決めておくと選びやすくなります。ただし、これは作例での選び方の一つです。温かい物で不安を詠むこともできますし、その逆もあります。大事なのは、自分がそのとき実際に何を見て、何をしていたかをメモから探すことです。

別れたあとの日常は、習慣の動作で書く

三つ目の場面は、別れたあとの日常です。この場面では、初稿から完成までを二段階で直し、具体物と音数の推敲を見せます。

作例・短歌別れたあと(説明的な初稿)

別れても君を忘れることできず今も好きだと気づく夕暮れ
句よみ音数
別れてもわかれても5音
君を忘れるきみをわすれる7音
ことできずことできず5音
今も好きだといまもすきだと7音
気づく夕暮れきづくゆうぐれ7音

合計31音(5・7・5・7・7)/短歌の基準どおり

音数は基準どおりですが、「忘れることできず」「今も好きだと気づく」と、気持ちの変化をすべて言葉で説明しています。「夕暮れ」も、さびしさを表す場面として選ばれやすい言葉で、どの別れの歌にも付けられます。

まず、別れたあとに「まだ二人のときのまま」になっていた習慣をメモから探しました。毎晩、米を二人分量ってしまう、という習慣です。

習慣を説明した中間稿から、動作だけの歌へ

中間稿

作例・短歌別れたあと(中間稿)

二人分のお米をはかるくせがまだ抜けずに一杯米びつに戻す
句よみ音数
二人分のふたりぶんの6音字余り(基準5音)
お米をはかるおこめをはかる7音
くせがまだくせがまだ5音
抜けずに一杯ぬけずにいっぱい8音字余り(基準7音)
米びつに戻すこめびつにもどす8音字余り(基準7音)

合計34音(6・7・5・8・8)/基準は5・7・5・7・7

完成した歌

作例・短歌別れたあと(完成)

米びつのカップで二杯量りかけ一杯分をそっと戻した
句よみ音数
米びつのこめびつの5音
カップで二杯かっぷでにはい7音
量りかけはかりかけ5音
一杯分をいっぱいぶんを7音
そっと戻したそっともどした7音

合計31音(5・7・5・7・7)/短歌の基準どおり

変更の理由

  • 中間稿で、具体物(米、米びつ)と動作(はかる、戻す)は入りました。けれども「くせがまだ抜けずに」が、動作の意味を説明しています。初句は六音、四句と結句は八音の字余りです。
  • 完成した歌では、「くせ」と書くのをやめ、動作の順番(二杯量りかけて、一杯戻す)だけを残しました。量りかけてから戻したことで、二人分を量るのが癖だったことは読者に伝わります。
  • 「二人分」を「二杯」に替えました。人数を言わずに、数だけで二人だった暮らしを示しています。
  • 「そっと」は、戻す手つきを示す言葉です。気持ちの言葉は使っていませんが、この一語に、誰にも見られていない台所での静かな気持ちがこもります。
  • 三か所の字余りがなくなりました。字余りを直すかどうかは、言葉を入れ替えたあとで決めています。どうしても残したい言葉で字余りになる場合は、短歌の字余り・字足らずの手順で、残す案と比べて選びます。

完成した歌には「別れ」も「君」も出てきません。それでも、二杯量りかけて一杯戻す動作だけで、ひとりになった暮らしが見えます。恋の歌だと分かるかどうかは、題や、ほかの歌と並べたときの位置にも助けられます。一首だけで恋の歌だと伝えたい場合は、「君」などの言葉を一つ残す案も作って比べます。

実在の相手を詠むときに気をつけること

注意公開する前に

恋の歌は、実際の相手や出来事をもとに詠むこともあります。SNSや投稿欄などで公開する場合は、相手の名前、勤め先、よく行く店、日付など、読んだ人が相手を特定できる細部を、別の物に替えるか外しておくと安心です。作中の「君」は、実在の誰かと同じ人物でなくてかまいません。場面の核(待つ、すれ違う、戻す)が残っていれば、細部を変えても歌は成り立ちます。

自分の恋の歌を、一場面から一首にする

手順恋の歌を作る手順

  1. 詠みたい気持ちを一語で書く(例:会いたい、寂しい、うれしい、言えなかった)。
  2. その気持ちになった場面を一つ選び、「いつ・どこで・目の前にあった物・自分がしたこと・言わなかった言葉」をメモする。
  3. メモから物を一つか二つ、動作を一つ選ぶ。相手との距離が表れる物(位置、時間のずれ、触れる・触れない)を優先する。
  4. 気持ちの言葉を使わない案を作る。次に、気持ちの言葉や言わなかった言葉を一つだけ入れた案を作る。
  5. 二つの案を声に出して読み、読みをかなに直して句ごとに音数を数える。
  6. 公開するなら、相手を特定できる細部を替える。

ひな形恋の歌の場面メモ(コピーして使えます)

詠みたい気持ち(一語):
場面(いつ・どこで):
目の前にあった物:
自分がしたこと:
相手がしたこと:
言わなかった言葉・言えなかった言葉:
相手との距離が表れる物(位置・時間のずれ・触れる/触れない):

練習同じ場面を、幸福と不安で一首ずつ(20分)

  1. 待つ、すれ違う、別れたあとのうち、自分が詠みたい場面を一つ選び、場面メモを書きます。
  2. その場面を、幸福な気持ちで詠む一首と、不安な気持ちで詠む一首に分けて作ります。初句は同じにしてかまいません。
  3. 二首で、選んだ物の温度、動作の主、時間の向きがどう違うかを、表の形で書き出します。
  4. 自分が本当に詠みたかった気持ちに近いほうを選び、もう一首は別の歌の種として残します。

確認表恋の歌の確認表

  • 気持ちの言葉を、その場の物と動作に置き換えた案を作った
  • 一首に入れる物は、一つか二つに絞った
  • 相手との距離が、物の位置・時間のずれ・触れる/触れないのどれかで見える
  • 言わなかった言葉を書く場合は、代わりにした動作と組み合わせた
  • 「好き」「会いたい」を使う場合は、場面が具体的で、言葉が説明の繰り返しになっていない
  • 「夕暮れ」「涙」など、恋の歌でよく使われる言葉に頼りすぎていない
  • 読みをかなに直し、句ごとに音数を数えた
  • 公開する場合、相手を特定できる細部を替えた

読みを入れて句ごとの音数を確かめるときはかな入力の音数確認が使えます。一首ができたら、説明が残っていないか、助詞や語順がこれでよいかを短歌の推敲のやり方の順番で見直せます。恋の歌の題材を、恋以外の日常にも広げたい場合は短歌の題材の見つけ方が使えます。