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発表・本作り

自費出版と同人誌の違い|自分の作品を本にする方法・費用条件・契約を比べる

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この記事の答え

自費出版と同人誌は名前で決めず、誰が作業し、誰が費用を負い、本がどこに置かれ、権利とデータがどうなるかで比べます。

  • 同人誌の自主制作は、作業も在庫も頒布も自分が担う。部数を自分で決め、配る相手が見えている本に向く
  • 自費出版サービスとの契約は、編集・校正・装丁・印刷・流通をまとめて頼める。その代わり、費用の内訳、在庫、権利とデータ、解約の条件を契約前に書面で確かめる
  • ISBNが付くことと書店に並ぶこと、書店に並ぶことと売れることは、それぞれ別のこと
目次

書き上げた作品を本にしたいとき、「自費出版にするか、同人誌にするか」で迷ったら、まず言葉の中身を分けて考えます。二つの言葉の境目ははっきりしておらず、同じ「自費出版」でも書店に流通させる契約もあれば、家族に配るだけの本もあります。この記事では、架空の短編集『坂の上の郵便局』を、同人誌として自主制作する、オンデマンド出版に登録する、自費出版サービスと契約する、の三通りで本にした場合を並べ、作業・費用・流通・権利のどこが違うかを確認表にします。

呼び方ではなく、何を誰に頼むかで比べる

まず、よく使われる呼び方を整理します。ここでの説明は、この記事で比べるための使い分けです。

呼び方 この記事での意味 中身を確かめる点
同人誌(自主制作) 書き手が自分やサークルで作り、即売会や通販で頒布する本。印刷は印刷所に頼むことも、家庭で刷ることもある どの作業を自分でし、どれを頼むか
オンデマンド出版 注文があるたびに1冊ずつ印刷して届けるサービスに、本のデータを登録して販売する方法 販売される場所、印刷コストの差し引き方、選べる判型
自費出版(サービスとの契約) 書き手が費用を負担し、出版社や自費出版サービスと契約して本を作る方法 契約に含まれる作業、流通、在庫、権利、追加費用

呼び方だけでは中身が決まらない例は、提供者自身の説明にも見られます。文芸社のよくある質問では、自費出版を「著者様ご自身が費用を負担される自費出版という出版方法」と説明し、その形態として、正規の流通ルートにのせて広告も出す形のほか、家族や知人向けの小規模な出版も挙げています。幻冬舎ルネッサンスのよくある質問にも「書店流通しない本(私家版)も制作できますか?」という項目があります。反対に、KDP(Kindle ダイレクト・パブリッシング)のペーパーバックで無料のISBNを使うと、出版社の表示は「個人出版」になります。

つまり、「自費出版なら書店に並ぶ」「同人誌は本ではない」といった区別はできません。比べるべきは、作業を誰がするか、費用をどう払うか、本がどこに置かれるか、権利とデータがどうなるかです。

作例:同じ作品集を三通りで本にする

ここからは、小説同人誌の作り方などで使っている架空の短編集『坂の上の郵便局』(短編5作、約6万字、文庫判で本文170ページの見込み)を使います。作者の希望は二つあります。冬の即売会と通販で30部ほど届けたいこと、そしてできれば、即売会に来られない人にも買える状態にしたいことです。

この本を、次の三通りで作る場合を比べます。

  • A 自主制作(同人誌):編集・校正・組版・表紙を自分で行い(必要な作業だけ個別に頼み)、印刷所に30部を注文する
  • B オンデマンド出版:自分で作った本文と表紙のデータを、注文ごとに印刷して販売するサービス(例:KDPのペーパーバック)に登録する
  • C 制作一式の委託(自費出版サービス):出版社や自費出版サービスと契約し、編集から印刷・流通まで頼む

作業を誰が担うかの確認表

項目 A 自主制作 B オンデマンド出版 C 制作一式の委託
内容への助言(編集) 自分。感想や講評を個別に頼むこともできる 自分 提供者の編集者。どこまで関わるかは契約で確かめる
校正 自分、または校正を個別に依頼 自分、または個別に依頼 提供者の工程に含まれるか、回数と範囲を確かめる
組版・表紙 自分、または個別に依頼 自分。サービスの原稿・表紙の条件に合わせる 提供者
印刷 印刷所に部数を決めて注文し、先に支払う 注文ごとにサービスが印刷する 提供者が手配する
ISBN 付けなくてよい。付けるなら自分で取得 サービスの無料ISBNか、自分で取得したもの 提供者の扱いを確かめる
在庫 自分で持つ 持たない 契約で決まる(保管場所・費用・期間)
販売・流通 即売会、自家通販、委託先の店など サービスの販売先(KDPならAmazon) 提供者の流通網。どの書店に何冊かを確かめる
費用の出方 印刷所の価格表・見積もり+個別に頼んだ作業 前払いの印刷代なし。売れるたびに印刷コストがロイヤリティ(印税)から差し引かれる 個別の見積もり。総額と内訳を確かめる
データと改訂 すべて自分の手元。直して刷り直せる 自分のデータを差し替える 契約で決まる。データの扱いと改訂の費用を確かめる

表から読み取れるのは、作業の負担と、費用・在庫・権利の決まり方が、三つの方法で入れ替わっていることです。Aは作業も在庫も自分が持つ代わりに、部数もデータも自分で決められます。Bは在庫を持たずに買える状態を作れますが、本を作る作業はAと同じく自分に残ります。Cは作業を任せられる一方、何が含まれ、何が自分の手元に残るかは契約の中身次第です。

『坂の上の郵便局』の作者の場合、30部を即売会と通販で届けるならAで足ります。「来られない人にも買える状態」は、Aの自家通販でも、Bでも作れます。Cが必要になるのは、書店の店頭に置きたい、編集者の手を借りたい、という希望がはっきりしているときです。

編集・校正・組版・印刷の範囲を確かめる

同じ「本にしてもらう」でも、含まれる作業は提供者と契約で違います。たとえば文芸社では、出版契約のあとに、原稿整理・編集実務・校正校閲などの編集・制作、著者の意向を取り込んだカバーデザイン、著者と編集者の双方で行う校正、複数の業者から選ぶ印刷・製本、提携書店への配本、という工程で進みます。同社の校正は字句レベルの確認と訂正で、本文の校正のほかカバーのチェックもあります。

契約前には、工程の名前だけでなく、次の点を確かめます。

  • 編集者は内容にどこまで意見を出すか。提案を受け入れない選択はできるか
  • 著者が確認する校正は何回か。回数を超えた修正に費用はかかるか
  • 校閲(事実関係の確認)を含むか
  • 判型、本文用紙、表紙のデザインを自分で選べるか

Aの自主制作で、作業の一部だけを頼むこともできます。校正は小説の校正サービスの選び方、組版は小説同人誌の組版は自作か外注か、表紙は小説同人誌の表紙を依頼する方法で、頼む範囲と見積もりの比べ方を扱っています。

ISBNと流通:番号と、書店に並ぶことと、売れることは別

ISBNは書籍の識別子

ISBNは、国際規格の書籍の識別子です。国内の発行と運用は日本図書コード管理センターが担っています。出版者記号の新規申請料は、センターの料金表で次のように示されています(すべて税抜)。

出版者記号の桁数 発行できる点数 新規申請料
8桁(シングルコード) 1点 11,000円+税
7桁 10点 22,000円+税
6桁 100点 40,320円+税

流通上必要な場合は、ISBNをもとに書籍JANコード(本の裏表紙にある2段のバーコード)を作ります。書籍JANコードは別に登録が必要で、料金は3年ごとにかかります。

オンデマンド出版のKDPでは、ペーパーバックに限って無料のISBNを取得でき、その場合の出版社の表示は「個人出版」になります。この無料のISBNはKDPでしか使えず、ほかで出版する本には使えません。

一方、印刷所に同人誌を刷ってもらうこと自体には、ISBNは要りません。小説同人誌の印刷所の選び方で比べた印刷所の注文条件にも、ISBNの項目はありません。

なお、国立国会図書館の納本制度の案内では、国立国会図書館法により、国内で発行されたすべての出版物を同館に納入することが義務付けられているとしています。自分の本が対象になるか、手続きはどうするかは、同館の案内で確かめてください。

書店に並ぶことと、売れることは別

ISBNが付いても、それだけで書店に並ぶわけではありません。書店の店頭に置かれるには、本を書店に届ける流通の仕組みが必要です。自費出版サービスには、この流通の仕組みを持つところがあります。たとえば文芸社は全国の450店舗を超える書店と提携していて、配本の前に提携店の配本リストが示されます。幻冬舎ルネッサンスは、商業出版と同じ流通網に乗せて全国の書店へ本を届けます。

流通を頼むなら、次のことを具体的に聞きます。

  • どの書店に、何冊ずつ配本されるか。店を自分で選べるか
  • 店頭に置かれる期間の目安と、そのあとの本の扱い(返品された本はどうなるか)
  • ネット書店で買える状態は、いつまで続くか

そして、書店に並ぶことと、手に取られて売れることは別です。店頭に並んでも、どれだけ売れるかは分かりません。費用を、売上で取り戻せる前提で考えないことが大切です。読者に届けたい相手が決まっているなら、即売会や通販、知人への手渡しのほうが確実に届く場合もあります。

部数・在庫・追加費用を確かめる

費用の示し方は方法ごとに違う

方法 費用の示され方 確かめること
A 自主制作 印刷所の価格表や自動見積もりで、判型・ページ数・部数ごとに出る 送料、オプション、個別に頼んだ作業の費用を足した総額
B オンデマンド出版 KDPでは、印刷コストを前払いせず、売れるたびにロイヤリティ(印税)から差し引く 1冊あたりの印刷コストと、自分で決める販売価格
C 制作一式の委託 文芸社は「形式的な価格表はご用意しておりません」とし、原稿をもとに個別に無料で見積もる 総額、内訳、支払いの時期、契約後の追加費用

Bの印刷コストは計算式が公開されています。KDPの案内では、日本のマーケットプレイスで黒インク・クリームまたは白の用紙・標準判・110〜828ページの場合、固定コスト206円に1ページ2円を足します。『坂の上の郵便局』の170ページなら、206円+170×2円=546円が、1冊売れるごとに差し引かれる計算です。

在庫は誰が、どこで、いつまで持つか

在庫は、方法による違いが大きい項目です。

  • A:刷った本は自分の手元に届きます。印刷所によっては保管の仕組みもあり、たとえばトム出版は、できあがった本を最後の注文日から1年間無料で預かり、必要なときに発送します。
  • B:在庫を持ちません。KDPでは印刷がオンデマンドで行われるので、在庫を抱える必要がありません。
  • C:刷った本がどこに保管されるか、保管に費用がかかるか、期間が過ぎた在庫をどうするかは、契約で確かめます。幻冬舎ルネッサンスのよくある質問にも「出版後に在庫を買い取る義務は発生しますか?」「契約後に追加費用は発生しますか?」という項目があります。在庫と追加費用は、契約前に書面で確かめておきたい点です。

追加費用が出やすい場面

契約や見積もりで「一式」と書かれていても、次の場面で費用が加わることがあります。どれが含まれ、どれが別料金かを確かめます。

  • 修正の回数を超えたとき、刊行後に誤りを直すとき
  • 増刷するとき
  • 広告を出すとき(文芸社では、広告は著者の要請に応じたオプション)
  • 在庫を保管する期間が延びたとき、在庫を引き取るとき
  • 自分用の本を追加で受け取るとき
  • 電子書籍を追加で作るとき

権利・データ・改訂を確かめる

本を作るとき、作品の著作権を相手に移すのか(譲渡)、移さずに出版などの利用を認めるのか(利用許諾)で、契約後にできることが変わります。文化庁の「誰でもできる著作権契約マニュアル」では、譲渡は著作権そのものが移ること、利用許諾は著作権を移さず、利用方法を定めてその範囲に限って利用を認めることと説明しています。

自費出版の契約では、作品の権利について次の点を確かめます。

確かめること 具体的な問い
出版する権利の範囲 提供者に独占的に出版することを認めるか。紙の本だけか、電子書籍も含むか
期間と更新 契約の期間はいつまでか。自動で更新されるか。終了の申し出はいつまでにするか
ほかでの発表 契約中に、同じ作品をWebで公開し続けたり、同人誌に収録したりできるか
終了後 契約が終わったあと、同じ作品を自分で本にしたり、ほかで出したりできるか
データ 組版データ・表紙のデータは誰のものか。終了後に受け取れるか、費用はかかるか
表紙の絵・デザイン 提供者が作った表紙を、終了後に使えるか
改訂 刊行後に誤字や内容を直せるか。費用はかかるか

Aの自主制作では、データも権利も基本的に自分の手元に残ります。ただし、表紙のイラストやデザインを人に頼んだ場合は、その使用範囲を依頼のときに決めておく必要があります(小説同人誌の表紙を依頼する方法)。

また、本にした作品を、あとで公募に出したいと考えている場合は注意が要ります。同人誌や自費出版で発表した作品を「発表済み」とみなす公募もあります。予定がある作品は、小説公募の「未発表」とは?で確かめ方を見てから、本にするかどうかを決めてください。

注意権利と契約の判断について

ここで示したのは、契約の前に確かめる項目です。個々の契約書の条項がどのような効果を持つかは、条項の文言と事情によります。判断に迷う場合は、契約に詳しい専門家に相談してください。契約のトラブルで困ったときは、消費者ホットライン「188」に電話すると、身近な消費生活センターや消費生活相談窓口を案内してもらえます。

見積もりと契約書を読む

架空の条項で、読み方を練習する

次は、読み方を説明するために作った架空の見積もりと契約条項です。実在する提供者の見積もりや契約書を写したものではありません。

作例架空の見積もりと契約条項(説明用)

見積もり:出版費用一式 ◯◯◯,◯◯◯円(編集、校正2回、装丁、印刷500部、書店流通を含む)

第◯条(出版の権利)著者は、本契約の期間中、本作品を紙の書籍および電子書籍として出版する独占的な権利を出版者に認める。
第◯条(期間)本契約の期間は刊行日から3年とし、期間満了の3か月前までにいずれからも申し出がないときは、1年ごとに更新する。
第◯条(在庫)刊行日から2年を経過した時点で残る在庫について、出版者は著者に買い取りを求めることができる。
第◯条(データ)本書の組版データおよび装丁データは出版者に帰属する。
第◯条(増刷)増刷の費用は、別途見積もりによる。

この架空の条項を読むときに立てる問いは、次のとおりです。

条項 読むときの問い
見積もりの「一式」 校正が2回を超えたら費用はかかるか。500部のうち、著者が受け取る冊数と、書店に配る冊数はそれぞれ何冊か
出版の権利 期間中、Webで公開している作品をそのまま公開しておけるか。同人誌に再録できるか
期間 3年後に終えたいとき、いつまでに申し出ればよいか。更新を忘れると何年続くか
在庫 買い取りの単価と冊数の上限はいくらか。断ることはできるか。買い取らない場合、在庫はどうなるか
データ 契約が終わったあと、組版データを受け取れるか。受け取れない場合、自分で作り直す必要があるか
増刷 増刷を決めるのは誰か。費用を負担するのは誰か

条項の一つひとつは、それだけで良い悪いを決められるものではありません。大切なのは、自分の目的(何部を、誰に、いつまで届けたいか)と照らして、困る条項がないかを契約の前に確かめることです。

見積もり・契約の確認表

ひな形自費出版の見積もりと契約で確かめること(コピーして使えます)

提供者名:
見積もり・説明を受けた日:
自分の目的(誰に、何部、いつまでに、書店流通は必要か):

【費用】
総額:
内訳(編集・校正・組版・装丁・印刷・流通・広告など):
支払いの時期と方法:
契約後に追加費用が出る条件:

【作業の範囲】
編集者が内容に関わる範囲:
校正の回数と範囲:
判型・用紙・表紙を自分で選べるか:

【部数・流通・在庫】
印刷部数/著者が受け取る冊数:
配本される書店と冊数、店頭の期間:
ネット書店での販売の期間:
在庫の保管場所・費用・期間:
在庫の買い取りの有無と条件:
増刷の条件と費用:

【ISBN・電子書籍】
ISBNの扱い:
電子書籍の有無と費用:

【権利・データ・改訂】
出版の権利の範囲(独占か、紙・電子のどちらか):
契約の期間・更新・終了の申し出:
契約中・終了後に、ほかで発表・出版できるか:
組版・表紙データの扱い(終了後に受け取れるか):
刊行後の修正の可否と費用:

【解約】
途中で解約する場合の扱いと返金:

【比べたほかの方法】
同じ作品を同人誌として作る場合の見積もり:
オンデマンド出版で作る場合の費用:

確認表の答えは、口頭の説明だけでなく、見積書や契約書などの書面で受け取ります。説明会や相談会のその場で契約を決める必要はありません。同じ作品を同人誌として刷る場合の見積もりも取り、並べて比べると、自費出版の契約で何に費用を払っているのかが見えやすくなります。

少部数の自主制作という選択

ここまでの比較を、目的ごとにまとめます。どれが上という順位ではなく、目的に合うかどうかの整理です。

目的 合いやすい方法 理由
家族や友人に数冊〜数十冊を配りたい A 自主制作(数冊なら家庭用プリンターでも) 部数を自分で決められ、流通の仕組みは要らない
即売会や通販で、読んでくれる人に届けたい A 自主制作 届ける相手と部数が見えている
在庫を持たずに、ネットで買える状態にしたい B オンデマンド出版 前払いの印刷代と在庫がない。作業は自分に残る
書店の店頭に置きたい。編集や装丁を任せたい C 制作一式の委託 流通の仕組みと制作の工程を契約で頼める。費用と条件を確かめたうえで
まず一冊作ってから考えたい A 自主制作 1冊から刷れる印刷所もあり、作業を一通り経験できる

方法は一つに決めなくてもかまいません。『坂の上の郵便局』の作者なら、まずAで30部を作って即売会と通販で届け、同じ原稿をもとにBで買える状態にする、という組み合わせも考えられます。その場合、選べる判型や原稿・表紙データの条件はサービスごとに決まっているので、Aの入稿データをそのまま使えるかはサービスの案内で確かめます。そのうえで、書店の店頭に置きたいという希望が強くなったときに、Cの見積もりと契約を、この記事の確認表で比べれば間に合います。

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