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小説

小説のテーマの決め方|伝えたいことを人物の選択と結末につなぐ

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この記事の答え

テーマは「友情」のような一語ではなく、主人公が答えに迷う問いにして決めます。

  • 一語を「〜のためなら、〜してよいか」のような、答えが一つに決まらない問いにする
  • 問いの反対側に、理由のある別の考えを置く
  • 主人公が山場で何を選び、何を失うかで問いに答える(答えを読者に残してもよい)

テーマを人物に言わせて説明する必要はありません。選択と結末が問いに対応しているかを点検します。

目次

「友情」や「孤独」をテーマに書き始めたのに、話が動かない。書き上げたら、人物がテーマを説明する台詞ばかりになっていた。原因の一つは、テーマが一語のままで、物語の中で誰が何を選ぶのかにつながっていないことです。この記事では、「友人を守るために秘密を話すか」という一つの問いから三つの筋を作り、テーマを行動で見せる場面と説明する場面を比べます。

テーマは「何を問う話か」、あらすじは「何が起きるか」

国語辞典では、テーマは「主題」と言い換えられています。精選版 日本国語大辞典は、テーマを「催し、創作などの基調として、その全体を通して表わそうとした考え、思想、観念」と説明しています。つまりテーマは、出来事の一つではなく、作品全体を通して表そうとする考えです。

一方、あらすじ(ストーリー)は、何がどの順で起きるかです。同じテーマでも、あらすじはいくらでも変えられます。違いを、この記事の作例で並べると次のようになります。

段階 中身 作例
題材 何を書くか 高校の陸上部。三年生の最後の大会
テーマの語 作品が触れる大きな領域 友情
テーマの問い 作品全体を通して問うこと 友人を守るためなら、友人が隠していることを話してよいか
あらすじ 何がどの順で起きるか 補欠の主人公が、友人の隠しているけがに気づき、大会の前夜に一つの行動を選ぶ

「友情」という語は、作品がどの領域の話かを示しますが、どんな場面を書けばよいかは教えてくれません。場面を決めるのは、その下の問いです。問いが決まると、主人公が迷う場面、選ぶ場面、選んだ結果が見えてきます。

題材そのものがまだない場合は、先に小説のネタがないときの考え方で、日常のメモから人物と出来事の付いた種を作ってください。この記事は、種ができたあと、またはテーマの語だけが先にある場合に使います。

一語のテーマを、主人公が迷う問いに変える

テーマの語を問いにするとき、答えが決まっている問いにしないことが大切です。「友情は大切か」と問えば、答えは「大切」に決まっています。答えの決まった問いからは、主人公が迷う場面が生まれません。

テーマの語 答えが決まっている問い 主人公が迷える問い
友情 友情は大切か 友人を守るためなら、友人が隠していることを話してよいか
孤独 一人はさびしいか 一人で暮らすと決めた人は、差し出された助けを断ってよいか
家族 家族を大事にすべきか 親が望む道を断ることは、親を裏切ることになるか
夢 夢を追うのはよいことか 才能が足りないと分かっても、続けることに意味はあるか

右の列の問いには、共通する形があります。

  • 大事なものが二つぶつかっている。「友人の頼み」と「友人の体」、「自分の暮らし方」と「相手の好意」のように、どちらにも価値がある。
  • 主人公の行動で答えられる。話すか話さないか、断るか受けるか。気持ちの持ち方ではなく、することで答えが出る。
  • 答えが一つに決まらない。読む人によって、どちらが正しいかの考えが分かれ得る。

「〜のためなら、〜してよいか」「〜することは、〜になるか」という型に当てはめると、問いを作りやすくなります。

問いの反対側に、もう一つの考えを置く

問いができたら、その問いに対する二つの考えを書き出します。ここで避けたいのは、反対側を「悪い考え」にしてしまうことです。「友情を大事にする主人公」と「友情を軽んじる誰か」を対立させると、答えは最初から決まり、主人公は迷いません。

迷いが生まれるのは、二つの考えが、どちらもテーマの語の内側にあるときです。作例の問いでは、どちらの考えも「友情」から出ています。

考え 中身 誰が持っているか
考えA 友人の頼みを聞き、秘密を守るのが友情 友人の夏帆。そして、主人公の環の半分
考えB 嫌われても、友人の体を守るのが友情 主人公の環のもう半分
問いを難しくする事情 夏帆が外れれば、補欠の環が走れる。話すことは、環自身の得にもなる 環。自分が話す理由が友情なのか、自分のためなのか分からない

作例の前提を、ここで示しておきます。

作例作例の前提

高校三年の環(たまき)は、陸上部のリレーの補欠です。最後の大会の四日前、同じ部の夏帆(かほ)が足首の痛みを隠して練習していることに、環だけが気づきます。夏帆は「先生には言わないで。最後なんだから」と頼みます。夏帆がメンバーから外れれば、代わりに走るのは環です。

三つ目の行の「問いを難しくする事情」が、この作例の要です。話せば自分が得をする、という事情があるために、環は「友人を守るため」という理由を自分でも信じきれません。対立する考えは、別の人物に持たせても、主人公の中に二つ置いても、両方を使ってもかまいません。大事なのは、どちらの考えにも、読む人がうなずける理由が一つあることです。

同じ問いから、選択の違う三つの筋を作る

テーマの問いは、筋を一つに決めるものではありません。同じ問いから、主人公の選び方によって別々の物語が生まれます。作例の問いで、山場の選択を変えた三つの筋を作りました。

項目 案1:先生に話す 案2:話さない 案3:本人に返す
山場の選択 大会の前日、環は顧問に夏帆の足のことを話す 環は最後まで黙っている。夏帆はリレーを走る 前夜、環は夏帆に「朝までに自分で言わないなら、私が言う」と告げる
選択の代償 夏帆は外れ、環が走る。夏帆は口をきかなくなる 夏帆は走り切るが、レースのあと一人では立てなくなる 夏帆に「補欠だから言うのだ」と思われる
結末の場面 帰りのバスで、夏帆は一度も振り向かない 待合室で夏帆が「言わないでくれてありがとう」と言い、環は答えられない 翌朝、夏帆が職員室に入っていくのを、環は廊下から見ている
問いに対する作品の向き 守ることは、恨まれることを引き受けることでもある 頼みを守ることが本当に友人のためだったのか、答えを読者に残す 友人を守ることと、友人の選択を奪わないことは両立できるのかを問う

三つの案は、テーマの語(友情)も問いも同じです。違うのは、主人公が何を選び、何を失ったかです。そして、その違いが、作品が問いに対してどちらを向いているかを決めています。テーマは、人物の台詞ではなく、選択と代償と結末の組み合わせで表れるということが、この表から分かります。

案2のように、作品として答えを出さずに終える形もあります。どの案がよいかは、書き手が何を問いたいかで決まります。ただ、どの案でも、主人公は自分で選んでいます。偶然や他人の判断で決着がつく筋(たとえば、顧問が自分で夏帆のけがに気づく)にすると、問いに答えるのは主人公ではなくなり、テーマが筋から離れます。

主人公が何を目的に動き、どんな弱さで迷うのかを人物の側から固めたいときは、キャラクター設定の作り方で、目的・弱点・行動のつながりを確かめられます。

テーマを説明する場面と、行動で見せる場面を比べる

選択が決まったら、それを場面として書きます。テーマを意識しすぎると、人物の心の中でテーマを言葉にしてしまいがちです。案3の山場を、二通りに書いて比べます。

案3の山場を、説明で書いた場合と行動で書いた場合

テーマを説明した場面

環は迷っていた。友情とは何だろう。友達の願いを聞いてあげることだろうか。それとも、嫌われても友達の体を守ることだろうか。夏帆が走れなくなれば、自分が走れる。だからこそ、自分が先生に言うのは卑怯な気がした。本当の友情とは、相手に自分で選ばせることなのかもしれない、と環は思った。
「明日の朝までに先生に言って。言わなかったら、私が言う」

行動で見せた場面

部室の鍵を閉めるのは、いつも最後に残った二人だった。
夏帆が靴ひもを結び直すあいだ、環は棚のテーピングの箱を数えた。残りは二つ。月曜には五つあった。
「明日の朝練の前に、先生のところに行って」
夏帆の手が止まった。
「行かなかったら、私が言う。補欠だから言うんだって、思われてもいい」
「……思うよ」
「うん」
環は部室の鍵を差し出した。夏帆はしばらくそれを見ていたが、やがて受け取り、自分で扉に鍵をかけた。

変更の理由

  • 説明した場面では、「友情とは何か」という問いと、その答え(相手に自分で選ばせること)を、環が地の文で言ってしまっています。読者が場面から考える前に、答えが渡されます。
  • 行動で見せた場面では、「友情」という語は一度も出てきません。テーピングの箱の減り方で痛みが続いていることを、「補欠だから言うんだって、思われてもいい」で自分の得になる選択だと分かっていることを、鍵を夏帆に渡す動作で選択を本人に返すことを、それぞれ示しています。
  • 迷いを内面の言葉で書くこと自体は悪くありません。一人称の語りや、考え続ける人物を描く作品では、内面の言葉が中心になることもあります。避けたいのは、作品の問いへの答えを、場面が示す前に地の文で言い切ることです。

説明が多くなる原因はテーマ以外にもあります。人物の背景や設定の説明が場面を止めている場合は、小説が説明ばかりになるときの直し方で、残す説明と場面に移す説明を分けられます。

説教になった箇所を見つけて直す

初稿を読み返して、作品が読者に教えを説いているように感じたら、次の四つの形のどれに当たるかを探します。

説教の形 どこに出やすいか 直し方
人物がテーマの答えを言い切る 山場の台詞、結末の独白 答えを言う台詞を削り、その答えにつながる行動を一つ書く
語り手が出来事の意味を解説する 場面の終わりの一文 解説の文を削り、場面を行動か物の描写で終える
反対の考えを持つ人物が、論破されるためだけに出てくる 対立の場面 反対側の人物に、読者がうなずける理由を一つ持たせる
結末で主人公が教訓をまとめる 最後の段落 まとめの文を削り、選択の代償が残る場面で終える

作例の案1の結末を、この表で直します。

案1の結末:教訓でまとめた形と、代償で終えた形

教訓でまとめた結末

大会が終わった。環は三走を走り、チームは決勝に進めなかった。夏帆は一度も環と口をきかなかった。
それでも環は後悔していなかった。友達のためを思うなら、嫌われることを恐れてはいけない。本当の友情とは、そういうものなのだ。

代償で終えた結末

大会が終わった。環は三走を走り、チームは決勝に進めなかった。
帰りのバスで、夏帆は窓側の席に座り、一度も振り向かなかった。環は膝の上でゼッケンの安全ピンを一本ずつ外し、四本を手のひらに握ったまま、降りる停留所を一つ乗り過ごした。

変更の理由

  • 直す前の結末は、後半の三文で「話したのは正しかった」と作品が判定しています。読者が「本当に正しかったのか」と考える余地がなくなり、夏帆の怒りも、間違った反応として片付けられてしまいます。
  • 直したあとの結末は、話したことの代償(夏帆が振り向かない)と、環が平気ではいられないこと(停留所を乗り過ごす)だけを書いています。正しかったかどうかの判断は、読者に残ります。
  • 作品として一方の答えをはっきり示したい場合もあります。その場合も、まとめの文で言うより、主人公がその答えに沿って次に何をするかを書くほうが、読者に届きやすくなります。

テーマを言葉にしてもよい場合

人物がテーマを口にすることが、いつも説教になるわけではありません。太宰治の「走れメロス」では、結末で王が「信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。」と言います。作品の中心にある考えが、そのまま台詞になっている箇所です。

それでもこの台詞が成り立つのは、二つの条件がそろっているからです。一つは、メロスの行動で先に示されていること。メロスは途中で倒れ、「もう、どうでもいい」という気持ちに傾きかけますが、水の流れる音を聞いて起き上がり、再び走ります。迷ったうえでの選択が、台詞より前に書かれています。もう一つは、言うのが人を信じられなかった王だということです。この台詞は、王にとっての変化の表明であり、読者への教えとして置かれているのではありません。

自作でテーマを言葉にしたくなったら、行動で示したあとか、言うことがその人物にとって変化になっているかを確かめます。どちらも満たさない台詞は、削るか、行動に置き換える候補です。

テーマと、物語で起きることの対応を点検する

最後に、テーマの問いが物語の要所に表れているかを表で確かめます。作例の案3で記入すると、次のようになります。

確かめる箇所 案3で起きること
冒頭の主人公の考え 秘密は守るもの。夏帆に頼まれて黙っている
対立する考え 夏帆の体が心配だ。同時に、自分が走りたい気持ちも混じっている
問いを迫る出来事 テーピングの箱が減っていく。大会の前夜になる
山場の選択 先生ではなく、夏帆本人に「言わないなら私が言う」と告げる
選択の代償 夏帆に「補欠だから」と思われる
結末 翌朝、夏帆が職員室に入っていくのを見る。夏帆が何を話したかは書かない

表の上から下へ、主人公の考えが揺さぶられ、選び、何かを失い、結末で変わっている(または問いが残っている)流れになっていれば、テーマは筋に組み込まれています。どこかの行が空欄になる場合、そこがテーマと筋の離れている箇所です。

確認表テーマと筋の対応を確かめる

  • テーマの語を、答えが一つに決まらない問いにできている
  • 問いの両側に、それぞれ読者がうなずける理由のある考えがある
  • 山場で、主人公が自分で選んでいる(偶然や他人の判断で決着していない)
  • 選択に代償がある
  • 結末で問いに答えるか、答えを読者に残すかを、自分で決めている
  • 人物がテーマを口にする箇所は、行動で示したあとか、その人物の変化になっている

ひな形テーマの設計メモ(コピーして使えます)

テーマの語:
主人公が迷う問い(〜のためなら、〜してよいか):
考えA(誰が持つか):
考えB(誰が持つか):
問いを難しくする事情:
山場の選択:
選択の代償:
結末の場面:
問いに答えるか、読者に残すか:

練習自分のテーマを三つの筋にする(20分)

  1. 書きたいテーマの語を一つ書きます(友情、孤独、家族など)。
  2. 「〜のためなら、〜してよいか」の形で、主人公が迷う問いを作ります。答えが一つに決まる問いになっていたら、ぶつかる二つの大事なものを探し直します。
  3. 考えAと考えBを書き、それぞれ誰が持つかを決めます。
  4. 山場の選択を三通り考え、それぞれの代償と結末の場面を一行ずつ書きます。
  5. 三つのうち、書いていていちばん自分が迷ったものを選びます。

テーマが決まらないと書き始められませんか

決まらなくても書き始められます。題材や人物から書き、初稿を終えてからテーマに気づくこともあります。その場合は、初稿の山場で主人公が何を選んだかを書き出し、「その選択は、どんな問いへの答えになっているか」を逆にたどります。見つかった問いに合わせて、対立する考えや代償の場面を書き足すと、作品の芯がはっきりします。すべての小説が、一文で言える教訓や明確なテーマを持つ必要はありません。

選択と結末が決まったら、それを冒頭からどう並べるかが次の作業です。出来事の因果をつなぎたい場合は、小説のプロットの書き方の記入例で、問いを迫る出来事から山場までの順番を組み立てられます。