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小説

ファンタジー小説の書き方|世界のルールを展開と選択につなぐ

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この記事の答え

特別な力には、できること・できないこと・使うと失うものを一組で決め、その制約が主人公の願いとぶつかる出来事を段階的に作ります。

  • 物語の中心を「誰が、何のために、何を差し出すか」の一文で決め、その一文に効かない設定は資料に残す
  • 主人公の困りごとを力が一瞬で解決してしまう設定は、制約を足して調整する
  • 力を小さく使う場面、力が役に立たない場面、大きな代償を払う場面の順に並べると、説明しなくてもルールが読者に伝わる
目次

魔法の体系や国の歴史はノートに何ページもあるのに、主人公の物語が始まらない。そんなときに見直したいのは、設定の量ではなく、設定が主人公の行動を変えているかどうかです。この記事では、「魔法を使うと記憶を一つ失う」という独自の制約から、主人公の願いとぶつかる出来事を三段階で作り、便利すぎる設定を調整し、結末に必要な設定とそうでない設定を分けるまでを、一つの物語の設計で示します。読み終えたら、自作の特別な力から、その世界でしか起きない展開を組み立てられます。

物語の中心を一文で決める

ファンタジーの設計で最初に決めるのは、世界の全体像ではなく、その世界で誰が何のために何を差し出す話なのかです。この一文が、後で設定を選ぶ物差しになります。

この記事で作る物語の中心は、次の一文です。

作例物語の中心(作例)

繕い手(つくろいて)の少女イオが、熱の下がらない弟を町の医者へ連れていくために、自分の記憶を差し出すかどうかを選ぶ話。

あわせて、物語がどの型のファンタジーかも決めておきます。百科事典の日本大百科全書(ニッポニカ)は、広い意味のファンタジーを、現実から独立した別世界を語る物語、現実から別世界へ行く物語、非現実が現実に入り込む物語の三つに分けて説明しています。どの型を選ぶかで、読者に世界のルールを伝える人が変わります。

型 作例の物語なら ルールを読者に伝える方法
別世界だけで進む 架空の谷の村で、繕い手の少女が暮らしている 人物は全員ルールを知っているので、教える人がいない。生活と失敗で見せる
現実から別世界へ行く 現代の中学生が、繕いの魔法がある谷へ迷い込む 主人公が読者と一緒に知る。質問させると説明が自然になるが、案内役の講釈が長くなりやすい
現実に非現実が入り込む ある朝、自分だけ壊れた物を直せるようになっていた 主人公にもルールが分からない。試して確かめる過程そのものが筋になる

どの型が正しいということはありません。異世界へ行く話や、生まれ変わる話でなければファンタジーにならない、ということもありません。この記事の作例は、一つ目の「別世界だけで進む」型で作ります。この型は説明役を置きにくいぶん、設定紹介を減らす工夫がいちばん必要になるからです。

力と制約を対にする

特別な力を決めるときは、「できること」を一つ書いたら、必ず「できないこと」と「使うと失うもの」を並べて書きます。三つを一組にしておくと、力が物語を止めてしまうのを防げます。

繕い(作例の魔法)
できること 割れた器、裂けた布、折れた木や石など、壊れた物を元の形に戻す
できないこと 命あるもの(人・動物・草木)の病気や傷は治せない。無いものを作ることはできない
使うと失うもの 繕うたびに、繕い手は自分の記憶を一つ失う
代償の決まり方 どの記憶が消えるかは選べない。大きな物を繕うほど、古く大事な記憶が消えやすい
失った記憶 戻らない。ただし、人から聞いたり書き残したりした事実は、覚え直すことができる

便利すぎる設定を調整する

この表は、最初からこの形だったわけではありません。最初の案には、物語を簡単に終わらせてしまう設定がいくつも入っていました。

最初の案 便利すぎる理由 調整した決まり
失う記憶を自分で選べる どうでもいい記憶(三日前の昼ごはん)を差し出せば済み、代償が意味を持たない 選べない。大きな物ほど大事な記憶が消えやすい
人の病気や怪我も繕える 弟の熱をその場で治せば、物語が冒頭で終わる 命あるものには効かない
何人かで力を合わせれば、一人の代償が小さくなる 村じゅうで少しずつ払えば、誰も困らない 一つの物を繕えるのは一人だけ。村の繕い手はイオと祖母の二人だけ
失った記憶は、時間がたつと戻る 代償が一時的になり、選択が軽くなる 戻らない。書き残した事実だけは覚え直せる

調整の目安は一つです。主人公の困りごとを、その力が代償なしで一瞬に解決できるなら、制約が足りない。反対に、制約が強すぎて力がまったく使えないなら、それは特別な力のない物語と変わりません。小さな用途には気軽に使えて、主人公がいちばん必要とする場面でだけ重い、という形が展開を作りやすくなります。

既存の作品で見たルールをそのまま借りると、読者は先の展開を予想しやすくなり、作品の個性も薄れます。発想のきっかけに使うのはかまいませんが、制約と代償の組み合わせは、自分の物語の中心の一文から決め直します。

力が暮らしと人間関係に何をもたらすかを決める

力と制約が決まったら、その力が主人公の周りの暮らしをどう変えているかを考えます。世界全体の経済や制度まで決める必要はありません。主人公の家と、主人公に頼る人、主人公を恐れる人の三つで足ります。

誰 繕いの力があることで変わったこと(作例)
イオの家 繕い手は、知っておきたいことを「覚え帳」に書く習慣がある。祖母の覚え帳は家族の名前と年で埋まっている
祖母 長年の繕いで多くを失い、ときどきイオを亡くなった母の名で呼ぶ
頼る村人 鍋や鍬を気軽に持ってくる人もいれば、祖母の姿を見て、代わりのきかない物しか頼まなくなった人もいる
恐れる・ためらう人 弟のソラは、姉が何かを忘れるたびに「また忘れた?」と冗談めかして聞く。本当は怖がっている

この表は、後で結末を作るときに効いてきます。覚え帳の習慣は暮らしの細部に見えますが、「書き残した事実は覚え直せる」という制約と結びつくと、結末の道具になります。世界のルールが暮らしにどう表れるかを広く設計する方法は小説の世界観の作り方で扱っているので、ここでは主人公の周りだけに絞っています。

主人公の目的を、力では一瞬で解決できない場所に置く

設定から考え始めると、主人公の目的が「魔法の秘密を知りたい」「世界を救いたい」のような大きく曖昧なものになることがあります。これでは、物語が世界の案内になってしまいます。

目的は、次の三つを満たす場所に置きます。

  1. 具体的で、いつまでに果たしたいかがある
  2. 特別な力では、そのまま解決できない
  3. ただし、代償を払えば力が役に立つ道が一つだけある
目的の案 1 具体的・期限 2 力でそのまま解決できない 3 代償を払えば道がある
繕いの力の起源を知りたい × ○ ×
一人前の繕い手になりたい × × ×
雪で峠が閉じる前に、熱の下がらない弟を町の医者へ連れていきたい ○ ○(命あるものは繕えない) ○(落ちた橋なら繕える)

三つ目の目的なら、繕いの「命あるものは繕えない」という制約が、そのまま主人公の障害になります。そして橋が落ちたとき、初めて力が役に立つ道が現れます。人物の目的と弱点の決め方そのものは、小説のキャラクター設定の作り方で扱っています。

制約から出来事を三段階で作る

力と目的が決まったら、出来事を三段階に並べます。力を小さく使う、力が役に立たない、大きな代償を払う、の順です。この順に並べると、作者が説明しなくても、読者は出来事を追ううちにルールを覚えていきます。

段階 出来事 制約の効き方 イオの選択
1 小さく使う ソラの割れた独楽を繕う 隣の犬の名前を忘れる。代償は小さく、選べない 弟を喜ばせるため、迷わず使う
2 役に立たない ソラが高い熱を出す。イオは繕えば治るかと手をかざすが、何も起きない 命あるものは繕えない 弟を背負って、つる橋を渡り町へ行くと決める
3 大きな代償 嵐でつる橋が落ちる。回り道は三日かかり、ソラはもたない。祖母が「わしが繕う」と言う 大きな物ほど大事な記憶が消える。繕えるのは一人だけ 祖母を止め、覚え帳に弟のことを書いてから、自分で橋を繕う

段階1は、ルールの紹介を兼ねています。代償が小さいので、読者は軽い場面として読みます。ただし「選べない」ことはここで見せておきます。段階2では、力があるのに使えないことで、主人公が力に頼らない行動を選びます。段階3で、二つの制約(大きな物ほど大事な記憶、一人しか繕えない)が同時に効き、選択が最も重くなります。

段階3で祖母が代わりを申し出るのは、主人公に「楽な道」を見せるためです。祖母に任せればイオは何も失いません。けれど祖母に残った数少ない記憶が、橋と引き換えに消えるかもしれない。楽な道を先に見せることで、イオが自分で払う選択に重みが出ます。

願いと制約がぶつかる場面

段階3の、橋を繕う直前の場面です。

作例つる橋の前(段階3の一部)

つる橋は谷の真ん中で裂け、片方の綱だけが向こう岸から垂れ下がっていた。
「わしがやる」祖母が杖を置いた。「もう失うものは、そう多くない」
「ばあさまは、わたしの名前を覚えてるでしょ」
 祖母は答えなかった。
 イオは背中のソラを下ろし、毛布でくるんで岩陰に寝かせた。それから懐の覚え帳を開き、炭のかけらで書いた。
 〈弟の名前はソラ。九つ。独楽が好き。熱を出したのは秋の終わり。わたしはこの子を町へ連れていく〉
 書き終えると、覚え帳を祖母に預けた。
「渡ったら、これを最初に読ませて」
 イオは垂れた綱の端を両手で握った。指の間から白い糸のような光がこぼれ、谷を渡っていった。

この場面では、新しい設定を一つも説明していません。祖母の「もう失うものは、そう多くない」、イオの「わたしの名前を覚えてるでしょ」、覚え帳に書く行動は、どれも段階1と2、そして暮らしの表で決めたことの上に立っています。読者は、イオが何を失うかもしれないと覚悟して、何を書き残したのかを、行動から受け取ります。

結末では、橋を渡りきったイオが、背中の男の子が誰なのか分からなくなっています。祖母に渡された覚え帳の一行目に、自分の字で〈弟の名前はソラ〉とある。そこで物語を閉じる、という案です。結末の決め方と読後感の整え方は小説の終わり方で扱っています。

設定紹介を減らして先へ進める

三段階が決まったら、作った設定を「結末に必要なもの」と「使わないもの」に分けます。結末に必要な設定は、結末より前に一度だけ見せておきます。使わない設定は、書かずに資料に残します。

設定 結末に必要か 扱い
失う記憶は選べず、大きな物ほど大事な記憶が消える 必要 段階1で小さく見せ、段階3で効かせる
命あるものは繕えない 必要 段階2で、弟の熱に使えない場面で見せる
書き残した事実は覚え直せる(覚え帳) 必要 冒頭で祖母が書いている姿を見せ、結末で使う
繕えるのは一人だけ。村の繕い手は二人 必要 段階3で祖母が代わりを申し出る場面で見せる
繕いの起源(山の神から授かった言い伝え) 不要 資料に残す。祭りの場面を書くなら一言だけ
遠い国の別の魔法(風読み、火守り) 不要 書かない。別の物語の種としてメモへ
繕いの報酬の相場 不要 資料に残す
百年前に谷を襲った大崩れの歴史 不要 資料に残す

「不要」の行は、作った意味がなかったわけではありません。作者が知っていることで、人物の言葉や村の風景に厚みが出ます。ただ、本文で説明する必要はありません。

冒頭の設定紹介を、段階1の場面に置き換える

冒頭を、説明から段階1の場面へ

説明から始めた冒頭

この世界には「繕い」と呼ばれる魔法がある。千年前に山の神から授かったと伝えられる力で、壊れた物を元に戻すことができる。ただし使うたびに記憶を一つ失う。ヤナギ谷では代々、イオの家の女たちが繕い手を務めてきた。イオの祖母も優れた繕い手だったが、長年の繕いで多くの記憶を失っていた。

段階1の場面から始めた冒頭

ソラが泣きながら持ってきたのは、真ん中から割れた木の独楽だった。
「直して。ねえちゃんなら直せるでしょ」
 イオは割れ目を合わせて、両手で包んだ。指の間から白い糸のような光がこぼれ、木目がつながっていく。光が消えると、ソラは独楽をひったくって土間で回しはじめた。
 戸口から、隣の犬が顔を出した。イオは名前を呼ぼうとして、口を開けたまま止まった。
「……この子、なんて名前だっけ」
「コハク。ねえちゃん、また忘れた?」ソラは独楽から目を離さずに言った。
 炉端では祖母が、覚え帳に何かを書きつけていた。

変更の理由

  • 書き換えた冒頭で伝わるのは、「壊れた物を直せる」「使うと何かを忘れる」「忘れることは、この家ではよくあることだ」「書き留める習慣がある」の四つです。どれも出来事と一緒に入ってきます。
  • 「山の神から授かった」「千年前」は、物語のどこにも効かないので外しました。「代々の女たち」も、段階3まで使わない情報です。
  • 「大きな物ほど大事な記憶が消える」はまだ見せていません。ここで説明すると、段階3の重さを先に言ってしまうからです。読者は犬の名前程度の小さな代償だけを知って先へ進みます。
  • 祖母が覚え帳に書く姿は、結末に必要な設定を、説明せずに一度見せておくための一行です。
  • 語り手が世界を案内する調子の作品なら、冒頭の短い説明が合う場合もあります。その場合も、説明した設定が最初の場面で誰かの行動に効くかを確かめます。

自作の力を、三段階の出来事にする

最後に、この記事の手順を記入用にまとめます。設定ノートの別のページではなく、物語の中心の一文と同じ紙に書くと、設定が筋から離れにくくなります。

ひな形ファンタジーの設計シート

物語の中心(誰が、何のために、何を差し出す話か):
型(別世界だけ/現実から別世界へ/現実に非現実が入り込む):
ルールを読者に伝える方法(生活と失敗/主人公が一緒に知る/試して確かめる):

【力】
できること:
できないこと:
使うと失うもの:
代償の決まり方(選べるか、何で重さが変わるか):

【便利すぎないかの確認】
主人公の困りごとを、代償なしで一瞬に解決できないか:
抜け道(肩代わり、分担、時間で元に戻る等)はないか:

【主人公の目的】
具体的な目的と期限:
力ではそのまま解決できない理由:
代償を払えば開く道:

【三段階】
1 小さく使う:
2 役に立たない:
3 大きな代償を払う(楽な道/あえて選ぶ道):

【結末に必要な設定】(結末より前に一度見せる場面):
【使わない設定】(資料に残す):

練習自作の力で三段階を書き出す(20分)

  1. 自作の特別な力について、「できること・できないこと・使うと失うもの」を一行ずつ書きます。
  2. 主人公の目的を一つ書き、その目的が力で代償なしに解決できてしまわないか確かめます。できてしまう場合は、制約を一つ足します。
  3. 「小さく使う」「役に立たない」「大きな代償を払う」の三つの出来事を、一行ずつ書きます。
  4. 三つ目の出来事で使う設定に印を付け、その設定を冒頭か段階1の場面で一度だけ見せる方法を考えます。

三段階を章立てや場面の並びに広げ、中盤の展開まで筋をつなげたいときは、小説のプロットの書き方の記入例が使えます。書き進めて設定が増えてきたら、決めた制約と本文が食い違っていないかを小説の設定矛盾の見つけ方の表で確かめてください。