本文へ移動
執筆環境・原稿

小説に校正ツールを使う方法|誤字・表記揺れの確認と頼れない判断

PRこの記事には広告リンクを含みます。広告と紹介の基準

この記事の答え

校正ツールは、誤字・変換ミス・表記揺れの「候補」を拾う道具として使います。

  • 台詞の方言や口調、作中の人名や造語、意図した反復や表記は、指摘されても作者が採否を決める
  • 指摘は一件ずつ判断し、「すべて置換」は使わない。決めた表記は作品ごとの表記表に書き、ツールの辞書にも登録する
  • 設定の矛盾や物語の良し悪しはツールでは分からない。指摘の件数が減ることと、作品が良くなることは別に考える
目次

校正ツールに小説の原稿を通すと、たくさんの指摘が返ってきます。誤字の指摘はありがたい一方で、方言の台詞や登場人物の名前まで「誤り」として並ぶと、全部直してよいのか迷うはずです。この記事では、架空の短い原稿に模擬の指摘を当てて、採用・保留・不採用の判断を一件ずつ示します。表記表と辞書登録、未公開原稿を入力する前の確認、人に校正を頼む範囲までを扱います。

校正ツールで確かめられること、確かめられないこと

校正ツールが得意なのは、原稿の文字そのものを、辞書や規則と照らして確かめる作業です。苦手なのは、作品の中でしか決まらないことと、読んだ人の中でしか決まらないことです。

確認したいこと ツールで拾えるか 理由と注意
誤字・変換ミス(「告げた」が「継げた」など) 拾いやすい 候補として出る。文脈によっては誤りでないものも混ざる
助詞の抜け・重なり 拾えることがある 見落としもあるので、音読での確認と組み合わせる
表記の揺れ(「埠頭」と「ふ頭」、送り仮名の違い) 対応するツールなら拾える どちらに統一するかは作者が決める
ら抜き言葉、くだけた言い方 対応するツールなら拾える 台詞の口調として意図したものも指摘される
同じ語の重なり、読点の多さ、長い文 拾えることがある 文体として意図した反復やリズムも指摘される
作中の人名・地名・造語 誤って指摘されやすい ツールの辞書にない語は、誤字や未知の語として扱われやすい
設定の矛盾(設定資料と違う地名や日付) 拾えない 文字としては正しいので、ツールには分からない
物語の面白さ、詩や短歌の表現の良し悪し 判定できない ツールの指摘が少ないことは、作品の質を示さない

どの項目を確かめられるかはツールや設定によって違うので、使うツールの説明で確かめます。一方、最後の二行はツールに頼れない部分です。校正ツールが確かめているのは「文字や表記が規則に合っているか」で、「作品がよく書けているか」ではありません。物語の面白さや、詩の一行の価値を判定するものではないので、指摘がゼロになっても、それは表記の候補が見つからなかったという意味にとどまります。

作例:テスト用の短い原稿と、模擬の指摘

ここからは、次の架空の原稿を使います。この記事のために新しく書いたもので、確認用に誤字と表記の揺れをわざと入れてあります。台詞の博多弁、人名の「凪砂(なぎさ)」、作中の行事「浮き灯(うきび)」、架空の地名「汐見ヶ浦」、「遠い、遠い」の繰り返しは、作者が意図したものです。

作例テスト用の原稿(架空・約250字)

汐見ヶ浦の港では、夏の終わりに浮き灯を流す。
航は第三埠頭の先にしゃがみ、紙の灯を水に置いた。
「お兄ちゃん、なんしよっと。はよ来んね」
後ろから、妹の凪砂声がした。航は返事をしなかった。去年の今日、父の船は第二ふ頭から出て、戻らなかった。
灯は、ゆっくりと沖へ流れていく。遠い、遠い、灯りが、ひとつずつ見えなくなる。
「もう見れんよ」
「見えんごとなるまで、ここにおる」
航がそう言うと、凪砂は黙って隣に座った。二人は、最後の灯が消えるまで見ていた。
港の放送が、閉門の時刻を継げた。航は立ち上がって、妹の手を取った。

この原稿の作者は、別の設定資料に「父の船が出たのは第三埠頭」と書いていたとします。

この原稿に校正ツールをかけたときに出そうな指摘を、模擬の例として並べます。特定のツールに実際に入力した結果ではなく、どの指摘が出るか、何件出るかは、ツールや設定によって変わります。

番号 箇所 模擬の指摘
1 閉門の時刻を継げた 「告げた」の誤りの可能性
2 妹の凪砂声がした 助詞の抜けの可能性(「凪砂の声」)
3 第三埠頭/第二ふ頭 表記の揺れ(「埠頭」と「ふ頭」)
4 なんしよっと/はよ来んね くだけた表現、または不明な語
5 もう見れんよ ら抜き言葉(「見られん」)
6 凪砂 「渚」の誤りの可能性、または未知の語
7 浮き灯 未知の語
8 遠い、遠い 同じ語の重複
9 灯/灯り 表記の揺れ
10 遠い、遠い、灯りが、ひとつずつ 読点が多い

指摘を一件ずつ判断する

指摘は、まとめて採用もまとめて無視もせず、一件ずつ判断します。判断の手順は次のとおりです。

手順指摘を判断する手順

  1. 指摘を種類で分ける。誤り(誤字・脱字・変換ミス)、表記の選択(どちらも誤りではない)、文体の指摘(口調・反復・文の長さ)、作中の語(人名・地名・造語)の四つです。
  2. 誤りは、辞書で意味を確かめて直す。候補の語が文脈に合っているかを確かめます。
  3. 表記の選択は、表記表で決める。その場で一か所だけ直さず、作品全体でどちらにそろえるかを決めて、表記表に書きます。
  4. 文体の指摘は、台詞か地の文か、意図があるかで判断する。迷うものは保留にして、音読で確かめます。
  5. 作中の語は不採用にし、ツールの辞書に登録する。次から同じ指摘が出ないようにします。

模擬の指摘に当てはめると、次のようになります。

番号 種類 判断 理由
1 継げた 誤り 採用 時刻を知らせる意味なので「告げた」
2 凪砂声 誤り 採用 「の」が抜けている
3 埠頭/ふ頭 表記の選択 採用 「埠頭」にそろえ、表記表に書く
4 なんしよっと/はよ来んね 文体(台詞) 不採用 凪砂の博多弁は人物の声。標準語にすると兄妹の土地の感じが消える
5 見れん 文体(台詞) 不採用 台詞の口調。地の文に同じ形があれば、そこは直すか検討する
6 凪砂 作中の語 不採用 人物名。辞書に「凪砂(なぎさ)」を登録する
7 浮き灯 作中の語 不採用 作中の行事名。辞書に登録する
8 遠い、遠い 文体(地の文) 不採用 灯が遠ざかる感じを出すための、意図した反復
9 灯/灯り 表記の選択 保留 「灯(ひ)」は流す物、「灯り(あかり)」は見える光として使い分けている。読み分けが伝わるかを確かめ、必要なら初出にふりがなを付ける
10 読点が多い 文体(地の文) 保留 音読して、間が効いているか、読みにくいだけかを確かめる

ツールが拾えなかったもの

模擬の指摘には、「第二ふ頭」の「第二」についての指摘がありません。設定資料では、父の船が出たのは第三埠頭です。表記の揺れ(ふ頭)は指摘されても、「第二」が設定と違うことは、文字として正しいのでツールには分かりません。こうした作中の事実の食い違いは、設定資料と原稿を照らし合わせて自分で確かめます。時系列や人物の設定を表で点検する方法は小説の設定矛盾の見つけ方で扱っています。

指摘をすべて採用すると、何が起きるか

指摘の扱い方で、原稿がどう変わるか

指摘をすべて採用した場合(誤修正の例)

「お兄ちゃん、何をしているの。早く来て」
後ろから、妹の渚の声がした。航は返事をしなかった。去年の今日、父の船は第二埠頭から出て、戻らなかった。
灯りは、ゆっくりと沖へ流れていく。遠い灯りが、ひとつずつ見えなくなる。
「もう見られないよ」

一件ずつ判断した場合

「お兄ちゃん、なんしよっと。はよ来んね」
後ろから、妹の凪砂の声がした。航は返事をしなかった。去年の今日、父の船は第三埠頭から出て、戻らなかった。
灯は、ゆっくりと沖へ流れていく。遠い、遠い、灯りが、ひとつずつ見えなくなる。
「もう見れんよ」

変更の理由

  • すべて採用した版では、誤字は直りましたが、凪砂の博多弁が標準語になり、名前が「渚」に変わり、「遠い、遠い」の繰り返しが消えています。誤りではないものまで「正しい形」にそろえた結果、人物の声と語りのリズムがなくなりました。
  • 一方で、すべて採用した版でも「第二」は直っていません。ツールの指摘をすべて採用しても、設定の誤りは残ります。
  • 一件ずつ判断した版では、ツールの指摘から誤字・脱字・表記の揺れだけを採り、設定の誤り(第二→第三)は設定資料との照合で直しています。

指摘をすべて採用すると、ツール上の指摘の件数は減ります。けれど、この例のように、件数が減った版のほうが作品として弱くなることがあります。指摘の件数は、表記の候補の数であって、作品の出来の点数ではありません。

文体・会話・固有名詞は、例外として扱う

小説では、校正ツールの規則から外れることが、そのまま表現になっている箇所がたくさんあります。指摘されやすく、作者の判断が必要な例をまとめます。

例外になりやすいもの よくある指摘 判断の目安
台詞の方言・口調 くだけた表現、ら抜き、不明な語 人物の声として意図していれば不採用。地の文に同じ形が混ざっていないかは確かめる
一人称の語りの癖 話し言葉の混入、文末の重なり 語り手の声として一貫していれば残す
人名・地名・造語 誤字の可能性、未知の語 不採用にして辞書に登録。登録前に、作中で表記が揺れていないかを確かめる
意図した反復 同じ語の重複 効果を音読で確かめ、効いていれば残す
長い一文、読点の多い文 文が長い、読点が多い 緊張や息の長さを出しているなら残す。読みにくいだけなら直す
古い言い回し・歴史的仮名遣い 誤った表記 時代設定や人物に合わせて意図していれば残す
投稿サイトのルビ記法など 記号の誤り ツールに通す前に記法を外すか、指摘を読み飛ばす

句読点やかぎ括弧、三点リーダーのように、作品ごとに決める表記のルールは小説の句読点・かぎ括弧・三点リーダーで整理しています。

決めた表記は、表記表とツールの辞書に残す

一件ずつ判断したら、その結果を作品ごとの表記表に書きます。表記表があれば、次にツールをかけたときや、続きを書くとき、人に校正を頼むときに、同じ判断を繰り返さずに済みます。

語 使う表記 使わない表記 メモ
ふとう 埠頭 ふ頭 第一〜第三埠頭。父の船は第三埠頭
しおみがうら 汐見ヶ浦 汐見ケ浦、汐見が浦 架空の地名。「ヶ」は小さい片仮名
なぎさ 凪砂 渚 妹の名前。初出にふりがな
うきび 浮き灯 浮灯、浮き火 作中の行事名。初出にふりがな
ひ/あかり 灯(ひ)=流す物、灯り(あかり)=見える光 ― 読み分ける。迷う箇所はふりがな
台詞の博多弁 凪砂と航の台詞のみ 地の文には使わない 「見れん」などのら抜きは台詞では残す

表に書いたら、使っている校正ツールに辞書登録やユーザー定義の機能があれば、人名・地名・造語を登録します。登録しておけば、次から同じ語が誤りとして指摘されにくくなり、本当に確かめるべき指摘が埋もれにくくなります。登録の方法や、登録した語がどう扱われるかはツールごとに違うので、使うツールの説明で確かめてください。

辞書に登録するときは、登録する前に、その語が作中で揺れていないかを確かめます。「汐見ヶ浦」と「汐見ケ浦」が混ざったまま片方を登録すると、もう片方の揺れが見えにくくなることがあります。

未公開の原稿を入力する前に確かめること

校正ツールには、パソコンにインストールして使うもの、ブラウザで使うWebサービス、ワープロソフトに組み込まれた機能などがあり、入力した文章の扱いはそれぞれ違います。応募前の原稿や、公開していない原稿を入れる前に、次の点を確かめます。

確認表校正ツールに原稿を入れる前の確認

  • 入力した文章が、提供者のサーバーに送られるか。送られる場合、保存されるか、いつ削除されるか
  • 入力した文章が、AIの学習などに使われることがあるか
  • AIによる書き換えなどの機能を使うと、文章が別の会社のサービスに送られるか
  • 提供者(運営者)が誰か、問い合わせ先があるか
  • 応募先が生成AIの利用に条件を付けている場合、AIで書き換え案を出す機能を使ってよいか

提供者のページには、たとえば次のような説明があります。

  • 文賢(株式会社ウェブライダー)の販売ページには、入力した文章はAIの学習データとして使用されず、文賢のサーバーに保存されることもないと書かれています。一方で、AIアシストに送信した文章は、不正利用などの監視・調査を目的として、OpenAI社のサーバーに30日間保管されるとも書かれています。同じツールの中でも、使う機能によって文章の扱いが変わる例です。
  • Enno のページには、無料で登録不要のWebサービスであり、チェックされる文章はデータベースやログ、外部サイトなどに一切保存していないと書かれています。ただし、運営者の名前はページに記載がありません。

ページの説明は変わることがあるので、入力する前に、その時点の説明で確かめてください。AIで書き換え案を出す機能は、応募規定の「生成AIの利用」に当たる場合があります。応募先の規定の読み方はAIを使った小説は公募に応募できる?で、生成AIに原稿を見せるときの考え方は小説のAI添削と人の講評の使い分けで扱っています。

主な校正ツールを比べる

小説の原稿に使える校正ツールの例を並べます。どれも小説専用に作られたものではないので、ここまでの「例外の扱い」と「表記表」を前提に使います。順位を付けるものではありません。

ツール 形と費用 主な機能 原稿の扱いについての説明
Wordのエディター(Microsoft) Wordに組み込まれた機能 Windows版では、[ホーム]タブの[エディター]かF7キーで起動。指摘ごとに「無視」でき、「提案のカスタマイズ」でチェックする項目を選べる この記事では扱わない
文賢(ウェブライダー) クラウドツール。パーソナルは月1,650円(1年更新)または月1,980円(1か月更新)、税込。14日間の無料トライアルあり 「ルール校正」13項目、「ルール推敲」22項目、辞書への独自の表記ルールの登録、AIアシスト、音声読み上げ、明朝体表示 入力文章はAIの学習に使わず、サーバーに保存しない。AIアシストへの送信文はOpenAIのサーバーに30日間保管
Enno 無料・登録不要のWebサービス 日本語の文章のあからさまな誤字脱字・タイポ・エラーのチェック 文章をデータベースやログ、外部サイトに保存しない。運営者名の記載なし

Wordのエディターで日本語がどこまで確認できるかは、アプリと言語によって違います。Microsoftの言語別の対応表では、日本語は文法のチェックに対応し、日本語の文章校正(文章の洗練)はデスクトップ版のWordではまだ使えないと注記されています。自分の環境で、どの項目が使えるかを確かめてから頼るようにします。

選ぶときの目安は次のとおりです。

  • まず費用をかけずに誤字を拾いたい:手元のWordのエディターや、無料のWebサービスで候補を出し、時間を置いた音読と組み合わせる。
  • 長い原稿で、作中の語や表記のルールを何度も使いたい:辞書に表記ルールを登録できるツールが向く。
  • 原稿を外部に出したくない:入力した文章の扱いを先に確かめる。確かめられない場合は、ツールを使わず、印刷して読む・音読するなどの方法で確かめる。

人の校正と、どう分担するか

校正ツールと人の校正は、得意なことが違います。

作業 校正ツール 人の校正
誤字・変換ミスの候補を拾う 速く、何度でもかけられる 文脈で判断しながら拾う
表記の統一 揺れの候補を一覧にできる 表記表に沿って、作品の方針どおりにそろえる
台詞・方言・意図した表記 誤りとして指摘しやすい 表記表や依頼文で伝えれば、意図を踏まえて扱える
作中の事実の食い違い 拾えない 依頼の範囲に含めれば、確認を頼める(校閲)
作品の内容への意見 できない 校正の範囲外。講評や添削として別に頼む

自分で書いて自分で直す場合は、まずツールで誤字と表記の揺れの候補を出し、一件ずつ判断して表記表を作ります。そのうえで、応募や本にする前に、作中の事実や表記の統一まで人の目で確かめたいときは、表記表を添えて校正を頼むと、意図した表記を誤りとして直される心配が減ります。校正を頼むときも、ツールの指摘を判断したときと同じく、「直さないでほしい表記」を先に伝えておくことが大切です。

自分でできる確認をすべて終えてから、誤字の見落としや表記の統一をもう一度確かめたい場合は、作品別の推敲チェックで確認項目を一覧にしておくと、ツールで見た範囲と自分の目で見た範囲を分けて記録できます。