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言葉・表現

小説の容姿の描写|顔・服・動作から人物の印象を伝える

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この記事の答え

容姿は特徴を並べるのではなく、誰が、どんな目的でその人を見ているかから、印象に関わる二つか三つの細部を選んで書きます。

  • 初対面の人は背格好や服と動作、親しい人はいつもとの違い、本人は自分で気にしている所に目が行く
  • 服は色や種類より、状態(すり切れ、しわ)と扱い方(袖を折る、上着をたたむ)で書くと人物が見える
  • 最初に全部を出さず、話に効く場面で足す。「美しい」の反復や、外見から性格を決めつける書き方は、見る人の反応や具体的な細部に置き換える
目次

人物が初めて出てくる場面で、髪型、目の形、背の高さ、服の色を順に書いた。それなのに、読み返しても人物の印象が残らない。容姿の描写がうまくいかないときは、人物の設定表をそのまま文章にしていることがあります。この記事では、架空のピアノ調律師・久保田澄を、初めて会う依頼主、十年来の同僚、本人の三つの視点で描き分けます。同じ人物でも見る人によって選ぶ細部が変わることを確かめ、設定表のような一覧を、場面の中の外見に直していきます。

外見は、誰の目に映ったものかを決める

辞書では、容姿は「顔だちとからだつき。すがたかたち。」(デジタル大辞泉)と説明されています。小説で人物の外見を書くときは、顔とからだつきに加えて、服装や身なり、ふるまい方まで、見る人の目に入るもの全体が材料になります。

まず、見る人を決めずに書いた紹介文を見てください。

作例設定表をそのまま文章にした紹介

久保田澄は三十八歳のピアノ調律師だ。身長は百七十センチ近くあり、髪は耳が出るほど短い。一重の切れ長の目に、通った鼻筋。左の眉の端に小さな傷跡がある。紺色の作業用ジャケットを着て、黒い大きな工具鞄を持っている。指は長く、爪は短く切りそろえられている。整った顔立ちの美人だが、切れ長の目のせいか、どこか冷たい印象を与えた。

情報は正確ですが、次の点で人物が立ち上がりません。

  • 誰が見ているのか分からない。身長を数字で測り、目と鼻と眉を順に確かめる人は、場面の中にいません。
  • どの特徴も同じ重さで並んでいる。読者は八つの特徴を覚えきれず、どれがこの人らしさなのか判断できません。
  • 外見から性格を決めつけている。「切れ長の目のせいか冷たい印象」は、目の形と人柄を結びつける思いこみです。

最後の点は、あとの節で詳しく扱います。ここでは、外見を書く前に「誰の目に、どんな目的で映ったか」を決めると、選ぶ細部が変わることを、三つの視点で確かめます。

作例:同じ人物を、初対面・親しい人・本人の目で書く

人物の設定(作者だけが持っているメモ)は、上の紹介文と同じです。加えて、次のことを決めておきます。

  • 澄は、調律の前に腕時計を外す。ふだんは文字盤を手首の内側に回してつけている。ピアノに傷をつけないための習慣で、見習いのころに同僚の宮内から教わった。
  • 紺の作業着は、見習いで入った十年前から着ているもので、袖口がすり切れている。
  • 今朝、自分で前髪を切って、短くしすぎた。いつもは眉の傷が前髪に隠れている。

作例版1 初対面:依頼主の恵美の目

玄関のドアを開けると、恵美は少し顔を上げなければならなかった。
「久保田です。調律に伺いました」
紺の作業着の女の人が、黒い大きな鞄を両手で前に提げて立っていた。鞄の角は白くすれて、作業着の袖口も同じようにすり切れている。母が遺したピアノを、この人に任せていいのだろうか。
居間に通すと、久保田さんはピアノの前で腕時計を外した。ポケットからハンカチを出して床に広げ、その上に時計を置く。それから蓋を開ける前に、指先で譜面台の埃をそっと払った。
恵美は、台所でお茶をいれることにした。

作例版2 親しい人:同僚の宮内の目

工房に入ってきた久保田を見て、宮内は手を止めた。
「前髪、自分で切ったろう」
「分かる?」
久保田は眉の上を手のひらで押さえた。いつもは隠れている眉の端の傷が、指のあいだから少しのぞいている。
十年前、見習いで来た日と同じ紺の作業着を、彼女はまだ着ていた。袖口からは、もう糸が出ている。新しいのを頼めと何度言っても、手になじんでいるから、としか答えない。
久保田は作業台の腕時計を取り、文字盤を手首の内側に回してから留めた。ピアノに傷をつけないようにと最初に教えたのは、宮内だった。

作例版3 本人:澄の目

車のルームミラーをのぞくと、前髪はやっぱり短すぎた。眉の端の傷が半分見えている。
澄は前髪を指で引っぱってみてから、あきらめて手を離した。
次の家のチャイムを押す前に、作業着の袖を二回折り返す。すり切れた袖口が、折り目の内側に隠れた。
指の関節が、寒さで白く粉をふいていた。鞄のポケットからハンドクリームを出しかけて、やめた。鍵盤に油が移る。

三つの視点で、何を選んだか

比べる点 版1 恵美(初対面) 版2 宮内(親しい人) 版3 澄(本人)
見る目的 母のピアノを任せられる人か いつもと違うところはないか 次の客の前で、きちんと見えるか
目に入る外見 背の高さ、すれた鞄の角、すり切れた袖口 短すぎる前髪、のぞいた傷、十年着ている作業着 短すぎる前髪、見えている傷、袖口、荒れた指
顔の情報 ほとんど書かない 眉の傷(前髪が変わったから見える) 眉の傷(本人が気にしている)
すり切れた袖口の意味 任せていいか不安になる材料 十年の積み重ね。頑固さ 客に見せたくない所
動作 時計を外してハンカチの上に置く 時計の文字盤を内側に回す 袖を折る。ハンドクリームをやめる

同じすり切れた袖口が、恵美には不安の材料に、宮内には十年の積み重ねに、澄自身には隠したい所に見えています。外見の意味は、外見そのものではなく、見る人の側にあります。だから、見る人を決めないまま外見を書くと、その外見が場面の中で何を伝えるのかが定まりません。

初対面の恵美の版には、顔の特徴がほとんど出てきません。玄関を開けた一瞬に、恵美が相手の目鼻立ちを一つずつ確かめるとは考えにくいので、まず背格好や持ち物、服の様子が目に入り、そのあとでふるまい方に気づく、という順で選んでいます。恵美の不安は、すり切れた袖口からではなく、時計を外してハンカチの上に置く手つきから解けていきます。

本人の視点では、自分の顔を全部は書けません。版3の澄は、気にしている前髪と傷だけをミラーで確かめています。鏡を見る場面を使って本人の容姿を一覧で説明する書き方は、人物がふだん自分の顔を一つずつ点検しているように読めてしまいます。鏡を使うなら、版3のように、本人がそのとき気にしている一点を確かめる場面にとどめると自然です。一人称で語り手自身の外見をどこまで書けるかは、一人称小説の書き方で語り手の情報の整理と合わせて扱っています。

特徴は、見る人の目的に合う二つか三つに絞る

設定表にある特徴を、全部使う必要はありません。作例の三つの版で、作者のメモの特徴がどう使われたかを見ると、使わなかった特徴のほうが多いことが分かります。

作者のメモの特徴 使った版 使った理由・使わなかった理由
背が高い 版1 玄関で見上げる、という恵美の動作で示した。数字は書かない
短い髪・前髪 版2、版3 今朝切りすぎた、という変化があるから書く
一重の切れ長の目、通った鼻筋 なし どの版でも、見る人の目的に関わらない
眉の端の傷 版2、版3 前髪が短くなって見えている。傷の由来は後の場面に取っておく
紺の作業着の袖口 全部の版 見る人によって意味が変わる、この人物の中心の細部
黒い工具鞄 版1 職業と、使いこまれた年月を初対面で伝える
長い指、短い爪 なし(版3で荒れた指だけ) 調律師らしいが、ありふれた連想になりやすい。荒れた指のほうが、その日の状態を伝える

特徴を選ぶときは、次の三つの問いを使います。

  1. 見る人の目的に関わるか。恵美は「任せられる人か」を見ているので、持ち物と手つきに目が行きます。
  2. その人物にしかない細部か。「黒髪」「整った顔」は多くの人物に当てはまります。「十年着てすり切れた作業着」は、この人物にしかありません。
  3. 後の場面で効いてくるか。眉の傷は、今は前髪がずれて見えているだけですが、由来を後で語れば、人物の過去につながります。

服装は、状態と扱い方で書く

服は、色や種類を書くだけでは人物が見えてきません。人物が見えてくるのは、服の状態(すり切れ、しわ、汚れ、濡れ、大きさが合っていない)と、服の扱い方(袖を折る、上着をたたんで置く、ボタンを一つ外す)です。

服の種類を書く描写から、状態と扱い方を書く描写へ

服の種類と色だけ

彼女は紺色の作業用ジャケットを着ていた。

状態と、本人の扱い方

次の家のチャイムを押す前に、作業着の袖を二回折り返す。すり切れた袖口が、折り目の内側に隠れた。

変更の理由

  • 修正前は、色と種類が分かるだけで、その服を着ている人については何も伝わりません。
  • 修正後は、袖口がすり切れていること(長く着ている)と、それを客には見せたくないと思っていること(袖を折る)が、一つの動作で伝わります。
  • 服そのものが人物の立場や場面の状況を示す場合(式服、制服、場違いな服装)は、種類を書くことに意味があります。その場合も、着ている人がその服をどう感じているかが分かる細部を一つ添えると、人物に結びつきます。

外見の描写に動作を組み合わせると、人物の印象は顔立ちよりも確かに伝わります。腕時計を外してハンカチの上に置くのは、他人の物を丁寧に扱う人の動作です。読者は、その動作から人柄を受け取ります。外見から性格を言い当てるのではなく、ふるまいから人物が見えてくる順にすると、印象に根拠が生まれます。

表情や視線の動きで人物を伝える書き方は小説の視線・表情の描写で、声の高さや話す速さは小説の声の描写で扱っています。

後の場面で情報を足す

人物が初めて出てくる場面で、外見を全部出す必要はありません。最初は印象に必要な二つか三つにとどめ、ほかの特徴は、それが話に効いてくる場面で足します。

場面 足す外見の情報 その場面で足す理由
恵美の家、初対面 背の高さ、鞄、袖口 依頼主が「任せられる人か」を判断する材料
工房、同僚と 前髪、眉の傷 前髪を切ったという変化に、親しい人が気づく
後の場面(例:恵美と話しこむ) 傷の由来 子どものころ、閉まったピアノの蓋で切った、と本人が話す。調律師になった理由につながる

初登場で全部出す書き方から、場面ごとに足す書き方へ

初登場で全部出した

玄関に立っていたのは、百七十センチ近くある、耳が出るほど髪の短い女性だった。一重の切れ長の目に通った鼻筋、左の眉の端には小さな傷跡がある。紺色の作業用ジャケットに、黒い大きな工具鞄。指は長く、爪は短く切りそろえられていた。

初対面の人が見るものだけにした

玄関のドアを開けると、恵美は少し顔を上げなければならなかった。
紺の作業着の女の人が、黒い大きな鞄を両手で前に提げて立っていた。鞄の角は白くすれて、作業着の袖口も同じようにすり切れている。

変更の理由

  • 修正前は、恵美が玄関を開けた一瞬に、目鼻立ちから爪の長さまで見ていることになります。初対面の一瞬に見て取る量としては多すぎます。
  • 修正後は、見上げる動作で背の高さを、鞄と袖口のすれで仕事の年月を伝えました。眉の傷は、前髪の変化に気づく親しい人の場面に回しています。
  • ただし、読者が人物の動きを思い浮かべるのに必要な外見は、早めに出します。人物が車いすを使っている、とても小柄で棚に手が届かない、といった情報が後から出ると、読者はそれまでの場面を思い浮かべ直すことになります。あとで出すのは、出さなくても前の場面が読み違えられない情報に限ります。

美醜の形容詞と、外見からの決めつけを減らす

「美しい」「美人」を繰り返さない

「美しい」「きれいな」「美人」「整った顔」は、書き手の評価を伝えるだけで、どこがどう美しいのかは読者に渡りません。何度も繰り返すと、読者は評価だけを押しつけられているように感じます。

置き換えるときは、次のどちらかにします。

  • 見る人の反応を書く。話しかけようとして言葉が遅れる、ほかの客が振り返る、写真を撮る手が止まる。
  • その人にしかない細部を一つ書く。すり切れた袖口や眉の傷のように、評価ではなく事実として書ける細部です。

「美しい」の繰り返しを、見る人の反応と、その人らしい動きにする

評価の言葉を重ねた

調律師は美しい人だった。鍵盤に置いた指も美しく、音を確かめる横顔は、思わず見とれるほど美しかった。

見る人の反応と、その人らしい動きを書いた

お茶を運んでいった恵美は、湯のみを置くのを忘れて、盆を持ったまま立っていた。久保田さんは一つの鍵を何度も鳴らし、そのたびに首をわずかに傾けて、目を閉じて聞いている。

変更の理由

  • 修正前は「美しい」が三回あり、どこがどう美しいのか、見ている恵美に何が起きたのかが書かれていません。
  • 修正後は、盆を持ったまま立ちつくすという恵美の反応で、目を離せなかったことを伝えています。評価の言葉がなくても、見とれたことは分かります。
  • 横顔の評価の代わりに、音を聞くときのしぐさを一つ置きました。外見の評価より、その人らしさが残ります。
  • 一人称の語り手が、相手を「きれいだ」と思う気持ちそのものを書きたい場合は、一度だけ評価の言葉を使ってもかまいません。繰り返さずに、その直後に反応か細部を続けます。

美しさが話の中で意味を持つ場合(美しさのせいで人物が苦労する、周囲の扱いが変わる)は、それを周囲の人物の行動として書くと、評価が場面の出来事になります。

外見から性格や価値を決めつけない

「切れ長の目だから冷たい」「太っているからのんびりしている」「派手な服だから軽い人」のような結びつけは、多くの人が共有している型どおりの見方です。百科事典では、こうした見方をステレオタイプとして、「ある集団内で共通に受入れられている単純化された固定的な概念やイメージ」(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)と説明しています。語り手がこの型をそのまま使うと、人物は型の中に閉じこめられ、読者の中にある思いこみも強めてしまいます。

外見から人柄を決めつけた文を、見る人の印象と、それを変える動作に分ける

外見から人柄を決めつけた

整った顔立ちの美人だが、切れ長の目のせいか、どこか冷たい印象を与えた。

見る人の不安と、それを変える動作を書いた

母が遺したピアノを、この人に任せていいのだろうか。
居間に通すと、久保田さんはピアノの前で腕時計を外した。ポケットからハンカチを出して床に広げ、その上に時計を置く。

変更の理由

  • 修正前は、語り手が「切れ長の目」と「冷たい」を結びつけています。読者には、それが誰の見方なのか分かりません。
  • 修正後は、印象(任せていいのか)を恵美の不安として書き、そのあとの澄の動作で、その印象が変わっていきます。最初の印象が正しいとは限らないことが、場面の中で示されます。
  • 視点人物が偏った見方を持っていること自体を書きたい場合もあります。その場合は、それがその人物の見方だと分かる形にし(「恵美には〜に見えた」)、話の中でその見方が試されたり、崩れたりするようにします。語り手の地の文として断定しないことが大事です。

人物の年齢、性別、体格、肌や髪の色、服装を書くときは、その特徴に型どおりの性格や役割を結びつけていないかを見直します。外見は、人物の価値や善悪の根拠にはなりません。

自作の人物の外見を、場面ごとに選び直す

手順容姿の描写を書き直す手順

  1. 人物の外見の特徴を、設定表のように全部書き出します。ここでは多くてかまいません。
  2. その人物が出てくる場面ごとに、誰の目で見るか(初対面の人、親しい人、本人)と、その人がいま何のために相手を見ているかを一行で書きます。
  3. 見る人の目的に関わる特徴を、二つか三つ選びます。その人物にしかない細部を、少なくとも一つ入れます。
  4. 服は、種類より状態と扱い方を書きます。外見の細部の一つに、人物の動作を組み合わせます。
  5. 選ばなかった特徴のうち、話に効くものを、効いてくる場面に割り振ります。読者の思い描き方を大きく変える情報は、早めに出します。
  6. 「美しい」「美人」などの評価の言葉を数え、見る人の反応か具体的な細部に置き換えます。
  7. 外見から性格や価値を決めつけている文を探し、見る人の印象として書き直すか、削ります。

練習同じ人物を、三つの目で書く(30分)

  1. 自作の人物を一人選び、外見の特徴を十個書き出します。
  2. その人物を「初めて会う人」「よく知っている人」「本人」の三つの視点で、それぞれ150字ずつ書きます。
  3. どの版も、使う特徴は三つまで。服の状態か扱い方を一つと、動作を一つ入れます。
  4. 書き終えたら、十個の特徴のうち、どの版で何を使い、何を使わなかったかを表にして見比べます。どの版にも出なかった特徴は、本当に必要かを考えます。

確認表容姿の描写の確認表

  • その外見を、誰が、どんな目的で見ているのかが分かる
  • 一度に出す特徴は二つか三つで、その人物にしかない細部が一つ以上ある
  • 視点人物が、その場面で気づけるはずのものだけを書いている
  • 服は、種類や色だけでなく、状態か扱い方が書かれている
  • 外見の細部と、人物の動作が組み合わされている
  • 読者が人物の動きを思い描くのに必要な外見は、早めに出ている
  • 「美しい」「美人」などの評価の言葉が繰り返されていない
  • 外見から性格や価値を、語り手の地の文で決めつけていない

人物の外見がどう伝わっているかは、書き手には分かりにくいものです。読んだ人から「人物の顔が浮かばない」と言われたときも、特徴を足す前に、どの場面で誰の目から見た外見が足りなかったのかを確かめると、直す場所を絞れます。受け取った感想を改稿にどう生かすかはもらった小説の感想を改稿に生かす方法で扱っています。講評や添削を頼む場合は、講評・添削の依頼メモに「初登場の場面で人物の印象が残るか」など、確かめたい点を書き出しておくと、依頼先に伝えやすくなります。依頼先の違いは小説の添削はどこに頼む?で比べています。