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エッセイ

エッセイの書き出しの書き方|場面・会話・問いから始める実例

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この記事の答え

エッセイの書き出しは、自己紹介や背景からではなく、体験の一場面、交わした言葉、引っかかった事実のどれかから始めると、読者がすぐ話に入れます。

  • 冒頭の数行で伝えるのは「何についての文章か」と「書き手が何に引っかかったか」。経歴や詳しい事情は後でよい
  • 動作・会話・意外な事実・問いは題材で選ぶ。始め方で隠した情報は、二段落目までに明かす
  • 冒頭の言葉や動作を結びでもう一度受けると、一篇の輪郭がはっきりする
目次

エッセイを書き始めると、「私は四十二歳の会社員で」「子どものころから」と、自己紹介や背景の説明が何行も続いてしまうことがあります。書き手には必要な前置きでも、読者はまだ何の話か分からないまま、それを読むことになります。この記事では、架空の体験「運転免許の更新で撮った写真が、父に似ていた」を、動作・会話・意外な事実・問いの四通りで書き始め、前置きの多い冒頭を直すところまで比べます。作例の体験と書き手は架空です。

なお、ここで扱うのは体験や見聞を書く日本語の文芸エッセイの冒頭です。辞書の「エッセー」には「特定の主題について述べる試論。小論文」という意味もあり(デジタル大辞泉、コトバンク「エッセー」)、学校の課題や英語の論述型エッセイの序論は、主張を先に示すという別の目的で書かれます。その書き方はこの記事では扱いません。

冒頭の数行で伝えることと、後でよいこと

エッセイの読者は、多くの場合、語り手の「私」を書き手本人として読み始めます。小説のように、誰の目で見ているかを最初に示す必要はあまりありません。そのかわり、冒頭の数行で読者が知りたいのは次の二つです。

  1. これは何についての文章か(どんな場面・物・出来事の話か)
  2. 書き手は何に引っかかったのか(驚き、違和感、疑問の芽)

この二つが見えれば、読者は先を読む理由を持てます。逆に、次のような情報は、冒頭になくてもかまいません。

情報 冒頭に必要か 置く場所の目安
書き手の年齢・職業・経歴 多くの場合いらない 話に関わるところで一言。関わらなければ書かない
出来事の日付・天気・場所の詳しい説明 「最近」「先週」程度で足りる 場面を描くときに、必要な分だけ
登場する人の人柄や関係の説明 いらない その人が場面に出てくる直前か、出てきた直後
出来事の背景・いきさつ いらない 読者が「なぜ?」と思うところ。たいてい二段落目
書き手の結論・考え いらない(問いの形でなら置ける) 場面を見せたあと

ただし、後に回してよいと言っても、読者が置いていかれるほど隠してはいけません。冒頭の場面が何の場面なのか分からないまま三段落も続くと、読者は話を追うのをやめてしまいます。始め方で伏せた情報は、遅くとも二段落目までに明かすのが目安です。

同じ体験の四つの書き出しを比べる

まず、作者の手元にある体験メモです。

作例作例:体験メモ(架空の書き手)

先週、運転免許の更新。撮影のとき「もう少し目を開けてください」と言われ、力を入れた。
新しい免許証の写真が、父にそっくりだった。
子どものころから四十二年、ずっと母似と言われてきた。輪郭も目も母。
父は面長で眉が濃い。写真ではいつも口を一文字に結んでいる。写真が苦手。
母に写真を送ったら「お父さんかと思った」。

この同じメモから、四つの書き出しを作ります。

書き出しA:動作から始める

作例書き出しA(動作)

窓口で新しい免許証を受け取り、待合のベンチに座って写真を見た。もう一度見た。それから鞄の中の手鏡を出して、写真の横に並べた。

何かを確かめている動作だけを見せ、何を確かめているのかは書いていません。読者は「何が気になったのか」と思いながら読み進めます。

前提を補う位置:この始め方は、明かすのを遅らせすぎると読者がじれったく感じます。次の段落の一文目で「写真の顔が、父に似ていた」と明かし、その直後に「ずっと母似と言われてきた」ことを補います。

向く題材:書き手の動作に、気持ちがよく表れている体験。説明しなくても「何かあった」と分かる動作が見つかるとき。

書き出しB:短い会話から始める

作例書き出しB(会話)

「お父さんかと思った」
新しい免許証の写真を撮って送ると、母からの返信はそれだけだった。

他人の一言から始めると、その言葉に込められた意外さを、読者も書き手と同じ立場で受け取ります。「お父さんかと思った」で、何の話か(自分の顔が父に似ている)がすぐに分かるのがこの書き出しの強みです。

前提を補う位置:二段落目で「子どものころから母に似ていると言われてきた」ことを書きます。これがあると、母のこの一言がなぜ引っかかったのかが分かります。

向く題材:一篇の中心になる一言があるとき。会話から始めるなら、一篇を通して何度も思い出すような言葉を選びます。あいさつや相づちのような、誰が言っても同じ言葉から始めても、読者を引き込む力は弱くなります。

書き出しC:意外な事実・違和感から始める

作例書き出しC(意外な事実)

四十二年間、「お母さんにそっくりね」と言われてきた。その私の新しい免許証に、父の顔が写っていた。

一文目で「当たり前だと思ってきたこと」を示し、二文目でそれが崩れた事実を置いています。二文だけで、何の話か、何に引っかかったかの両方が伝わります。

前提を補う位置:必要な前提はほぼ冒頭に入っています。次の段落では説明を足すより、写真のどこが父に似ていたのか(眉間、口元)を具体的に書くほうが、読者は先へ進めます。

向く題材:書き手の思い込みや習慣が、ある出来事で崩れた体験。「これまでは〜だった。ところが」の形にできるとき。

書き出しD:問いから始める

作例書き出しD(問い)

顔が似ている、というのは、目や鼻の形が似ているということなのだろうか。
先週、運転免許を更新した。新しい免許証の写真は、ずっと母似だと言われてきた私の顔のはずなのに、父にそっくりだった。

一篇を通して考えることを、最初に問いの形で示しています。読者は、答えを探しながら本文を読みます。

前提を補う位置:問いの直後に、すぐ具体的な場面へ移ることが大切です。問いだけが続くと、論説や小論文の書き出しのように見えます。作例でも、二文目からは免許の更新という出来事に戻っています。

向く題材:書き手が体験のあとで考えたことを、一つの問いにまとめられるとき。問いは、本文を読み終えたときに読者が「そういうことか」と思える程度に具体的なものにします。「人生とは何か」のような大きすぎる問いは、体験の大きさと釣り合いません。

四つの書き出しの使い分け

始め方 読者が最初に受け取るもの 向く題材 気をつけること
A 動作 何かあった、という気配 気持ちが動作に表れる体験 明かすのを遅らせすぎない
B 会話 他人の言葉の意外さ 一篇の中心になる一言がある体験 誰が言っても同じ言葉から始めない
C 意外な事実 当たり前が崩れた驚き 思い込みや習慣が崩れた体験 次の段落で説明を重ねすぎない
D 問い これから考えることの方向 体験から一つの問いが生まれたとき 問いの直後に具体的な場面へ移る

どれが正しいということはありません。同じメモから二、三通り書いてみて、二段落目へいちばん自然につながるものを選ぶと、迷いが少なくなります。体験の場面そのものを、情景から描き起こしたい場合は、エッセイの描写の書き方で、感覚の選び方と描写の量を扱っています。

前置きの多い冒頭を、場面から始める形に直す

作例のメモを、起きた順に自己紹介と背景から書き始めると、次のようになります。

前置きから始めた冒頭を、会話から始める形に直す

自己紹介と背景から始めた冒頭

私は今年四十二歳になる会社員である。運転免許を取ったのは大学二年の夏で、それ以来、更新のたびに写真を撮ってきた。私は子どものころから母に似ていると言われてきた。母は丸顔で、目が大きい。父は面長で、眉が濃い。先週、免許の更新に行った。平日の午前中で、会場は混んでいた。講習を受け、写真を撮り、新しい免許証を受け取った。その写真を見て、私は驚いた。父にそっくりだったのだ。

会話から始め、前提を後へ動かした冒頭

「お父さんかと思った」
新しい免許証の写真を撮って送ると、母からの返信はそれだけだった。

子どものころから、私は母に似ていると言われてきた。丸い輪郭も、笑うと細くなる目も母のもので、父に似ていると言われた記憶は一度もない。

変更の理由

  • 修正前は、話の中心である「父にそっくりだった」が最後の一文まで出てきません。読者は九つの文を、何の話か分からないまま読むことになります。
  • 修正後は、母の一言で「顔が父に似ている話」だと先に分かるので、二段落目の「母に似ていると言われてきた」を読む理由が生まれます。同じ前提でも、置く場所が変わると読まれ方が変わります。
  • 前置きを書くこと自体が悪いのではありません。語り口の味わいで読ませるエッセイや、書き手の経歴そのものが題材のエッセイでは、自己紹介から始める形が合うこともあります。

動かした情報・削った情報

修正前の前置きにあった情報を、どう扱ったかを表にします。

前置きにあった情報 扱い 理由
四十二歳、会社員 年齢は考えの段落へ動かす。職業は削る 年齢は「似てきた」と書くところで、四十年あまりの時間を感じさせる。職業は話に関わらない
大学二年で免許を取った 削る 写真が父に似ていたこととつながらない
母似と言われてきた 二段落目へ動かす 驚きの理由になる前提。冒頭の一言のすぐあとに置くと効く
母は丸顔、父は面長で眉が濃い どちらも二段落目へ。父の特徴は「母似」の前提のすぐあとに一文で 「母似」と並べて出すと、読者があとで写真の顔と比べる手がかりになる
平日の午前、会場の混雑、講習 削る 写真の話には関係しない
「もう少し目を開けてください」と言われた 写真を見直す場面へ(メモから加える) 表情の理由になり、考えの段落につながる

前置きを直すときは、削る前に一つずつ「この情報は、読者がいつ必要とするか」を考えます。必要になる直前に置けば、同じ説明でも読者は自然に受け取れます。どこに置いても必要にならない情報は、削ってかまいません。

冒頭と結びをつなげる

書き出しを決めると、結びの形もある程度決まります。冒頭で読者に渡したもの(動作、言葉、事実、問い)を、結びでもう一度受けると、一篇の輪郭がはっきりします。

書き出し 結びで受けるもの 作例での結びの例
A 動作 冒頭の動作の続き、または変化した同じ動作 手鏡をしまい、免許証を財布の、写真が見える側に入れる
B 会話 同じ人とのやりとりの続き 母に返信し、母から短い言葉が返ってくる
C 意外な事実 崩れた「当たり前」を言い直す 「母似」と「父似」のどちらでもない答えにたどり着く
D 問い 冒頭の問いへの、体験から出た答え 似ていたのは形ではなく、カメラの前での表情だった

必ず冒頭と結びを対応させなければならない、ということではありません。ただ、書き出しが決まらないときは、反対に結びの場面から考えて、それと響き合う冒頭を選ぶ方法もあります。

最後に、書き出しB(会話)で始めて、結びで同じやりとりを受けた短い全文です。

作例似ている(作例・架空の書き手・約420字)

「お父さんかと思った」

新しい免許証の写真を撮って送ると、母からの返信はそれだけだった。

子どものころから、私は母に似ていると言われてきた。丸い輪郭も、笑うと細くなる目も母のもので、父に似ていると言われた記憶は一度もない。父は面長で眉が濃く、写真に写るときはいつも口を一文字に結んでいる。

免許証をもう一度見た。輪郭は母のままだった。ただ、撮影の直前に「もう少し目を開けてください」と言われて力を入れた眉間と、結んだ口元が、実家の居間に飾ってある父の写真とそっくりだった。

父は写真が苦手だ。カメラを向けられると、まぶしそうに目に力を入れ、口を結ぶ。私はそれを、父の顔だと思っていた。けれど本当は、カメラの前で困っているときの表情だったのかもしれない。四十二歳の私に似てきたのは、顔の形ではなく、困ったときの顔のほうだった。

返信を打った。「目を開けてって言われたら、こうなった」。少しして、母から返ってきた。「お父さんも毎回そう言ってる」

冒頭の「お父さんかと思った」と、結びの「お父さんも毎回そう言ってる」は、どちらも母の短い返信です。冒頭では書き手を驚かせた母の言葉が、結びでは書き手の考えを裏付ける言葉に変わっています。考えの段落で言い切ったことを、母の一言がもう一度、場面の中で受け止めています。

確認表自分の書き出しを見直す確認表

  • 最初の三文以内に、何についての文章かが見えるか
  • 書き手の自己紹介や経歴から始まっていないか(始まっている場合、それが題材そのものか)
  • 前提の説明は、読者がそれを必要とする直前か直後に置かれているか
  • 始め方で伏せた情報を、二段落目までに明かしているか
  • 会話から始める場合、その言葉は一篇の中心になる言葉か
  • 問いから始める場合、すぐに具体的な場面へ移っているか
  • 冒頭の動作・言葉・事実・問いを、結びで受けているか(受けない場合、それを選んだ理由があるか)

書き出しを試しても迷いが残るとき

冒頭は、一篇を書き終えてから直すほうが決めやすいこともあります。最後まで書くと、何がいちばん伝えたいことだったのかがはっきりし、それに合う始め方が選べるからです。書き出しが決まらずに手が止まる場合は、仮の一文で書き進め、エッセイの推敲のやり方の手順で、構成を見直すときに冒頭も選び直してください。段落の並べ方から見直したい場合は、エッセイの構成の作り方で三つの組み立てを比べています。

自分の原稿で四つの始め方を試しても、どれが合うか判断できず人の意見を聞きたい場合は、聞きたい点を先に整理しておきます。講評・添削の依頼メモで相談したい点を書き出し、依頼先の選び方はエッセイの添削はどこに頼む?で比べられます。