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エッセイ

エッセイの構成の作り方|出来事と考えをつなぐ三つの組み立て例

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この記事の答え

エッセイの構成に決まった型はありません。同じ体験を何通りかの順番で並べてみて、読者が気づきまで迷わず追える順番を選びます。

  • 時間順:出来事に変化の流れがあるときに向く。前半の説明を短くする
  • 一場面からの回想:気づきが現在の一瞬に集まっているときに向く。回想の入口で「いつ・誰」を補う
  • 二場面の対比:過去と現在に同じ動作や言葉があるときに向く。各段落の頭に時の目印を置く
目次

エッセイを書いていると、出来事を書いたかと思えば感想に移り、また出来事に戻って、気づけば何の話か分からなくなっていることがあります。そのとき見直したいのは、一文ずつの言葉より、段落を並べる順番と、段落と段落のつなぎです。この記事では、架空の体験「祖母に教わってもできなかった玉結びが、大人になって一回でできた」を、時間順・一場面からの回想・二場面の対比の三通りに組み、段落カードで比べます。作例の体験と書き手は架空です。

まず、体験を段落カードに分ける

構成を考える前に、書きたい内容を「段落カード」に分けます。カード一枚が一つの段落で、カードには役割と内容を一行だけ書きます。紙のカードでも、スマートフォンのメモに一行ずつ書いてもかまいません。

この記事では、段落の役割を次の五つに分けて考えます。

役割 その段落でしていること
場面 ある時・ある場所で、見たこと・聞いたこと・したことを書く
回想 今とは別の時の場面を思い出して書く
補い 読者が知らない前提(人物、場所、事情)を短く伝える
考え 場面から何を思ったか、何に気づいたかを書く
結び 最後の場面や言葉で一篇を閉じる

作例の書き手が最初に作ったカードは次の六枚です。

作例作例:段落カード(並べる前)

【場面・現在】在宅勤務の朝、会議の十分前に袖のボタンが取れる。裁縫セットを出す
【場面・現在】糸の端を指でこすって引くと、玉結びが一回でできる。手が止まる
【回想】小学五年の夏、祖母の家で雑巾の宿題。玉結びができない。祖母は「こするの」と見せてくれた
【回想】五回失敗した私に、祖母は「そのうち指が覚える」と言い、残りの玉結びを全部作ってくれた
【補い】いつ玉結びができるようになったのか、覚えていない
【考え】「そのうち」は来ていた。でも、来た日を私は知らない

カードに分けると、体験と感想が一枚の中で混ざっていないかが見えます。一枚に「場面」と「考え」の両方が入っていたら、二枚に分けます。この段階で、気づきのカード(考え)を一枚に決めておくことが大切です。どの順に並べても、最後にそこへたどり着けば一篇はまとまります。

体験と感想が行ったり来たりする段落を分ける

カードに分けずに書くと、一つの段落の中で場面と考えが一文ごとに入れ替わることがあります。

一つの段落に混ざった場面と考えを分ける

場面と考えが一文ごとに入れ替わる段落

ボタンが取れたので付け直すことにした。祖母は優しい人だった。玉結びが一回でできたので驚いた。小学生のころはどうしてもできなかった。人は知らないうちに成長するものだと思う。会議にはなんとか間に合った。

場面の段落と回想の段落に分ける

糸の端を人差し指に一回巻きつけて、親指でこすってから引いた。指先に、小さな結び目が一つ残った。そこで手が止まった。玉結びが、一回でできた。

小学五年の夏休み、私は母方の祖母の家に泊まっていた。家庭科の宿題で雑巾を縫わなければならず、縫う前の玉結びがどうしてもできなかった。

変更の理由

  • 修正前は、現在の場面・祖母の人柄・現在の驚き・過去・考え・現在の結果が六文の中に混ざっています。読者は文が変わるたびに、いつの話かを切り替えなければなりません。
  • 修正後は、現在の場面の段落と、回想の段落を分けました。段落が変わるところで時も変わるので、読者は一度だけ切り替えれば済みます。
  • 「祖母は優しい人だった」「人は知らないうちに成長する」は、どちらも場面の中に置くと浮いてしまうまとめの言葉です。祖母の人柄は回想の場面で見せ、考えは考えの段落にまとめます。

組み立て1:出来事の順に並べる

最も分かりやすいのは、起きた順にカードを並べる組み立てです。過去から現在へ、時間が一方向に進みます。

段落 役割 内容
1 回想(場面) 小学五年の夏、祖母の家。雑巾の宿題で玉結びができない
2 回想(場面) 祖母の「こするの」「そのうち指が覚える」。残りの玉結びを祖母が作る
3 補い いつできるようになったのか覚えていない。それから二十五年
4 場面・現在 会議前にボタンが取れ、玉結びが一回でできる
5 考え・結び 「そのうち」は来ていた。来た日を私は知らない

向いている題材は、出来事そのものに変化の流れがあるものです。読者は時間の順に追えばよいので迷いません。最初の一篇でも組みやすい形です。

気をつけることは、気づきのきっかけ(段落4)が来るまで、読者には何の話か分からないことです。段落1と2が長いと、昔話を聞かされているように感じます。過去の段落は短めにし、段落1の終わりに先を予告する一文を置くと、読者は読み進める理由を持てます。

作例組み立て1の書き出しと、先を予告する一文

小学五年の夏休み、私は母方の祖母の家に一週間泊まっていた。家庭科の宿題で雑巾を一枚縫わなければならず、縫う前の玉結びがどうしてもできなかった。糸はほどけるか、指の中でもつれて団子になるかのどちらかだった。
あの玉結びのことを、私は先週まですっかり忘れていた。

最後の一文は、現在の場面がこのあと来ることを知らせています。これがないと、読者は段落3まで、祖母との思い出話がどこへ向かうのか分かりません。

組み立て2:一場面から始めて、回想を挟む

気づきが生まれた現在の一瞬から書き始め、途中で過去に戻り、また現在へ帰る組み立てです。「一場面から考えを広げる」書き方とも言えます。

段落 役割 内容
1 場面・現在(書き出し) 会議の十分前、袖のボタンが取れる。裁縫セットを出す
2 場面・現在(中心) 玉結びが一回でできて、手が止まる
3 回想 小学五年の夏、祖母の家。「こするの」「そのうち指が覚える」
4 補い いつできるようになったのか覚えていない
5 場面・現在 残りを縫い、会議まで六分
6 考え・結び 「そのうち」は来ていた。来た日を私は知らない

向いている題材は、気づきが現在の一瞬に集まっているものです。「玉結びが一回でできた」という驚きを先に見せるので、読者は最初から「なぜ手が止まったのか」という問いを持って読めます。

気をつけることは二つあります。一つは、回想の入口で「いつ」「誰」を補うことです。段落3の書き始めで、小学五年の夏であること、母方の祖母の家であることを書いておかないと、読者は場面の切り替わりについていけません。もう一つは、回想を長くしすぎないことです。回想が二段落、三段落と続くと、現在の場面に戻ったときに、読者は最初の場面を忘れています。

この組み立てで書いた全文を、記事の最後に載せています。

組み立て3:過去と現在の二場面を交互に置く

過去と現在に同じ動作・物・言葉が出てくる体験なら、二つの場面を交互に並べて比べる組み立てが使えます。

段落 役割 内容
1 場面・過去 十一歳の指の中で、糸が団子になる
2 場面・現在 三十六歳の指で、同じ動作をすると一回で結び目ができる
3 場面・過去 祖母の「そのうち指が覚えるから」。残りの玉結びを祖母が作る
4 考え・現在 「そのうち」はいつ来たのか。思い出せない
5 結び 「そのうち」は来ていた。来た日を私は知らない

向いている題材は、過去と現在で「同じことをしているのに結果が違う」ものです。作例では、糸の端を指でこする同じ動作が、十一歳と三十六歳で違う結果になります。並べるだけで変化が見えるので、考えを長く説明しなくても伝わります。

気をつけることは、段落ごとに時が変わるので、読者が「今はいつの話か」を見失いやすいことです。段落の最初の文に、時の目印(年齢、季節、場所、使っている物)を必ず入れます。

作例組み立て3の段落1と2(時の目印を段落の頭に置く)

十一歳の私の指の中で、白い木綿糸は何度やっても団子になった。祖母の家の縁側で、私は糸の端を指先でねじり続けていた。

三十六歳の私の指は、同じように糸の端を一回こすっただけで、小さな結び目を作った。在宅勤務の朝、会議の十分前に、取れた袖のボタンを付け直そうとしていたときだった。

「十一歳の私の指」「三十六歳の私の指」と、段落の頭で同じ形の言い方を繰り返しています。読者は段落が変わるたびに、どちらの時に来たのかをすぐに受け取れます。

起承転結に当てはめなくてよい

エッセイの構成というと、「起承転結」を思い浮かべる人もいるでしょう。辞書では、もとは漢詩、特に四句から成る絶句の構成法を指す言葉で、散文の組み立てにも応用されるようになったと説明されています(コトバンク「起承転結」)。

組み立て1は、起(宿題で玉結びができない)、承(祖母に教わる)、転(二十五年後に一回でできる)、結(来た日を知らない)と、起承転結に近い形になっています。四つの役割で考えると整理しやすい人は使ってかまいません。ただ、組み立て2や3のように、現在から始める形や、二つの場面を交互に置く形は、四つの枠にきれいには収まりません。それでも一篇としてまとまるのは、どの順番でも、読者が気づきのカードまで迷わずたどり着けるからです。型に合わせることより、読者が追えるかどうかで構成を選びます。

順番を変えたときに足りなくなる情報を補う

同じカードでも、並べる順番を変えると、読者に先に伝えておかなければならない情報が変わります。構成を選んだら、次の表のように「どこで何が足りなくなるか」を確かめます。

組み立て 読者が先に知る必要があること 足りないと起きること 補う場所
1 時間順 この思い出話が、あとで現在につながること 前半が昔話に見え、どこへ向かう話か分からない 段落1の終わりに先を予告する一文
2 回想を挟む 一回でできたことが、なぜ驚きなのか 「手が止まった」理由が分からず、書き手だけが驚いて見える 段落2の終わりに「昔はできなかった」と一言。詳しくは回想で
2 回想を挟む 回想が、いつの、誰との場面か 現在から過去への切り替わりについていけない 回想の最初の一、二文に「小学五年の夏」「母方の祖母」
3 対比 各段落が、過去と現在のどちらか 二つの場面が混ざり、同じ日の出来事に見える 各段落の最初の文に年齢・場所などの時の目印
すべて 玉結びが何か 裁縫をしない読者には、何ができなかったのか分からない 最初に玉結びが出る箇所で「糸の端に作る小さな結び目」程度に

構成を考えるときは、書き手が知っていることを読者も知っていると思い込みがちです。カードを並べたら、一枚ずつ、その段落を読む時点で読者が何を知っているかを確かめると、足りない情報が見つかります。

話題が飛ぶところを、接続文でつなぐ

段落と段落のあいだで時や場所が変わるところは、話が飛んだように見えやすい箇所です。「話は変わるが」「そういえば」で済ませると、読者には書き手の連想が急に跳んだように映ります。前の段落にある物・動作・言葉を手がかりにつなぐと、自然に移れます。

つなぎ方 弱い接続文 手がかりのある接続文
動作でつなぐ(現在→回想) そういえば、小学生のころ祖母に玉結びを教わったことがある。 糸を親指でこする、その動きを教えてくれたのは祖母だった。
時間を示す(回想→現在) 話は変わって、先日のことだ。 あの玉結びのことを、私は先週まですっかり忘れていた。
具体的な時刻で戻る(回想→現在) そんなことを思い出しながら、ボタンを付けた。 時計を見ると、会議まで六分だった。
言葉でつなぐ(場面→考え) このことから、私は次のように考えた。 祖母の言った「そのうち」は、ちゃんと来ていた。

弱い接続文が間違いというわけではありません。「そういえば」で始めたほうが、書き手の気ままな連想として味が出る作品もあります。ただ、まとまりがないと感じている原稿なら、まず段落の変わり目に、前の段落の物・動作・言葉を一つ持ち込んでみると効果が分かりやすいでしょう。

手順自分の原稿で構成を選ぶ手順

  1. 書きたい内容を段落カードに分ける。一枚に役割一つ・内容一行。場面と考えが混ざったカードは二枚に分けます。
  2. 気づきのカードを一枚決める。どの組み立てでも、最後にここへたどり着くようにします。
  3. カードを三通りに並べてみる。時間順、一場面から回想、二場面の対比。体験によっては、どれか一つが合わないこともあります。
  4. 並べ方ごとに、足りなくなる情報を書き出す。上の表のように、補う場所まで決めます。
  5. 段落の変わり目に接続文を書く。前の段落の物・動作・言葉を一つ持ち込みます。
  6. 読者が最初の場面からいちばん迷わない並べ方を選ぶ。迷ったら、気づきが最も短い説明で伝わる並べ方にします。

作例:組み立て2で書いた全文

最後に、組み立て2(一場面から始めて、回想を挟む)で書いた全文です。組み立て2の表の六段落が、ほぼそのまま段落になっています(段落2の中心の場面だけは、「手が止まった」一文を独立させて二段落に分けたので、全体は七段落です)。

作例そのうち(作例・架空の書き手・約700字)

九時からの会議まで、あと十分だった。シャツに腕を通したところで、左の袖口のボタンが一本の糸でぶら下がっているのに気づいた。指でつまむと、糸ごと取れた。

机の引き出しの奥から、出張先のホテルでもらった小さな裁縫セットを出した。白い糸を針に通し、糸の端を人差し指に一回巻きつけて、親指でこすってから引いた。指先に、玉結びが一つ残った。糸の端に作る、小さな結び目だ。

そこで手が止まった。昔はこれが、どうしてもできなかった。

糸を親指でこする、その動きを教えてくれたのは祖母だった。小学五年の夏休み、私は母方の祖母の家に一週間泊まっていた。家庭科の宿題で雑巾を一枚縫わなければならず、縫う前の玉結びで毎回つまずいた。糸はほどけるか、指の中でもつれて団子になるかのどちらかだった。祖母は縁側で私の隣に座り、自分の指で何度もやって見せた。「ねじるんじゃなくて、こするの」。私が五回失敗すると、祖母は「そのうち指が覚えるから」と言って、残りの玉結びを全部作ってくれた。宿題の雑巾は、祖母の結び目で縫われて提出された。

あれから、いつ玉結びができるようになったのか、私は覚えていない。中学の家庭科でも、一人暮らしを始めてからも、ボタンは何度か付けたはずだ。そのたびにできていたのだろう。できるようになった日のことは、どこにも残っていない。

時計を見ると、会議まで六分だった。四つの穴に糸を二回ずつ通し、ボタンの根元に糸を巻いて、裏で玉止めをした。

祖母の言った「そのうち」は、ちゃんと来ていた。ただ、来た日を私は知らない。指が覚えるというのは、覚えた日のことを本人が覚えていない、ということなのかもしれない。袖のボタンを留めて、私は会議の画面を開いた。

同じカードを組み立て1で書けば、祖母との夏の思い出が中心の一篇になります。組み立て3なら、十一歳と三十六歳の指を並べる、短く引き締まった一篇になるでしょう。どれが正解ということはなく、この体験で何をいちばん先に読者に見せたいかで選びます。作例の書き手は、「手が止まった」瞬間の驚きを先に見せたかったので、組み立て2を選びました。

結びの形を、考えを言い切る終わり方と場面で閉じる終わり方とで比べたい場合は、エッセイの終わり方で扱っています。

構成を試しても迷いが残るとき

三つの組み立てを試しても、どれがよいか決められないことがあります。その場合は、一度書き上げてから、エッセイの推敲のやり方の順番で構成を見直すと、書く前には見えなかった問題が見つかることがあります。

それでも原稿の構成に具体的な疑問が残り、人の意見を聞きたいときは、何を聞きたいのかを先に整理しておくと、講評を受けたときに生かしやすくなります。講評・添削の依頼メモで相談したい点を書き出し、依頼先の種類と選び方はエッセイの添削はどこに頼む?で比べられます。