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川柳

川柳のネタの見つけ方|日常のしぐさと気持ちを一句にする

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この記事の答え

川柳のネタは「面白い出来事」を探すより、人のしぐさと気持ちの小さなずれから見つけると尽きにくくなります。

  • 大きな出来事を、一つの場所・一つの動作まで小さく切る
  • 「言ったこと/したこと/本当は思っていたこと」を並べ、ずれに印を付ける
  • 他人だけでなく自分の習慣や思い違いも題材にし、「今日もまた」のような定番の言い回しを、自分が見た場面に戻す

一つのメモに発見が二つあるときは、一句に一つだけ残します。

目次

川柳を作り始めてしばらくすると、「面白いことなんて、そうそう起きない」とネタに困るようになります。題材が尽きる原因の一つは、出来事の大きさや面白さで探していることです。目を向ける先を、人がしたことと、そのとき本当に思っていたことのあいだの小さなずれに変えると、同じ毎日からでも種が見つかります。この記事では、架空の日常メモ八件から三つの句案を選び、採用しなかったメモの理由も含めて、ネタの見つけ方と選び方を順に見せます。

面白い出来事より、日常の小さな場面を探す

新葉館出版の川柳入門講座「川柳のネタ、題材について」は、狙った題材や背伸びをした題材を避け、同じ物事でも日常の小さな出来事のほうが共感されやすいと説明しています。作句は「何を詠むか」を探すところから始まっている、とも書いています。同じ講座の「読み手の心を掴む、親近感のある川柳」では、よく聞くもの、よく見る光景のような身近なものが、作品と読み手のあいだに「親近感という橋」を架けると述べています。

つまり、ネタ探しで目指すのは、誰も見たことのない珍事ではありません。誰もが見ているのに、まだ言葉になっていない一瞬です。そうした一瞬を見つけやすいのは、たとえば次の三つの場所です。

探す場所 中身 例
自分と他人の習慣 毎日くり返している、自分でも気づいていない動き 電話を切るときにお辞儀をする
便利さの裏側 道具や仕組みが便利になったせいで起きる、人のちぐはぐな動き 人感センサーの照明に手を振る
小さな思い違い 勘違いのあとに、人がとっさにすること 押すドアを引いて、取りつくろう

この三つを意識して、架空の一週間で八つのメモを集めました。

作例一週間の日常メモ(架空・八件)

A 新しいノートを買うたびに「今日から日記をつける」と決める。棚に、三ページだけ書いたノートが二冊ある
B 隣の席の人が、電話を切る前に受話器に向かって深くお辞儀をした
C 父がテレビの音量を上げるとき、リモコンをテレビに近づけてから押す
D 会議室で一人、資料を読んでいたら、人感センサーの照明が消えた。両手を振って点け直した
E スマホの地図を見ながら歩いて、目当ての店の前を二回通り過ぎた。画面の上では、青い点(自分)はもう店に着いていた
F ネットスーパーの「おすすめ」を選んでいたら、一人暮らしなのに五個入りのパックばかりになった
G 「引」と書いてあるドアを押してしまった。後ろに人がいたので、最初から分かっていたような顔で引き直した
H 「お久しぶりです」と声をかけた相手が、人違いだった

八件のうち、どれを句にするか。ここからは、メモを選ぶための五つの見方を一つずつ当てていきます。

出来事を、一つの場所と一つの動作まで小さく切る

ネタが尽きたと感じるときは、メモが「引っ越した」「在宅勤務になった」「物価が上がった」のように、出来事の大きさのまま書かれていないかを見直します。大きな出来事は、そのまま五七五にすると「引っ越して新生活が始まった」という報告になり、どの人の句とも区別がつきません。

大きな出来事は、その日のその場所で、手や体が何をしていたかまで小さく切ると、自分だけの場面になります。

大きな出来事 小さく切った一場面
引っ越した 新しい部屋で、前の家のスイッチの位置に手が伸びる
在宅勤務になった 会議の画面を閉じたあと、誰もいない部屋で「お疲れさまでした」と言う
物価が上がった 詰め替え用を買いに行き、本体付きのほうが安くて棚の前で迷う
健康診断があった 体重計に乗る前に、腕時計と眼鏡を外す

切るときの問いは三つです。「いつ?」「どこで?」「手(体)は何をしていた?」。三つ目に答えられたら、題材になる大きさまで切れています。

八件のメモで見ると、A(日記のノート)は少し大きめです。「三日坊主」という出来事のまとめに近く、どの場面を書くかが決まっていません。一方、D・E・Gは、場所と動作がはっきりしています。

小さく切った一場面から五七五にまとめる手順そのものは、川柳の作り方で、一文から削って一句にする過程を作例で示しています。この記事では、その手前の「どの場面を選ぶか」に絞ります。

しぐさと本音のずれに印を付ける

場面が小さく切れたら、次はその中のずれを探します。人がしたこと(しぐさ)と、そのとき本当に思っていたこと(本音)が食い違っているところです。言葉では「大丈夫」と言いながら手が震えている、親切そうに見えて実は急いでいただけ、というような食い違いは、川柳の芯になりやすい所です。

ずれを見つけるには、メモを三つの欄に分けて書き直すのが確実です。Gのメモで試します。

言ったこと・見せたこと したこと 本当は思っていたこと
最初から分かっていた、という顔 「引」のドアを押した。そのあと引き直した しまった。後ろの人に見られた

左の欄(見せた顔)と右の欄(本音)が食い違っています。ここが句の中心です。

八件のメモには、ほかにも種類の違うずれがあります。

ずれの種類 メモ 何と何がずれているか
建前と本音 G ドア 「分かっていた顔」と「しまった」
目的と結果 E 地図 店に着くための地図を見ていて、店を通り過ぎる
道具と人 D 照明 人を感知するはずの照明に、人が存在を知らせる
思い込みと事実 H 人違い 知り合いだと思った相手が、知らない人
習慣と場面 B お辞儀 相手に見えない電話で、深く頭を下げる

ずれの見つけ方には型があるので、慣れると、同じ一日からでもメモが増えていきます。見つけたずれを面白さとして見せる方法(見ている側を変える、期待と結果を対比する、小さな矛盾を見つける、言葉の二つの意味を使う)は、面白い川柳の作り方で、同じ題材から作った四つの案を比べています。

他人だけでなく、自分も題材にする

八件のメモのうち、B(隣の人のお辞儀)とC(父のリモコン)は、他人の習慣を外から見たものです。他人の癖は目に付きやすく、ネタとして書き留めやすいのですが、そのまま句にすると、癖を笑う句になりがちです。職場の人や家族が読めば誰のことか分かり、本人を傷つけることもあります。

そこで、他人の習慣を見つけたら、自分も同じことをしていないかを確かめます。Bのメモなら、自分は電話でお辞儀をしていなくても、オンライン会議の退出ボタンを押したあと、誰も見ていない画面に頭を下げていた、と気づくかもしれません。それを句にすると、他人を笑う句ではなく、自分も含めた人の習慣の句になります。

作例・川柳作例:退出のあと(Bのメモを自分に向けた句)

退出を押して深々頭下げ
句よみ音数
退出をたいしゅつを5音
押して深々おしてふかぶか7音
頭下げあたまさげ5音

合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり

「深々」の一語に、見えない相手への律儀さと、そのむなしさが入っています。笑われているのは自分なので、読む人も安心して自分を重ねられます。

注意他人や実在の人を題材にするときに確かめること

  • 名前・肩書き・職場など、本人が特定できる手がかりを入れていないか
  • 相手の外見・年齢・属性そのものを笑っていないか(笑う対象は、しぐさや状況のずれにする)
  • 本人が読んだとき、自分も一緒に笑える内容か
  • 実在の会社・店・商品を名指しで揶揄していないか

迷ったら、主語を自分に替えて同じ句が成り立つかを試します。成り立つなら、自分の句にして出すほうが安全です。

C(父のリモコン)は、しぐさは目に浮かびますが、それを見た自分が何を感じたのか(おかしいのか、少し寂しいのか)がメモにありません。自分の本音が入るまで保留にしました。

「今日もまた」を、自分が見た場面に戻す

ネタが見つかったあとで句が平凡になる原因の一つが、見慣れた言い回しです。どこかで読んだことのある言い方は、書くのが楽な代わりに、自分の場面を消してしまいます。

見慣れた言い回し 弱くなりやすい理由 自分の場面に戻す問い
今日もまた/〜する日々 くり返しを言うだけで、どの一回かが見えない いちばん最近の一回は、いつ・どこで?
振り回される/時代に置いていかれる 気持ちのまとめで、何に・どう振り回されたかがない そのとき手は何をしていた?
〜だけが増え/〜ばかり 数の報告で、増えた物の姿がない 増えた物の一つは、どこに置いてある?
便利な世の中 誰にでも当てはまる感想 便利な道具の前で、人がした変な動きは?
妻が怖い/夫が冷たい 家族の役割の決まった笑いで、作者の目がない 実際に言われた一言、された動作は?

Eのメモ(地図アプリ)で、見慣れた言い回しのまま作った句と、場面に戻した句を比べます。

見慣れた言い回しから、自分が見た場面へ

見慣れた言い回しで作った句

作例・川柳作例:便利さに

便利さに振り回される今日もまた
句よみ音数
便利さにべんりさに5音
振り回されるふりまわされる7音
今日もまたきょうもまた5音

合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり

場面に戻した句

作例・川柳作例:画面では(Eのメモ)

画面では着いてる店を通り過ぎ
句よみ音数
画面ではがめんでは5音
着いてる店をついてるみせを7音
通り過ぎとおりすぎ5音

合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり

変更の理由

  • 修正前は、「便利さに振り回される」「今日もまた」という、どこかで聞いたことのある言い回しだけでできています。言っていることは分かりますが、何に振り回されたのか、どんな一日だったのかが見えません。
  • 修正後は、地図の画面の上では店に着いているのに、本人は店を通り過ぎている、という一瞬だけを書いています。「便利さ」とも「振り回される」とも言っていませんが、読む人は画面ばかり見て歩く姿を思い浮かべ、そこに便利さの裏側を見つけます。
  • 見慣れた言い回しが必ず悪いわけではありません。よく知られた言い回しをわざと置き、下五で意味を裏返すような使い方もあります。その場合も、句の中に自分の場面が一つ入っているかを確かめます。

一つのメモから、一つの発見だけを残す

一つのメモに、句になりそうな発見が二つ入っていることがあります。Eのメモがそうでした。

Eのメモに入っている発見 句にすると
地図の画面ばかり見ていて、実物の店を見ていない 「地図アプリ見つめて店を二度過ぎる」
画面の上の自分(青い点)は、もう店に着いている 「画面では着いてる店を通り過ぎ」

作例・川柳作例:地図アプリ(一つ目の発見で作った案)

地図アプリ見つめて店を二度過ぎる
句よみ音数
地図アプリちずあぷり5音
見つめて店をみつめてみせを7音
二度過ぎるにどすぎる5音

合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり

一つ目の案は、何が起きたかがよく分かります。ただ、「見つめて」「二度」と事情を説明しているぶん、読む人が自分で気づく所が少なくなります。二つ目の案は、画面の中の自分と、歩いている自分がずれている、という一点だけに絞っています。この記事では二つ目を選びました。

二つの発見を一句に詰めようとすると、「地図を見て着いてる店を二度過ぎる」のように、どちらも半端になります。残らなかった発見は、別の句の種としてメモに残しておけば無駄になりません。

八件のメモから、三つの句案を選ぶ

ここまでの見方を、八件のメモ全部に当てはめた結果です。

メモ 判断 理由
A 日記のノート 採用しない 「三日坊主」という見慣れた題材のまとめに近い。棚の二冊を見たときの自分の動作が書ければ使える
B 隣の人のお辞儀 そのままでは採用しない 他人の癖を笑う句になりやすい。自分に向け直した句(退出のあと)に変えた
C 父のリモコン 保留 しぐさは見えるが、自分の本音がまだない
D 照明に手を振る 採用(句案1) 道具と人のずれが、手を振る動作一つで見える
E 地図アプリ 採用(句案2) 目的と結果のずれ。発見を一つに絞った
F ネットスーパー 採用しない 「おすすめ」「一人暮らし」「五個入り」と、句の外の事情を説明しないと伝わらない
G 「引」のドア 採用(句案3) 建前と本音のずれが、顔と動作で見える
H 人違い 保留 声をかけた瞬間しかない。そのあと自分がどうしたか(笑ってごまかした等)を思い出せば使える

採用した三つのメモを、句に残すしぐさと、句の外に出した事情に分けます。

句案 句に残したしぐさ 句の外に出した事情
1 照明 消えた灯に手を振る 会議室、一人だった、資料を読んでいた、人感センサー
2 地図 画面では着いている店を通り過ぎる スマホ、地図アプリ、二回、青い点
3 ドア 押してから、知っていた顔で引く 「引」の表示、後ろに人がいた、しまったという気持ち

作例・川柳句案1:照明(道具と人のずれ)

消えた灯へまだいますよと手を振って
句よみ音数
消えた灯へきえたひへ5音
まだいますよとまだいますよと7音
手を振っててをふって5音

合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり

作例・川柳句案2:地図(目的と結果のずれ)

画面では着いてる店を通り過ぎ
句よみ音数
画面ではがめんでは5音
着いてる店をついてるみせを7音
通り過ぎとおりすぎ5音

合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり

作例・川柳句案3:ドア(建前と本音のずれ)

「引く」ドアを押して知ってた顔で引く
句よみ音数
「引く」ドアをひくどあを5音
押して知ってたおしてしってた7音
顔で引くかおでひく5音

合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり

句案1は「人感センサー」と書いていませんが、消えた灯りに手を振る姿から、読む人は同じ照明に思い当たるでしょう。説明を省けたのは、読む人もその光景をよく知っているからです。新葉館出版の講座が言う「よく見る光景」が、ここで橋になっています。

句案3は、本音の「しまった」を書いていません。「知ってた顔で」と見せた顔だけを書くことで、その顔の下にある本音を、読む人が自分の経験から補います。

三句とも、強い笑いを狙ったものではありません。読む人が「ある、ある」とうなずく程度のおかしみです。川柳の題材探しで大切なのは、笑わせることより、自分の目で見たずれを一つ選ぶことです。最後の五音で、そのずれをどう締めるかは、川柳の下五の作り方で四つの候補を比べています。

ずれメモを一週間つける

面白い出来事を待つより、ずれを書き留める習慣を作るほうが、メモは途切れにくくなります。次の練習で、自分の一週間のメモを作ってみてください。

練習ずれメモを一週間つける(一日5分)

  1. 一日の終わりに、その日に見た「人の動き」を二つ書きます。自分の動きでも、他人の動きでも構いません。
  2. それぞれを「言ったこと・見せたこと/したこと/本当は思っていたこと」の三欄に分けます。分けられない欄は空けておきます。
  3. 欄どうしが食い違っている所に印を付けます。
  4. 他人の動きのメモは、自分も同じことをしていないかを一行書き足します。
  5. 一週間たったら、印の付いたメモから三つを選び、句に残すしぐさと、句の外に出す事情を分けます。

ひな形ずれメモ(コピーして使えます)

日付・場所:
誰が:自分/他人(特定できる情報は書かない)
言ったこと・見せたこと:
したこと(手・体の動き):
本当は思っていたこと:
ずれ(どれとどれが食い違っているか):
自分も同じことをしていないか:
句に残すしぐさ:
句の外に出す事情:

句案ができたら、読みをかなで書いてかな入力の音数確認で五・七・五を数えると、音のはみ出しにすぐ気づけます。