川柳の下五の作り方|最後の五音で発見と余韻を残す
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この記事の答え
下五は、一句の着地点です。上五・中七で見せた場面に、最後の五音で何を置くかで、句の意味と読後に残るものが変わります。
- 気持ちをそのまま言う下五(「寂しさが」「ありがたい」など)より、物・動作・別の人物で閉じると、読む人が気持ちを補う余白が残る
- 上五・中七と同じ内容を言い直していないかを必ず点検する
- 意味を反転する下五は効果的だが、どんでん返しは必須ではない。静かに場面を置くだけの下五もある
下五はすぐに決めず、候補を十ほど書き出して、働きごとに分けてから選ぶと、説明しすぎる結びを避けやすくなります。
目次
上五と中七で場面はできたのに、最後の五音で「寂しいな」「ありがたい」と気持ちを言ってしまい、句が重くなる。この記事は、そんな結びを直したい人のためのものです。ここでは、「子の帰省/終わった部屋に」という架空の上五・中七を一つだけ用意し、そこに付ける下五を十通り書き出して比べます。物で閉じる、動作で結ぶ、視点を返す、意味を反転する、気持ちを残すといった働きの違いと、分かりやすさと余韻の釣り合いの取り方が、同じ句の中で確かめられます。
下五は、一句の着地点
五・七・五の最後の五音を下五(しもご)といいます。座五(ざご)と呼ぶこともあります。
新葉館出版の川柳ブログで、渡辺柳山は「川柳は『下五』で決まる」と題して、下五を一句の着地点であり、句の印象や景色を決める五音だと説明しています。同じ記事では、下五に気持ちを説明させると説明句に近づくこと、上五・中七の内容を繰り返す説明は避けて読む人が補う余白を残すこと、予想どおりの言葉を置くと予定調和になること、そして強い言葉や「オチ」を必ず置く必要はないことが挙げられています。
この記事では、下五の働きを次の五つに分けて扱います。
| 下五の働き | 何をするか | 読後に残るもの |
|---|---|---|
| 物を置く | 場面の中の具体的な物で閉じる | 物から広がる連想 |
| 動作で結ぶ | 人の動きで閉じる | 動きの奥にある気持ち |
| 視点を返す | 別の人物や、作者自身に目を向け直す | 場面の見え方の変化 |
| 意味を反転する | 上五・中七から予想される方向を裏返す | 意外さ、おかしみ |
| 気持ちを言う | 作者の気持ちをそのまま言葉にする | 一つに定まった意味 |
最後の「気持ちを言う」は、誤りではありません。けれど、上五・中七で場面が見えているときに使うと、読む人が感じるより先に答えを渡すことになります。どの場合に使えるかは、この記事の後半で比べます。
同じ上五・中七に、四つの下五を付けて比べる
使う上五・中七はこれです。
作例上五・中七の場面(架空)
子の帰省/終わった部屋に
お盆休みに帰ってきた子が、都会の暮らしへ戻っていった日の夕方。子が三日間寝起きした部屋に、親が一人で入る。
ここに、働きの違う四つの下五を付けます。
作例・川柳下五A:気持ちを言う
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 子の帰省 | このきせい | 5音 |
| 終わった部屋に | おわったへやに | 7音 |
| 寂しさが | さびしさが | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
作例・川柳下五B:物を置く
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 子の帰省 | このきせい | 5音 |
| 終わった部屋に | おわったへやに | 7音 |
| 充電器 | じゅうでんき | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
作例・川柳下五C:動作で結ぶ
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 子の帰省 | このきせい | 5音 |
| 終わった部屋に | おわったへやに | 7音 |
| 寝転がる | ねころがる | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
作例・川柳下五D:視点を返す
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 子の帰省 | このきせい | 5音 |
| 終わった部屋に | おわったへやに | 7音 |
| 妻と僕 | つまとぼく | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
四つを、解釈の広さ・音の止まり方・説明の量で並べます。
| 下五 | 働き | 読む人が受け取る解釈 | 音の止まり方 | 説明の量 |
|---|---|---|---|---|
| A 寂しさが | 気持ちを言う | 寂しい、の一通り | 「が」で言いさすが、最後に残るのは気持ちの名前 | 多い |
| B 充電器 | 物を置く | 忘れていった/また電話が来る/子の今の暮らしが見える、など | 名詞で、きっぱり止まる | 少ない |
| C 寝転がる | 動作で結ぶ | 子が寝ていた場所に身を置く名残/もてなし疲れ/ほっとした、など | 動詞の終わりで、動きが続くように止まる | 少ない |
| D 妻と僕 | 視点を返す | また二人の暮らしに戻った/二人で部屋を見ている、など | 名詞で止まり、人物が最後に残る | 少ない |
Aは、上五・中七で十分に想像できる気持ちを、最後にもう一度言葉にしています。B・C・Dは、どれも「寂しい」とは書いていません。それでも、読む人はそれぞれの下五から、寂しさや、それだけではない気持ちを受け取ります。以下、働きごとに詳しく見ます。
具体物で閉じる
Bの「充電器」は、部屋に残った物を一つ置いただけの下五です。
物で閉じる下五が強いのは、物が自分で語り出すからです。充電器は、スマホを手放せない今の子の暮らしを思わせます。忘れていったのなら、今ごろ困っているかもしれない、送ってやらなければ、電話がかかってくるかもしれない。親がそれを手に取る場面まで、読む人が勝手に続きを作ります。
物を選ぶときは、次の二点を確かめます。
- その場面にしかない物か。「思い出」「面影」のような目に見えない言葉や、「布団」のようにどの部屋にもある物より、その日のその部屋に残っていた物のほうが、場面がはっきりします。
- 上五・中七と別の情報を足しているか。「帰省」と「部屋」から想像できる物(荷物、鍵)より、少し外れた物のほうが、読む人の想像が動きます。
同じ部屋に残っていそうな物でも、「漫画本」にすると、子が実家で昔の本を読みふけっていた三日間が見え、子どもだったころへの懐かしさのほうに句が傾きます。どの物を置くかで、残る気持ちの種類が変わります。
お題が決まっている句会や募集では、お題の言葉そのものを下五に置く作り方もあります。お題の言葉をどこに置くか、置かないかの判断は、お題のある川柳の作り方で扱っています。
気持ちを、動作に残す
Cの「寝転がる」は、親が子の部屋で横になる動作だけを書いています。
なぜ横になったのかは書いていません。子が寝ていた場所に身を置いて名残を確かめているのかもしれないし、三日間のもてなしで疲れたのかもしれないし、ようやく静かになってほっとしたのかもしれない。動作は、気持ちを一つに決めずに残せます。Aの「寂しさが」が一通りの読みしか許さないのに対し、Cは寂しさとほっとした気持ちを同時に抱えた親の姿を見せます。
渡辺柳山の記事も、感情は直接言わず、行為や物で示すほうがよいとしています。気持ちを言いそうになったら、そのとき自分の体が何をしていたかを思い出し、その動作を下五に置けないか試してください。
気持ちの説明から、動作へ
気持ちを言った下五
作例・川柳下五A
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 子の帰省 | このきせい | 5音 |
| 終わった部屋に | おわったへやに | 7音 |
| 寂しさが | さびしさが | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
動作で結んだ下五
作例・川柳下五C
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 子の帰省 | このきせい | 5音 |
| 終わった部屋に | おわったへやに | 7音 |
| 寝転がる | ねころがる | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
変更の理由
- 修正前の「寂しさが」は、上五・中七から読む人がすでに感じ取っている気持ちを、最後に言い直しています。読む人は「そうでしょうね」と受け止めるだけで、句はそこで閉じます。
- 修正後の「寝転がる」は、気持ちを言わず、体の動きだけを置いています。寂しいのか、疲れたのか、ほっとしたのか、読む人がそれぞれの経験から補います。
- 修正前の形が合う場合もあります。上五・中七が物や景色だけで、作者の気持ちがどちらにも読めて困るときは、気持ちの言葉を一語置くことで句の向きが定まります。
視点を返す
Dの「妻と僕」は、部屋の中の物や動作ではなく、部屋にいる人を最後に置いた下五です。
上五・中七を読んでいるあいだ、読む人の目は、子が帰っていった部屋に向いています。下五で「妻と僕」と人物が出てくると、目が部屋から、そこに残った二人へと向け直されます。三日間にぎやかだった家が、また夫婦二人の暮らしに戻った。そのことを、二人の姿を置くだけで伝えています。
視点を返す下五には、ほかにも次のような形があります。
- 作者自身に返す:場面を見ていた自分の姿を最後に置く(「妻と僕」のように)
- 別の人物や生き物に移す:同じ場面を、別の誰かがどう見ているかを置く(次の章の「猫が出る」)
- 場面の外から見る:近所の人、通りがかりの人から見た様子を置く
視点を大きくずらして笑いにする方法は、面白い川柳の作り方で、見ている側を変える作例として比べています。
意味を反転する
下五で、上五・中七から予想される方向を裏返す方法です。
作例・川柳下五E:意味を反転する
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 子の帰省 | このきせい | 5音 |
| 終わった部屋に | おわったへやに | 7音 |
| 猫が出る | ねこがでる | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
上五・中七は、静かになった部屋の寂しさを予想させます。そこへ「猫が出る」。三日間、知らない人の気配に隠れていた猫が、ようやく出てきた。親が寂しがっている同じ部屋で、猫はほっとしている。寂しさの方向に進んでいた句が、最後の五音でおかしみの方向に裏返ります。
反転の下五は、決まると印象に残ります。ただし、どの句にも反転が必要なわけではありません。B・C・Dの下五には大きな反転はありませんが、どれも一句として立っています。渡辺柳山の記事も、驚かせる下五もあれば静かに余韻を残す下五もあり、その句にふさわしい着地点を探すことが大切だとしています。反転を狙って無理な言葉を置くと、上五・中七とのつながりが切れて、意味の分からない句になります。
分かりやすさと余韻を調整する
下五の候補を、上五・中七からの距離で並べてみます。距離が近すぎると説明になり、遠すぎると意味が届きません。
| 距離 | 下五の候補 | 何が起きるか |
|---|---|---|
| 近すぎる | もういない | 「帰省が終わった」をもう一度言っているだけ。繰り返し |
| 近い | 寂しさが/静けさよ | 場面から誰もが想像する気持ちを言う。予定調和 |
| ちょうどよい | 充電器/漫画本/寝転がる/妻と僕/猫が出る | 場面とつながりつつ、新しい情報を足す。読む人が続きを補える |
| 遠すぎる | 砂時計 | 時間の流れの比喩のつもりでも、部屋にあった物なのか比喩なのか分からない。作者の説明が要る |
近すぎるとき:繰り返しを点検する
「もういない」は、上五・中七と同じことを言っています。帰省が終わったのだから、子がもういないのは当たり前です。下五が繰り返しになっていないかは、下五を消しても句の情報が減らないかで確かめられます。消しても何も減らないなら、その下五は言い直しです。
遠すぎるとき:中七を見直す
「砂時計」のように、作者の頭の中では意味がつながっていても、読む人には届かない下五もあります。新葉館出版の川柳入門講座「誰にでも分かる川柳を作る」は、句の意味を読み手に探らせる姿勢を「川柳はクイズではありません」といさめています。
遠すぎる下五をどうしても使いたいときは、下五ではなく中七を直して、下五への橋をかける方法があります。たとえば「砂時計」が子の部屋に実際に置いてある物なら、中七で部屋の中に目を向けさせると、物として読めるようになります。渡辺柳山の記事も、下五を探すうちに中七を見直すことがあると書いています。下五だけで解決しようとせず、句全体の釣り合いで考えます。
確認表下五を決める前の点検
-
下五を消しても、句の情報が減らないか(減らないなら繰り返し)
-
下五で、上五・中七から誰もが想像する気持ちを言っていないか
-
気持ちの言葉を、物・動作・人物に置き換えられないか
-
作者の説明がないと、下五が何を指すか分からない形になっていないか
-
反転を狙って、上五・中七とのつながりを切っていないか
-
声に出して読み、最後の五音が気持ちよく収まるか
下五の候補を十通り書き出して選ぶ
渡辺柳山の記事は、下五をすぐに確定させず、十通りほどの候補を考えることを勧めています。この記事の上五・中七で書き出した十の候補を、働きごとに分けたのが次の表です。
| 候補 | よみ・音数 | 働き | 判断 |
|---|---|---|---|
| 寂しさが | さびしさが・5 | 気持ちを言う | 予定調和。外す |
| 静けさよ | しずけさよ・5 | 気持ちを言う | 予定調和。外す |
| もういない | もういない・5 | 繰り返し | 情報が増えない。外す |
| 充電器 | じゅうでんき・5 | 物を置く | 残す。今の子の暮らしと、この後の連絡が見える |
| 漫画本 | まんがぼん・5 | 物を置く | 残す。懐かしさのほうに傾く |
| 寝転がる | ねころがる・5 | 動作で結ぶ | 残す。気持ちを一つに決めない |
| 風を入れ | かぜをいれ・5 | 動作で結ぶ | 保留。空気を入れ替える動作だが、片づけの手順にも読める |
| 妻と僕 | つまとぼく・5 | 視点を返す | 残す。夫婦二人に戻ったことが見える |
| 猫が出る | ねこがでる・5 | 反転 | 残す。おかしみに裏返る |
| 砂時計 | すなどけい・5 | 比喩 | 遠すぎる。外す |
残った五つのうちどれを選ぶかは、この句で何を残したいかで決めます。子の今の暮らしへの思いなら「充電器」、子どもだったころへの懐かしさなら「漫画本」、言葉にならない気持ちそのものなら「寝転がる」、夫婦の暮らしなら「妻と僕」、寂しさを笑いに変えたいなら「猫が出る」です。どれも五音で、上五・中七と組んで十七音になっています。音数を数えるときは、読みをかなで書いてかな入力の音数確認を使うと確実です。
練習自分の句の下五を十通り書き出す(15分)
- 最近作った句を一つ選び、上五・中七だけを書き写します。まだ句がない場合は、この記事の「子の帰省/終わった部屋に」を使います。
- 下五の候補を、五音で十個書き出します。最初の三つは思いつくまま書き、残りは「物」「動作」「人物」「反転」の働きを意識して書きます。
- 候補ごとに、働き(物・動作・視点・反転・気持ち・繰り返し・比喩)を書き込みます。
- 「下五を消しても情報が減らない」「誰もが想像する気持ちを言っている」「説明がないと分からない」候補に印を付けて外します。
- 残った候補から、自分がこの句で残したいものに合う一つを選び、声に出して読みます。
ひな形下五の候補表(コピーして使えます)
上五・中七: この句で残したいもの: 候補1: 働き: 残す/外す/保留: 候補2: 働き: 残す/外す/保留: 候補3: 働き: 残す/外す/保留: 候補4: 働き: 残す/外す/保留: 候補5: 働き: 残す/外す/保留: 候補6: 働き: 残す/外す/保留: 候補7: 働き: 残す/外す/保留: 候補8: 働き: 残す/外す/保留: 候補9: 働き: 残す/外す/保留: 候補10: 働き: 残す/外す/保留: 選んだ下五と理由: