面白い川柳の作り方|視点のずらし方・対比・言葉遊びを比べる
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この記事の答え
川柳の面白さは、言葉を詰め込むより、読む人が意味のずれに自分で気づく仕掛けから生まれます。同じ題材でも、次の方法で別の句が作れます。
- 見ている側を変える:人ではなく物の側、当事者ではなく横で見ている人の側から書く
- 期待と結果を対比する:数や前後を並べ、予想と違った結果を見せる
- 言葉の二つの意味を使う:どちらの意味でも場面が通るときだけ、一か所に使う
「笑っちゃう」「困ったな」のように落ちを説明する言葉は削り、何が伝わるかを読み比べます。面白さは大笑いだけでなく、苦笑いやしみじみとしたおかしみでも構いません。
目次
駄洒落を入れたのに伝わらない。言葉遊びを重ねるほど、何の句か分からなくなる。面白い川柳を作ろうとして、こうなったことはないでしょうか。面白さを左右するのは言葉の量より、読む人がどこで「あれ?」と意味のずれを感じるかです。この記事では、雨の日の傘立てという一つの架空の題材から、視点を変えた句、対比の句、言葉遊びの句を作り、音だけで作った案や、説明がないと分からない案と並べて比べます。
面白さは、読む人が自分で気づくずれから生まれる
川柳と笑いの結びつきは古く、辞典にも表れています。精選版 日本国語大辞典は川柳を「機智的な表現によって、人事、風俗、世相などを鋭くとらえた」短詩と説明し、百科事典マイペディアは、江戸の川柳を滑稽・諧謔・風刺を主旨とする文芸としています(いずれもコトバンク「川柳」に収録)。ただし、今日の川柳は句風が幅広く、笑いが一句の条件というわけではありません。この記事の「面白い」も、大笑いだけでなく、苦笑い、くすっとする感じ、しみじみとしたおかしみまでを含めて扱います。
どの面白さにも共通するのは、作者が笑わせるのではなく、読む人が自分で気づくことです。新葉館出版の川柳入門講座「誰にでも分かる川柳を作る」は、作者の思いを読み手に探らせる姿勢を「川柳はクイズではありません」といさめ、一方で出来事を順に述べるだけの句を「説明句(報告句)」と呼んで、あまり歓迎されないとしています。面白い句は、この二つのあいだにあります。場面は一読で分かり、ずれには読む人が自分で気づく。この記事の作例は、すべてこの基準で比べます。
題材:雨の日の傘立て
作例観察メモ(架空)
・雨の日の夕方、店の入口の傘立てに、透明のビニール傘が十本ほど刺さっている
・自分も朝、ビニール傘を一本ここに置いた
・どれも同じに見える。一本ずつ持ち上げて、持ち手を確かめる
・自分の傘は、三年使っている五百円のビニール傘。持ち手に小さな傷がある
・似た傘を一本、持って行きかけて、やめた
・隣の人も、同じように一本ずつ持ち上げていた
このメモから、方法を変えて句を作っていきます。
見ている側を変える
最初の方法は、誰の目から書くかを変えることです。メモは当然、傘を探す自分の目で書かれています。自分の目のまま書くと「自分の傘が見つからない」という報告になりやすく、多くの人の経験と重なるぶん、新しさが出にくくなります。
見ている側の替え方には、次のようなものがあります。
| 見ている側 | 何が見えるか |
|---|---|
| 物(傘) | 十本の傘が、それぞれ持ち主を待っている |
| 横にいる人 | 隣の人も同じように一本ずつ持ち上げている |
| 場所(傘立て・店) | 毎日、同じ光景がくり返されている |
ここでは、傘の側に目を移しました。
作例・川柳案1:視点を変える
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 傘もまた | かさもまた | 5音 |
| 持ち主探す | もちぬしさがす | 7音 |
| 顔をして | かおをして | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
探しているのは人のはずなのに、並んだ傘のほうも、自分の持ち主を探しているような顔に見える。人が物を探す場面を、物が人を探す場面に裏返しています。上五の「傘もまた」の「また」で、探しているのは自分だけではない、という気配が出ます。
ずれを感じる位置は、中七の「持ち主探す」です。ここで読む人は、主語が人ではなく傘だと気づきます。
期待と結果を対比する
二つ目は、予想していたことと、実際に起きたことを並べる方法です。数、時間の前後、言葉と行動など、二つの物を並べられる所を探します。
傘立てのメモでは、「朝、自分は一本置いた」と「夕方、十本の中から探す」が並べられます。
作例・川柳案2:期待と結果を対比する
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 一本を | いっぽんを | 5音 |
| 置いて十本 | おいてじゅっぽん | 7音 |
| から選ぶ | からえらぶ | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
置いたのは一本なのに、取るときには十本の中から「選ぶ」ことになる。自分の物を取りに来たはずが、いつのまにか選択になっている、という結果のずれです。
ずれを感じる位置は二か所あります。中七の「十本」で数が跳ね上がり、下五の「選ぶ」で、取り戻すはずの傘が選ぶ物に変わります。下五に「選ぶ」という、場面に少しそぐわない動詞を置いたことが、この句の仕掛けです。
小さな矛盾を見つける
三つ目は、場面の中にある小さな矛盾を見つける方法です。矛盾は、対比の種にもなります。メモを読み直すと、次のような矛盾が見つかります。
- 使い捨てとも言われる安いビニール傘を、三年も使っている
- どれも同じ傘なのに、自分の傘だけは見分けられると思っている
- 傘を探している自分も、隣の人から見れば同じことをしている
一つ目の矛盾で句を作るとき、最初は次の形になりました。
作者しか知らない事情に頼った案から、矛盾が見える案へ
説明がないと分からない案
作例・川柳作例:三年目
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 十本の | じゅっぽんの | 5音 |
| 中の一本 | なかのいっぽん | 7音 |
| 三年目 | さんねんめ | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
矛盾が見える案
作例・川柳案3:小さな矛盾を見つける
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 三年の | さんねんの | 5音 |
| 傷で見つける | きずでみつける | 7音 |
| 安い傘 | やすいかさ | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
変更の理由
- 修正前は、作者の中では「ありふれたビニール傘を三年も使っている」というおかしみがあります。けれど句には「安い傘」であることも、それで探しているという場面もありません。「三年目」が何の三年なのか、作者の説明がないと分かりません。
- 修正後は、「三年の傷」と「安い傘」を同じ句に置いたので、安物なのに長く使っているという矛盾が、句の中だけで読み取れます。「見つける」で、傘立ての場面にも戻っています。
- この句は笑いより、使い込んだ安い物への愛着のほうが強く残ります。面白さにはこういう、しみじみとしたおかしみもあります。
ずれを感じる位置は、下五の「安い傘」です。「三年の傷」で大事な物かと思わせて、最後に安い傘だと明かします。
言葉遊びを使うなら、二つの意味が両方とも場面に合うときだけ
四つ目は、一つの言葉に二つの意味を持たせる方法です。言葉遊びは川柳の楽しみの一つですが、使い方を誤ると、意味も発見も消えてしまいます。
傘の場面で使えそうなのは「さす」です。傘を「差す」と、「魔が差す」(ふと悪い考えが浮かぶ)の「差す」が重なります。メモには「似た傘を一本、持って行きかけて、やめた」とありました。
作例・川柳案4:言葉の二つの意味を使う
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 似た傘に | にたかさに | 5音 |
| 魔が差しかけて | まがさしかけて | 7音 |
| 手を戻す | てをもどす | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
「魔が差しかけて」は、ふと他人の傘を持って行きそうになった、という意味です。同時に「差しかけて」は、傘を差しかける動作も思わせます。大事なのは、言葉遊びに気づかなくても句の意味が通ることです。掛け言葉を知らない人が読んでも、「似た傘を持って行きかけて、手を戻した」という場面は分かります。気づいた人には、傘の場面に「差す」が重なるおかしみが加わります。
言葉遊びを詰めた案
同じ「さす」を、もっと効かせようとして重ねると、こうなります。
作例・川柳作例:詰め込んだ案
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 似た傘に | にたかさに | 5音 |
| 魔が差し傘が | まがさしかさが | 7音 |
| 差してくる | さしてくる | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
「魔が差す」「傘が差す」「差してくる」と三回重ねたことで、誰が何をしたのかが分からなくなりました。手を戻した、という場面の動作も消えています。言葉遊びを重ねると、作者の手柄は見えても、読む人の手元には場面が残りません。
音だけで作った案を見直す
もう一つ、言葉の音を楽しむことだけで作った案です。
音だけの案から、意味のある繰り返しへ
音だけで作った案
作例・川柳作例:かさかさ
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 傘立てで | かさたてで | 5音 |
| かさかさ探す | かさかささがす | 7音 |
| かさ増しに | かさましに | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
繰り返しに意味を持たせた案
作例・川柳作例:どれも傘
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| どれも傘 | どれもかさ | 5音 |
| どれも私の | どれもわたしの | 7音 |
| 傘じゃない | かさじゃない | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
変更の理由
- 修正前は「傘」「かさかさ」「かさ増し」と「かさ」の音を三回重ねていますが、「かさ増しに」が場面の何を指すのか分かりません。音のための言葉で、意味がつながっていません。
- 修正後も「どれも」「傘」を二回ずつ繰り返していますが、繰り返すたびに意味が進みます。「どれも傘」で十本が同じに見え、「どれも私の傘じゃない」で一本ずつ確かめて外れていく動作が見えます。
- 繰り返しそのものは悪くありません。声に出したときの調子のよさは、新葉館出版の川柳入門講座「親近感のある川柳」でも、声に出して読むと面白くなる句として取り上げられています。問題になるのは、音を合わせるために、意味の通らない言葉を入れたときです。
確認表言葉遊びを入れる前に確かめること
-
二つの意味が、どちらも場面に合っているか
-
掛けた言葉に気づかなくても、一つ目の意味だけで句が通るか
-
言葉遊びは一句に一か所か
-
音を合わせるために、場面にない言葉を入れていないか
-
読む人に「これは掛け言葉です」と説明しないと伝わらない形になっていないか
落ちを説明する言葉を削る
面白い場面を作れても、最後に「落ち」を説明してしまうと、読む人が気づく前に答えが出てしまいます。案2を例に比べます。
落ちを説明した下五から、場面で終える下五へ
落ちを説明した案
作例・川柳作例:困ったな
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 一本を | いっぽんを | 5音 |
| 置いて十本 | おいてじゅっぽん | 7音 |
| 困ったな | こまったな | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
場面で終えた案
作例・川柳案2:期待と結果を対比する
| 句 | よみ | 音数 |
|---|---|---|
| 一本を | いっぽんを | 5音 |
| 置いて十本 | おいてじゅっぽん | 7音 |
| から選ぶ | からえらぶ | 5音 |
合計17音(5・7・5)/川柳の基準どおり
変更の理由
- 修正前の「困ったな」は、作者の反応を言っています。読む人は「困るよね」とうなずけますが、それは作者が先に言った感想をなぞるだけです。
- 修正後の「から選ぶ」は、困ったとは言わず、自分の傘を「選ぶ」はめになった状況だけを置いています。困っていること、少しおかしいことは、読む人が自分で受け取ります。
- 下五で気持ちを言う句がすべて弱いわけではありません。場面だけでは伝わらない気持ちを一語で置く句もあります。説明かどうかの目安は、その言葉を外しても、読む人が同じ気持ちにたどり着けるかどうかです。
落ちの説明になりやすい言葉には、次のようなものがあります。
| 説明になりやすい言葉 | 何をしてしまうか |
|---|---|
| 笑っちゃう/ウケる/(笑) | 面白い場面だと作者が宣言する |
| 困ったな/参ったな | 作者の反応を先に言う |
| 〜なのに/〜だけど | 対比の仕組みを言葉で示してしまう |
| まさかの/なんと | 意外さを予告する |
| ! | 驚きを記号で押しつける |
句の面白さを読む人に押しつけないためには、これらを外しても句が立つかを試します。外して面白さが消えるなら、場面の選び方か、ずれの置き方を見直します。
四つの案から、一句を選ぶ
同じ傘立ての題材から、四つの方法で作った句を並べます。
| 案 | 方法 | ずれを感じる位置 | 残る面白さ |
|---|---|---|---|
| 1 傘もまた | 見ている側を変える | 中七「持ち主探す」で、主語が傘だと分かる | 物に人のような顔を見る、やわらかなおかしみ |
| 2 一本を | 期待と結果を対比する | 中七「十本」で数が跳ね、下五「選ぶ」で取り戻す物が選ぶ物に変わる | 自分の状況への苦笑い |
| 3 三年の | 小さな矛盾を見つける | 下五「安い傘」で、大事そうな物が安物だと分かる | 安物への愛着。しみじみとしたおかしみ |
| 4 似た傘に | 言葉の二つの意味 | 中七「魔が差しかけて」で、傘を差す動作と悪い考えが重なる | 掛け言葉に気づいたときの小さな驚き |
どれが正解ということはありません。選ぶときは、次の順に確かめます。
手順複数の案から一句を選ぶ
- 一読で場面が見えるか。作者の説明なしで、どこで誰が何をしているかが分かる案だけを残します。
- ずれを感じる位置を言えるか。表の三列目のように、どの言葉で「あれ?」と思うかを一言で言えない案は、仕掛けが働いていない可能性があります。
- 残したい面白さに合っているか。大きく笑わせたいのか、苦笑いか、しみじみしたおかしみか。自分がメモを書いたときの気持ちに近い案を選びます。
- 誰かを傷つけていないか。笑いの矛先が、特定の人や、人の外見・年齢・属性に向いていないかを確かめます。矛先は、状況や自分のしぐさに向けます。
この題材でメモを書いたときの気持ちが「三年も使った安い傘への愛着」に近いなら案3、「探す自分がおかしかった」に近いなら案2を選ぶ、というように、方法の優劣ではなく、自分の見た場面に合うかで決めます。
練習同じ題材で三つの方法を試す(20分)
- 最近見た場面を一つ選び、観察メモを5行書きます。題材が見つからない場合は、メモを集めるところから始めてください。
- 見ている側を、人から物へ、または当事者から横にいる人へ替えて一句作ります。
- メモの中から二つの物(数、前後、言葉と行動)を並べて、対比の句を一句作ります。
- 場面に合う二つの意味を持つ言葉があれば、言葉遊びの句を一句作ります。なければ作らなくて構いません。
- 三句それぞれについて、「ずれを感じる位置」を一言で書きます。書けない句は、場面かずれを見直します。
- 「笑っちゃう」「困ったな」「〜なのに」などの説明の言葉が入っていないかを確かめます。
題材のメモが少ないと、方法を変えても同じような句になります。しぐさと本音のずれからメモを集める方法は、川柳のネタの見つけ方で扱っています。
何句か作って、視点や表現の工夫を、添削例も含めて順序立てて学びたくなったら、川柳の作り方を学ぶ本で、発想・表現・添削例のどれを学べるかで入門書を比べています。