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小説

小説の章の分け方|場面・時間・視点の切り替えで区切る

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この記事の答え

章は字数で等分するものではなく、物語の段階や役割が変わるところで区切ります。時間・場所・視点が変わるだけなら、章を立てる前に、空行(一行アキ)で足りないかを考えます。

  • 同じ人物・同じ場所で少し時間が進むだけなら段落、時間・場所・視点のどれかが切れたら空行、章の役割が変わったら章
  • 章ごとに「この章で何が起き、章の終わりに読者が何を持って次へ進むか」を一行で書けるかで、区切りを決める
  • 切り替えのあとの最初の一、二文に、誰の視点か・どこか・前からどれだけたったかを置く
目次

場面が変わるたびに「第○章」と見出しを立てていたら、十枚の短編に章が八つもできてしまった。あるいは、視点が変わるのに区切りを入れずに書き進めて、読んだ人に「いつ誰の話になったのか分からない」と言われた。章の分け方で迷う原因の一つは、段落・空行・章という区切りの道具を、何の変化を示すために使うのかが決まっていないことです。この記事では、同じ二日間の出来事を五つの場面にし、区切りすぎた初案と、二通りの章分けを比べます。読み終えたら、自作の区切りについて、なぜそこで切るのかを説明できるようになります。

章と場面の違い

区切りの道具は、小さいほうから段落・空行・章(長編ではさらに部)です。それぞれ、示す変化の大きさが違います。

区切り 何が変わるとき 表し方
段落 同じ場面の中で、動作や話題が移る。同じ人物・同じ場所のまま時間だけが進むときも、「昼すぎ、」のような時の語で始めれば段落で足りる 改行して一字下げる
場面の切り替え 時間・場所・視点のどれかが途切れる 空行(一行アキ)。記号(*など)を置く作品もある
章 物語の段階や、その部分が担う役割が変わる 章番号・章題
部 長編で、大きく時間が飛ぶ、主な視点人物が交代するなど、作品の構えが変わる 部の番号・題

場面は、時間と場所がひと続きになっている単位です。時間が飛ぶ、場所が移る、視点人物が替わる、のどれかが起きれば、そこで場面が切り替わります。一方、章は、いくつかの場面をまとめて、物語の中で一つの役割を持たせた単位です。

つまり、時間・場所・視点の切り替えは、場面を切る理由にはなっても、それだけでは章を切る理由になりません。章を切るのは、その切り替えによって物語が次の段階に入るときです。

注意章の数や長さに決まりはない

一作に章をいくつ置くか、一章を何字にするかに、共通の決まりはありません。章題を付けない作品も、数字だけの作品もあります。応募原稿で章題の書き方や改ページに指定がある場合は、応募する回の要項に従ってください。Web連載で一回に投稿する分量(話)の決め方は、章立てとは別の判断です。一話の字数と区切り方はWeb小説は一話何文字がよい?で扱っています。

作例:二日間の五場面

ここからは、次の五場面を使います(記事のために作った架空の話です)。台風が近づく港町で、島へ帰る老人と、それを追う孫娘、二人を窓口から見送る切符売り場の係員の二日間です。

場面 いつ どこで 視点 起きること
1 一日目・朝 港の切符売り場 朋美(窓口係) 島に住む源三(82)が、今日の最終便の切符を買いに来る。明日から欠航の見込みだと伝えても、「だから今日帰る」と言う
2 一日目・昼すぎ 同じ切符売り場 朋美 東京の孫・若菜から電話。「祖父を止めてほしい」。朋美は乗船を止められないと答える。若菜は自分も最終便に乗ると言う
3 一日目・夕方 最終便の甲板 若菜 息を切らして乗った若菜が、祖父を見つける。源三は「雨戸を閉めに帰る」とだけ言う
4 二日目・朝 島の家 若菜 風が強まる中、二人で雨戸を閉める。祖母が亡くなってから、祖父が一人で閉めてきたことを知る
5 二日目・夕方 港の切符売り場 朋美 欠航の札が下がったままの窓口に、島の若菜から電話が来る

五つの場面のつなぎ目で、何が変わっているかを確かめます。

つなぎ目 変わるもの
1→2 時間だけ(数時間後。同じ場所、同じ視点)
2→3 視点(朋美→若菜)、場所(窓口→船)、時間(昼→夕方)
3→4 場所(船→島)、日付(一日目→二日目)。視点は若菜のまま
4→5 視点(若菜→朋美)、場所(島→港)、時間(朝→夕方)

区切りすぎた初案

切り替えのたびに章を立てると、こうなります。

章 含む場面
第一章 切符 1
第二章 電話 2
第三章 最終便 3
第四章 雨戸 4
第五章 欠航 5

一つ一つの切り替えには理由があります。それでも、この章立てには次の問題があります。

  • 大きな変化と小さな変化の区別がつかない。1→2は同じ窓口で数時間たっただけ、2→3は視点も場所も時間も変わっています。どちらも同じ「章」で区切ると、読者はどの切り替えが物語にとって大きいのかを、区切りから受け取れません。
  • 章ごとの役割が言えない。第一章「切符」と第二章「電話」は、どちらも「源三が帰ると決め、それを止めようとする動きが起きる」という同じ役割の前半と後半です。
  • 読むたびに止まる。章の区切りは、読者に「ここで一息ついてよい」と知らせる合図でもあります。一場面ごとに合図が来ると、続けて読みたい場面のあいだにも休みが入ります。

二通りの章分けと、章の役割

区切りすぎを直すには、先に章の役割を決め、その役割の中に場面を入れていきます。同じ五場面を、二通りに章分けしてみます。

案A 日付で分ける(二章)

章 含む場面 章の役割 章の終わりに読者が持つ問い
第一章 一日目 1・2・3 源三が帰ると決め、若菜が追って同じ船に乗る 台風の来る島で、二人はどうなるのか
第二章 二日目 4・5 嵐の島で起きたことと、それを港で受け取る朋美 (結末)
つなぎ目 区切り
1→2 段落(「昼すぎ、」で始める)
2→3 空行(視点が若菜に替わる)
3→4 章(日付が替わり、台風が来る)
4→5 空行(視点が朋美に戻る)

案Aでは、章の区切りが「台風の前」と「台風のあと」に一致します。期限に向かって進む緊張を強く出したい場合に向いています。代わりに、どちらの章の中でも視点が一度ずつ替わるので、空行のあとの最初の文に、誰の視点かを示す手掛かりがしっかり要ります。

案B 視点と場所で分ける(三章)

章 含む場面 章の役割 章の終わりに読者が持つ問い
第一章 窓口 1・2 外から見た源三の決断と、若菜の電話 若菜は最終便に間に合うのか
第二章 島へ 3・4 若菜の目で、祖父が帰る理由を知る 港の朋美は、二人のことを知るのか
第三章 欠航 5 港に戻り、二人のその後を外から受け取る (結末)
つなぎ目 区切り
1→2 段落(「昼すぎ、」で始める)
2→3 章(視点・場所が替わる)
3→4 空行(一晩たち、島に着いている)
4→5 章(視点・場所が替わる)

案Bでは、章の区切りと視点の交代が一致します。窓口から見送るだけの朋美と、船に乗って島で祖父と過ごす若菜。二人の立場の違いそのものを読ませたい場合に向いています。第三章は一場面だけの短い章になりますが、章の長さをそろえる必要はありません。最後に外側の視点に戻ることが、この章の役割だからです。

どちらを選ぶか

比べる点 案A 日付で分ける 案B 視点と場所で分ける
区切りが強調するもの 台風の前と後、時間の期限 窓口の内と外、二人の立場の違い
章の中の視点の切り替え 二回(空行で示す) なし
向く作品 期限に向かう緊張が中心の作品 二人の視点の対比が中心の作品
注意すること 空行のあとの最初の一文に、視点の手掛かりを必ず置く 一場面だけの章に、一章分の役割があるか確かめる

どちらが正しいということはありません。作品の中心が「間に合うか」なら案A、「同じ出来事を、内と外からどう見るか」なら案Bが合います。章の区切りは、読者に「この作品は何を区切りとして読めばよいか」を伝える道具です。

長編で章ごとの役割を先に一覧にしておく方法は、長編小説の書き方の章カードが使えます。

切り替えの前後に、つながりを残す

章や空行で区切ったあと、読者がまず知りたいのは「誰の話で、どこで、前からどれだけたったか」です。これを、切り替えのあとの最初の一、二文に置きます。

手掛かり 置き方 作例
誰の視点か 視点人物の名前を、最初の文の主語にする。その人が見たり聞いたりしたことを続ける 「若菜はすぐに祖父の帽子を見つけた」
どこか 場所を示す名詞を、最初の文に入れる 「最終便の甲板に上がると」
いつか 前の場面からの距離(翌朝、二日目の夕方)を示す 「二日目の夕方」
前とのつながり 前の場面の最後に出た物や言葉を、もう一度出す 前の場面の「最終便」を受けて、「最終便の甲板」

案A:章の中で、空行で視点を替える

案Aの第一章、場面1から3への切り替え部分です。「昼すぎ、」の前は段落を改めるだけ、「電話を切った。」のあとには一行の空きがあります。

作例案A 第一章の切り替え部分(抜粋)

「だから、今日帰るんです」と源三さんは言って、片道の切符を胸のポケットにしまった。
昼すぎ、窓口の電話が鳴った。「森源三の孫です。祖父を、止めてもらえませんか」。東京からだという若い声は、ひどく急いでいた。
(中略)
若菜という名のその声は、自分も最終便に乗ります、と言って電話を切った。

最終便の甲板に上がると、若菜はすぐに祖父の帽子を見つけた。夕方の風に、つばが何度もあおられていた。

空行のあとの最初の二文に、視点人物(若菜)、場所(最終便の甲板)、時間(夕方)がそろっています。さらに、空行の前の文の「最終便」を、あとの文でもう一度使っています。前の場面で電話の声として出てきた若菜が、次の場面ではその目で世界を見る人物になったことが、一文で分かります。

案B:章の終わりと、次の章の始まり

案Bでは、章の最後の一文で読者に問いを渡し、次の章の最初の一文でその問いを受け取ります。

区切り 章の最後の一文 次の章の最初の一文
第一章→第二章 朋美は、最終便の残りの席の数を、もう一度数えた。 最終便の甲板に上がると、若菜はすぐに祖父の帽子を見つけた。
第二章→第三章 最後の雨戸を閉めると、家の中は昼なのに夜になった。 欠航の札を下げたまま、朋美は二日目の窓口に座っていた。

第一章の最後で、朋美が席の数を数え直すことで、「若菜は乗れるのか」という問いが残ります。第二章の最初の一文は、その答え(乗れた)から始まります。第二章の最後は、島の家が閉ざされる一文で終わり、第三章は、その外側にいる朋美の窓口から始まります。閉ざされた家と、欠航で閉ざされた港。章をまたいで、同じ「閉じる」が内と外で響くように並べています。

見出しそのものに、切り替えを担わせる

区切りの前後に文でつながりを置くのではなく、章や節の見出しで切り替えを伝える方法もあります。芥川竜之介の『藪の中』(1922年「新潮」初出、青空文庫で読めます)は、七つの節に分かれ、各節の見出しが「検非違使に問われたる木樵りの物語」「多襄丸の白状」「巫女の口を借りたる死霊の物語」のように、その節を語るのが誰かを示しています。節と節のあいだにつなぎの文はなく、見出しが視点の交代をすべて引き受けています。

この作品では、同じ出来事をめぐる七つの証言、とりわけ当事者三人の話が食い違うこと自体が読みどころなので、語り手ごとに区切ることが構成の中心になっています。語り手や視点の交代そのものを読ませたい作品では、見出しで区切る方法が合います。反対に、視点の交代が話を運ぶための手段にすぎない作品で毎回見出しを立てると、初案のような区切りすぎになります。

区切りすぎを直す

自作の章立てを見直すときは、つなぎ目ごとに、何が変わったかと、どの区切りを使うかを決めていきます。

手順章立てを見直す手順

  1. 場面を一行ずつ書き出す。いつ・どこで・誰の視点か・何が起きるかを、場面ごとに一行にします。
  2. つなぎ目ごとに、変わったものを書く。時間・場所・視点・物語の段階のどれが変わったかを書き込みます。
  3. 章の役割を先に決める。「この章で何が起き、章の終わりに読者が何を持って次へ進むか」を一行で書けるまとまりを作ります。
  4. 区切りを当てはめる。章の役割の境目は章、役割の中で時間・場所・視点が途切れるところは空行、同じ人物・同じ場所で少し時間が進むだけのところは段落にします。
  5. 切り替えのあとの最初の一文を確かめる。誰の視点か・どこか・いつかが、一、二文のうちに分かるかを見ます。

確認表区切りすぎ・区切り不足の確認表

  • 隣り合う二つの章の役割を一行ずつ書いたとき、同じ役割の前半と後半になっていないか
  • 章題を付けてみて、前の章と同じような題になる章はないか(まとめる候補)
  • 一場面だけの章は、一章分の役割(視点の交代、物語の段階の変化)を持っているか
  • 同じ人物・同じ場所で数時間たっただけの切り替えに、章や空行を使っていないか
  • 反対に、視点が替わっているのに、空行も章もなく続けていないか
  • 空行や章のあとの最初の一、二文で、誰の視点か・どこか・いつかが分かるか
  • 章の最後の一文と次の章の最初の一文が、物・言葉・問いのどれかでつながっているか

空行による場面の切り替えは、ページの変わり目に重なると見えにくくなることがあります。そのため、場面の切り替えに「*」などの記号を置く作品もあります。投稿サイトや応募の書式によって空行の表示や数え方が変わる場合があるので、提出先の表示で確かめてから決めてください。

章を整えたあと、場面の順番を入れ替えたり、移動や説明の場面を縮めたりして読みの速さを直したい場合は、小説のテンポが悪いときの直し方で扱っています。