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小説

小説のタイトルの付け方|候補の作り方と作品に合う題名の選び方

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この記事の答え

題名は、思いつきを並べる前に作品の核になる語を拾い、そこから候補を作ります。

  • 物・場所・人物の行動・本文の言葉・問い・象徴の六方向から、十前後の候補を出す
  • 「読む前に伝わること・語感・誤解のおそれ」で比べ、読み終えたあとに意味が深まるかで絞る
  • 本文にないものを約束していないか、発表先での長さ、既存の題名との重なりを確かめてから決める

目立つ言葉を足しても、読まれることは保証されません。内容と一致していることを優先します。

目次

書き上げた小説に題名を付けようとして、候補はいくつも浮かぶのに、どれが合っているのか決められない。そういうときは、候補の良し悪しを感覚で比べる前に、作品の中から題名の材料を拾い直すと選びやすくなります。この記事では、架空の短編一作に十の題名案を付け、比較表で一つに絞るまでを示します。

題名を考える前に、作品の核を三行で書く

題名の候補を出す前に、作品について三つのことを一行ずつ書きます。

  1. 主人公が何をして、どう変わる話か
  2. 読み終えた人に、何を残したいか
  3. 作品の中でいちばん大事な物・場所・言葉は何か

この三行が、候補を作る材料にも、候補を選ぶ基準にもなります。作例として使う短編のあらましと、三行の記入例を示します。

作例作例の短編(架空・約2万字)

会社員の千秋(二十九歳)は、急に海外へ赴任することになった兄の透から、アパートの引き払いを頼まれる。兄のメモには「合鍵を渡してある人が六人いる。全部返してもらってくれ」とあり、六人の名前が並んでいた。
大家、猫に餌をやっていた近所の小学生、行きつけの食堂の店主、職場の後輩、元恋人、高校の同級生。千秋は二週間かけて六人を訪ね、鍵を受け取るたびに、自分の知らない兄の暮らしを聞かされる。
ところが、引き出しから出てきた鍵屋の控えには、合鍵を「七本」作ったとある。七本目は、最後の日、本棚の辞書の箱から見つかる。封筒には千秋の名前と、千秋が家を出た十年前の日付が書いてあった。千秋は七本の鍵をすべて大家に返し、その夜、十年ぶりに兄へ電話をかける。

三行 作例の記入
何をして、どう変わる話か 兄を遠い人だと思っていた千秋が、兄が自分にも扉を開けようとしていたと知り、自分から連絡する
読み終えた人に残したいもの 渡されなかった鍵にも、渡そうとした気持ちは残っている
大事な物・場所・言葉 七本目の合鍵、兄のアパート、メモの「全部返してもらってくれ」、辞書の箱、鍵屋の控え

作品が何を問う話かがまだはっきりしない場合は、先に小説のテーマの決め方で、主人公の選択と結末を問いの形にしておくと、三行が書きやすくなります。

六つの方向から、十の候補を出す

三行から、題名の材料になる語を拾います。拾う方向は六つあります。

方向 拾うもの 作例で拾った語
物 作品に出てくる具体物 合鍵、七本目、辞書の箱
場所 舞台になる場所 兄の部屋、アパート
人物の行動 主人公や周りの人がすること 鍵を返す、訪ねる
本文の言葉 作中の台詞やメモの一節 全部返してもらってくれ
問い 読者が読みながら抱く疑問 兄はだれに鍵を渡したのか
象徴 物や行動が表している考え 開けておいた扉

候補を出すときは、良し悪しを判断せずに書きます。「目立たせたい」「分かりやすくしたい」と思って作った案も、あとで比べるために残しておきます。作例では、次の十案を出しました。

番号 題名案 どこから作ったか
1 合鍵 物
2 七本目の鍵 物(数を足した)
3 兄の部屋 場所
4 全部返してもらってくれ 本文の言葉
5 鍵を返す人たち 人物の行動
6 開けておいた扉 象徴
7 兄はだれに鍵を渡したか 問い
8 兄の合鍵を返してもらう二週間で、知らなかった兄の顔を知った 筋を説明した
9 消えた兄と七本の鍵 目立たせようとした
10 兄が隠した七本目の鍵の真実 目立たせようとした

候補を「伝わる内容・語感・誤解」で比べる

十案を、同じ三つの観点で比べます。「伝わる内容」は、作品を読む前の人が題名から受け取ること、「誤解のおそれ」は、作品と違うことを期待させてしまう可能性です。

題名案 読む前に伝わること 語感・読みやすさ 誤解のおそれ
1 合鍵 鍵にまつわる話 短く、覚えやすい 一語の題名は、同じ題名の作品がある可能性が高い。恋人に渡す合鍵の話を思い浮かべる人もいる
2 七本目の鍵 鍵が何本もあり、七本目に意味がある 言いやすい。「ななほんめ」「しちほんめ」と読みが分かれる 謎解きを期待されるが、作中に「七本目」の謎があるので大きくはずれない
3 兄の部屋 兄と部屋が中心の話 平易 兄の人物像を描く話か、部屋にまつわる怪談かが分からない
4 全部返してもらってくれ 誰かに頼まれた用事の話 口語で目を引く。やや長い 誰が誰に頼んだのかが分からない。命令口調が強く響く
5 鍵を返す人たち 鍵を返す人が何人も出てくる 平易 主人公が見えず、六人の群像劇に見える
6 開けておいた扉 誰かを受け入れる話 詩的 抽象的で、作品の具体物(鍵)が見えない
7 兄はだれに鍵を渡したか 兄の交友をたどる話。問いがある 問いの形で先が気になる 答えに妹が含まれることを、読者に予想されやすい
8 兄の合鍵を返してもらう二週間で…… 筋のほとんど 長く、一息では言えない 主人公の変化(兄の顔を知る)を、題名が先に言ってしまう
9 消えた兄と七本の鍵 兄の失踪と鍵の謎 目を引く 兄は失踪していない。行方を追う話を期待した読者を裏切る
10 兄が隠した七本目の鍵の真実 大きな秘密が暴かれる話 強い言葉が重なり、長い 兄は鍵を隠していない(渡せなかっただけ)。「真実」が、作品にない大きな暴露を約束する

この表で、9と10は外れます。6は作品の具体物が見えず、5は主人公が見えないので、優先度を下げます。8は筋を説明しすぎています。

残った案を、読み終えたあとの意味で比べる

残った案のうち、2・4・7を、もう一つの観点で比べます。読み終えたあとに、題名の意味が変わるか、深まるかです。読み終えた人が題名を見返したとき、最初とは違う意味が見えると、題名が作品の一部になります。

題名案 読む前の印象 読み終えたあとの意味
七本目の鍵 数の合わない鍵の謎 十年前、千秋のために作られ、渡されなかった鍵
全部返してもらってくれ 兄から妹への事務的な頼み 兄の言う「全部」は六本で、七本目は数に入っていなかった。渡せなかった鍵を、兄は自分でも数えられなかった
兄はだれに鍵を渡したか 兄の交友をたどる問い 答えは六人と、渡せなかった一人。ただし題名が、結末で明かす問いを先に言っている

作例の書き手は、『七本目の鍵』を選びました。具体物が入っていて、読む前は謎として、読んだあとは千秋への鍵として意味が変わり、作品と違う期待をさせるおそれも小さいからです。「ななほんめ」「しちほんめ」と読みが分かれる点は、どちらで読んでも意味が変わらないので、直さないことにしました。読み方で意味が変わる語や、読めない人が多そうな語を題名に入れる場合は、ひらがなにする、発表先で読みを示すなどを考えます。

『全部返してもらってくれ』は、選ばなかったものの、読後に意味が反転する力のある言葉です。題名には使わず、作中のメモの一文として目立つ位置(冒頭の一行目など)に置けば、同じ働きを本文の中でさせられます。

題名が、作品にないものを約束していないか確かめる

題名は、読者が最初に受け取る約束です。特に、作品の種類(ジャンル)を思わせる言葉は、読者の期待を強く方向付けます。

題名に入る言葉の例 読者が期待しやすいこと 確かめること
消えた、失踪、行方 誰かの行方を追う話、事件 作中で、誰かが本当に行方不明になるか
真実、秘密、正体 大きな隠しごとが明かされる 明かされるものが、その言葉に見合う大きさか
殺人、事件、死体 謎解き、犯罪 作品が事件を中心にしているか
恋、君と、初恋 恋愛が中心の話 恋愛が筋の中心にあるか
泣ける、号泣、感動 読んだ人が泣くこと 感情は読者が決めるもの。題名で約束しないほうが安全

作品の中身がその言葉に見合っていれば、使ってかまいません。見合っていない言葉は、目を引いても、読んだ人に「思っていた話と違った」と受け取られます。目立つ言葉を足したからといって、読まれる数が増えるとは限りません。

作例の案10を直すと、次のようになります。

煽りすぎた題名を、作品の大きさに合わせる

直す前

兄が隠した七本目の鍵の真実

直したあと

七本目の鍵
(投稿サイトのキャッチコピー:六人に渡した合鍵と、数の合わない七本目。)

変更の理由

  • 「隠した」を外しました。兄は鍵を隠したのではなく、渡せないまま辞書の箱にしまっていただけです。題名が「隠した」と言うと、兄が何かをたくらんでいた話に見えます。
  • 「真実」を外しました。作品で明かされるのは、十年前の日付が書かれた封筒という静かな事実です。「真実」という語は、それより大きな暴露を約束してしまいます。
  • 謎の要素は「七本目」に残しました。数が合わないという謎は作品に実際にあるので、誇張になりません。題名に入りきらない情報は、キャッチコピーや紹介文で補います。
  • 作品に本当に大きな秘密や事件がある場合は、「秘密」「事件」などの言葉が内容と一致するので、直す必要はありません。

発表する場所で、題名がどう見られるかを確かめる

題名に適した長さは、決まった字数ではなく、発表する場所で題名がどう見られるかで変わります。

発表する場所 題名が見られる場面 長さと形の考え方
投稿サイト 作品一覧や検索結果で、ほかの作品と並ぶ カクヨムと小説家になろうは、どちらも題名を100文字以内で入力できる。説明的な長い題名も入るが、カクヨムには35文字までのキャッチコピー欄があり、両サイトとも紹介文(なろうではあらすじ)の欄があるので、題名だけで全部を説明しなくてよい
公募 応募原稿の一枚目や応募フォーム。選考する人が最初に目にする 題名を書く位置や書式は要項に従う。題名で内容を誇張せず、作品と一致させる
同人誌・本 表紙・背表紙・目次・頒布の場の机の上 背表紙に入るか、少し離れても読めるか
短編集・連作の一篇 目次で、ほかの作品の題名と並ぶ ほかの題名と長さや形をそろえるか、一篇だけ変えて目立たせるかを決める

投稿サイトでは、画面の幅によって、一覧で題名が途中までしか見えないことがあります。長い題名にする場合は、投稿前のプレビューや自分のスマートフォンで一覧の見え方を確かめ、途中で切れても何の話か分かる語順になっているかを見ます。

作例の『七本目の鍵』を発表する場合は、次のように使い分けられます。

  • 投稿サイト:題名は『七本目の鍵』。キャッチコピー欄に「六人に渡した合鍵と、数の合わない七本目。」(20文字)を入れ、兄のメモと六人を訪ねる筋は紹介文で伝える。
  • 公募:題名は『七本目の鍵』だけにする。筋は要項が求める場合に応募用のあらすじで結末まで書く。

公募で求められる応募用あらすじは、題名や紹介文とは役割が違い、選考する人に結末まで伝えるための要約です。何を書くよう指定されているかは賞ごとに要項で確かめます。書き方は応募用あらすじの書き方で扱っています。

既存の題名との重なりを確かめる

候補が決まったら、同じ題名や、よく似た題名の作品がないかを探します。確かめる理由は二つあります。一つは、よく知られた作品と同じ題名だと、読者がその作品を思い浮かべてしまうこと。もう一つは、同じ発表先に同じ題名が多いと、自分の作品が探しにくくなることです。

確かめる場所 分かること
発表する投稿サイトの検索 同じ場所に並ぶ作品の題名
国立国会図書館サーチ 国立国会図書館の所蔵資料と、データ連携している全国の図書館の所蔵資料。詳細検索でタイトルを指定して探せる
ネット書店の検索 今流通している本の題名
J-PlatPat 商標として登録されている語(無料で検索できる)。シリーズ名を作品外の商品などにも使う予定がある場合の確認先

重なりが見つかったときの扱いは、相手と発表の場によって変えます。

  • よく知られた作品と同じ題名:読者が先にその作品を思い浮かべやすくなります。別の候補に替えるか、語を一つ足して区別します。
  • 一般的な語で、同じ題名の作品が多い:作例の『合鍵』のような一語の題名は、重なりやすい形です。作品の具体物を一つ足すと、区別しやすくなります(『合鍵』→『七本目の鍵』)。
  • 同じ投稿サイトに、同じ題名の作品がある:検索で並んだときに区別できるよう、副題を付けるか、語順を変えます。

注意題名の重なりと権利について

検索で同じ題名が見つかったからといって、その題名が使えないと決まるわけではありません。反対に、見つからなかったからといって、問題がないと保証されるわけでもありません。題名の重なりや商標について個別の判断が必要な場合は、この記事では扱わないので、発表先の規約を確かめ、必要に応じて弁理士・弁護士などの専門家に相談してください。

決めた題名を、本文と突き合わせて仕上げる

最後に、選んだ題名で作品を読み返します。題名を決めたことで、本文の側に直すところが見つかることもあります。作例では、『七本目の鍵』に決めたあと、鍵屋の控えで「七本」と分かる場面を、中盤より前に移しました。題名にある「七本目」が、読者の中で早めに謎として立ち上がるようにするためです。

確認表題名を決める前の確認

  • 題名の言葉が、作品の核(三行)のどれかとつながっている
  • 題名が約束していることが、本文に実際にある
  • 読み終えたあとに、題名の意味が変わるか深まる(変わらなくても、内容と一致していればよい)
  • 声に出して言える。読み方が分かれる語は、分かれても困らないか確かめた
  • 発表する場所で、題名がどう表示されるかを確かめた
  • 同じ題名・似た題名の作品を、発表先と図書館の検索で探した
  • 公募に出す場合は、題名を書く位置と書式を要項で確かめた

ひな形題名を決めるメモ(コピーして使えます)

何をして、どう変わる話か:
読み終えた人に残したいもの:
大事な物・場所・言葉:
候補(物):
候補(場所):
候補(人物の行動):
候補(本文の言葉):
候補(問い):
候補(象徴):
残した三案と、読み終えたあとの意味:
選んだ題名と、選んだ理由:
発表先での見え方・重なりの確認:

練習自分の作品で題名を決める(30分)

  1. 作品の核を三行で書きます(5分)。
  2. 六つの方向から、十前後の候補を出します。良し悪しは考えません(10分)。
  3. 「伝わる内容・語感・誤解のおそれ」の表に書き入れ、誤解の大きい案を外します(5分)。
  4. 残った二〜三案を、読み終えたあとの意味で比べて、一つを選びます(5分)。
  5. 選んだ題名で、本文に直すところがないか確かめます(5分)。

作中の人物の名前を題名に入れたい場合は、その名前が読みやすく、ほかの人物と取り違えにくいかも確かめておくと安心です。名前の選び方はキャラクターの名前の付け方で扱っています。