エッセイのタイトルの付け方|題材と気づきから候補を選ぶ
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この記事の答え
エッセイの題名は、思いつきで付けるより本文の中から言葉を拾って作ります。
- 拾う先は三つ:題材の具体物(物・場所・数字)、考えの変化(前と後で何の見え方が変わったか)、場面の言葉(会話や印象に残る一言)
- 候補を五つ以上並べ、内容を全部説明してしまう題名と、読み終えてから意味が深まる題名を比べる
- 最後に、本文にない感情や出来事を約束していないか、よく知られた題名と重なっていないかを確かめ、本文の焦点と合う一つを選ぶ
目次
エッセイを書き終えて題名を付けようとすると、「思い出」「春の日のこと」のような、どの一篇にも付けられる言葉しか出てこないことがあります。題名は本文の外から探すより、本文の中にある言葉から作るほうが、内容とずれません。この記事では、架空の一篇「父の腕時計を時計店に持っていった話」を使い、本文から材料を拾い、八つの候補を作り、本文との一致で一つに絞るまでを見せます。
題名が伝わらない理由は、本文から離れていること
最初に、題名が内容を伝えない例を見ておきます。
| 伝わりにくい題名の例 | 何が伝わらないか | どう変えるか |
|---|---|---|
| 八月のこと/ある春の日 | 日付は、ほかのどの出来事にも当てはまる | その日に見た物、起きたことの言葉に替える |
| 父の思い出/大切な宝物 | 「思い出」「宝物」は書き手の評価で、中身が見えない | 思い出の中の具体物の名前に替える |
| 感謝/つながり | 結論だけを言っていて、体験が見えない | 気づきの言葉を、本文の場面の言葉に替える |
三つとも、題名が本文から離れたところで作られています。日付も「思い出」も「感謝」も、本文を読まなくても付けられる言葉です。逆に言えば、本文を読んだ人でなければ付けられない言葉を題名に使うと、その一篇だけの題名になります。
題名の材料を拾う先は、次の三つです。
- 題材の具体語:本文に出てくる物、場所、数字、固有の呼び名
- 考えの変化:書き手の見え方が、体験の前と後でどう変わったか
- 場面の言葉:会話、看板の文字、印象に残った一言など、本文にそのまま書かれている言葉
作例:題名を決める前のエッセイ
以下は、この記事のために作った架空のエッセイです。題名はまだ付けていません。読みながら、題名に使えそうな言葉に印を付けてみてください。
作例題名未定のエッセイ(架空・約550字)
父が亡くなって半年たった春、机の引き出しから腕時計が出てきた。文字盤の黄ばんだ、革のバンドの時計で、針は二時十分を指して止まっていた。父が毎日、左の手首に着けていたものだ。
電池を替えれば動くだろうと思い、駅前の時計店に持っていった。白髪の店主は時計を耳に当て、裏蓋を眺めてから言った。
「電池は入っていませんよ。これは手巻きです」
店主は竜頭をつまんで、ゆっくり回した。十回ほど回したところで、秒針が動きだした。
「壊れていたんじゃありません。巻く人がいなかっただけです」
いっぱいに巻けば一日半ほど動く、毎日同じころに巻くのがいい、と店主は言った。代金はいらないと言われ、私は時計をハンカチに包んで持ち帰った。
父は毎朝、新聞を取りに行く前に、居間で指先を小さく動かしていた。それが竜頭を巻く手つきだったと、私はその日まで気づかなかった。父の朝の決まりごとの中に、時計を動かしておく作業が入っていたのだ。
それから毎朝、歯を磨く前に竜頭を巻いている。回すたびに、指先にかかる手応えが少しずつ増えていく。止まらないように巻くというより、今日も巻いた、と確かめるために巻いている気がする。
一度だけ、出張で巻き忘れた。帰ってくると、時計は六時四十分で止まっていた。私はそれを見て、少し笑った。止まった時計は、巻く人がいないことを正直に知らせる。
本文から、題名の材料を拾い出す
候補を考える前に、本文から材料を拾って三つに分けます。ここでは良い悪いを判断せず、とにかく書き出します。
| 種類 | 作例から拾った言葉 |
|---|---|
| 題材の具体語 | 腕時計、手巻き、竜頭、文字盤、革のバンド、ハンカチ、二時十分、六時四十分、一日半、時計店 |
| 考えの変化 | 壊れていたのではなかった/父の朝の手つきの意味が分かった/止まらないように巻くのではなく、確かめるために巻く |
| 場面の言葉 | 「これは手巻きです」「壊れていたんじゃありません」「巻く人がいなかっただけです」「今日も巻いた」 |
題材の具体語は、その一篇にしかない物を選ぶ
具体語の中でも、題名に向くのはこの一篇の出来事と結び付いている物です。「腕時計」は中心の物ですが、父の腕時計を書いたエッセイはほかにもいくらでもあり得ます。「手巻き」は、電池だと思い込んでいたという出来事の要になる言葉なので、この一篇との結び付きが強くなります。「二時十分」「六時四十分」のような時刻も、本文の中で意味を持っていれば題名の候補になります。
考えの変化は、結論ではなく変わり目の言葉にする
考えの変化をそのまま題名にすると、「父の時計は壊れていなかった」のように、結論を先に言ってしまいます。題名に使うなら、結論そのものより、見え方が変わった瞬間の言葉を探します。作例では、店主の「壊れていたんじゃありません」がその瞬間に当たります。
場面の言葉は、短く切っても意味が残るかを見る
会話や一言を題名にするときは、全文を使うと長くなります。どこで切っても意味が残るかを試します。「巻く人がいなかっただけです」は、「巻く人」まで縮めても、読み終えた人には店主の言葉が思い出されます。
三つの方向から、八つの候補を作る
拾った材料から、候補を八つ作りました。わざと、うまくいかない案も混ぜています。
| 候補 | 材料 | 本文と合っているか | 判断 |
|---|---|---|---|
| 1 父の腕時計 | 具体語 | 合っているが、内容の入口を言っているだけ | 説明的。中身は伝わるが、この一篇らしさが弱い |
| 2 手巻き | 具体語 | 出来事の要と合う | 残す候補。短く、読む前に「何の手巻きか」と思わせる |
| 3 時計店にて | 具体語(場所) | 時計店の場面は本文の一部だけ | 後半の毎朝の場面が題名から外れる |
| 4 巻く人 | 場面の言葉 | 店主の言葉、父、私、結びにまでつながる | 残す候補。読後に意味が深まる |
| 5 壊れていたんじゃありません | 場面の言葉 | 変わり目の瞬間と合う | 会話のままでは長い。題名だけ見ると何の話か分からない |
| 6 父の形見の時計が手巻きだと知るまで | 説明 | 前半と合うが、後半の気づきが入らない | 言いすぎ。読む前に出来事を明かしてしまう |
| 7 時間というもの | 抽象 | 本文のどこにも出てこない言葉 | 抽象的すぎる。どの一篇にも付けられる |
| 8 父の時計が教えてくれた、生きる意味 | 考え(誇張) | 本文は生きる意味までは言っていない | 誇張。本文が約束を果たさない |
候補6〜8の三つは、典型的な失敗の形です。
- 言いすぎ(6):内容を全部説明する題名は、読む前に本文の驚きを使い切ってしまいます。電池だと思っていた時計が手巻きだった、という一篇の小さな転回が、題名で先に明かされています。
- 抽象的すぎ(7):本文に出てこない大きな言葉は、一篇の中身と結び付きません。読んだあとに題名を見返しても、何も思い出されません。
- 誇張(8):本文にない結論を題名で約束しています。読み手は「生きる意味」を期待して読み、期待どおりのものがないまま読み終えます。説教めいた印象も生まれます。
説明的な題名と、余韻の題名を比べる
残った候補を、二つの型に分けて考えます。
| 型 | 例 | 読む前に分かること | 読み終えたあと |
|---|---|---|---|
| 説明的な題名 | 父の腕時計 | 何についての文章か | 題名の意味は読む前と変わらない |
| 余韻の題名 | 巻く人 | 何かを巻く人の話らしい、ということだけ | 店主の言葉、父の朝、自分の朝が重なり、意味が深まる |
余韻の題名がいつも優れているわけではありません。説明的な題名が合うのは、次のような場合です。
- 題名だけが一覧に並び、読み手がそれを見て読むかどうかを決める場(目次、投稿サイトの一覧など)で、何の話かを先に伝えたいとき
- 本文が、物や出来事についての情報そのものを読ませる一篇のとき(道具の使い方、土地の歴史をたどるエッセイなど)
- 本文の語り口が淡々としていて、題名だけが含みを持つと浮いてしまうとき
余韻の題名が合うのは、本文の最後で見え方が変わる一篇です。作例は、店主の言葉で「壊れた時計」が「巻かれていない時計」に変わり、さらに父の朝の手つきの意味が分かる、という変化を中心にしています。こういう一篇では、読み終えたあとに題名が別の意味を帯びると、変化がもう一度読み手の中で起こります。
題名と同じように、結びも読後の印象を左右します。結びでまとめすぎない書き方はエッセイの終わり方で扱っています。
本文と合うかで二つに絞り、一つを選ぶ
最後に残ったのは「手巻き」と「巻く人」です。本文の焦点に照らして比べます。
| 比べる点 | 手巻き | 巻く人 |
|---|---|---|
| 本文のどこと結び付くか | 前半の転回(電池だと思っていた) | 店主の言葉、父の朝、私の朝、結び |
| 読む前の印象 | 道具の話らしい。落ち着いた印象 | 誰かが何かを巻く話。人に焦点がある |
| 読後に変わるか | 少し変わる(手巻きであることが話の鍵だったと分かる) | 大きく変わる(巻く人が父から私へ移ったと分かる) |
| 向く一篇 | 時計を取り違えた驚きを、軽い調子で書く場合 | 父から自分へ受け渡されたものを書く場合 |
この一篇の焦点は、父がしていたことを自分が引き継いでいる、という変化です。そこで「巻く人」を選びます。もし同じ出来事を、電池だと思い込んでいた自分の早合点を中心に軽く書くなら、「手巻き」のほうが合います。題名の良し悪しは、本文が何を中心にしているかで決まります。
題名に合わせて、本文を一か所見直す
題名を決めたら、本文をもう一度読み、題名と重なりすぎる箇所や、ずれている箇所を探します。作例では、結びの一文が題名と同じ言葉を使って、意味を説明していました。
題名と同じ言葉で説明している結びを削る
題名を決める前の結び
一度だけ、出張で巻き忘れた。帰ってくると、時計は六時四十分で止まっていた。私はそれを見て、少し笑った。止まった時計は、巻く人がいないことを正直に知らせる。
題名「巻く人」に合わせた結び
一度だけ、出張で巻き忘れた。帰ってくると、時計は六時四十分で止まっていた。私はそれを見て、少し笑ってから、竜頭をつまんだ。
変更の理由
- 題名が「巻く人」なので、結びで「巻く人がいないことを知らせる」と書くと、題名の意味を本文で説明し直すことになります。読み手が自分で題名に戻って意味を重ねる余地がなくなります。
- 修正後は、竜頭をつまむという動作で終えました。巻く人が今は自分であることを、言葉で言わずに示しています。
- 題名を「手巻き」にした場合は、元の結びの一文を残しても重なりません。題名を変えれば、直す箇所も変わります。
このように、題名を決めることは本文の推敲の一部です。題名と本文の焦点が合っているかを確かめながら、作品全体をもう一度見直す手順は次の記事で扱っています。
誇張と、既存の題名との重なりを確かめる
候補が決まったら、最後に二つのことを確かめます。
本文にないものを、題名で約束していないか
題名は、読み手への小さな約束です。本文にないものを約束すると、読み手は期待を裏切られたと感じます。次のような言葉が題名に入っていたら、本文に照らして確かめます。
| 題名の言葉 | 確かめること |
|---|---|
| 号泣、涙が止まらない | 本文の中で、そこまでの感情が書かれているか |
| 奇跡、運命 | 本文の出来事が、その言葉に見合う大きさか |
| 人生が変わった、生きる意味 | 本文が、その変化を具体的に書いているか |
| 〜の真実、〜の秘密 | 本文で明かすものがあるか |
本文がその言葉に見合っていれば、使ってもかまいません。見合っていなければ、題名の言葉を本文の大きさに合わせます。
よく知られた題名と重なっていないか
エッセイの題名は短い言葉になりやすいので、同じ言葉の題名が既にあることも十分に考えられます。重なりそのものは避けられないこともありますが、よく知られた作品と同じ題名だと、読み手がその作品を思い浮かべてしまったり、題名で探したときに自分の作品が見つかりにくかったりします。
確かめる方法の一つは、国立国会図書館サーチで題名を検索することです。国立国会図書館サーチは、国立国会図書館の所蔵資料に加えて、連携している全国の図書館の所蔵資料も検索できるサービスです。たとえば、作例の候補1に近い「父の時計」をタイトルで検索すると、検索した時点では、同じ書名の本は見当たりませんでした。ただし、目次や内容の一覧に「父の時計」を含む資料が見つかりました。本に収められた一篇や、映像作品の一話の題として、同じ言葉が既に使われていることが分かります。
| 確かめる場所 | 分かること |
|---|---|
| 国立国会図書館サーチ(タイトルで検索) | 本の書名や、目次に載った収録作品の題 |
| 書店やネット書店の検索 | 現在流通している本の書名 |
| 発表する投稿サイトやブログサービスの検索 | 同じ場所に並ぶ作品の題名 |
重なりが見つかったときにどうするかは、発表の場で決めます。エッセイ集の中の一篇や、自分のブログに載せる一篇なら、題名が重なっていても読み手が混同することは少ないでしょう。一篇を単独で発表したり、題名で探してもらいたかったりする場合は、言葉を一つ足す、別の候補に替える、といった調整を考えます。検索で何も見つからなかったとしても、それで重なりがないと言い切れるわけではありません。題名の重なりについて権利の面から判断が必要な場合は、この記事の範囲を超えるので、発表先の規約や専門の相談先で確かめてください。
公募に出すときは、題名の書き方も要項で確かめる
公募に出す場合は、題名をどこにどう書くかが決まっていることがあります。たとえば随筆春秋賞の第32回の要項では、表紙に題名を明記するよう定めています。題名の位置や、表紙を枚数に含めるかどうかは賞ごとに違うので、応募する回の要項で確かめます。
自分の一篇で題名を決める
作例の流れを、自分の原稿で試すための手順と確認表です。
練習自分のエッセイで題名の候補を八つ作る(20分)
- 本文を読み返し、題材の具体語・考えの変化・場面の言葉を、それぞれ三つ以上書き出します(5分)。
- 書き出した言葉から、候補を八つ作ります。わざと説明しすぎる案と、抽象的すぎる案も一つずつ入れます(10分)。
- 八つを「本文のどこと結び付くか」で見比べ、二つに絞ります。最後に、本文の焦点(この一篇で何を残すか)により近いほうを選びます(5分)。
確認表題名を決める前の確認表
-
題名の言葉が、本文の中に出てくるか、本文の場面から自然に連想できる
-
日付や「思い出」「宝物」など、どの一篇にも付けられる言葉だけになっていない
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本文の内容を全部説明していない。読む前に転回を明かしていない
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本文にない感情・出来事・結論を、題名で約束していない
-
本文の焦点(何を残す一篇か)と、題名が指すものがそろっている
-
題名と本文の結びが同じ言葉で同じことを言っていない(言っている場合はどちらかを見直した)
-
よく知られた作品の題名と重なっていないか、検索で確かめた
-
公募に出す場合、題名の書き方と位置を応募要項で確かめた
何篇かを一冊にまとめるときは、一篇ごとの題名に加えて、目次に並んだときの題名どうしの響き合いも考えることになります。並べ方はエッセイ集の作り方で扱っています。