散文詩の書き方|改行に頼らずイメージとリズムを作る
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この記事の答え
散文詩は、行を分けない形で書く詩です。行を分けないだけの説明文と違うのは、文と文が出来事の順や理由ではなく、イメージの受け渡しでつながっていることです。
- 前の文に出た言葉や像を、次の文が受け取って先へ進める(理由や接続詞でつながない)
- 改行の間の代わりに、長い文と短い文の差、同じ語や文型の反復で調子を作る
- 声に出して読み、事情の説明やまとめの一文を削る。ただし像をつなぐ言葉まで削ると、箇条書きに戻る
目次
散文詩を書いてみたものの、読み返すと日記か短いエッセイのように見える。あるいは、行分けの詩を改行せずに詰めただけに思える。散文詩で迷うのは、改行をやめたあと、何で詩にすればよいかが分からないときです。この記事では、架空の場面「夜行バスの休憩」を素材に、説明文・行分けの自由詩・散文詩の三つを書き、違いがどこにあるかを並べて確かめます。そのうえで、イメージのつなぎ方、反復と文の長さ、声に出して削る手順を作例で示します。
散文詩は、段落の形で書く詩
散文詩は、辞典では「散文の形式をとった詩。形式は散文で、内容は詩的な情緒を表現した文学作品」(精選版 日本国語大辞典)、「一般に行分けをせずにパラグラフ単位で統一される詩」(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)などと説明されています。ヨーロッパではボードレールらがこの形を打ち出し、日本でも萩原朔太郎や三好達治が試みたことが、百科事典で紹介されています。
ただし、どこからが散文詩かの境界は、辞典ごとに説明の重点が違います。「散文詩という言葉は矛盾概念」と書く百科事典もあれば、詩的な散文や美文とは異なる、と区別する百科事典もあります。ですから、次のような単純な線引きはしないほうが安全です。
- 改行がなければ散文詩、改行があれば自由詩
- 句読点があれば散文、なければ詩
- 美しい言葉が多ければ詩
この記事では、形式の名前を当てることより、段落の形のまま、どうすれば詩として読まれるかを、書き手の選択として扱います。
同じ素材を、説明文・自由詩・散文詩の三つで書く
違いを確かめるには、同じ素材を三つの形で書いてみるのがいちばん早い方法です。素材は次の架空の場面です。
作例素材メモ「夜行バスの休憩」(架空の場面)
場面:午前二時すぎ、高速道路のサービスエリア。夜行バスが十五分停車する。
見える:同じ色・同じ形のバスが七台。エンジンはかかったまま。降りた人たちの白い息。自動販売機の明かり。運転手が懐中電灯でタイヤを一本ずつ照らして回る。自分の席の窓だけ、カーテンを少しあけてきた。
聞こえる・触れる:エンジンの低い音。手洗い場の温風乾燥機は止まっていて、手を振って乾かす。
気持ち:どのバスも同じに見えて、自分の戻る場所が分からなくなりそうな心細さ。
説明文
作例説明文:夜行バスの休憩
午前二時すぎ、乗っていた夜行バスが高速道路のサービスエリアに入り、十五分間停車した。外に出ると思ったより寒く、息が白かった。駐車場には同じ会社の、同じ色のバスが七台並んでいて、どれもエンジンをかけたままだった。トイレに行って戻るとき、自分のバスがどれか分からなくなりかけたが、窓のカーテンを少しあけておいたのを思い出し、それを目印にして席に戻ることができた。
行分けの自由詩
作例・詩自由詩:午前二時の休憩
同じ色のバスが七台
エンジンをかけたまま
ならんでいる
降りた人たちの
白い息
手を洗って戻ると
どのバスも
わたしのバスに見える
一枚だけ
カーテンが少しあいている
散文詩
作例散文詩:午前二時の休憩
同じ色のバスが七台、エンジンをかけたまま、午前二時の駐車場で白い息を吐いている。降りた人たちも白い息を吐いている。息は自動販売機の明かりのところまで行ってほどけ、ほどけたところへ、また誰かの息が来る。運転手が懐中電灯でタイヤを一本ずつ照らしていく。照らされたタイヤだけが、そこにあることを思い出したように黒い。わたしは手を洗い、止まったままの温風乾燥機の下で手を振りながら、十五分のうちに、わたしのバスが七台のどれだったかを忘れる。七台は同じ息をしている。わたしも同じ息をしている。窓が一枚だけ、カーテンを少しあけて待っている。
三つとも、使った材料はほぼ同じです。違うのは、文や行が何によってつながっているか、どこで調子が生まれているか、何で終わるかです。
| 比べる点 | 説明文 | 行分けの自由詩 | 散文詩 |
|---|---|---|---|
| つながり方 | 時間の順と理由(〜ので、〜が、それを目印に) | 行と連の切れ目。空白が像と像のあいだを作る | 前の文の言葉を次の文が受け取る(息→息、ほどけ→ほどけたところ、照らす→照らされた) |
| 調子の作り方 | 読みやすさが優先。同じ語の繰り返しは避ける | 改行の位置で生まれる間 | 長い文と短い文の差、「白い息を吐いている」「同じ息をしている」の反復 |
| 何で終わるか | 席に戻れた(問題の解決) | カーテンのあいた窓(像) | 窓が「待っている」(像に少しだけ意志を持たせて止める) |
| 気持ち | 「分からなくなりかけた」と事情として書く | 「どのバスもわたしのバスに見える」と一行で示す | 「忘れる」「わたしも同じ息をしている」で、自分がバスの群れにまぎれる感覚として書く |
説明文と散文詩は、どちらも句読点があり、段落の形をしています。見た目の形はほとんど同じです。それでも散文詩が説明文に見えないのは、文が「次に何が起きたか」ではなく「前の文の何を受け取るか」で進んでいるからです。
説明文と散文詩の違いは、一文ごとの役割にある
説明文の一文は、読者に情報を渡すためにあります。いつ、どこで、何が起きて、どうなったか。一文が欠けると話が分からなくなるように組まれています。
散文詩の一文は、読者に像を一つ見せ、次の像へ手渡すためにあります。情報としては欠けていてかまいません。作例の散文詩には、なぜ休憩しているのか、どこへ向かうバスなのか、最後に席へ戻れたのかが書いてありません。その代わり、息がほどける様子や、照らされたタイヤの黒さのように、説明文なら省かれる細部が一文を占めています。
自分の段落が説明文に寄っているかを確かめるには、次の言葉がいくつあるかを数えてみます。
- 理由や順序をつなぐ言葉:「〜ので」「〜から」「そして」「しかし」「その後」「なぜなら」
- 事情をまとめる言葉:「〜ことにした」「〜ことができた」「〜というわけだ」
- 気持ちの名前:「心細かった」「ほっとした」
これらが多いほど、段落は出来事の報告として読まれます。散文詩でも使ってはいけない言葉ではありませんが、一段落に何度も出てくるなら、像の受け渡しに置き換えられないかを考えます。
イメージを受け渡してつなぐ
散文詩の文と文をつなぐ方法は、いくつかあります。作例で使ったものを、その部分と並べて示します。
| つなぎ方 | 作例の該当部分 | 何が起きているか |
|---|---|---|
| 語を受け渡す | 「白い息を吐いている。降りた人たちも白い息を吐いている」「ほどけ、ほどけたところへ」 | 前の文の最後に近い語を、次の文が拾って先へ進める。しりとりに近い |
| 見る距離を変える | 七台のバス→息→タイヤ一本→自分の手→窓一枚 | 遠くの群れから、一つの物へ近づいていく。視線の動きが一篇の流れになる |
| 時間を伸び縮みさせる | 「十五分のうちに……忘れる」 | 一瞬の像を何文もかけて見せ、十五分を一文で過ぎる |
| 一度だけ飛躍する | 「そこにあることを思い出したように黒い」 | 理屈ではなく感覚で跳ぶ。飛躍が多すぎると読者がついてこられないので、一段落に一つか二つ |
この中で、最初に試しやすいのは語の受け渡しです。説明文を書いたあと、各文の終わりの方にある語に印を付け、次の文がその語から始まるように並べ替えるだけでも、文のつながり方が変わります。
接続詞でつないだ文と、像を受け渡した文を比べてみます。
接続詞と説明でつないだ文から、像の受け渡しへ
修正前
運転手が懐中電灯でタイヤを照らしていた。それは安全のための点検なのだと思う。そして、わたしはトイレに行った。
修正後
運転手が懐中電灯でタイヤを一本ずつ照らしていく。照らされたタイヤだけが、そこにあることを思い出したように黒い。わたしは手を洗い、……
変更の理由
- 「安全のための点検なのだと思う」は、像の意味を作者が説明した文です。読者は運転手の仕事を想像できるので、説明を外し、照らされたタイヤの見え方を一文にしました。
- 「そして、わたしはトイレに行った」は、次の出来事へ移るための文です。トイレに行く途中は省き、手を洗っている場面へ直接移りました。散文詩では、移動の途中を書かずに像から像へ跳んでかまいません。
- 物語として読ませたい作品なら、「そして」で時間の順を見せる書き方が合う場合もあります。どの文も接続詞を外せばよいわけではありません。
反復と文の長さで調子を作る
行分けの詩では、改行の位置が読みの間を作ります。散文詩には改行がないので、間と調子を文の長さと反復で作ります。
同じ場面の書き出しを、三通りに書き分けてみます。
作例A:短い文だけで書いた場合
バスが七台ある。エンジンがかかっている。息が白い。人が降りる。人の息も白い。
作例B:長い一文で書いた場合
同じ色のバスが七台エンジンをかけたまま午前二時の駐車場で白い息を吐いていて降りた人たちも白い息を吐いていてその息は自動販売機の明かりのところまで行ってほどけていく。
作例C:長い文と短い文を混ぜた場合(作例の散文詩)
同じ色のバスが七台、エンジンをかけたまま、午前二時の駐車場で白い息を吐いている。降りた人たちも白い息を吐いている。
Aは、一つ一つの像がばらばらに並び、箇条書きを読んでいるように聞こえます。Bは読点もなく一息で続くので、境目のない夜の感じは出ますが、声に出すと息が続きません。Cは、最初の長い文で駐車場全体を見せ、次の短い文で同じ言い回しを繰り返して、バスと人が重なる瞬間で止めています。
調子を作るときの目安です。
- 長い文は、流れや迷いを見せたいところに使う。作例では「わたしは手を洗い、……忘れる」の一文が最も長く、時間の感覚がずれていくところに当てています。
- 短い文は、止めたいところに使う。「七台は同じ息をしている。わたしも同じ息をしている。」は、短い文を二つ重ねて、迷いのいちばん深いところで止めています。
- 反復は、二回で重ね、三回目は変える。同じ文型を三回以上続けると、声に出したときに単調になりやすくなります。作例では「白い息を吐いている」も「同じ息をしている」も二回で止め、最後の一文は別の形にしました。
- 読点は息継ぎの位置。読点の数で、一文の中の間を調整できます。「七台、エンジンをかけたまま、午前二時の」の読点は、視線が少しずつ移る間を作っています。
声に出して読み、削る
散文詩の初稿は、説明文から書き始めると長くなりがちです。書き終えたら声に出して読み、次の点に印を付けます。
確認表散文詩を読み直して削る候補
-
像の意味を作者が説明している文(「〜なのだと思う」「〜という気がした」)
-
次の出来事へ移るためだけの文(「そして〜へ行った」「しばらくして」)
-
気持ちの名前でまとめた文(「心細かった」「ほっとした」)
-
同じ像を別の言葉で二度言っている文
-
最後の一文が、感想や結論になっていないか
-
声に出したとき、息が続かない文、逆に短い文が続いて途切れて聞こえる箇所
削るときに気をつけたいのは、つなぎの役をしている語まで削らないことです。散文詩は段落の形なので、像と像を受け渡す語を削ると、文がばらばらになり、短い文の箇条書き(前の節のA)に戻ってしまいます。
作例の散文詩も、初稿は最後が次のようになっていました。
結びの一文を、説明から像へ
初稿の最後
窓のカーテンを少しあけておいたことを思い出して、わたしはやっと自分の席に戻ることができた。
改稿の最後
窓が一枚だけ、カーテンを少しあけて待っている。
変更の理由
- 初稿は「思い出した」「戻ることができた」と、問題が解決したところまで書いています。これでは説明文の結末と同じになり、心細さがほどけたことを作者が報告して終わります。
- 改稿では、戻れたかどうかを書かず、カーテンのあいた窓という像で止めました。「待っている」と窓に少しだけ意志を持たせたことで、まぎれかけた自分を呼び戻すものとして読めます。
- 物語の結末をはっきり書く散文詩もあります。結末まで書くか、像で止めるかは、読者に何を残したいかで選びます。
一篇を通して、抽象語・比喩・改行などを一つずつ見直す手順は、行分けの詩も含めて詩の推敲のやり方で扱っています。
散文詩と行分けの詩、どちらで書くか
同じ素材でも、散文詩に向く場合と、行分けに向く場合があります。どちらかが上ということはなく、素材と見せたいものに合わせて選びます。
| 素材や見せたいもの | 向きやすい形 | 理由 |
|---|---|---|
| 意識が途切れずに移っていく、連想が次の連想を呼ぶ | 散文詩 | 改行で止めずに、文の流れのまま像を受け渡せる |
| 時間の感覚がずれる、境目があいまいになる | 散文詩 | 長い文で時間を引き延ばしたり、短い文で一気に縮めたりできる |
| 一つ一つの像の前で、読者に立ち止まってほしい | 行分けの詩 | 改行と連の空白が、像のまわりに余白を作る |
| ことばの数を極端に少なくしたい | 行分けの詩 | 一語だけの行を作れる |
作例の素材は、「どのバスも同じに見えて、自分がまぎれていく」感覚が中心でした。行分けの自由詩では一行ずつ立ち止まるため、その感覚は「どのバスも/わたしのバスに見える」という一か所に集まります。散文詩では、息が息を呼び、文が途切れずに続くことで、まぎれていく感じそのものを段落全体で見せられます。
行分けの詩を一篇作る手順から確かめたい場合は、詩の書き方で、感覚のメモから初稿・改稿までを扱っています。
練習:説明文から散文詩へ書き直す
練習説明文を散文詩にする(40分)
- 最近の短い場面を一つ選び、150〜200字の説明文で書きます。いつ・どこで・何が起きて・どうなったかを、ふつうの文章で書けば十分です。
- 説明文の中の像(見えた物・聞こえた音・触れた感じ)に線を引き、理由や順序をつなぐ言葉(ので・そして・その後など)を丸で囲みます。
- 丸で囲んだ言葉を外し、線を引いた像だけを残します。足りなければ、その場面で見たものを二つ書き足します。
- 一つ目の文の終わり近くにある語を、二つ目の文の始まりで受け取るように並べ替えます。三つ目以降も同じように続けます。
- 長い文を一つ、短い文を二つ以上入れ、同じ言い回しを一か所だけ二回繰り返します。
- 最後の一文を、結論や気持ちではなく、像か動作にします。
- 声に出して読み、確認表に当てはまる文を削ります。200〜400字の一段落になれば、最初の散文詩としては十分です。
散文詩を含めた詩の書き方を本で学びたい場合は、作り方の練習を中心にした本か、詩人の考え方を読む本かで選び方が変わります。目的別の比べ方は詩の書き方を学ぶ本で扱っています。