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詩

詩のタイトルの付け方|本文のイメージと読みの入口をつなぐ

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この記事の答え

題名は、読者が本文に入る前の入口と、読み終えたあとに振り返る焦点を決めます。候補は次の三方向から作り、本文の前に置いて読み比べて選びます。

  • 中心の物や、本文の中の言葉を拾う:本文の像に焦点を合わせる
  • 本文にない言葉(時間・関係・物の別名など)を置く:本文だけでは見えない読みの入口を開く。強すぎると意味を一つに固定する
  • 題名を付けない:書き出しの一行が入口になり、読みを最も広く残す

本文の要約、本文が明かすことの先回り、本文より大きな言葉(誇張)になっていないかも確かめます。

目次

詩を書き終えて題名を付けようとすると、「海辺で拾ったガラス」のように、本文の内容をまとめた言葉しか浮かばないことがあります。この記事では、架空の短詩を一篇用意し、中心の物、本文の言葉、本文にない言葉から六つの題名を付けて、同じ本文の読まれ方がどう変わるかを比べます。題名を付けない場合や、避けたい題名の形も並べるので、読み終えたら自分の詩に題名の候補をいくつか作り、読みへの影響を比べて選べます。

題名は「読む前の入口」と「読んだあとの焦点」を決める

辞典は題名を「書物や作品の標題」と説明しています(デジタル大辞泉)。詩の題名には、ほかの文章の標題とは少し違う働きがあります。詩は短く、本文に説明がないことが多いので、題名が読みの向きを大きく左右するのです。

題名が働く時 読者の中で起きること
読む前 題名から、何についての詩かを予想する。予想を持ったまま一行目に入る
読んでいる間 予想と本文を照らし合わせる。題名と関係のありそうな言葉に目が止まる
読んだあと 題名に戻り、本文全体と結び付ける。題名の意味が、読む前と変わって見えることもある

題名の付け方は、本文の読みを絞る方向と、広げる方向に分けて考えられます。絞る題名は、読者が迷わず本文の中心にたどり着ける代わりに、ほかの読み方を閉じます。広げる題名は、本文だけでは見えない読みを開く代わりに、読者を迷わせることもあります。どちらが合うかは、本文がどれだけ読みの手がかりを持っているかによって変わります。

作例:題名を付ける前の本文

次の短詩に、題名を付けていきます。海辺で、ガラスのかけらを拾った人の詩です。

作例・詩本文(題名はまだない)

波打ち際で
緑色のガラスを拾う
どこかで割れた瓶の
かけらだったのだろう

角はどれも丸くなって
握っても もう手を切らない
何年
波の中にいたのか

ポケットに入れて
駅まで 砂の上を歩く
ときどき指で
丸いところを確かめながら

題名を考える前に、本文の材料を書き出しておきます。

作例本文から拾える材料

中心の物:緑色のガラス(割れた瓶のかけら)。本文では「シーグラス」という呼び名は使っていない。
場所:波打ち際、砂の上、駅まで。
物の性質:角が丸い、もう手を切らない。
時間:何年も波の中にいた。
最後の行動:ポケットに入れる。指で丸いところを確かめる。
本文に書いていないこと:なぜ、ガラスの「手を切らない」ことが気になるのか。持ち帰って何をするのか。

最後の行の「本文に書いていないこと」が、題名で入口を開ける余地になります。

六つの題名を付けて読み比べる

中心の物を指す:「シーグラス」

本文は「緑色のガラス」と書いていて、「シーグラス」という呼び名は使っていません。題名で呼び名を与えると、読者は最初から、これは海で角の取れたガラスの詩だと分かって読みます。

読む前の予想は「海辺で拾う小さな物の詩」です。読後、焦点は物そのものの観察に合い、穏やかにまとまります。本文の外へ読みを広げる力は弱いですが、物の詩として素直に読んでほしいときに合います。

本文の言葉を拾う:「波打ち際」「角」「ポケット」

本文の中にある言葉を題名にすると、その言葉が本文に出てきたところで、読者の目が止まります。どの言葉を拾うかで、焦点の位置が変わります。

  • 「波打ち際」は一行目と同じ言葉です。読者は場所の詩として読み始め、ガラスは景色の一部に見えます。焦点は広く、穏やかです。ただ、一行目でそのまま繰り返されるので、題名が入口としてあまり働きません。
  • 「角」は、中心の物ではなく、物の性質の一語です。読む前には「何の角か」という問いが生まれます。読み進めると、角は「どれも丸くなって」いて、もうありません。題名が、なくなったものを指している形になります。読後には、ガラスの角だけでなく、人の言葉や性格の「角」へも読みが広がります。
  • 「ポケット」は、最後の連の言葉です。焦点が、拾ったあとの行動(持ち帰る、指で確かめる)に移ります。読後に残るのは、何かを人に見せずに持っている感じです。

本文にない言葉を置く:「十年」「まだ謝っていない」

本文に書いていない言葉を題名にすると、本文だけでは見えない読みの入口ができます。

  • 「十年」は、本文の「何年/波の中にいたのか」に、具体的な数を与えます。ただ、それがガラスの十年なのか、語り手の十年なのかは書いていません。読者は、語り手にも十年前に何かが割れたのではないか、と読み始めます。本文の問いに答えるように見えて、実は新しい問いを開く題名です。
  • 「まだ謝っていない」は、本文にない出来事を持ちこみます。読者は、ガラスを誰かを傷つけた言葉や出来事として読み、「もう手を切らない」を、時間がたって痛みがやわらいだこと、「丸いところを確かめながら」を、相手に近づいても大丈夫かを確かめる手つきとして読むでしょう。読みは一つに強く固定されます。本文だけでは浜辺の散歩にしか見えない読者にとっては、鍵になる題名です。一方で、隠しておいた中心を題名が先に言ってしまうため、読者が自分で気づく楽しみは減ります。

六つの題名を並べる

題名 拾い方 読む前の予想 読後の焦点(絞る/広げる)
シーグラス 中心の物(本文にない呼び名) 海辺の小さな物の詩 物の観察(絞る)
波打ち際 本文の言葉(場所) 海辺の景色の詩 景色全体(やや絞る)
角 本文の言葉(性質) 何の角か、という問い なくなった角。人の角にも広がる(広げる)
ポケット 本文の言葉(行動) 身近な持ち物の詩 持ち帰って確かめる手つき(やや広げる)
十年 本文にない言葉(時間) 何の十年か、という問い ガラスの時間と語り手の時間の重なり(広げる)
まだ謝っていない 本文にない言葉(関係) 誰かとの関係の詩 傷つけたことと、やわらいだ時間(強く絞る)

同じ本文でも、題名によって、読者が本文のどの言葉に止まるかが変わります。「角」なら二連目の一行目、「ポケット」なら三連目、「まだ謝っていない」なら「もう手を切らない」に止まります。

意味を絞るか、広げるかを決める

六つのうち、どの題名が合うかは、本文の側にどれだけ手がかりがあるかによります。

本文の状態 合う題名の方向 作例での例
本文だけで読みの方向がはっきりしている 広げる題名、または本文の一語。題名で同じことを言い直さない 角、ポケット
本文が静かで、読み方の手がかりが少ない 本文にない言葉で、入口を一つ開ける 十年
本文だけでは、作者の意図とまったく違う読み方をされやすい 絞る題名。ただし本文の中心を言い切りすぎないか確かめる まだ謝っていない
物そのものを味わってほしい 中心の物の名 シーグラス

作例の本文は、ガラスの観察として書かれていて、何の比喩なのかは言っていません。けれども「もう手を切らない」「丸いところを確かめながら」のように、ガラス以上のものを感じさせる言葉は置いてあります。手がかりはあるが、方向は決めていない本文です。

要点作例で選んだ題名

「角」を選びました。本文の中にある一語なので、本文と離れすぎません。読む前には「何の角か」という問いを作り、読み進めると、その角はもうない、と分かります。題名が、本文の中心である「丸くなった」ことを、反対側から照らします。人の角へも読みが広がりますが、どこまで広げるかは読者に任せられます。

別の場面に置くなら、選び方も変わります。たとえば、家族とのいさかいを書いた詩をまとめる詩集の一篇なら、前後の詩が文脈を作るので、「まだ謝っていない」ほど強く絞らなくても、「十年」で十分に読みが向かいます。

題名を付けない選択

題名を付けないことも、一つの選び方です。辞典の「無題」には、「作品に題がないこと」のほか、「題を設けずに作った詩歌」という意味も載っています(デジタル大辞泉)。

題名がないと、読者は何の予想も持たずに一行目「波打ち際で」へ入ります。書き出しの一行が入口になり、題名に引っ張られる読みが起きません。読後に残るのは、最後の行の「丸いところを確かめながら」の手つきです。六つの題名のどれよりも、読みを広く残す形です。

題名を付けないときの書き方にも、いくつかの形があります。

形 読者に伝わること 向いている場合
何も書かない 題名の欄そのものがない詩として、本文だけを読む 一冊の詩集や連作の中で、前後の詩が文脈を作っているとき
「無題」と書く 題を付けないという、作者の判断が見える 一篇だけで見せるときに、題名の付け忘れと区別したいとき
番号や記号だけを付ける 並びの中の一篇として読む 連作で、順番そのものに意味があるとき

どの題名を付けても、本文の一部を言い直すだけになる。題名を付けると、書き出しの一行の驚きが先に知られてしまう。そういうときは、題名を付けない選択を候補に入れます。一方、投稿サイトや公募の応募では、題名の記入欄がある場合があります。題名なしで出せるか、「無題」と書いてよいかは、投稿先の規定や入力欄で確かめます。

誇張・重複・要約になっていないか確かめる

本文の内容をまとめただけの題名や、本文より大きな言葉を使った題名は、読みの入口として働きません。避けたい形を、作例で並べます。

避けたい形 作例の題名 起きること
要約 波打ち際で拾った緑のガラス 第一連と同じことを題名が言ってしまう。本文の一連目を読む意味が薄れる
先回り(重複) 丸くなった角 第二連で読者が気づくはずのことを、読む前に明かしてしまう
誇張 海がくれた奇跡 「奇跡」は、本文の静かな観察より大きい言葉。読者の期待と本文の調子がずれる
教訓 時間はすべてを癒やす 本文が言わずにおいた意味を、決まり文句で言い切ってしまう

要約の題名を、本文の一語へ

修正前

題名:波打ち際で拾った緑のガラス

修正後

題名:角

変更の理由

  • 修正前の題名は、第一連の内容をそのまままとめています。読者は、題名で知ったことを一行目からもう一度読むことになります。
  • 修正後は、本文の中から、中心の物ではなく性質の一語を選びました。本文を読み進めるまで、何の角かが分からないので、題名が問いとして働きます。
  • 要約の題名が合う場合もあります。たとえば、日記のように場所と物を記録しておく連作で、一篇ずつ見分けられる必要があるなら、内容を表す題名のほうが便利です。

確かめるときは、本文の前に題名を置き、初めて読む人のつもりで読みます。題名を読んだ時点で、本文の第一連や、最後に分かることを先に知ってしまっていないか。題名の言葉が、本文に出てくるどの言葉よりも大きく、強くなっていないか。この二つを見ます。

なお、短い題名は、ほかの作品の題名と同じになることがよくあります。同じ題名の作品があるかどうかだけで、問題があるかないかを判断することはできません。この記事では読みへの影響として考えます。よく知られた作品と同じ題名なら、読者がその作品を思い浮かべて、読みが引っ張られないかを確かめます。

題名でたくさんの人に読まれるかどうかは、作品の外の条件にも左右されるので、題名だけで決まるものではありません。ここでは、題名がその詩の読みにどう働くかだけを基準にしています。

自分の詩に、題名の候補を作る

手順題名の候補を作って選ぶ手順

  1. 本文から材料を書き出す。中心の物、場所、物の性質、時間、最後の行動を、本文の言葉のまま書き出します。
  2. 本文に書いていないことを書き出す。なぜその場面を書いたのか、詩の外で何があったのかを、一行ずつ書きます。
  3. 三つの方向から候補を作る。中心の物の名、本文の言葉、本文にない言葉から、それぞれ一つ以上作ります。
  4. 候補を一つずつ本文の前に置き、声に出して読む。読む前に何を予想したか、読後に本文のどこに焦点が当たったかを一行ずつ書きます。
  5. 題名を付けない案と比べる。題名なしで読んだときに残るものと比べ、題名が読みを足しているかを確かめます。
  6. 要約・先回り・誇張・教訓になっていないか確かめる。当てはまる候補は外すか、本文の一語に替えます。
  7. 一晩置いてから選ぶ。人に読んでもらえるなら、題名だけを替えた二通りを見せ、読後に何が残ったかを聞きます。

ひな形題名の候補メモ(コピーして使えます)

本文の材料
 中心の物:
 場所:
 物の性質:
 時間:
 最後の行動:
本文に書いていないこと:
題名の候補
 中心の物の名:
 本文の言葉:
 本文にない言葉:
候補ごとの読み(読む前の予想/読後の焦点):
題名なしで読んだときに残るもの:
要約・先回り・誇張・教訓の確認:
選んだ題名と理由(一行):

練習一篇に六つの題名を付ける(20分)

  1. 書き終えた自作の詩を一篇選びます。
  2. 手順の1〜3で、六つの題名を作ります。うち二つは、本文にない言葉にします。
  3. 六つの題名と「題名なし」を、それぞれ本文の前に置いて読み、表に「読む前の予想」と「読後の焦点」を書き入れます。
  4. 意味を絞る題名と広げる題名を一つずつ選び、本文がどちらを必要としているかを考えて、一つに決めます。

題名の候補を書き出そうとしても、本文の中心の物や場面がはっきりしないことがあります。その場合は、題名より先に本文を見直す段階かもしれません。残したい像を一行で決めてから本文を直す手順は、詩の推敲のやり方で扱っています。そもそも詩の中心になる物が見つからないときは、詩の題材とイメージの見つけ方で、五感のメモから像を探す方法を確認できます。